第108話 錬金術を習って即やらかす
首都アベールにて。
新しいスキル? 御供が発動し、賢者の石をセイラちゃんにプレゼントした。
けれど、セイラちゃんは使わないことにしたらしい。
理由を聞いたら、『怪しいから』とのこと。……ごもっとも。
「さ、当初の予定通り、ポーション作りを始めましょう」
アベールの空き家にて。
リシアちゃんが腕まくりしながら言う。
そうそう、元々彼女はここに、ポーションを作りに来ているんだった。
「神水にマンドラゴラがあるなら、ただのポーションじゃあなくて、上級治癒ポーションが作れるわ」
~~~~~~
治癒ポーション
→ケガを治癒する薬。
治癒ポーションランクは、
下級 かすり傷を治す
中級 出血を止める等
上級 激しい肉体の損傷を治癒
最上級(
~~~~~~
「セイラちゃんでも、この素材じゃ
「当たり前じゃあないの。
世界樹の雫か……。
世界樹メイちゃんに頼めば、雫をわけてもらえそう。
でも……私はわかっている。
それをやると、絶対にセイラちゃんに疑われる。世界樹は秘匿されてるもの。なぜ、雫をあんたがもってるのよぉ! って。
「ミカ神どの」
「言わなくてもわかってるから、大丈夫だから」
ルシエルが、私を見張ってる。
そんなに目を離せないの……? え、私幼児……? しっけーな。
私、長野 美香。29歳。
「……29歳児」
「児童じゃないし」
「ハーフエルフのアタシから見れば、ミカ神どのは子供みたいなもんだ」
そーいえばルシエルって、ハーフエルフ。
エルフほどではないけど、長命種なのだった。
調べれば、ルシエルの歳わかる。けど女性に歳を聞くのも野暮ってものだ。
「とにかく、ミカ神どの。あまり大事にならないように、慎重に行動してくれ」
「大丈夫だって」
「…………」
ルシエルが指を4本立てていた。大丈夫だから、鼻スパカウンターはやらなくていいから。
「さて、ポーションを作るわっ。見てなさい……この天才! 錬金術師の、華麗なる技術を!」
リシアちゃんがパチパチと拍手をする。
私もどうやって造るか興味があった。
「錬金工房、起動!」
セイラちゃんの手のひらの上に、小さな立方体が出現する。
「こっちの側面に、神水、マンドラゴラ、そして……薬瓶を入れるわ」
「ふんふん」
「そして……逆側に手を突っ込むと……はい!」
セイラちゃんの手には、1本の、綺麗な色の液体が入った瓶が握られていた。
「え? これで完成?」
「そう! 完成!」
「はえー……すご……一瞬じゃん」
~~~~~~
上級ポーション
→激しい肉体の損傷を治癒
~~~~~~
「ふふん、どーよ」
「おー……でもさ、凄いのってこの錬金工房なんじゃあないの?」
素材を一瞬で、ポーションに変える、このアイテムが凄いのではと。
「ふんっ。まあそういう意見もわからなくないわ。じゃあ、やってみなさいよ」
「はいはい! わたし……やってみたいですー!」
リシアちゃんが手を上げる。
まあ、リシアちゃんがやっても(私でも)、結果は同じだろうから、任せることにした。
「えとえと……じゃあ、こっち側に素材を入れる……」
リシアちゃんが、セイラちゃんの錬金工房に手を突っ込む。
「で、逆側から手をつっこんで……ていや!」
しゅぽっ、と手を引っこ抜く。
そこには、何も入っていない瓶が握られていた。
「あれ? 何も無い」
「とーぜんよ。錬金工房内で、何の作業もやってないんだから」
「? どういうこと」
ふふん、とセイラちゃんが得意げに鼻を鳴らす。
「錬金工房は、あくまで補助ツールってこと。中での作業スピードをあげるだけ。実際には自分で作らないと行けないのよ」
なるほど……。
あくまであの魔道具は、中が異空間になってるだけ。時間の流れが違うのと、道具が入ってるだけ。
実際に、使用者が錬金術を用いて、ポーションを作らない限り、ポーションが生成されることはない……と。
「あくまでアシストツールであって、自動生成魔道具ってわけじゃあないのね」
「そーゆーことっ。ふふん、すごいでしょ?」
「確かに凄い」
だって、箱の中に手を突っ込んでるってことは、中の作業を目視できないってことだ。
目隠し状態で、ポーションを作るなんて、誰でもできる訳じゃあない。
「セイラちゃんすごい! 天才!」
「ふっふっふ~♡ もっと褒めてくれていいのよっ!」
「すごーい!」
セイラちゃん、リシアちゃんに褒められてスッゴくうれしそう。
仲いいね君たち。
お母さんはリシアちゃんに友達ができて、うれしい限りです。
「それにしても……ポーション作りってけっこー大変そうね」
「まーね。技術の習得が必要ね!」
この子の手を見る。
少し……手荒れしていた。そこには、確かな努力の跡があった。
頑張って技術を習得したのだろう。
10歳で、たいしたものだ。
「頑張ったね、セイラちゃん」
ぽんぽん、と私はセイラちゃんの頭を撫でる。
「!?」
セイラちゃんがポカン……とする。
え、何そのリアクション……?
「頑張ったって……わかるの?」
「え、うん。その手を見ればね」
「!?」
またセイラちゃんが驚いてる。なになに?
「……そう。あり、がと」
さっきとテンションが違う。いったいどうしたんだろう……?
するとススス、とシェルジュが近づいてくる。
「お嬢様は、努力を褒められて、うれしいのですよ」
「ほぅ?」
「ほとんどの人は、若き天才錬金術師であるセイラお嬢様の才能ばかりを評価してくるのです」
才能があるから、天才だから、彼女は凄い……と。
まあ、自分で天才を自称してるんだから、そーなって当然とは思う。
「見る目の無い人たちなんだね」
「はい。だから……あなた様が、きちんと努力を認めてくださったこと……セイラお嬢様は本当に喜んでおられるのですよ」
鉄面皮(私が何しても、シェルジュは全く動じてなかった)の彼女が、少し……微笑んだのだ。
セイラちゃんのこと、大事に思ってるんだろうな、この人。
「ミカ! あんたにもやらせてあげるわ!」
セイラちゃんが私に指をさしてくる。
私にもやらせる……って。
「錬金術?」
「ええ。なんだったら、レクチャーしてあげてもいい」
「まじ? なんでそこまで」
「それは……まあ、その。な、なんとなくよっ。とにかく、あんたたちも錬金術覚えることできれば、自分らでポーション作れるようになるでしょ?」
まあ、確かに。
現状、セイラちゃんは帝国からこっちに出向してる形だ。
お賃金が発生する。
一方で、自分たちで作れるようになるのであれば、賃金をカットできる。
「でも、いいの? 私らに錬金術教えたら、食い扶持が減るのに」
「いいのよ。あたし……この技術が、多くの人に伝わってほしいの。そうすれば……特別な治癒の魔法の才能がなくても、たくさんのけが人が救われるようになるじゃあない?」
うーん……ご立派。
10歳なのに、なんてしっかりしてるんだろうか、この子。
「さ、やってみましょう」
テーブルの上に、フラスコやらビーカーやらを置く。
どうやら、私たちに見えるように、目の前で実践してくれるようだ。
「まずは、簡単な下級ポーションを作れるようになりましょうね。作り方は、とっても簡単よ!」
1.お湯を沸騰させる
2.細かく刻んだ薬草を煮る
3.濾す
4.完成
「けっこー簡単ね」
「そりゃ下級ポーションだからね」
「なるほど……治癒力の高いポーションになればなるほど、より作り方が複雑になるわけだ」
「そーゆーこと。さ、やってみましょ」
私、リシアちゃん、ルシエルの三人が、ならんで、作業台の上で薬草を刻む。
ビーカー、そして魔法コンロを使って、お湯を作る。
ビーカーは人数分ある。
私たちはそれぞれのビーカーに、薬草を入れる。
「あとはしばらく煮る」
カッ……!
コォオオオオオオオオオオオオオ!
「え、え? な、なんか光ってるんだけど!?」
私、リシアちゃん、そして……ルシエル。
三人のビーカーが、突如として光り出したのだ。
「はぁ!? この光……え、錬成反応!? うそでしょぉおおお!?」
……その光はすぐに収まる。
そして……。
ルシエルとリシアちゃんのビーカーの中には、なんか、さっきセイラちゃんの作ったのと同じ色の液体が入っていた。
「し、信じられない……! 下級ポーションの製法で、上級ポーション作るなんて!?」
や、やっぱり上級ポーションだったんだっ。
あれぇ?
「あ、アリエナイ……! こんなの絶対にアリエナイ……! とんでもない錬金術の才能があったとしか……」
~~~~~~
リシア、ルシエルが上級ポーションを作れた理由
→錬金スキル(上級)が、ミカの
~~~~~~
全能スキルは、配下に必要な能力を付与するもの。
なるほど……錬金スキル(上級)がついさっき付与されたおかげで、こうして上級ポーションができた訳か。
「ま、まあ……秘めたるスキルがあったってことなんじゃあない?」
「なるほど……でも! 一番おかしいのは、あんたよ! ミカ!」
え……?
私?
「なんで?」
「なーーーんで世界樹の雫もなしに、
あ、これ最上級の治癒ポーション……
って、ええ?
「なんで作ってるの、世界樹の雫が必要なのに。原料もなく作ったってことだよね?」
「そうよ! てか、なんでまたあんたが理解してないのよ!」
~~~~~~
ミカが
→最高神の
~~~~~~
なるほどねえ。
また何もしてないのに、やらかしたってわけかっ。
「やっぱり……あんた、変! やってること全部! 人間業じゃあない!」
そうですね……人間じゃあないからね。
あとルシエル……カウンター4本にしないで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます