第57話

「……はぁ…」



真っ直ぐ廊下を突っ走って角を曲がる。



階段の踊り場で足を止めたあたしは、すぐ近くの壁に寄りかかり、そのままズルズルとしゃがみこんだ。




バカみたい…。



逃げたところで、何も変わらないのに…。




ここまで来ても聞こえる歓声。




今頃、八雲さんは"特別の子"にお弁当を貰ってるんだろうか…。




その場面を見たくなくて逃げた。




出逢ってからずっと、側にいた。



側にいて、笑いかけてくれて、甘やかしてくれた。



今まで、女の子の影もなかった八雲さん。



だから、あたしは…。



あたしが八雲さんの"特別"になれるんじゃないかと……思ってしまった。




八雲さんの一番近くにいるのはあたしだって…。



あたしがあまりにも懐くから、言えなかったのかもしれない。




バカだ…。本当。




「……………………」




お弁当を持って行かなきゃ。



ケントさん、きっとお腹を空かせて待ってる。



昼休みになっちゃってるから早くしないと。

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