第107話 鼻でスパゲッティ、食べる



 その後、セイラちゃんの仮の住まいを用意した。

 倉庫に近い場所の空き家を、使って貰うことになった。


 街の皆で掃除をした。

 もちろん私は神パワーは使わない。これ以上、鼻スパ(※鼻でスパゲッティ食べる)カウンター増やしたくない。


「作業したらおなかすきましたねー」


 リシアちゃんがお腹を押さえながら言う。


「お屋敷にいって、何か作って貰う?」


 まさかKAmizonで購入した者を、ふるまう! みたいなことはできないしね。

 セイラちゃんの前では。


「ふっふん。任せておきなさい。この天才! 錬金術師が、お昼ご飯をぱぱーっと用意してあげるわ!」


 セイラちゃんが胸を張って言う。

 全員で食堂へと移動。魔法コンロなどが設置してある、台所だ。


「シェルジュ! あれを!」

「御意に、お嬢様」


 侍女シェルジュが虚空から、どさっ、と紙袋を出現させた。

 どうにもこの侍女さん、アイテムボックス持ちっぽい。


「セイラちゃん、この紙袋はなぁに?」

「小麦粉よ」


 どうやらただの小麦粉らしい。


「見てなさい。この小麦粉や塩、水といった材料を、錬金工房の中に入れる!」


 シェルジュがアイテムボックスから取り出した素材を、空中に浮かぶ箱状アイテム、錬金工房の中に入れていく。


「すると……あらふしぎ! じゃーん!」


 箱に手を突っ込んで、取り出すと、そこにはお皿の上に乗った……。


「わあ……! パスタですっ」

「す、スパゲッティ……」


 なんと、セイラちゃんが一瞬で、スパゲッティを作って見せたのだ。


「すごいすごーい! どうやったんですか?」


 リシアちゃんが褒めるものだから、セイラちゃんものすっごく得意げな顔で言う。


「錬金術よ。錬金術は台所から生まれたーっていうくらい、料理と錬金術って密接な関係があるんだから」


 素材を組み合わせて、新たなるものを生成するという点で、料理と錬金術って似てるってことか。


 それにしても、原料があれば一瞬で料理を作れるの、便利すぎる。

 そしてソースも一瞬で、セイラちゃんが作った。


 あっという間に、人数分(じーちゃんたち含む)のお昼ご飯ができた。

 敷物をしいて、みんなでお昼ご飯を食べることになった。


「お膳立ては、すみましたね、ミカ神どの?」


 ルシエルがにこーっと笑ってる。


 お膳立て……。

 ようするに、鼻スパをしろと!?


「無理に決まってるでしょっ。私をなんだと思ってるの?」

「冗談。まさか鼻でスパゲッティ食べれるとは思ってないよ」


「あ、冗談だったんだ……」

「当たり前だろう? 鼻でスパゲッティ食べれる人間がどこにい……る……」


 ルシエルが途中で黙りこくってしまう。


「……自分で言っててあれだけど、ミカ神どのは人間じゃあないし……もしかしてって思って……」


「はぁ? 無理無理! 鼻でスパゲッティ食べれるわけないじゃん!」

「絶対?」


「絶対の絶対! 無理だから!」


 さて。


 お皿の上には、トマトソースの掛かったおいしそうなパスタが載ってる。


「もっちもちでおいしいれす~♡」


 もっもっ、とリシアちゃんがセイラちゃん特製パスタを食べている。

 どうやら生パスタらしい。


「セイラちゃんって、錬金術もすごいし、お料理もすごいなんてっ。そんけーしちゃうなぁ~♡」

「ふっふっふーん! でっしょ~? じゃんっじゃん、食べなさいっ。おかわりはいっぱいあるからねー!」


 領民達もセイラちゃんパスタを美味しそうに食べている。

 ルシエルも無心で食べていた。


 すごいなぁ。料理女子。あこがれちゃう。

 私も料理できはするけど、焼くだけ、煮るだけ、揚げるだけ……みたいな。


 簡単な調理しかできないんだよねえ。

 まさかパスタを原材料から作るなんて、いやぁ、セイラちゃんはたいした料理人だ。


「さて……と。私も食べますか」


 まずは匂いから。

 私はお皿に顔を近づけて、目を閉じ、匂いを嗅ぐ。

 うーん、トマトの良い香り。


 さて匂いを堪能した後は……。


「あれえええええええ!?」


 私の目の前にあったはずのパスタが……き、消えてる!?


「み、ミカ神どの……す、スパゲッティ……消えてる……」


 隣で食べていたルシエルが驚愕していた。


「お母様、もう食べたんですか?」


 きょとんとしながら、リシアちゃんが尋ねてくる。

 いやいやいや!

 まだ食べてないんだけど!?


「まだ香りしか堪能してない……」


 匂いを嗅いでたら、消えた……って!


「まさか……ミカ神どの……本当に鼻でスパゲッティを……」

「いやいやいやいや! さすがにそれは、無い! できない!」


「しかしミカ神どのは自分で自分の力をコントロールできていないし……」


 すると……。

 かつーん……と、目の前に1個の、石が落ちてきたのだ。


「なに……この石……?」


 手のひらサイズの、ちょっと大きめの石だ。

 すべすべとした球体で、色は……黄金。


「そ、そ、それはぁああああああああああああああああああああ!?」


 突然、セイラちゃんが大声を上げる。

 そして近づいてきて、私の手に握られたそれに、顔を近づけてきた。


「間違いない……! それ……【賢者の石】よおぉ!?」


~~~~~~

賢者の石

→錬金術における至高の存在。卑金属を金に変え、癒やすことのできない病や傷も一瞬にして治療する。

~~~~~~


「なんで!? 賢者の石がここに!?」


 するとシェルジュが言う。


「ワタシが見ていたところによりますと、虚空から、その石が振ってきたように見えました」

「「はいぃいいいいいいいいい!?」」


 ルシエルとセイラちゃんが同時に驚く。

 そりゃそうだ。虚空から振ってきたってなんだそりゃ。


「ミカ神どの! いったい何をしたというのだっ」

「何で私なのよ……」


「訳わからないことがあったとき、大抵、あなたが何かやったときでしょうがっ」


 何も言い返せない……!

 わからないことがあったときは、全知全能インターネットで調べるのが一番。


~~~~~~

賢者の石がでた理由

→神に供物を捧げたから

~~~~~~


「神に……供物……?」


 はて、と私とルシエルが首をかしげる。

 神に……は、多分私のことだろう。


 でも供物ってなんだろう……。


「ミカ神どの……もしかして、このお昼ご飯のことじゃあないか……?」

「これが供物!?」


「ああ。そうとしか考えられない……」


~~~~~~

御供ごくう

→神に供物をささげる行為。神からの恩恵を受ける

~~~~~~ 


 これかっ!

 え、つまり……私に供物をささげると、さっきみたいなアイテムが振ってくるってこと……?


「ガチャじゃん! それ!」

「が……?」「ちゃ……?」


 リシアちゃんとルシエルが首をかしげている。

 一方、セイラちゃんが困惑している。


「何で賢者の石が……あたしだって作ったことない、伝説の存在がどうしてここに……」


 あー……まあー……うん。


「それ、どうやら君のらしいよ」

「はぁ!? どういうことなのよ!?」

「どういうことなんだろうね?」


「意味わからないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 セイラちゃんは賢者の石を手に持ちながら絶叫する。


「ま、まあまあ。良かったじゃん。錬金術の至高の存在なんでしょ? もらってうれしいでしょ?」

「虚空から出てきた、出所不明のものをもらっても、うれしいどころかかえって気味悪いわよっ!!!!!!」


 そりゃそうだ……。


「えーとえーと……」


 どうしよう……。

 するとルシエルが咳払いをする。


「うぉほん。セイラどの。それは……我等が信奉する、ナガノ神が、あなた様にもたらしたお礼だと思われます」


「は……? なによ、ナガノ神って?」


「デッドエンドで密かに信奉されてる、神の名前です。神は時折、気まぐれに我等に厄……ごほん、恵みをもたらしてくださるのです。ね、ミカ神どの」


 なるほど……これらオカシナ事象を、すべてナガノ神(私とは別人)の仕業とすることで、乗り切ろうとしてるのか。


「そ、そうそう。ナガノ神さまに、ほら、お供え物したからさ、君。お礼だよきっと」


 セイラちゃんは釈然としない表情をしていた。


「そうね。神様って実在するものね。創造神ノアールさまだったり、聖女神キリエライトさまだったり」


 良かった。この世界、神が存在する世界観で。


「あたしも、錬金神セイファートさまを信奉してるし。なるほどね……ここは独自の神を信じてるのね。で、神が恵みをもたらしてくれると」


「そ、そういうこと……」


「ふぅん……賢者の石をくれるなんて、気前のいい神様ね!」


「いやぁ、それほどでも……いててて」


 ルシエルに、横腹をつままれた。

 彼女は笑顔で「……しゃらっぷ」と小声で言ってきた。


「ごめんて」

「…………」


 ルシエルが、指を三本突き立ててきた。


「1減って、1増えたので」


 鼻スパカウンター継続中なの!?

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