第111話 天才錬金術師ふたりを、獲得する



 ヤブイッシャをぶっ倒した。うん。ぶっ倒したはいいんだけど……。


「なんだ今のは!?」

「壁が破壊されたぞ!?」

「おれ、いま気を失ってなかったか!?」


 ……帝都病院内が大変なことになっていた。

 そらそうか。魔族がこの帝都の命を吸い上げて、全員殺したんだし。

 しかし……どうするか。


「グランセさま!? ご無事ですか!?」


 看護師らしき女性が部屋に入ってくる。


 ……グランセ、さま?


 セイラちゃんのおばあちゃんこと、グランセさんは微笑みながら、ベッドに座ってる。

 セイラちゃんの頭をよしよししながら、にこやかに答える。


「ええ、大丈夫ですよぉ」

「そうですか……ってええ!? グランセさまが目を覚ましてるぅううううう!?」


 驚愕する看護師。

 あ、そっか。寝たきりだったんだっ!


 そんな人がいきなり目を覚ましてたら、そりゃ驚くし……。

 どうやってってなる。……まさか、神のスキルで、私に治してもらったー……なんていわれたら、大変だ。


 目立ってしまう! それはいやだ!

 私は山の中で静かに暮らしたいのにっ。


「……もう遅くないか?」


 ぼそっ、とルシエルがつぶやく。確かに目立ちすぎたし。これはもう、神って明かすしかないか……。


 そんな私の苦悩をよそに、グランセさんがにこやかに笑いながら言う。


「神の奇跡が、起きたんですよぉ~」

「は、はい? 神の……奇跡?」


「ええ。普段から、錬金神セイファートさまに、孫が熱心にお祈りをしててくださったからですかねぇ~」


 ……グランセさん、自分が元気になったのを、神の奇跡で片付けようとしてる?


「いや確かに神の奇跡だけども、こうすれば……ミカ神どののせいにはならない……」


 ルシエルのいうとおり。だけど……なんで? この人私を庇ったってことでしょ……?


「わたくしは元気になりました。なにやら騒がしいですが、どうしたのですか~?」

「え、えと……帝都の人たちが一瞬気を失ったんです……なにかが起きたのではないかと」


「ええ。魔族が襲撃したんですよぉ。それを、わたくしが撃退したのです」


 いや、そんな。おばあさんがそんなこと言っても、信じてもらえないでしょ……。


「なるほどっ! さすが、元宮廷錬金術師長のグランセさま!」


 ……はい?

 元……宮廷錬金術師……長?


~~~~~~

宮廷錬金術師

→国に認められた、最高峰の錬金術師

~~~~~~


 まじかっ。

 そこの長ってことは……え、グランセさんってちょー凄い錬金術師ってこと!?


~~~~~~

グランセ・ファート

→元宮廷錬金術師長。帝国内外にとどまらず、様々なトラブルを解決してきた。15で宮廷入りし、80まで現役で活躍していた。帝国を代表する錬金術師

~~~~~~


 めちゃくちゃ凄い人だったー!

 そら言葉に説得力が出るわけだ。


「他の皆さんが無事かどうか、確認してくてくださらないですかぁ~?」

「わかりました!」


 看護師さんが出て行く。

 グランセさんがニコッと笑う。


「あれでいいでしょう? お嬢さん」

「あ、はい。助かります」


 死者を蘇生し、魔族を撃退したとなれば、さすがに目立ち過ぎちゃうからね。

 そこを、グランセさんが肩代わりしてくれたのだ。助かる……。


「初めまして。お嬢さん。わたくしはグランセ・ファート。セイラの祖母です」

「ナガノ ミカです。デッドエンドの領主の母やってます」


 リシアちゃんは私の隣にいる。

 ぽんっ、と頭を撫でる。


「この子が領主のリシア・D・キャスター。後ろにいるのはハーフエルフのルシエルです」


 じっ……とグランセさんが私たち三人を見やる。


「なるほど……」


 とどこか、納得したようにうなずいた。


「あなた方は特別なのですねぇ」


 ニコニコしながら言う。

 ……私たちの力を見抜いてるようだ。まあ、あんだけ大暴れしたのを、目の当たりにしたらね。


 それに、いい作り手は目もいいっていうし。

 グランセさんが、セイラちゃん以上の錬金術師というのなら、よりいい目を持ってるだろうしね。


「ばーば! シェルジュのところいってくる!」


 と、そのとき突然セイラちゃんが声を張り上げた。

 そうだ。


 シェルジュは魔族と戦闘し、そして負傷していた。

 負傷というか、破壊というか。


「ルシエル。グランセさんを見てて」

「大丈夫ですよぉ~」


 よっ、とグランセさんがベッドから降りる。

「!? ば、ばーば!? 立ってる!? なんで!?」


 なんでって……?


「ミカさんに治療して貰ってから、なんだか体が軽くってねえ~」

「ばーば……最近足が悪くなって、寝たきりだったのに……ミカが直したってこと?」


 た、多分……?


「ミカ神どのの神・死者蘇生の効果ではないか? 完全な状態で蘇生するんだろう?」


 あ、なるほどね。

 蘇生のさいに、弱った筋肉も治したんだろう。


「すごいわあ~ミカさん」

「それより! シェルジュよ! シェルジュ……大破してたし!」

「そうねぇ、急ぎましょう~」


 ということで、私たちは帝都病院の外へと向かう。

 病院内は大騒ぎだった。


 まあ、いきなり魔族が襲ってきて、集団で気絶したんだから(ほんとは全員死んだんだけど)。


 だからか、庭に、シェルジュが放置させられていた。


「シェルジュ!」


 魔導人形ゴーレムのシェルジュは、大破していた。

 頭以外が、砕け散ってしまっている。


「シェルジュ……ああ、そんな……」


 セイラちゃんが泣きながら、頭部を持ち上げる。

 すでに、シェルジュは機能停止していた。


「ばーば! シェルジュ直してっ!」


 グランセさんは静かに、首を横に振るった。

「無理ですよ、セイラ。シェルジュは……いにしえの時代、錬金の始祖ニコラス・フラメルさまがお作りになられた魔導人形ゴーレム。その技術は、もう失われてしまっているのです」

「直せないってこと……?」


「ええ。直したくても、設計図は失われてますし、第一……こんな精巧な魔導人形ゴーレムを、現代の技術で直すのは不可能です……わたくしでもね」


「そ、そんなぁ……うぐ、ぐすう……うわぁああああああん!」


 泣いてるセイラちゃん。私は……黙ってられない。

 やっぱり子供には笑ってて欲しいもん。


「大丈夫。セイラちゃん。私に任せて」

「うぐ……ぐす……でもぉお……ばーばでもなおせないってぇ~……」


「大丈夫。ボックス! おいで、サツマ君!」


 ボックスから出てきたのは、神鎚ミョルニルを背負った、サツマイモの眷属だ。

 野菜眷属は一般人には見えていない。

 空中にハンマーが浮いてるように見えるのだろう。


「!? そ、それは……もしかして……神鎚ミョルニル!?」


 グランセさんが驚愕の表情をする。


「ええ、まあ。そんで……これを使えば……」


 サツマ君がていっ! とシェルジュの頭をハンマーで叩く。

 神鎚ミョルニルには、壊れたものを修復するスキルがある。


 砕け散ったパーツが元通りになっていく。

 そして……次の瞬間には、シェルジュが完全な状態で復活していた。


「お嬢様……」

「シェルジュうぅううううううううううううううううう!」


 セイラちゃんが大泣きしながら、シェルジュの腰にしがみつく。

 うん、これでよし。良かった。


「ありがとう! ミカ!」

「どういたしまして」


 これで悲劇は全て回避することができた。

 ……まあ、がっつり神パワーをこの二人の錬金術師+シェルジュに見られちゃったけども。


「ありがとう、ミカさん」


 グランセさんが微笑みながら言う。


「シェルジュは、動けないわたくしの代わりに、セイラのめんどうを見てくれていた……家族同然の存在だったのよぉ」

「そうなんですね」


「ええ。だから……治って本当にうれしいのでしょう。ありがとう、ミカさん」

「いえいえ、彼女は娘の友達ですので。遊んで貰った分のお礼です」


 きゅとん、とするグランセさん。

 そして、大きく笑う。


「なるほど……あなたにとって、この程度のこと、なんですねぇ! うふふ、すごいわあ~」


 よしっ、とグランセさんがうなずく。


「決めたわぁ。わたくしも、デッドエンド領ってところに、住みますわぁ~」

「え? マジですか?」


「ええ。ミカさんの領地、とても興味があります」


 どうやらデッドエンド領民になりたいらしい。

 興味って……なんで?


 私の力を見たから……とか?


「はいはい! ばーばが移住するなら、あたしもする!」

「!? いいのぉ、セイラちゃんっ」


 リシアちゃんが目をキラキラさせる。


「ええっ。ばーばが行くならっ。てゆーか……ミカ! いいわよねっ?」


 リシアちゃんもまた期待のまなざしを向ける。

 まあ……うちに二人の天才錬金術師がいたら、正直助かる。


 デッドエンドって特産品ないし。

 ポーションを量産するにしても、マンパワーは必要だし。


 それになにより……リシアちゃんに友達作って、側に置いてあげられる。うん。


「いいんじゃあない?」

「「やったー!」」


 喜び合うリシアちゃん達。

 うんうん、良かった。


「そーいえば、ミカ神どの。いいのか?」

「いいのかってどういうこと?」


 きょとんとした顔で、ルシエルが言う。


「いや、ゲータ・ニィガから、移民が大量に来てるんだろう? これ以上増やして、管理しきれるのか?」


 ……。

 …………。

 ………………はい?


「え、移民って?」

「え?」

「…………」

「…………」


 え?

 ど、ど、どういうこと!?

 

「移民!? 大量!? ゲータ・ニィガからぁ!?」


「なんで領主の実質的リーダーのあんたが、知らないんだよぉ……!!!!!」

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