第113話 難民たちの食事を準備する


「まじか……こんなに居るの!?」


 ここは、デッドエンドの端、領地の境……っていえばいいのかな。

 デッドエンドの入り口一帯の草原には、大量の難民で溢れていた。


「おなかすいた……」「つかれた……」

「おい! わしは貴族なんだぞ!? 領主はどこだ!? もてなせ!」


 そんなふうに、上空から難民たちを見下ろしてた、そのときだ。

 

「おおーい! ミカ殿~!」


 眼下で誰かが手を振っている。


「黄昏の竜のリタじゃあないの」


 私たちが地上へと降りる。

 リタが近づいてきた。


「リタ、あんた何してるの?」

「ここでボランティアをしております」


「ボランティア?」

「はい。毛布や保存食を配ったり」


「迅速すぎない……対応?」

「我等黄昏の竜は、領地内を常に巡回しておりますからな。問題に直ぐに気づけたのです」

 

~~~~~~

黄昏の竜がこの場にいることによるメリット

→国内でとても有名な冒険者パーティである、黄昏の竜がいることで、この人達の不安を解消することもできてる(魔物による被害を防いでいる)。

~~~~~~


 ゆ、優秀……!


「君らがいて助かったよ。暴徒とかした難民が襲ってきたらどうしようかと」

「それが……今ギリギリの状態なのです」


「? どういうこと?」


 リタが振り返る。


「うえーん!」「おなかすいたー!」

「まったく領主は何をしてるのだっ! 貴族がわざわざここに助けをもとめてきてやってるのに! きちんともてなさんかい!」


 ……リタがため息をつく。


「どうやら平民だけでなく、貴族も何人かこっちに来てるようでして……。クレーム処理に時間を取られております。食事の用意もうまくすすんでません」


「まあ、この数の食事作るの大変そうだもんね」


 その上、クレーム処理に時間を割かれてたら、食事を用意するのもままならないか。


「OK。じゃ、リタたち黄昏の竜は、引き続きクレーム処理をお願い。私たちはいったん龍脈地に戻って、食事の準備してくる」


 まずはご飯だ。腹が減るとイライラするし。


「ご飯を作るなら、わたしも手伝います!」

「あたしも」


「じゃ、このメンツでいったん龍脈地いくよ。大転移グレーター・テレポーテーション!」


 ということで、龍脈地(私の拠点)へと戻ってきたわけだが……。


『ばうー! おかえりー!』

『わうー! おかえりなさーい!』


 子フェンリルズが、こちらにドドドドっと押し寄せてくる。


「ふんぬっ!」


 ルシエルがふぇる太&ふぇる子を、抱き留める。


『おっ、なんだなんだ?』

『プロレスね! まけないわよー!』


 そのまま、ふぇる太たちはルシエルにじゃれつき出す。


「み、ミカ神どのっ。ここはアタシに任せてくれ!」

「サンキュー。あんた、ペットシッターの鑑だよ」


 ということで、私たちはログハウスへとやってきた。


「なにこれ!?」


 と、セイラちゃんが驚愕する。

 現代風の建物の内装に、驚いていた。


「建物の中なのに、めちゃくちゃ温かいわ! どうなってるの!?」


 今はいちいち説明してる時間はないんだけど……。


「ミカお母様の……神パワーです!」

「な、なるほど……神パワーね」


 いやそれで納得するんかい。

 まあ、理解できないことは、神の仕業ってかんがえたほうが、わかりやすいだろうけども……。


「トマト君、キャロちゃん、いるー?」


 わっ……! と野菜眷属たちが、私の前に現れる。

 手のひらサイズの眷属(頭に野菜)が、私の前で整列する。


 先頭には、頭がトマトのトマト君(リーダー)、同じくにんじんのキャロちゃん(料理長)がいる。


「カレー作って。たっくさん! うちで取れたお野菜たんまりで。お肉はKAmizonで自由に買いまくって良いから」

「「…………」」びしぃ!


 お野菜達が散らばる。

 これでご飯はOK。


 次は……器とか、そういうものを用意しないと。


「ね、ねえミカ。何が起きてるの? なにか……いるような、気配を感じたんだけど」


 さすが、天才錬金術師。

 目が良いからか、眷属達の気配を感じ取ることができたようだ。


「私の眷属に、料理を作らせてるの」

「眷属……って、えええ!? 食材が空を舞ってるわよ!?」


 一般人からすると、お野菜眷属は目に見えない。

 ふわふわと野菜が空を飛び、バラバラになって、お鍋にぽちゃぽちゃ入ってるように見えるんだろう。


「お母様は、神なので、眷属を作れるんです。一番数のおおい野菜の眷属たちに、今、料理を作って貰ってるんですよ」


 とリシアちゃんがセイラちゃんに説明する。


「な、なるほど……眷属ね。神なんだから、それくらい居てもおかしくないわ」


 神だから、ってフレーズ便利。

 何でもそれで片付けられるし。


「眷属達が料理を作ってくれてるから、あとは配り方を考えないとだね」

「そうね。あの数全員に配膳するとなると、相当時間掛かるだろうし」


 あ、そっか。そうだった……。

 ただ器とかスプーンを用意するだけじゃあだめだった。


 作っても皆のもとに届けないと意味が無いか。

 うーん……けっこーなかずいたし……。


「お野菜眷属に、手分けして貰うのが一番だよね」

「でも普通の人には眷属見えないんでしょ? ふわふわ……と器が勝手に浮いてたら、恐怖じゃない?」


 うん、普通にホラーだった。

 ただでさえ、難民の皆は気が立ってるわけだし。


 かといって、お野菜眷属の手(マンパワー)がないと、皆に食事を配りきれない。


 はて、さて。

 どうしたものか。


「ま、困ったときの全知全能インターネット


~~~~~~

「野菜眷属の手をかりつつ、周りを驚かせない」方法

→野菜眷属に仮の肉体を与える

~~~~~~


「ん? 仮の肉体……?」


~~~~~~

仮の肉体

→たとえば人体錬成を行う


人体錬成

→錬金術を使って人間を作ること

~~~~~~


 なるほど、人体錬成ね。 ちょうど、ここ天才錬金術師さんもいるわけだし。


「セイラちゃん、人って錬金術で作れる?」


 ぎょっ、とセイラちゃんが目をむく。


「つ、作れるけど……無理よ」

「無理って?」

「肉体は、確かに錬金術で作れるわ。でも……中身がない?」


 曰く、錬成事態は簡単だそうだ。

 でも、それは魂の内、肉の塊でしかないとのこと。


「そこは問題ないよ。欲しいのは器だから」

「は、はあ……?」


 困惑するセイラちゃん。

 わかるよ。ルシエルがいたらツッコみの嵐だろうし。


「まあまあ。とりあえず教えて」

「いいけど……。まず、水35リットル、炭素20キロ、アンモニア4リットル、石灰1.5キロ、リン800、塩分250、硝石100,硫黄80、フッ素7.5、鉄5、ケイ素3グラムその他少量の元素……」


 KAmizonに、化学薬品も普通に売っていた。

 Amaz●n、もとい、KAmizon便利すぎない……?


「これが、人を錬成するときに必要な材料よ。あとは錬金工房に材料を入れて……」


 私の用意した材料が、錬金工房に吸い込まれる。

 そして、逆側からは、裸の成人男性が現れた。


 とりあえず服をKAmizonで買って、お野菜たちに着せる。


「トマトくーん」


 ぴょこっ、とトマト君が私の肩の上に乗っかる。


「料理の方は順調?」

「…………」こくこく。


「よっしゃ。じゃあ、トマト君。君に新しい肉体を与えよう」

「…………!」えー!


 トマト君が両手で、口を押さえるジェスチャーをする。可愛い。


~~~~~~

野菜眷属を、受肉させる方法

→神が眷属の魂を観測した状態で、眷属を体に入れる

~~~~~~


「????????」


 セイラちゃんが困惑していた。


「た、魂を……か、観測? は? なに……え? は?」


 学者気質であるセイラちゃんからすると、魂とか言われてもさっぱりなのだろう。

 でも……私にはなんとなく、わかる。


 トマト君の体をじっと見つめていると、ぼんやりと、その胸にぽわぽわとした、青い白い炎が見えるのだ。


「よし、トマト君。ごー」

「…………!」おー!


 ぴょこんっ、とトマト君が、作ったばかりの体に入る。

 すると、魂無き肉の器が、むくり、と起き上がったのだ。


「えええええええええええええええ!?」


 セイラちゃん、驚愕する。カウンターが+1されたけど……。

 ま、まあ……ほら、計測者がいないから、ね。


「な、ななあ!? う、動いた!? 人体錬成で作った、肉の塊でしかないものが!?」


「成功したようね」


 こくん、とトマト君(受肉体)がうなずく。

 おや、髪の毛が生えてる。赤い髪の毛に、緑の目のイケメンになった。


「ど、ど、どういうこと!? 人体錬成を、本当の意味で成功させた人物なんて、歴史上でたった二人! 始祖ニコラス・フラメルと、錬金神セイファートさましかいないのよ!?」


 へえー……そうなんだ。


「まあ、でも成功した人が二人【も】いるんでしょ?」

「二人【しか】! いないのよ! しかもどっちも錬金術師だし! 錬金術師じゃあない人が、成功させた例はこれが初なのよ!?」


 ふぅん……そうなんだ。


「じゃ、さくさく人体錬成してこっか」

「ああもぉおおお! なんなのよぉ! この女ぁ……!」


 するとリシアちゃんが無垢なる笑みを浮かべながら言う。


「わたしの、自慢の、お母様ですっ!」

「いやぁ、照れますなぁ~」


 そんな私たちのほのぼのやりとりを見て、セイラちゃんが頭を抱えて叫ぶ。


「駄目だ……! あたしじゃツッコみ切れない! ルシエル……! るしえーーーーーーーーーーーる!」

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