第109話 錬金術師の祖母を、治す



 そのときである。


 ばさばさっ! と、窓の外に一羽のフクロウが止まっていた。


「フクロウ便ですっ! しかも……あの黒いリボンは、緊急速達便です!」


 フクロウの足には黒いリボンが結ばれていた。

 セイラちゃんが何かに気づいた様子で、フクロウの元へ向かう。


 フクロウの口にくわえてあった手紙をとり、急いで破って中を検める。


「そんな……!」


 どさっ、とセイラちゃんがその場に崩れ落ちる。

 シェルジュが近づいて、セイラちゃんの方をさする。


「【グランセ】お婆さまに……何かあったのですね」

 

 グランセ……お婆さま。

 セイラちゃんのおばあちゃんってことか。


「ばーば……危篤……だって……」

「! 大変じゃあないの! すぐに帰らないと!」


「う……ん……でも帝国まで遠いし……」

「私が居る! 大転移グレーター・テレポーテーションで連れてくから!」


 ぱしっ、と私はセイラちゃんの手を掴む。

 危篤なら、すぐに帰ってあげないと。


「いこ!」


 私は大転移グレーター・テレポーテーションを使う。

 その場にいた私、リシアちゃん、ルシエル、シェルジュ、セイラちゃんの五人で、帝国へとやってきた。


「グランセさまは帝都病院に入院中です」

「案内して、シェルジュ!」


 シェルジュに道案内してもらい、私たちは帝都病院へと向かう。

 レンガ造りの立派な病院だ。


 シェルジュが急いで受付を済ませる。

 その間もズッと、セイラちゃんは青ざめた顔をしていた。


 ズッと自信満々だった彼女が、こんな弱った姿を見せるなんて。

 私たちは病室へと移動。


 そこに居たのは……ベッドに横たわる、一人の老婆だ。


 ……そして、その老婆の顔には、一枚の布が駆けられてる。


「グランセばーばぁ……!」


 セイラちゃんが泣きながらグランセさんの元へ向かう。

 医者が神妙な顔つきで告げる。


「たった今……息を引き取りました」

「! な、なら……大丈夫!」


 セイラちゃんが急いで、手に持っている、ポーション瓶を取り出す。


完全回復薬エリクサー! 持ってきたの! さっき作ったばっかりなの!」


 さっき私が造った完全回復薬エリクサー

 この子のおばあちゃんがそれで助かるなら、使って貰って全然構わない。


完全回復薬エリクサーのめば、治るから! ねえ、ばーば!」


 セイラちゃんがグランセさんの口に完全回復薬エリクサーを飲ませる。

 体が一瞬だけ輝く。


 ……けれど、すぐにその光は消えてしまう。

「そんな……ばーば……うぐ……ぐすぅ……うう……」


~~~~~~

完全回復薬エリクサー

→あらゆるケガ、病気を一瞬にして治療する。死んで直ぐの人間であれば、完全回復薬エリクサーで蘇生も可能

~~~~~~


 全知全能インターネットで調べた情報だ。

 ……おかしい。

 グランセさんは死んで直ぐだという。


 それなのに、完全回復薬エリクサーを飲んで蘇生しないのはどうして……?


「ねえ、グランセさんって、長く入院してたの?」


 と、医者に尋ねる。


「ええ。2年前のある日、突然深い眠りに陥り、目を覚まさないという奇病にある日かかってしまったのです」

「奇病……病名は特定できないの?」


「ええ。この帝都一の名医、【ヤブイッシャ】が全力で治療したのですが……目を覚ますことはありませんでした」


 原因も不明なまま。

 セイラいゃんはお婆さまの病気を治すんだと、ポーション研究に励んでいたらしい。


 セイラちゃんですら、おばあさんの病気を直す薬を開発できなかったと。


 ヤブイッシャが言う。


「セイラさん。せめて、お婆さまと同じ病気の人がもしあらわれたとき、治療できるように……ご遺体を提供していただけないでしょうか?」


 遺体の提供……。

 つまり、解剖したいってことだろう。


「ばーばは死んでないもん! ばーばに……まだ……あたしが……立派な錬金術師になったとこ……みせてないのに……ばーば……うう……ばーばぁ……」


 ……子供の泣いてる姿を見て、私は……黙っていられなかった。

 私の前で、誰も不幸になって欲しくない。


 鼻スパカウンター?

 うるさい。


 力を隠す?

 黙ってろ。


 今ここで、泣いている女の子がいるのだ。

 ほっとけるわけがないだろう。


「ヤブ医者さん」

「ヤブイッシャだ」


「ちょっと外出てってくれない?」

「わかりました。ご遺体の件は、また後でうかがいます……気を落とさないでくださいね、セイラさん……」


 と言って、ヤブイッシャが出て行く。

 残された私たち。


 蘇生することは、容易い。しかし治癒の力が効かなかったのが気になるところ。


 私は全知全能インターネットで、グランセさんの死因を探る。


~~~~~~

グランセの死因

→魔族の施した、【深き眠りの呪い】による衰弱死

~~~~~~


 呪い……なるほど。どうりで、完全回復薬エリクサーで治らないわけだ。


 呪いなら……。


ボックス、おいで、朱羽あかはね!」


 空中のボックスから、朱雀すざくの子ども達が出てくる。

 

 ルシエルは……何も言わなかったし、止めもしなかった。

 セイラちゃんの悲劇を、なんとかして欲しいと、彼女もまた思ってるのだろう。


朱羽あかはね! グランセさんにかかった呪いを焼いて」

『わかったでー! ふぁいあー!』


 ぼっ……! とグランセさんの体が燃え出す。


「ミカ!? いきなりなにするのよぉ!? ばーばを火葬するなんて!」

「大丈夫。グランセさんは死なない。この人には呪いがかかってるの」


「!? 呪いですって……!?」

「うん。今呪いを、朱雀すざくの炎で焼いた」


「は、は? はぁ? す、すざく……?」


 これで呪いは消えた。


青嵐せいらん白猫はくびょう黒姫くろひめ、おいで!」


 ボックスからでてきたのは、四神の娘達。

 

 いつもなら、セイラちゃんやルシエルがツッコミを入れるところだ。

 でも……今は緊急事態につき、そんなことしてる精神的余裕は無いのだろう。


「皆……力を貸してね」


 四神が私の周りに浮かんで、その力を私に集める。


「神・死者蘇生レイズデッド!」


 究極の蘇生術を、発動させる。

 呼吸が止まっていたとなると、脳細胞が破壊されてる可能性があった。


 でも神・死者蘇生レイズデッドならば、死んだ細胞も元通りになる。


 強い光が、病室を、そして……グランセさんを包み込んだ。

 そして……光がはじける。


「う、う……? あれ……? ここは……?」

「ばーば? ばーばぁああああああああああああああああ!」


 セイラちゃんが泣きながら、グランセさんに抱きつく。


「セイラ……」

「ばーば! 目ぇさめたのねえ!」

「え、ええ……」

「良かったぁ!!!!!!!!!!」


 わんわんと泣きながら、セイラちゃんがグランセさんに抱きつく。

 生きていたことが、本当にうれしかったのだろう。良かった……ほんとに。


「ルシエル。ごめん」

「あなたは正しい行いをしたよ、神としてね」


 ルシエルも、わかってるんだ。

 グランセさんの死は、人為的に引き起こされたものだって。


 グランセさんの死の原因は、魔族の呪いによるものだった。

 そう……彼女の死は自然死じゃあない。魔族の手により引き起こされた悲劇を回避したのだ。


 怒る方がおかしい。

 ……さて。


「セイラさん、どうしたのですか? いったい……って、えええええ!?」


 ヤブイッシャが病室に入ってきて、グランセさんを見て驚愕の表情を浮かべる。


「ぐ、ぐ、グランセさん!? ば、バカな!? 死んだはずじゃ……!?」


~~~~~~

ヤブイッシャの正体

→魔族ヤブイッシャ

~~~~~~


 うん、予想通り。


「ルシエル。やっちゃえ」

「承知! 全知全能の剣ホテイソン!」


 ルシエルの手に、巨大ハリセンが出現する。


「ちょ、なんだい君ぃ!」

「黙れぇえ! この……ヤブ医者がぁああああああああああああ!」


「ぶげぇあああああああああああああああああああああ!」


 ルシエルが全知全能の剣ホテイソンで、魔族ヤブイッシャをぶっ飛ばすのだった。

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