嚆矢濫觴 Part 8

 黄、紫、深赤、青紫。4体のメカスーツは白とそれぞれ4つの色を基調としていた。炭人は手を背中の襟に突っ込み、そこから長剣を出した。同時に皮膚は全身無色透明、日光によって綺羅びやかな姿になった。炭人は真ん中に居た黄色の個体を目掛けて突進し、高く飛び上がった。そして、持っていた剣を、胴体目掛けて振った。黄色のメカスーツは反射的に剣の刃を両手で掴んだ。メカスーツと剣が衝突すると、火の粉が散った。炭人が着地すると、今度は黄色の個体が反撃をした。右手から黄色い炎を放ち、炭人はそれを剣で払った。

 周囲に散乱したコンクリートやガラスの破片は、磁石に吸い寄せられるように、シリカの両手に集積した。集まった破片は空中で更に細かく粉砕され、元の砂の状態になり、竜巻状に渦巻いた。シリカがその渦巻きを操るように、紫の個体に向けて真っ直ぐ飛んだ。紫の個体はそれに巻き込まれ墜落したと思われる。シリカの足許や背後には大量の砂が舞っていて、紫の個体が墜落に向かって、彼女を運んでいるようだった。これが、シリカのもうひとつのギフテッド。彼女は酸化ケイ素が含まれる物体を砂状にし、自在に操る能力があった。彼女はそれを「砂嵐サンドストーム」と名付けた。

 プロンブスは両手を銃の形にして、深赤の個体を目掛けて、指から銃弾を放った。深赤の個体は赤色の炎で応酬した。それからふたりは、瓦礫を防壁としながら銃撃戦を繰り広げた。さて、プロンブスの「手銃ハンドガン」(そう彼は名付けた)はギフテッドなどではなく、自らを身体改造して得たガジェットである。彼の両腕の骨の中にはそれぞれ100丸の銃弾が充填されている。それを両手の中指と人差し指から放っているのだ。

 一方で、ゲルマンはそのような襲撃には備えてなく、またギフテッドも持ち合わせていなかったので、瓦礫に隠れる他なかった青紫の個体はそんな丸腰のゲルマン目掛けて集中的に攻撃を行った。彼の許にプロンブスが転がり込んだ。

「ゲルマン、武器は」

「ない」

「しょうがねえ、俺の左腕を貸してやる」

 そう言うと、プロンブスは左腕を文字通り外し、それをゲルマンに寄越した。プロンブスの「手銃ハンドガン」は彼の神経が直接作用することで撃つことが出来るのだが、第三者が用いる場合は二の腕にある切り込みを開くとグリップと引き金が出てくるので、それを使って撃つ。これで、ゲルマンも対等に銃撃戦に加わることが出来たが、メカスーツの動きは俊敏であるに加え、撃つ間隔は長いが一発の威力は、焼け跡と共に小さなクレーターが出来るほど段違いに強いのでやや押され気味になっている。

 近距離攻撃を中心としている炭人は、空中を漂う遠距離攻撃中心のメカスーツに苦戦し、愚痴を零した。

「畜生、タバコがあれば楽勝なのに何で今に限ってないのだ」

 紫の個体に近付くシリカであったが、その間に紫の炎が彼女の胸に当たってしまう。服は当たり前のように燃える一方で、その一瞬で彼女の皮膚は全身光沢のある青黒い色に変わった。当たった箇所には巨大な凹みが出来ると同時に、周りには罅が割れていた。

 ゲルマンやプロンブスも同様に炎の球に当たって金属光沢のある姿に変わった。序にプロンブスの体から離れたはずの左腕も、何も当たっていないはずが、青黒くなった。

 元素系の錬金術師は、重傷を負った瞬間に、全身のタンパク質が各々が司る元素に変化する性質を持つ。また、炭人が全身ダイヤモンド質になったように、自らの意思でそうすることも出来る。このような状態になった際、外から攻撃を受けた場合は、それぞれの物質のように振る舞うが、自らが体を動かす際は、どういった原理なのか、通常のタンパク質の体とさほど変わらない動きが出来る。また、どれほど錆びやすい金属の体であっても、化学反応を起こすことなく純度の高い状態を維持することができる。

 急所を撃たれたシリカは突進を続け、数弾は操っている砂で躱すも、完全には防ぎきれず、足や腕が損傷していき、罅が大きくなって全身がバラバラに崩れそうになっていった。これ以上は体が持たないと判断したシリカは、進めるのをやめ、地面に座り込んだ。舞っていた砂が地面に降り積もると同時に、炎の攻撃もやんできた。

「半金属の体じゃなきゃまだいけたのに」

 シリカは嘆いた。

 一方でゲルマンは何度か引き金を引いたが、弾は出なかった。

「プロンブス、こっちは弾切れだ」

 ゲルマンがそう言うと、透かさずプロンブスは返答した。

「奇遇だ、俺も同じだ」

 相手の攻撃は更に激しくなり、更に隠れていた瓦礫が爆発し、ふたりは全身が罅だらけになって倒れ込んだ。

 ただひとり残った炭人は黄色の個体に加え、他の3体の攻撃を受けるようになった。炭人は飛んでくる炎に素速く反応して躱していくが、無傷のままではいられなくなった。赤、青、紫の炎に夢中になっていた炭人だが、隙を狙って黄色の個体はこのダイヤの人に急接近した。炭人がそれに気付いたときには既に遅く、黄色い個体はダイヤの腕に手を添えて、巨大爆発が起きた。爆発源にあった炭人の右腕は粉砕し(ダイヤはハンマーでも砕ける)、残りの軽い体はシリカの近くへと吹き飛ばされた。ダイヤの体は全身に罅が出来ていて、身動きは到底できない。

 シリカは倒れる炭人、ゲルマン、プロンブス、そして、空に浮かんで4人を取り囲む4体のメカスーツを見渡した。追い詰められたシリカは、敗北、そして味わうはずがない死を覚悟した。

 4体のメカスーツは罅だらけの4人に掌を向けて、まるで特大の攻撃でもチャージするように、それは眩しく光った。

「ヒイイ、ヒイイ」

 まるで金属を強く擦るような高音が突然鳴り響いた。4体のメカスーツは慌てて腕を下ろし、辺りを見渡すが、特に変わった様子はなかった。しかし、突然黄色いメカスーツは黒い影に襲われ、撃墜した。

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