第3話 規格外の魔力を手に入れる

「では、グラスト様、修行を始めましょう」


 俺の目の前にいる巨乳の女性は、エレノア・アークライト。

 貴族の父親に頼んで雇った、魔法の教師だ。

 金髪のツインテールに、ブルーの涼しげな瞳。

 容姿の美しさとは裏腹に、最高ランクのS級魔術師でもある。

 クールな雰囲気のアークライト先生だが、その胸はものすごく……でかい!


「……グラスト様、何を見ているのですか?」

「あ、いや、何でもないです」


 俺は少し俯いて、視線をそらす。

 男ならどうしても、あの凶悪なおっぱいに目を吸い寄せられるのは仕方ない。

 

 ここは領地の森だ。

 モンスターは出るが、低級のものしかいない。

 初心者でも、安全にレベルアップできる環境だ。


「グラスト様は、魔力を増やしたいのですね?」

「そうなんです。今の俺の魔力だと、ヒールを一度使うのがやっとなのです」


 グラストは怠惰な貴族だ。

 神官となってヒールを使えるようになったが、全然修行をしなかったせいで魔力量はゴミだった。

 今の俺は、ヒールを一度使えば空になってしまうぐらいの魔力しかない。

 だから魔力量を増やさないと……!


「そうですね……せっかくですから基礎からお話しましょう。グラスト様は、魔力とは何かをご存知ですか?」

「……魔力とは身体から溢れ出る生命エネルギーのことで、魔力を操る術を魔法という、でしたよね?」

「その通りです。魔力はどんな存在にも備わっていますが、魔法の修行をしない限り使うことはできません」


 このゲームの設定では、どんな人間にも魔力があることになっている。

 ただ、修行をして魔力を目覚めさせないと、魔法を使うことはできない。


「そして、魔力は【魔孔】という身体の穴なら垂れ流し状態になっています。これを身体に留めることを——」

「【魔纏】ですね」

「そうです。【四魔行】をご存知なんですね」


 四魔行——

 魔力を操る、四つの基本動作のことだ。

 魔纏(まてん)、魔絶(まぜつ)、魔練(まれん)、魔発(まはつ)の四つの魔行をいう。


「魔纏は、自分の身体を魔力で覆うこと、魔絶は魔力を絶つこと、魔練は通常以上の魔力を引き出すこと、魔発は魔法を発動すること……で、いいんですよね。アークライト先生?」

「せ、正解です……」


 俺が魔法についてちゃんと知っていたことに、アークライト先生は驚いているようだ。

 グラストは努力が大嫌いなダメ貴族で有名。だから魔法のことも何も知らないと思っていたのだろう。


「魔力を増やすためには、魔孔を広げればよいのですが……時間がかかります。才能ある魔術師でも、1年以上は見ないといけません」

「俺には時間がないんです。早く魔力を増やす方法はないですか?」


 神官のグラストは、今、15歳だ。

 あと3ヶ月で16歳になって、魔法学園に入学する。

 そこで主人公に出会うことになるから、それまでに魔力を増やして強くならないといけない。


「……でしたら、外法の修行をするしかないですね」

「外法の修行……?」

「ええ。強い魔力を身体にぶつけることで、無理やり魔孔を開くのです」

「ならその方法で——」

「しかし、かなり危険です。もし素質のない人間にやれば……最悪の場合、死ぬかもしれません」


 死ぬのはさすがにヤバい……

 だが、素質には自信がある。

 グラストは怠惰で傲慢な奴だが、魔法の才能はずば抜けたものがある。

 ただ、努力をしなかっただけだ。

 とにかく俺には時間がない。


「……やってください。俺には魔力が必要なんです」

「本当に、いいのですか?」

「はい。早く強くなりたいですから」

「わかりました……」


 俺が真剣に覚悟を伝えると、アークライト先生も少し戸惑ってはいたが覚悟を決めてくれた。


「シャツを脱いで、背中を私に向けてください」


 俺は上着とシャツを脱いで、背中をアークライト先生に向ける。

 俺の背中にアークライト先生が手のひらを添えた。


「私の魔力を注ぎ込みます。……はああああああっ!」


 背中が、急激に熱くなる……!


「ぐ……っ! あああああああああああああああっ!」


 俺の背中に、アークライト先生の魔力が流れ込む。

 すごい魔力量だ……

 全身が、バキバキに折れそうになる。


「はあはあ……終わりました。グラスト様」


 ぱっと、アークライト先生が背中から手を離す。


「魔力が増えた感覚はありますか?」

「……はい。全身から力が溢れ出る感じがします」


 俺の身体から緑の湯気のようなものが見える。

 これが……増えた魔力か。


「グラスト様の魔孔は開きました。今、魔力が垂れ流し状態になっています。このままだと、生命エネルギーが尽きてしまい死んでしまいます!」

「どうすればいい?」

「【魔纏】で、溢れ出る魔力を身体に留めてください。イメージするのです。魔力が身体に留まるように——」


 俺は目を閉じて、イメージする。

 魔力が身体に、留まるように……


「ふう……だんだんと魔力が離れなくなってきた」

「す、すごい……普通ならこんなに上手く【魔纏】を使いこなすなんてことは不可能なのに……」

「そうなのか? ただアークライト先生に言われた通りイメージしただけだが」


 俺の身体の周りに、半透明の膜のような柔らかいものが纏わりついている。

 これが【魔纏】ってやつか。


「す、すばらしいです……こんなに早く【魔纏】をマスターするなんて」


 俺を見ながら、アークライト先生が目を丸くする。

 どうやら「すごいこと」らしい。

 さすが才能「だけは」あるグラスト、といったところか。


「おそろしいですよ。素質のある魔術師でも半年以上はかかるのにたった1度だけで成功させるとは……」

「ありがとう。これで魔力量が上がった気がするよ」


 試してみるか。

 俺は足元にあった剣を手に取り、鞘から引き抜く。


「グラスト様……いったい何を?」

「本当に魔力が増えたか、実験しないとな」


 ザッ……!


 俺は自分の左腕を剣で斬りつける。

 左腕に切り傷がついて、血が流れた。

 しかし痛みは——まったく感じない。

 魔纏のおかけだ。魔力が覆っているから傷はできても痛くなかった。


「ヒール!」


 緑色の光が出る。

 左腕の切り傷は、すぐに治癒された。

 完全に元どおり治る。

 

「全然疲れないな。こないだヒールを使った時はたった一度で疲れたのに……」

 

 リスタの弟にヒールをした時は、一度使った後でかなり疲れた。

 だけど今はヒールを使っても全然疲れない。


「うん。これならヒールをいくらでも使えるな」








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