2, 再出発

少し晴れた気分で戻って来たシャルに対し、ユウは

「瞳に光が戻ったようだね。草原のように澄んだ、良い目だ」

と評した。事実、キオの瞳は散々泣いたこともあって焚火の明かりに照らされ奇麗に輝いている。もっともユウは物理的な光のことを指した訳ではないだろうが。

「はい、チェナのお陰です」

「そのようだね」

にこりと笑い、ユウは彼らに火の傍に腰かけるよう促す。

「さて、シャル君。君がその身に地導を宿したことで多くの疑問が君の頭の中にあることだろう。里に着く前にそれらに出来る限り答えたいが、その前に今の状況をしっかりと整理しておこう。少々長い話になるが、良いかな?」

「はい。よろしくお願いします」

「うん、それでは始めようか。まず、我々は現在ハイラ山脈、『里の道』と呼ばれる旧道とも新道とも違う我々里の地導使いのみが知り、使える第三の道にいる。これから我々はこの道を用いて山越えを果たし、地導の里まで向かう。次に、何故私が君たちを救い出せたか、ということだが、これは少々複雑なのだが…。君は東ノ国の軍部重臣、トルクは知っているね?」

「はい」

「実はね、トルク翁は里の人間なんだ」

「えぇ!?」

シャルはつい大きな声を出して驚愕しつつ、少し怪訝そうな顔でチェナを一瞥する。そんな大事なこと何で今まで黙っていたんだ、とでも言うかのようだ。

「まぁ驚くのも無理は無いか。都にいるトルク翁と里には鳩を用いた独自の連絡網があってね、チェナが君を王宮から連れ出した時にトルク翁に向けて君について書いた文を送った。それを見たトルク翁が私に向けて文を送り、それを受け取った私は君達二人を迎える為に山を降りた。しかし、丁度交易路を歩いて来た時に盗賊による襲撃、そして灰の風がチェナとセシムさんを倒し山に向かおうとしているのを見たんだ。私は慌てて行商達のもとにいたソラとスイを連れて君達を救い出した、という訳だ」

自分が眠らされている間にそんなことが、と思いつつシャルはそこで疑問に思ったことをユウにぶつけた。

「でも、相手は灰の風ですよね?チェナを倒したような相手にユウさんはどうやって?」

「これを使ったんだ」

ユウは懐から先程地面に叩きつけた綱の切れ端のようなものをキオに見せた。

「これは里の技術で作られた煙幕でね、これに火をつけるとこの綱の部分が燃え尽きるまで多量の煙を吐き出すんだ」

話を逸らしたくないのか、ユウはその煙幕の説明を手短に済ませるとさっとそれを懐に戻す。それを察し、キオも次の疑問をぶつける。

「えっと、もう一ついいですか?」

「もちろんだ」

「ユウさんは先程『山を降りた』とおっしゃっていましたよね?里のある場所は確か草ノ大陸のハイラの両腕。何故あなたはハイラ山脈に?」

「…まぁ当然の疑問だね。でも、悪いが今その問いには答えられない。話がとても入り組んでしまうからね。すまないが私は訳あって山で生活している、と今は捉えてくれ」

「…分かりました」

シャルはそこで追及することなく引き下がる。彼にとってこの手の拒否はチェナとのやり取りで慣れっこであった。

「では最後に灰の風についてだが…この話題は彼も交えたほうがいいな。ちょうど戻って来たところだし」

後ろを向くと、先程難しい顔で座っていたセシムがやはり変わらずの険しい顔でこちらに歩いて来ていた。

「すみません。気を紛らわせる為とはいえ少々長く散歩しすぎました」

「いえ、お気になさらず。それよりも、セシムさんもこちらに」

「ありがとうございます」

そしてセシムは空いていたシャルとユウの間に腰かけた。王宮で出会った時にもその狼のような雰囲気に少し気圧されていたシャルだったが、それがすぐ隣に、しかもより殺気立ったものが来たことで思わず背筋をぴんと張り直す。

「…?あぁすまない青年よ。少々気を張り過ぎていたな」

自分の放つ気に緊張してしまっていることに気付いたセシムは目元を少し緩め、肩の力を抜く。それだけで彼が纏っていた鋭い気迫が薄れるのがシャルにも分かった。

「自己紹介がまだだったな。私の名はセシム。見ての通り帝の腕を務める武人だ。君とは都で出会ったことがあるな」

「はい。あの時は僕の無理を通して下さり、本当にありがとうございます」

「気にするな。こうして再会したのもなにかの縁だ。これからの旅路、よろしく頼むぞ」

「え、それじゃあ…」

シャルは焚火を間にして向かい合わせに座るユウに視線を戻す。

「…セシムさん、彼には先にその目で見せてあげたほうがいいかと思います」

「分かりました」

そう言うとセシムはシャルの隣で片腕の鎧を外すと、その外した腕に力を込める。すると

「地導…!」

セシムの腕に纏わる揺らぎを確かめたシャルは

「それでは、あなたも里の人間なのですね」

と問う。

「いや、違う」

セシムは地導を解き、鎧を再度つけつつそれを否定した。

「私は実は君と同じ、里の人間以外で地導に選ばれた人間だ」

目を丸くするシャルに対し

「悪いが話を戻すよ。セシムさんと地導の関わりについてもまた後で、だ」

と、ユウが言葉を挟む。

「それで、灰の風についてだが、やはりここはセシムさんに頼もうか」

「はい」

そしてセシムは主にシャルに対して、語り出す。

「灰の風。ここに来るまでに君も敵の概要についてはある程度知っていることだろう。そこで君には『墨入れ』と『火種』と呼ばれる者達についてまず知っておいてもらいたい。まず前者についてだが、灰の風は若い人間を攫っては特殊な薬と話術を用いて若い人間の心を支配し、自分達の配下に加える。こうした人間を奴らは『墨入れ』と呼ぶ。灰の風の特徴として腕に彫られた独特な刺青が挙げられるが、墨入れ達には刺青ではなく顔料で描かれたただの模様が入れられる。いわばこれは彼らが半人前であることの証のようなもので、経験を重ね、真の灰の風に相応しいと認められて初めて消せぬ刺青がその腕に彫られる。次に後者についてだが、灰の風における火種、とは彼らの頭領を表す言葉だ。火種の最大の特徴、それは腕に彫られた真紅の刺青だ。正に灰と風を作り出す火炎、それの生み出す火種の名に相応しい証と言える」

「タルシュ…あの女が灰の風の…」

不意に飛び出したその名に、セシムを始めユウとチェナも驚いた顔でキオを見る。

「シャル、今のってもしかして、あの灰の風の女の名前?」

「あぁ。チェナ達が来て眠らされるまで、俺はあいつらと直接話していた。あいつら、俺を自分達の仲間にしたがっていたんだ」

「そうか。救出が成功して本当に良かった。火種に加え、君からも地導使いとして刃を向けられていたらどうなっていたことか…」

「火種の名はタルシュか。やはり砂の平野(ルマラ・ファルサ)の民由来の名だな」

「あいつは自分の口から僕の故郷であるケハノ村を襲撃したと話していました。シンラを再興させるための計画って…」

「うむ。それが阻止すべき最大の目標だ」

セシムの全身から再び、獲物を前にした際の狼のような気迫が放たれる。優れた武人というものは皆こうなのか。シャルはそう思いつつセシムを見る。

「奴らはまず内通した私の弟を通じて傘下の盗賊に西ノ国へ送られるはずだった荷をほぼ全て奪った。その少し後にケハノ村を襲撃、機能不全にさせることで奪った荷を盗賊達を用いて安全に山越えさせることにまんまと成功したはずだ。更に我が国が新たな品を西ノ国に送ることを見越した上で賊どもと共に新たな獲物を捕らえる為に我々の前に姿を現した、という訳だろう。奴らの狙いであるテルーの品を運ぶ行商を正確に襲ってきたのも、恐らくは我が弟の手引きだろう。国に忠誠を誓ったはずの精鋭が国を裏切るなどと…俺にはシユウが何故あのような行為に及んだのか理解出来ん…!」

セシムは怒りの表情を浮かべて足元の岩を殴る。

「で、でもセシムさん。何故彼らはテルーの宝飾品を?」

シャルは恐る恐るセシムに訊ねる。

「ん?あぁそれについて説明していなかったな。これはあくまでトルク殿の憶測であったのだが、シユウがそう告げたことで、恐らくはその通りなのだろう。奴らは奪った荷を西ノ国の都から西方に遠く離れた地方の行政官や兵隊長に賄賂として渡し、その対価として彼らの持つ騎馬兵を戦力として取り込む魂胆だ。もしこれが成功すれば彼らの戦力はかつてのそれとは比較にならない程強力無比なものになるはずだ。そしてあの荷達が山を越えた以上、それが達成されるのは時間の問題だ」

「でもまだ賄賂として渡された訳ではないでしょう?その計画のことを西ノ国に伝えれば…」

「これはそんなに簡単な話じゃないの」

そこでチェナが口を挟む。

「灰の風はかつて西ノ国全体を恐怖の底に陥れ、国の根幹さえ揺るがしかけた存在。そんなものが復活しもう一度西ノ国を落とそうと画策しているなんて情報を伝えたところで、まともに取り合って貰えないか、下手したら西ノ国内を混乱させようとしているなんてあらぬ疑いをかけられるだけよ」

「でも…」

しかし、シャルの言葉を遮るようにセシムが深刻そうな面持ちで首を横に振る。

「残念ながら荷が既に西ノ国に渡りかけている時点で東ノ国に出来ることは無い。今から両国で対策を講じようとすれば政治屋達の腹の探り合いに膨大な時間を使い、いざ行動を起こそうとなった時には既に手遅れになるだろう」

「そんな馬鹿な話…」

「いや、セシムさんの言っていることは事実だよ」

セシムに続き、今度はユウがシャルを遮る。

「国が軍を動かす、ということはとても面倒なことだ。灰の風討伐の為に西ノ国内に兵士を派遣する、ということはいつか敵国になるかもしれない国の軍事力をむざむざ自分の国の領土に招き入れる、ということだ。かつての風狩りはまだ東ノ国が小国であったことと、背水の陣に立たされた西ノ国という事態が重なったことで実現出来た、例外中の例外と言っても過言ではない出来事だったんだ。確かにもう一度東ノ国と西ノ国が早急に手を取り対策すれば話は早いだろう。だが、今や東ノ国はテルー帝国との貿易により国力を増し続け、西ノ国もあと数年で建国から百年を迎えられる程に盤石な体制を築いている。そんな国同士が合同で、しかも軍事力を伴った行動をするということはとても難しい」

「厄介なことにオウロ殿の話では商隊の襲撃前、奴らは西ノ国内でも襲撃を起こしているらしい。その上で東ノ国からの報告を受けたとなれば、西ノ国内の国政はますます混乱するに違いない」

「じゃあ、僕達は西ノ国がどうにかしてくれるのを祈って、後は指をくわえて見ているしかないと…?」

『…』

三人の沈黙はシャルのその言葉を肯定しているようなものだった。

「勿論西ノ国が何もしない訳ではないと思うよ。でも、西ノ国も風狩り以降変化している。交易政策に力を入れ続けているお陰で今や草ノ大陸内の交易路は蜘蛛の巣のように複雑に入り組んでいるし、広大な土地を治める為に分権化が進み、地方でもそれなりの自治能力を持っている場所もある。そんな状況で奪われた荷をばらばらに運ばれたとなれば如何にテルーの宝飾品といえど追跡は困難だ」

「奴らが賊と共に東ノ国に残り追加の品を狙ったのも、弟が計画をべらべら喋ったのも既に奪った荷の後ろ盾があったからだろう。賄賂の品は多ければ多い程良いし、仮に強奪に失敗したとしても当初の計画に支障はない。寧ろこれから西ノ国の戦力を取り込むのだから盗賊などという粗暴で扱いにくい戦力を削ぐ目的もあったのかもしれない。俺達は最後まで奴らの掌の上で踊らされていたわけだ」

膝の上に置いたセシムの両こぶしがわなわなと震えている。倒さなければならない脅威があると分かっているのに、自分が帝の腕という立場故、何もできないという事実が彼にとっては受け入れがたいのだろう。セシムはその様は一瞥すると一度大きく息を吸い、毅然とした態度でユウを向く。

「…状況は分かりました。でも、それでも僕達に何か出来ることは残されてはいませんか?理屈では難しいことだって分かっていても、でも、自分の親の仇がいると分かっているのに何もせずにいるなんて、俺、耐えられません。どんな困難な道のりでも良い。ユウさん、俺に何か出来ることがあれば、教えて欲しいです」

その言葉を受け、ユウは小さく息を吐きつつ一度下を向き、その後何かを確かめるように顔を上げて横に座るチェナを見る。その視線を受け、チェナは小さく頷く。彼の覚悟は本物だ、そう訴えるかのように。

「…君は確か、ケハノ村の出身だったね?」

「はい」

「そうか…。シャル君、君に宿る決意、その強さを疑う訳では決してないのだが、君がこのままこちら側に来る、ということは君の今までの人生観を揺るがしかねないとある歴史に向き合わなければならない、ということを意味するんだ」

「歴史…ですか?」

「そう。君が地導に選ばれ、チェナに救われ、そして自ら選択し、幾重の悲しみを乗り越えて今ここに居る。その事実がある以上私は誠心誠意その歴史を君に伝えなければならない。でも、それを伝えた時、君はきっと自分自身がとても恐ろしい存在に思えてしまうだろう。私はそれが怖いんだ」

「自分自身が、恐ろしく…」

シャルは自身の掌をじっと見る。「地導の使者」。チェナと初めて出会った日の夜、彼女はその名を口にし、それとシャルが似ていることを話し、そして、その事実に酷く怯えていた。その様をシャルは良く覚えている。

「それは、もしかして僕と『地導の使者』、という人に関わる話ですか?」

「…チェナから聞いていたんだね」

「はい。僕がその人と同じ特徴を持っていると、チェナは教えてくれました。短い間で地導を顕現させ、共に響き合う徴が既に使え、そして試しの泉に全身から落ちた…」

「そう。その通りだ。君にはかつての地導の使者と同じ力を備え、そして君が向き合う歴史はその者と隠れ里、そしてケハノ村に深く関わる悲しい歴史だ」

「ケハノ村に…」


私達地導使いは決してケハノ村に近づいてはいけないし、その村人に出会ってはいけないからよ


チェナとの会話がシャルの脳裏をよぎる。加えて悲しい歴史、という発言からして、隠れ里とケハノ村、その二つを決裂させるような、何かが起きていたのだろう。だが、ここまで来た以上いまさら臆している場合ではない。

「分かりました。聞かせて下さい、その歴史を」

「…了解した。だが、もう何度も焦らされているところ申し訳ないが、それを語るに相応しい場所にまず君を連れて行かなければならない。今晩はもう遅い。ここで夜を明かし、そして明日皆でその場所に向かう。だから、もう少し我慢してくれ」

「…はい」

少しむすっとした態度でシャルはそう答える。またお預けか、その不満気な気持ちが思わず外に出てしまっていた。それに対し、ユウは申し訳なさそうに寂しく微笑むと一度焚火から離れ、やがてソラとスイ、そして自身の乗る馬を連れて来た。

「ソラ!」

その姿を見てシャルは態度を一変、まだ痛む体を庇いながらも嬉しそうにソラに駆け寄って行った。ソラも無事な姿のシャルを見て嬉しいのか調子よく尻尾を高く振って彼を迎え、そして毎度のことのようにキオの肩を唇で咀嚼しだす。そのくすぐったさから、シャルはいつものようにくしゃっとした笑顔を見せる。

「すっかり彼に慣れているみたいだね、ソラ」

じゃれつく一人と一頭を眺めながら、同じくその微笑ましい光景を見つめるチェナにユウは話しかける。

「うん。今までずっと荷物を運んでもらってばかりだったからソラも背中に人を乗せて歩くのが楽しいみたい」

「あの笑顔、今まで戦いとは無縁の人間が見せる笑顔だ」

そう呟いたユウは、今度はそんなシャルとは正反対の様子で火を見つめるセシムに話しかける。

「セシムさん、大変申し訳ないのですがあなたの軍馬は…」

「良いのです。それに、どうか私のことはお気になさらず。今は…ただこうしていたいのです」

「…心中、お察し致します」

如何に帝の腕とはいえ、自分の家族が国を裏切り、それを止められなかったという事実はこたえるものがあるのだろう。ユウはそれ以上セシムに話しかけることなく、チェナとの会話を続ける。

「チェナ、君は本当にいいのかい?彼は、その、言いにくいが、大変に危うい存在だ」

「叔父さんの言いたいことは分かる。でも、シャルはシャルよ。かつての地導の使者そのものじゃない。それに彼は一人じゃないわ。もし間違った道を歩もうとしたら、私が首に縄をかけてでも正す。それが、きっと私が彼と出会った理由だから」

そう言うチェナの深緑の瞳にもまた、決意の炎が灯っていた。


あくる日、四人は黙々と山肌を登っていた。ユウの話していた「里の道」という山道はとても山道とは言えぬ代物で、時折目印となる錆びた楔のような錆びた金属片が岩に打ちこまれている以外はただの山肌と何ら変わらないものであった。しかし先頭を行くユウはそんな道を霧の中何の迷いも無くすいすいと進んでゆく。それにシャルとチェナがスイとソラを連れて追従し、最後尾をセシムが歩く形を取っていた。セシムは昨晩一睡もせずに火の番をしていたようで、にもかかわらず鎧を身に着けた身体で平気な顔でユウ達についてきていた。そんな一行が明朝に出発してから二日程、山での野宿を挟んでひたすらに山を歩き、一番体力の無いシャルが限界を感じ始めた頃、その時は訪れた。

「…到着だ」

前方から聞こえたユウのその一声を聞いた途端、向き合うべき歴史とやらの事など疲れのせいで半ば忘れかけていたシャルは倒れ込むようにその場にへたり込んだ。

「大丈夫か?随分と辛そうではあったが、もっと早く声をかけるべきだったか…?」

「ほら、しゃんとしなさい」

そんな彼に対し、背後のセシムは心配そうに声をかけ、前方のチャナはやれやれといった顔で見ていた。

「はい、大丈夫です…」

大きな息を一つ吐き、セシムの手を借りながらシャルはふらふらと立ち上がる。ただソラに乗って旅してきた平原とは違い、自分の足で長時間歩く山道は彼にとって堪えるものであった。

「ちょうど霧が晴れて来たな。ゆっくりでいい。見なさい」

ユウに言われて、シャルは顔を上げる。疲労に加え、辺りが濃霧に包まれていたせいで気付かなかったが、シャル達が立つ場所はこれまで歩いて来た道とは異なり大きな石が取り除かれ、細かい砂利が敷かれた、明らかに人の手が入っている「道」であった。しかもそれが霧に包まれた先にまで続いているようだ。更にユウの言う通り、次第に周囲の霧が薄くなり、道の先にあるものが明らかになって来た。

「…これは…!?」

シャルが目にしたもの。それはケハノ村のような黒い岩で建てられたいくつもの家屋であった。彼らの立つ道に沿って建てられたそれらはしかし、多くの家屋の扉は朽ちて無くなっているだけでなく、いくつかは風化のせいで半分崩れ落ちているものもあった。明らかに集落の様相を呈してはいるものの、そこに人の気配などは一切無く、まるで何十年も前に捨てられ、そのまま放置された廃村のような雰囲気であった。

「ユウさん、ここは一体…?」

「ここはかつての『地導の里』。そして負の歴史と共に打ち捨てられた、我々にとっての戒めの場所だ」

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