第13話 王女殿下は喘ぐ

「王女殿下、グラストさんを連れてきました」

「…………」

 

 俺とラフィーナは、王女殿下の部屋に入る。

 豪華なベッドで、王女殿下が寝ていた。

 アルトリア王国の第一王女——シャルロッテ・ローデル・アルトリア。

 縦巻きロールの橙色の髪に、人形のように整った美しい顔だ。


「黒死の呪いか……」


 シャルロッテの身体には、所々に黒い斑点で出ている。

 かなり苦しそうで、息が荒い。

 そもそも黒死の呪いは、魔族が人間にかける呪いだ、

 誰かシャルロッテに呪いをかけたヤツがいるわけだが……


「グラストさん、シャルロッテ様にヒールをお願いします……っ!」

「ああ。わかった」


 俺は寝ているシャルロッテに近づく。

 手をかざして、意識を集中させる……


「待てっ!」


 エルネスト公爵が、部屋の中に入ってくる。


「なんだよ、オッサン。今、俺は集中している」

 

 てか、ずっと気絶していろよ……

 めんどくせえ。


「悪徳神官のヒールで王女殿下が治せるわけない! 王女殿下に必要なものはこれだっ!」


 エルネスト公爵は、世界樹の聖水の入った瓶を取り出し、その蓋を外した。


「エルネスト公爵……何をするつもりですか?」


 ラフィーナが、エルネスト公爵の腕を掴む。


「世界樹の聖水を、王女殿下に飲んでいただく!」

「なっ! 世界樹の聖水は呪いに効かないはず……」

「いや、効くに違いない! エルネスト公爵家が総力を上げて手に入れた聖水だっ! 必ず治せる!」


 エルネスト公爵は、ラフィーナの制止を振り切って、


「……王女殿下、世界樹の聖水をお持ちしました。お飲みください」


 寝ているシャルロッテの口に、世界樹の聖水を流して込んでいく。


「…………ゲホっ!」


 シャルロッテは世界樹の聖水を吐き出した。

 どうやら身体が受け付けなかったらしい。  


「ぐっ……な、なぜだ? 万能の回復薬のはずなのに」

「もういいか? オッサン。引っ込んでおいてくれ」

「ぐぐっ。悪徳神官のくせに……」


 エルネスト公爵は俺を睨む。

 いい加減、ガツンと言わないとダメか。


「オッサン、あんたの薬じゃ治らないんだよ。いい加減にわかれ。これ以上、俺の邪魔をするなら——」

「邪魔をするなら……?」

「頭、吹っ飛ばすぞ……」 

「ひ……っ!」


 エルネスト公爵は、引き立った顔で後退りする。

 ふう……これでやっと集中できる。

 シャルロッテの胸に手を当てて、黒い斑点がなくなるイメージをして——


「ヒール!」


 シャルロッテの全身が、緑色の光に包まれる。

 ブルブルとシャルロッテの身体が震えて、


「はぁ、はぁ、はぁん♡ あんっ! はぁあ……あんあんっ! ひゃあ……あんっ! ふうん……♡」


 なぜか激しい喘ぎ声を上げ始めた。

 どういうことだ……?



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