第4話 無料ヒールで寄付が集まる

「神官様、ありがとうございますっ!」


 少女が俺に頭を下げる。


 ここは教会。

 俺は神官の仕事、つまり教会に来る病いに苦しむ人々を癒していた。

 もちろん無料で——


「神官様、次の患者様です」

「了解。リスタ」


 弟が元気になってから、リスタは俺の助手兼メイドとして手伝ってくれるようになった。


「ていうか、あと何人いるんだ?」

「そうですね……あと50人はいます」

「マジかよ……」


 神官が無料でヒールをしてくれることを聞いて、人々が教会に押し寄せてくるようになった。

 最初は悪徳神官が無料でヒールすると書いても人々は信じなかったが、リスタが街で俺のことを話してくれたおかげで一気に評判になる。


「ヒール!」


 俺は腰の折れた老婆にヒールをかける。


「な、な、長年の腰痛が治りました! ありがとうございます! 神官様!」

「よかったです。でもしばらくは安静にしていてください」

「これは少ないですが……」


 老婆は俺に銀貨を1枚、渡そうとする。

 震える手で、俺に銀貨を握らされる。


「いえ、ここは無料ですから。結構——」

「ぜひ受け取ってくださいませ。神官様。これは教会への寄付でございます」

「いや、本当にそういうのよくて——」

「何も寄付しなければ、きっとバチが当たってしまいます! どうか、どうか、受け取ってくださいませ。神官様ー!」


 老婆は膝をついて、俺に銀貨を差し出す。

 

「神官様、受け取ってもいいのではありませんか? 教会の屋根が雨漏りをしています。その銀貨があれば、直すことができますし」


 と、横からリスタが言ってくる。

 たしかに教会を運営するためには少しは金も必要だし、ここまで寄付したいと言ってくれる人を、無下にするのも変だ。


「……わかりました。有難くちょうだいします」

「あ、あ、ありがとうございます……っ!」


 俺が老婆から銀貨を受け取ると、


「私も寄付します! 神官様!」

「ありがたや、ありがたや!」

「もっと寄付させてくだせえ!」


 患者たちは膝をついて、俺に銀貨を差し出す。


「……断るわけにはいきませんね。神官様」

「そ、そうだな……」


 俺とリスタはお互いに苦笑いする。


 民衆の好感度を上げるために無料でヒールをやっていたら、逆に寄付をもらうようになった。

 せっかく治してもらったのに、感謝の気持ちを示さないといけないと思われてるみたいだ。


「午前中はこれで終わりですね。あとは午後の仕事に回そうか」

「そうですね。実は……神官様のためにお弁当を作ってきました」


 リスタはレースのハンカチに包んだ、弁当箱を持ってくる。

 なんだかリスタの頬の赤いのだが……


「神官様はお忙しいですから、栄養が取れるものを食べていただこうと思いまして」

「マジか。ありがとう」

「お口に合えば良いのですが……」


 パカっと弁当箱を開けると、かなり豪華な料理が。

 唐揚げに卵焼きにエビフライに焼き魚に、旨そうな料理が詰まっている。

 異世界なのに、いかにも日本人男子が好きそうなものばかりだ。

 まあこのゲームの制作者が日本人だし……

 

「美味そうだな」

「ありがとうございます♡ では……」


 リスタはフォークに唐揚げを刺して——


「どうぞ。お召し上がりください」


 俺の口元へ、唐揚げを近づける。

 これはヒロインに「あーん」してもらうイベントか?

 いやいや、俺は悪役で、リスタはモブだ。

 こんなベタなラブコメSSを書くやつなんて——


「大丈夫。一人で食べるから」

「……そうですか。死ぬほど残念です。ちっ」

「今、舌打ちした?!」

「いえいえ。そんなことしてません〜」


 ニコニコと笑うリスタ。

 

 バタン。

 突然、教会のドアが開く。


「ここにグラストさん、はいますか?」

「……っ! 大聖女様?!」


 リスタが叫んだ。

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