第105話 薬草を品種改良してた(無自覚)
アベールの街へと入る、私たち一行。
セイラちゃんたちは、街の中を見て、「なによこれ!?」と驚いていた。
ええー……またなにかやっちゃいました……?
「デッドエンドって、辺境の小さい村って聞いたんだけど……!? かなり立派な街じゃあないのっ!」
確かに二階建ての家が並び、道路は舗装されてて、しかもライフラインが整ってるからね。
うん、確かに立派な街。
でもこれやったの、私じゃあなくて、サツマくんなのだよねぇ。
「デッドエンドって儲かってるの……?」
「いやぁ、特にそういうわけでは……ねえ? リシアちゃん?」
こくん、と領主リシアちゃんがうなずく。
「ここ……不思議な街へ……。別に名産品があるわけでも、儲かってるわけでもないのに……外壁は立派だし、中もしっかりしてる……」
全部サツマ君が頑張ってくれたんですよ……。
とは、言えない。野菜眷属なんて見たら、またこの子を驚かせてしまうもんね。
「……偉いぞ、ミカ神どの。余計なことを言うとセイラちゃんを驚かせちゃうって学習したんだなっ。えらいえらい!」
とルシエル。
「君私のこと、幼児か何かだと思ってます……?」
え、バカにされてる……?
「チカラ持ってる分、幼児より余計にたちの悪い存在だと思ってる。ある意味で目が離せないし」
「くぅ……」
何も言い返せない……。
一方でセイラちゃんが町並みを見て言う。
「リシアちゃん、どこか、空き家を貸してくれないかしら? そこを作業場にしたいの」
とセイラちゃんがリシアちゃんに言う。
「いいですけど……錬金術師さまの工房に使えるような、設備の整った工房はありませんよ?」
「ふっふーん。そこは問題ないんだなぁ~」
と、得意げなセイラちゃん。
「問題ない? どういうこと?」
「工房を新設しなくてもだいじょーぶってこと。見てなさい……!」
ばっ、とセイラちゃんが右手を前に突き出す。
「【錬金工房】……起動!」
「れんきんこーぼー……?」
リシアちゃんの目の前に、小さな立方体の箱が出現した。
箱の両側面はくぼみ、薄い膜のようなものが張られてる。
「これは錬金工房! こんなちっちゃいけど、立派な工房なのっ」
どういうことだろう。
~~~~~~
錬金工房
→空間魔法を応用した魔道具。立方体の中には工房に必要な機材が全てそろってる。また、時間の流れが外と異なっており、作業時間を短縮できる。
~~~~~~
なるほど、魔道具なんだこれ。
「この側面に素材を入れるとぉ~」
シェルジュから薬草と、瓶入りの水を受け取り、セイラちゃんが錬金工房の中につっこむ。
ずぼっ、と取り出すと、瓶の中には、翡翠色のポーション瓶が出てきた。
「じゃーん! ポーションの完成っ」
「わー! すっごぉい! ポーションを一瞬で作れちゃうなんてっ!」
「ふっふーん。当然よっ。なんたって、あたし天・才! 錬金術師なんだからっ!」
天才ってだけあって、確かに凄いわこの子。
こんな凄い魔道具、扱うのも大変そうなのに。
「このあたしが来ればっ、ポーション量産んてお茶の子さいさいよっ!」
「来てくれてありがとね、セイラちゃん」
んふー、とセイラちゃんが満足そうに鼻息を着く。
この子ならたくさんポーション作ってくれそうだ。任せて大丈夫そう。
「素材はこっちで用意したから、それを使ってポーション作ってほしいな」
「了解よ。で、素材はどこ?」
素材……そういえばわからない。
「なんでわからないのだ……ミカ神どの……」
とあきれた調子のルシエル。
「いや、だって街の運用はリシアちゃんに任せてるし……」
「五歳児に丸投げって……おとなとしてどうなんだろうか?」
「ほんとね」
「肯定するのか!?」
「だって事実だし」
「リシア様に有能なメイドさんを付けるべきだと思うぞ、アタシは」
ほんとそれねー。
どっかにいないかな、リシアちゃん手伝ってくれる、有能なお手伝いさん。
一方で、リシアちゃんが「こっちの倉庫にいっぱいありますよー」とセイラちゃんを案内してる。
さすが領主。
しっかりしてるぅ。
「どっかのお母さんも見習ってほしいものだな」
「だれだろーねー(目をそらす私)」
ややあって。
アベールの街の倉庫へとやってきた。
石造りの、立派な倉庫だ。
「ここには街で取れたお野菜とか、木材とか、その他色々なものが貯蔵されてますっ。困ったときは、ここからアベール町民なら誰でも引き出すことが可能なんですっ」
「ふぅん……街共用倉庫なのね」
そうなんだ……。
と思っていたらルシエルがジト目で見られた。わかる、わかるよっ。言いたいことはっ。
「薬草はこの中。お水は裏手に井戸がありますので、そこから」
「オッケー。じゃ、薬草から見させて貰うわね」
「はいっ」
確か……デッドエンドには質の良い薬草が生えてるって言っていたっけ。あの帝国の皇帝が。
それでうちと取引したくなったとか。
なんか私が居ることで、薬草の品質がよくなるとか、
「確か、最上級の【薬草】があるって、皇帝から聞いてるんだけど」
「そうそう」
「ふぅん……楽しみだわ。どんな薬草からしら」
リシアちゃんが倉庫の中へと入る。
石造りで、中はひんやりしてる。
ワイン倉みたいなイメージ。行ったことないけども。
「この壺の中に、薬草が入ってます!」
「ふぅん……どれどれ……」
ごそごそ、とセイラちゃんがツボの中をあさってる。
こそっ、とルシエルが耳打ちしてくる。
「ミカ神どの、大丈夫なのか……? またセイラを驚かせてしまうのでは?」
「大丈夫、最上級の薬草が入ってることは、あの子知ってるからさ。驚きはしないでしょ?」
「本当に大丈夫……?」
「うん、絶対大丈夫」
「フラグにしか聞こえないんだが……」
「なら、驚かせたら鼻でスパゲッティ食べてあげてもいいよ」
私は決めたのだ。もうこの子の前では、大人しくしてようって。
セイラちゃんが薬草を手に持って、目を細める。
そして……。
「なにこれぇええええええええええええええええええええええええ!?」
……。
…………。
………………あれぇ? 何で驚いてるんだろ……?
「あ、あ、ありえない! これ……こんなものが、どうして……? ここに!?」
「ど、どうしたの……? 何に驚いてるの? ただの薬草に」
するとセイラちゃんがこちらに近づいてきて、持っている草をこっちに突き出してくる。
「これは……マンドラゴラよ!」
「マンドラゴラ……?」
~~~~~~
マンドラゴラ
→伝説の霊草。体力回復以外にも、解毒等、効果は多岐にわたる。不老不死の霊薬の素材にもなる。
ただし、引き抜く際、強烈な悲鳴を発し、その声を聞くと死に至る
~~~~~~
あー、ゲームとか小説とかでよく見るあれだっ。
でも……あれぇ?
「マンドラゴラってさ、根っこに人形みたいなやつついてなかったっけ?」
「そうよ! 根っこの部分が生きてて、引っこ抜いたときに、その悲鳴を聞くと死ぬの……! でも……」
そう、根っこの部分が、普通の薬草の根っこなのだ。
「てか普通の薬草と見た目おなじなのに、よくそれでマンドラゴラってわかったね」
「マンドラゴラの草の部分で見分けたのよ」
普通の薬草と何か違うのか、私にはさっぱりわからない……。
「ポーション素材には使えない……?」
「使えるわよ! 回復ポーション以外の薬品にも使えるし! しかも薬草を使うよりも質の良いポーションが作れるわ!」
「へ、へえー……すごいんだ」
「そう! しかもこいつの凄いところは、人間の形をした根っこがないってところ! つまり、引き抜くときのリスクが存在しないってこと!」
た、確かに……。
「どうなってるの!?」
「どうなってるんだろうね」
「なーーんであんたが知らないのよぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
叫ぶセイラちゃん。
一方で、ルシエルがニコッと、良い笑顔で私の肩に手を載せる。
「鼻スパね」
「OH……」
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