第20話 クソ上司を撃退する

「グラスト様が帰ってきましたっ!」


 俺が教会へ帰ると、リスタが迎えてくれた。

 

「わあっ! 神官様だあっ!」

「ずっと待ってたんだよっ!」

「神官様、会いたかったよ!」


 孤児院の子どもたちに一斉に囲まれる。

 どうやらみんな、俺の帰りを待っていてくれたらしい。


「グラスト様、みんなグラスト様にまた会えて嬉しいんです」

「そんな大げさな。戦争に行ってきたわけでもないのに」

「あたしも……グラスト様にすごく会いたかったんです」


 リスタはそう言うと、俺にぎゅっと抱きつく。

 ふにょんと、大きな胸が俺に当たる。


「リスタ……」

「グラスト様はすごい人だから……あたしたちを置いて、どこかへ行ってしまうんじゃないかと思って」


 ふるふると震えながら、リスタは泣きそうな顔をしていた。

 俺が本当にどこかへ行ってしまうと思ったらしい。


「俺はどこへもいかないよ。リスタも子どもたちも、俺の大切な人だから」

「あ、あたしがグラスト様の、大切な人……?」

「そうだよ。リスタは大切だ」

「つっ! す、すっごく嬉しいです!」


 リスタはニコリと笑って、さらに強く俺に抱きつく。

 そのおかげで、おっぱいも強く俺に当たるわけだ。

 うん。すごく柔らかいしデカい……


「なんてボロい孤児院なんだ……!」


 感じの悪い声がする。

 まさか、あいつが来たのか。


「神官グラスト。今日こそ運営費を払ってもらおう」


 ちょび髭を生やしたおっさんが、俺たちをバカにした目で見ていた。

 こいつは、大司教ランドルフ。

 うちの教区の管理者であり、俺の上司。

 まあ一言で言うと——クソ野郎だ。


「まったく孤児院なんて無駄だ。さっさと潰してしまえばいいものを」


 ランドルフは赤字になっている孤児院を、コストカットのために潰そうとしている。

 俺とリスタは、子どもたちのために、孤児院の存続を訴え続けていた。

 だが、ランドルフはそれが気に入らないらしく、頻繁に嫌味を言いに来ていた。


 ちなみに、教区の予算はすべてランドルフが握ってきて、他の役人や神官は口を出せない。

 ランドルフは徹底的なコストカットを進めていて、赤字の施設をどんどん潰していた。


「今月もまた運営費が赤字。今月も赤字なら、孤児院を潰す。そういう約束だったな?」


 ニヤニヤした笑みを浮かべるランドルフ。

 俺たちが悲しむ姿を、見たくてたまらないようだ。

 部下を何人もパワハラで潰した噂は本当らしい。


「そうでしたね」

「ふふふ。約束通り、今月で孤児院は閉鎖だ!」

「そ、そんな……!」

 

 リスタが思わず声を上げる。


「……ランドルフ大司教。孤児院が潰れた場合、子どもたちはどうなるのですか?」


 俺はランドルフに尋ねる。


「どうせもともと孤児だったんだ。元通りになるだけだろう?」

「なるほど……」


 孤児たちを助ける気はないらしい。

 本当にこいつは聖職者なのか?

 マジでクズだな……


「グラスト様……」


 リスタが俺の手を握る。

 孤児院が潰れることが不安らしい。

 だが、大丈夫だ。


「リスタ、安心しろ。孤児院は安泰だ」

「な、なに⁈ どういうことだ?」

「ここに、1000万ゴールドあります」


 俺は自分の荷物から、金貨を取り出す。

 俺は100万ゴールドで良いと言ったが、どうしても1000万ゴールドを受け取ってほしいと国王に頼まれて、断れなかった。

 かなり大量の金貨で、めっちゃくちゃ重かったが。

 

「いったいどうやって……?」

「国王陛下からもらいました」

「う、嘘だ……! お前は悪徳神官だろ! 盗んできたに違いないっ!」

「いえ、証明書もあります。王家の紋章つきの」


 俺は証明書を取り出す。

 そこにはこうある——感謝のしるしに、1000万ゴールドをグラスト・フォン・マギノビオ男爵に授ける、と。


「これで100年以上は大丈夫ですね?」

「ぐ……っ! しぶとい奴めっ!」


 ぶーぶー文句を言いながら、ランドルフは帰って行った。


「神官様、すごいっ!」

「これでいっぱい食べられる!」

「ありがとう! 神官様!」


 ランドルフがいなくなると、子どもたちは笑顔ではしゃぎ始めた。


「グラスト様……本当にすごいです!」

「ぶっ!」


 またリスタに抱きつかれた。

 今度は巨乳に顔を挟まれて——



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