第12話

ライルが扉を開けた時、ベルクは小屋の左手側から裏に回って、ならべく遠くへと走った。元居た小屋と同じ作りの小屋を三棟通り越して、目の前に現れた家屋の壁に身を隠す。

高地のせいか、それとも緊張と恐れのせいか、走ったあとの息は中々静かにならない。

それでも耳を澄ませ、こちらに近づく者がいない事を確かめながら、ベルクだからこそ分かる方法で気配を探った。

今、集落に居る星はベルクとライル、侵入してきた2つ、合わせて4つ。

目的の星は確かにまだ坑道の中に居るようだ。


呼吸が整い始めたころ、雲海と空の境に光の線が差し込み始めた。じきに陽が登る。そうなれば自然と視界が広がる。集落から坑道の入り口までは1キロ弱。闇に紛れるのは無理としても、明るくなる前にならべく近くに行きたい。ベルクは再び走り始めた。


やがて山肌から突き出した瓦葺きの雨樋が見えてきた。そこが坑道の入り口だ。

黒ずんだ瓦とヒビが刻まれた柱の大門の前に立ち、分厚い扉を押し開ける。普段は作業が終わると扉に錠をかけるのだというが、万一生存者がいた時のため、あえて施錠せずにしておいたことが幸いした。

身を滑り込ませる事ができる程度に扉が開いた時だ。ベルクは直感的に尾根の方を見上げた。

登り始めた太陽によって空と土の境が分かれ始めた景色。しばしの間その稜線を辿って空を見渡していると、轟音と共に東の空から軍用機が現れた。州政府軍のティルトローター機だ。

それは尾根の向こう側から里を見下ろすように旋回すると回転翼を動かし峰の影へと消えていく。停滞か着陸か、いずれにしても州政府軍が乗り込んでくることには違いない。幸い1機のみならば、多くても1分隊10人程度だろうか。

ライルならば星を使って難なく対処できるだろう。しかし今はあの2つの星と対峙しているし、もしもあの2つの星が州政府軍の傘下ならば、ライルの勝機は危うい。かといって参戦するわけにもいかない。ベルク達の目的は星を確保する事なのだ。それにアイ・シンの援軍はもう側に来ている。翼を持つ彼女ならもしもの時も、単身ライルの元へ飛んで来られる筈だ。


だから今ベルクがすべき事は、いち早く目的を達成する事。

ベルクは坑道に滑りこみ、早足で坂道を下っていく。

そしてふと思い立つ。

ティルトローター機この山の峰の裏に回り込んだ。つまり坑道の入り口の裏手。そこは、あの大空洞の上になるのではないだろうか。そして大空洞の天井には大人一人が通れる竪穴がある。訓練された者ならばロープが有れば、竪穴から大空洞へと滑り降りる事など容易いだろう。

ベルクはハーネスに刺したケミカルライトを点灯させ、視界を確保して坑道の奥へと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る