第112話 難民たちを、助けにいく
デッドエンドの首都アベールにて。
「わ……! ほんとだ……人増えてるじゃん……!」
街には、見たことのない若い子らがいた。
「ナガノカミさま!」
「ナガノカミさまだ!」
わ……! と人々が私の元へと押し寄せてくる。
「ナガノカミさま!」「どうか我々をお救いくださいませ!」
……待て、待て。
ちょっと待て。
「あのさ……誰か状況を説明して……」
するとリシアちゃんが「はいっ!」と手を上げる。
「はい、リシアちゃん。これはいったい全体、どういうこと?」
「先日から、ゲータ・ニィガからここデッドエンドへと、移民をしたいという方が次々来ているのです」
移民……ほぉ……。
「なんで?」
「どうやら先日、魔族による王都襲撃事件があったそうです」
あ。
そういや……そんなこともあったっけ。
確か魔族をぶっ倒した、ような。
難民たちが言う。
「あのとき、クソ王子がおれらを生贄にしようとしました!」
クソ王子……ああ、オロカニクソか。
「ここの王族は、おれらを守ってくれないと思いました!」
「でもナガノカミさまは、我等をお救いくださった!」
「伝道者さまの勧めで、我等はこの土地へとやってきた次第でございます!」
……なんとなく状況は理解した。
ようするに、オロカニクソのいるゲータ・ニィガを見限って、私の居るデッドエンドへと移住したい……と。
「伝道者というのは、モリガンのことだぞ」
とルシエル。
「あの駄女神、ミカ神どのに断りも無く、民達をそそのかし、ここへ来るように仕向けていた」
駄女神……。ルシエルもついに、モリガンをそう呼ぶようになったらしい。
まあ、上司であるはずの私に、相談も無く、こんな重要な案件を進めていたのだ。
駄女神認定、不可避です。
はぁ……。
しかし、移民かぁ。
目の前には、かなりの数の人間たちが居る。
全員、妙に若い子しかいなかった。
「なんか若い子しかいないのってどうして?」
すると近くに居た難民が言う。
「この街にまだ、たどり着けていないものが大勢いるのです」
「マジか……。じゃあ、ここに居るのは移民の一部ってことだね」
「ええ……。おれらは若くて体力があるから、アベールまでこれましたが、女子供、そして老人は、デッドエンドの入り口の難民キャンプから出れないでいます」
難民キャンプ……?
いつの間にそんなものが……。
「わ、わたしもそこまで増えていたとは、知りませんでした。すみません!」
と
「いや、リシアちゃんが謝ることじゃあないでしょ。増えたのって最近みたいだし」
「そうだぞリシアどの。それに、実質的リーダーであるミカ神どのが、この事実を知らなかったほうが悪いし」
ほんと、それな。
しっかり者のリシアちゃんとはいえ、彼女はまだ五歳児なのだ。
娘の抱えた問題を、解決するのは親の務め。
……それに、難民をほっとくのは、可哀想だしね。
アベールの街に、やっと到着したであろう難民達の顔には、疲労の色がかなり色濃く見える。
「お願いします、ナガノカミさま!」
「我等をお導きください!」
正直、人が増えると、管理が大変そうだ。
めんどくさい……という気持ちが、ちょろっと顔を覗かせる。
でもそれ以上に、難民達が可哀想だ。
頼ってきてる人たちの手を、振り払うことはできない。領主の母として、そして何より、人として。
「わかった! 私がなんとかします!」
「「「おおお! ありがとうございます、ナガノカミさま!」」」
……ナガノカミじゃあなくて、ナガノミカなんですがね。
「でも、どーするのよミカ」
セイラちゃんと、グランセさんも、移民してきたのだ。ついでにシェルジュも。
セイラちゃんが首をかしげながら言う。
「この街に、難民達を全員移住させるの?」
「いや、ここはこのままにする。数多すぎると、街の管理が大変だし。それより、新しい街を作って、難民はそこで管理する」
「いや街を作るって……簡単に言うけどさ、そんな直ぐに作れるものじゃあないわよ?」
まあ、セイラちゃんの意見はもっともだ。
街作りなんて、普通は難しいものである。
土地を確保、外壁の構築、家の建築。等々、やること山盛りだし、その一つ一つが大変手間暇掛かることばかり。
「大丈夫ですっ。お母様なら、ぱぱっと問題解決してくださりますっ!」
リシアちゃんが笑顔を向けてくる。
「いやぱぱって……確かにミカは凄いけどさ……」
さぁて。
「んじゃ、ま。とりあえず難民キャンプんとこ行きますか」
「アタシもついて行くぞ。ミカ神どの一人じゃ、何するかわかったもんじゃあないし」
ルシエルの私に対する扱いが、手の掛かる幼児のそれなんですが……。
「わたしもいきます!」
「見学かい?」
「いえ、難民の数を把握しておかないとですし!」
な、なるほどおぉ……!
それは……そうだね。
「ミカ神どの……五歳児のほうがしっかり領主してるぞ……」
とあきれるルシエル。
「ふふん、うちの子はしっかりしてるのよ」
「開き直った!?」
ええそうですとも、私はしっかりしてませんとも。
「あたしも気になるしついてくわ」
「わたくしはここに居る難民の方達に、ご飯を作りましょうかねぇ~」
グランセさんがそういう。
「助かります。お願いします」
「いいのよぉ、ミカさん。敬語なんて。あなたがリーダー、わたくしは移民の一人なのですからぁ~」
「まあ、貴女がそう言うなら……わかったよ、グランセさん。じゃ、お食事振る舞ってあげて」
するとリシアちゃんが少し考えて、言う。
「お母様、やっぱりわたしこっちに残ります」
「? いいけど、どうしたの?」
「グランセさん、ここのこと全然わからないじゃあないですか? お料理どこで作ればいいとか、食材はどこにあるとか」
「お、おう……そうね」
「なので、人数の把握は、ルシエルさん、お願いして良いですか?」
「了解だ、リシアどの」
リシアちゃん、私じゃあなくて、ルシエルにどうして頼むんだい……?
いや、ま、わかるよ?
お母様じゃ頼りないもんね……。
「お母様は、難民の方達に、街を作ることに集中してくださいっ。雑務は、我々眷属神に……って、どうしたのですかっ?」
娘を抱きしめて、よしよしする。
ほんと……良い子!
「ミカ神どのの娘とは思えないほどしっかりした良い子ですな」
とルシエル。
「でしょ?」
「また開き直った!?」
私にはもったいないくらい、リシアちゃんは良い子ですよ。
ということで、私、ルシエル、セイラちゃんの三人で、難民キャンプのほうへ向かうことにした。
「でもミカ、どうするの? 転移っていったところにいしかいけないんでしょ?」
「ああ、大丈夫。
「は?」
私たちの体が浮かび上がる。
飛翔の上位魔法だ。
私、ルシエル、セイラちゃんの三人は、ぎゅぅん! と空を飛ぶ。
「ええええええええええええ!?」
セイラちゃんが声を張り上げる。
「なにこれ!?」
「
「いやそれ! 超高等魔法じゃあないの! そもそも飛翔の魔法が高等なのに、さらにその上位の魔法だし!」
ああ、まあ、そうだっけか。
前にリシアちゃんを帝国に連れてったときにも、同じリアクションされたっけ。
「セイラどの。この程度でいちいち驚いていたら、持ちませんよ」
ルシエルがぽんぽん、とセイラちゃんの肩を叩きながら言う。
「この御方のすることなすこと、ヤバいってことは……帝国で痛感したでしょう?」
「た、確かに……て、てゆーか……なんでこんな凄いこと、こんなにたくさんできるのっ?」
けっこー今更なことを、セイラちゃんが聞いてくる。
「まあ私、神だもんで」
……くわぁ。自分で言ってて、ちょっと恥ずかしくなった。
さすがに、驚くよね……神とかいったら……。
「なるほど」
「なるほど!?」
なんか普通に受け入れられてる……!?
「え、え、なんで……? 普通、驚かない? えー!? 神!? みたいな」
「いや、あんだけのことしでかしておいて、人間だったってほうが、変でしょ。人まで蘇生させちゃってるし」
……。
…………。
…………た、確かにっ。
「逆に、納得したわ。そりゃ神なら、あんだけのことできて当然よね」
物わかりよすぎない? 私の周りの幼女たちって……。
「子ども達のほうが、頭柔らかいからな」
「そ、そっか……」
「ミカ神どのは、子供のお手本になるようなことをしないとだめですよ?」
「は、はひ……」
するとセイラちゃんが不思議そうにルシエルを見て、言う。
「ねえ、ミカ。ルシエルって、ミカの上司か何かなの?」
「ううん、ルシエルは、
「はぁあ!? なによその、バカみたいな名前の神ぃいいいいいいいいい!?」
ですよね……。
私もそう思う。あと、ルシエル……。
「なんで、指を5本立ててるの?」
「…………」
「無言やめてっ!」
どうやら、鼻スパカウンターは、継続中らしかった……。
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