第106話 ただの水(神基準)に驚かられる



 セイラちゃんがマンドラゴラ(品種改良)(無自覚)に驚いてる。


「すごいわ……! 品種改良された、マンドラゴラがこんなに! これがあれば、治癒ポーションも、解毒ポーションもたくさん作れるわっ!」


 セイラちゃんが目を輝かせてる。

 さっきは困惑していたはずだが……。


 とりあえず、わからないことは、いったん保留にしたようだ。

 あるがままを受け入れたというか。


 おとな……。


 一方で、ルシエルがため息をつく。


「ミカ神どの……」

「だ、大丈夫。もう驚かせないからっ」


 だから鼻スパはこれ以上勘弁して欲しい……。


「ほんとに?」

「本当にっ。ヤバそうなものは隠したし」


 野菜眷属たちに、命令したのだ。

 ヤバそうな魔道具とかは、隠せって。


 野菜眷属ちゃんは神の眷属以外に見えないもんね。


「ミカ神どの。どうか……慎重な行動を心がけておくれ。でないと……鼻スパカウンター……増えますから」

「増えるの!? 一度でいいじゃない!?」


「物覚えの悪い犬には、何度も繰り返してしつけしないといけないと書で読んだことがあるので」

「な、なるほど……」


 んんっ?

 それって……あれ、私犬扱いされてる?


 あれあれ?


「なんか私、駄女神ズ(モリガン、トゥアハーデ)、駄犬フェルマァと、同じカテゴリー?」

「…………」


 ルシエルが、え、今更みたいな顔をしてきたっ!

 やっぱり私そっち側なんだっ!?


 ……気をつけねば。

 そう、私は長野 美香。29歳。おとなの女なのだから……。


「さて、じゃ、ポーションに使うお水見せて貰おうかしら」

「そ、そうね……」


「どうしたの? ミカ? 顔色悪いけど」

「大丈夫大丈夫。鼻スパカウンターは1だからまだ」

「????」


 ということで、倉庫の外へとやってきた。

 裏手には、共用の水飲み場があったはず。


「確か、ここの水ってとても清らかな水なのよね」

「そうそう。山から滲み出た、とても良い水だってね」


「多分それ、霊水ね」


~~~~~~

霊水

→龍脈地(山など)から滲み出る水のこと。魔力水ともいう。

魔力が豊富に含まれている。魔力回復ポーションの原料となる。また、治癒ポーションの効果を上げることもできる

~~~~~~


 なるほど、魔力がふんだんに含まれた水ってことか。


「伝説の水とかじゃあないんだよね?」

「そうね。取れるところからは取れるから。龍脈地って、この世界にはいくつもあるし」


 ほっ……。

 良かった、これで、『また世界最高のお水だぁー!』って、セイラちゃんを驚かせることはないだろう。


 私はルシエルを見やる。


「そのどや顔はなんですか?」

「いや、別にぃ」


 鼻スパせずにすんだぞっ。よしっ!


 まーね。私もバカじゃあないんで。

 驚かせるようなものは、しっかり隠したし(野菜眷属ちゃんが)。


 これで、絶対、確実に100%、セイラちゃんは驚くことはないだろう……。


「なにこれぇえええええええええええええええええええええええええ!?」


 ……。

 …………。

 ………………ええ?


「な、何に驚いてるの、セイラちゃん……?」


 私たちが来たのは、共用の水飲み場。

 スイーパばあちゃんが、バケツに水を入れていた。



「な、な、なぁ!? ねえ、そこのおばあちゃんっ!」

「おやぁ、さっきの可愛い……確かセイラちゃんだったわねぇ」


「ねえ、おばあちゃんっ。ここのお水って……どうやって出すの?」

「このハンドルをね、きゅっ、とひねるの。そしたら……お水がでるんだよぉ」


 じゃばー! と水が勢いよく、蛇口からでていた。

 セイラちゃんが腰を抜かす。


「し、信じられない……!?」

「え、ど、どこが……? ひねれば水が出るなんて、当たり前じゃあない?」


 確か、ゲータ・ニィガの王城でも、ひねれば水が出る仕組みはあったはず……。


「それは、水魔道具があるところならね」

「水魔道具……?」


「水の魔石を使った、魔道具のことよ」


~~~~~~

魔石

→魔法のチカラが込められた特別な石。刺激を与えることで、単純な魔法が発動する。

~~~~~~


「水魔道具は、確かにあるわ。でも、作るのがとても大変で、設置できる場所は王城など限られた場所しかないの」

「へ、へえ……。で、でもひねれば水が出る仕組み、あるにはあるんでしょ?」


「あるよ。あわるよ? でもね!」


 びしっ! とセイラちゃんが水飲み場を指さす。


「これ! 魔道具じゃあないわ! 魔石がついてないもの!」


 ……だんだんと、私は、セイラちゃんが何に驚いてるのが理解しだした。

 この世界には、たしかに、ひねれば水が出る仕組みは存在する(水魔道具)。


 でも……この蛇口、魔道具じゃあない。

 魔道具ではないのに、水がひねると出た。だから……驚いたと。


 しまった……! お野菜眷属基準だと、これは見ても驚かれないものだろうって思ったんだっ。

 というか、お野菜眷属ちゃんたちって、人間じゃあないから、人間の基準がわからないんじゃあない!?


「信じられないわ……どういう仕組みになってるの……?」

「ど、どういう仕組みなんでしょ……?」


「なんで設置者が構造知らないのよ!?」

「ほんとね……」

「なぜ他人事!? あんたさっきから他人事多すぎない!? ここあんたの娘の領地でしょ!?」


 うう……。


「セイラどの。もっと言ってやってください」


 とルシエルが援護射撃する。


「君そっち側なのっ?」

「ミカ神どの、10歳児に説教されて恥ずかしいですよね」

「くぅう……」


「なら、もうちょっとしっかりしましょう」

「はひん……」


 一方で、スイーパばあちゃんの出したお水を、セイラちゃんがまじまじ観察してる。


「これ……もしかして……」


 セイラちゃんが水を手で掬い、じっと観察してる。


「ミカ神どの……」


 すっ……とルシエルが、指を立てる。

 3本。


「え? なにそれ?」

「鼻スパカウンター」

「鼻スパカウンター!?」


 え、鼻でスパゲッティ食べる回数ってこと……!?


「なんで、3? せめて2でしょっ?」

「いいや……アタシにはわかるんだ。3になるって……」

「は? どういう……?」


 すると……。


「なにこれぇええええええええええええええええええええ!?」


 ……。

 …………。

 ………………。


 ルシエルが、無言で3本の指をたて、そして私に押しつけてくる。


「ど、どうしたの……?」

「どうしたもこうしたもないわよ!? この蛇口からでる水……【神水】じゃあないの!」


~~~~~~

神水

神気しんき(神の魔力)が解けた、超レアな水。

無加工で、あらゆるケガ・病気を治療する。それ自体が上級回復薬。

また、飲み続けることで寿命が延びる。

~~~~~~


 OH……。

 なん……だと……?


「神水が取れるなんて聞いてないわよ!?」

「うん……私も初めて知った」


「なんで!?」

「さ、さぁ……?」


「おかしいわよ! おかしすぎるわよここぉおおお!」


 セイラちゃんが頭を抱えてしゃがみこんでしまう。


「神水っていえば……七獄セブンス・フォールの最下層でしか取れないっていうのに……」


~~~~~~

七獄セブンス・フォール

→世界に存在する、七つの最難関ダンジョンの総称のこと。

生きて攻略できたものはいない

~~~~~~


「そんな最難関ダンジョンでしか取れない水が、どうしてここで取れるのよ……」

「あんたが! 言うんじゃあない……!」


 ごもっとも……。

 でも字面から想像できるんだよなぁ。取れる理由。もう検索しなくてもわかる。


~~~~~~

デッドエンドで神水が取れる理由

→最高神ナガノミカがいるから。最高神から漏れ出す神気しんきが、地下水ととけあうことで、神水を製造している

~~~~~~


 ほらね(諦念)。

 まーた私ですよ。


「この魔道具といい、ひねればでる神水といい……この領地どこかおかしいわ……」

「おんやぁ? セイラちゃんは、この領地、きらいかえ……?」


 スイーパばあちゃんが、不安そうな顔で尋ねる。


「そ、そんなことないわっ」


 セイラちゃんが慌てて首を横に振るった。


「あたし……結構気に入ってるわ」


 え、マジ……?


「リシアちゃんいるし……おじいちゃんおばあちゃん……優しいし……」

「おお、そーかえそーかえ。ありがとぉねえ」


 スイーパばあちゃんが、セイラちゃんの頭を撫でる。

 まんざらでもなさそうなセイラちゃん。


 良かった……。

 彼女が、ここを悪用するような人じゃあなくって……。


 それに、この感じなら、外にここのこと言いふらさないでしょう。

 どうやらじーちゃんばーちゃんや、リシアちゃん気に入ってるみたいだし。


 うん、結果オーライ。


 ……しかしルシエルが笑顔で近づいてきて、指を3本突き立てるのだった。

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