第103話 天才錬金術師、じーさまたちに驚く


 帝国から、天才錬金術師セイラ・ファートちゃんがやってきた。

 ここに居を構えて、ポーションを量産して貰うためだ。


「人なの……?」

「人です」


 元ね。今は神。


「どうにも人間に思えないわ……」


 と疑いの目を向けてくるセイラちゃん。


「優秀な職人の証拠だな」


 とルシエルが言う。


「どういうこと?」

「前にドワーフから聞いたことがある。目より先に手が肥えることはないって。優秀な職人は、目もいいんだってさ」


 ほぉ……。なるほど。

 

「つまりセイラちゃんは私が神プロテクトをしているっていうのに、神であると見抜いてるから優秀ってことね」

「まあそういうことだ。ミカ神どの、今まで以上に気をつけて行動してくれよ。あんた……目立つからさ」


 なるほど、目立ちすぎて、この子に神だってバレちゃわないようにしないいとってことか。


「OK。目立たぬようにね」

「そうそう、目立たぬように」


 会議終了。

 一方リシアちゃんとセイラちゃんが話してる。


「10歳で帝国付きの錬金術師なんて……すごいです!」

「ふっふーん、でっしょう~? あたし天才っ! なんだかっ!」


「かっこーです!」


 子供はすぐ仲良くなるね。良いことだ。


「んじゃ、ま、デッドエンドの首都アベールへ向かいましょ」

「そうね。馬車でどれくらいかかるの?」


「え、もうすぐつくよ。大転移グレーター・テレポーテーション

「「ちょ……!?」」


 しゅおんっ、とその場にいた全員が、転移する。

 私たちがやってきたのは、アベールの街の外だ。


「よし」

「ちょっとまてやぁああああああああああああああああ!」


 ルシエルがガッ……! と私の肩を掴む。


「え、どしたの?」

「目立つ無っつったでしょお?!」

「うん。目立たないようにしたつもりだけど……?」

大転移グレーター・テレポーテーション使ってるじゃあないかっ!」


 ん?

 どういうこと……。


「ぐ、ぐぐぐ、大転移グレーター・テレポーテーションいぃいい!?」


 セイラちゃん、そして他の人たちもまた、腰を抜かしていた。

 あれ、どうしたんだろ……?


「こ、古代魔法じゃあないの!!!!!」


 セイラちゃんが叫ぶ。あー……そっか。大転移グレーター・テレポーテーションって古代魔法のひとつだっけ。うん、知ってる。


「それが?」

「「それが!?」」


 セイラちゃんおよびルシエルが驚く。


「ミカ神どの……古代魔法は失われたいにしえの魔法なのだぞ?」

「それを二つも使えるってどういうことなのよ!?」


 あれ……?

 もしかして古代魔法の使い手って、複数使える人いないっぽい……?


 教えて全知全能インターネット


~~~~~~

古代魔法の使い手

→そもそも数えるほどしかいないし、複数古代魔法が使えるものは居ない。

~~~~~~


 まじかー(初耳)。


「あ、あああ、あんたほんとなんなの……?」

「ええと……」


 どうやってごまかそうか……。

 するとリシアちゃんは純粋無垢なる笑みを浮かべながら言う。


「リシアの、素敵なお母様ですっ!」


 う……まぶしい。リシアちゃんの笑顔を見て、セイラちゃんが少しだけ警戒心を薄めてくれたように思えた。


「……話を聞くと、リシアの養母なんだってね。あなた。幼子リシアがここまでなついてるんだから……まあ悪い人じゃあないんとは思うけど」


 よかった……。

 ありがとう、リシアちゃん! 君のおかげで要らん疑いかけられずにすんだっ。


「ミカ神どの……うかつすぎる……! 毛何もしないでくれよっ!」


 ルシエルが声を張り上げる。


「わかってるわかってるって。私は何もしないです」


 悪目立ちしたことで、帝国にこのことが伝わり、利用しようとしてやってこられても困るからね。


「私が望むのは平穏だからね」

「その割に魔族ぶっ殺したり、無自覚にド派手なことしたりしてないか? 本当に平穏を望んでるのか……? 言ってることとやってること矛盾してない……?」


 う……するどい。


「で、でも私は平穏な暮らしを望んでるのはマジなんだよ」

「…………」


「無言やめて!」


 ややあって。

 アベールの近くまでやってきた。


「それにしても……立派な外壁ね」


 アベールの街は見上げるほどの外壁でぐるっと一周囲われてる。


「見たところ、この外壁石じゃあないわ……。いったい何の素材で作られてるの?」

「え? さぁ……」


「なんで領主の母が知らないのよ!」

「部下がやったことなので」


 お野菜眷属、サツマ君がこの外壁を作ったのだ。

 彼には神鎚ミョルニルを持たせてる。


 彼の意志で、必要なものを作らせてるのだ。で、気づいたらこの立派な外壁ができていたってわけ。


「鉄……? いや、まさか……そんな……」


 と、そのときだった。


『……ミカ姉さん』


 子フェンリル兄妹の末っ子、ふぇる美が、テレパシーで話しかけてきた。


『敵よ』


 マジか。このタイミングで……?

 

「セイラちゃんたち、早く街の中に入って。魔物が来るみたい」

「は? 魔物……? どこに……?」


 確かに周囲には、魔物の陰は一匹も見当たらない。


「でも、来るの」

「何を根拠に?」

「えーっと……勘?」

「それ憶測っていうのよ!」


 もたもたしているせいで、敵が来てしまったようだ。


「お嬢様。翼竜ワイバーンです。それも、大軍で」

「なっ!? 翼竜ワイバーン!?」


 侍女のシェルジュさんがあさっての方向を見ながら言う。

 その手にはまた銃が握られていた。やっぱり、私と同じアイテムボックス持ちなのかな?

 さておき。翼竜の群れがこっちにやってくる。

 まあ撃退は容易い。あんなの全然脅威に感じない。


『うぉん! 姉ちゃん! おれがやるぜ?』

「そーね、お願いしようかな……」


 そのときだった。


「【星の矢】!」


 瞬間、上空から無数の矢が降り注ぐ。


「!? これって、魔法矢!?」


 セイラちゃんが驚きながら、空を見る。

 魔法で作られた矢は、空中で分裂すると、流星の如く地上に降り注ぐ。


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 翼竜たちが地上へと落下していく。空には一匹も残ってない。


「ムジカが翼竜を撃ち落としたぞぉ!」

「「「うぉおおおおお! 皆殺しじゃああああああああああー!!」」」


 ばっ! と外壁の上から、じーちゃん、ばーちゃんたちが降りてくる。


「な!? なにあの身のこなし!」


 驚愕するセイラちゃんをよそに、じーちゃんたちが、駆除を開始する。


「ひょひょひょひょー!」

「なにあの婆さんのうごき!? 熟練の暗殺者のようだわ!」


 スイーパばあちゃんが、両手に持ったナイフで、正確に敵の首をはね、心臓をつぶしてく。


「おらおらおらおらぁ!」

「あのじいさんなに!? ちょームキムキじゃあないの! その斧の一振りで敵の首を刎ねてるわ!?」


 チョッパーじいちゃんだ。

 今はきこりをやってらしい。昔はなにをやってたのか知らん。


 そのほかのじーさまばーさまたちが、協力して、敵を殲滅していく。

 その様子を見ていたルシエルが、私に向かって言う。


「なにあれ!?」

「じーちゃんたち」

「みりゃわかるよ!? なんであんな人外じみた動きしてるのだ!?」


「ちょこっと訓練つけたら、ああなった」

「ここでもかっ! ここでも悲劇は繰り返されてるのか!?」


 ルシエルのいる、東の街マーテオのハーフエルフたちは、モリガンブートキャンプによって、全員が筋肉マッチョでヒャッハーな戦士になった。


 が。


「しっけーな。あれと一緒にしないでよね」

「モリガンとはちがうと?」


「そう。私がやったのは、ダンジョンを周回させたことくらい」

「いや同類! 同じだから! やってること!」


 なん……だと……

 モリガンの、あれと同じだっていうの私?


「い、いやいや。そのダンジョン、死んでも死なない安心安全設計だから。モリガンみたいな地獄の攻めくとは違うから」

「カテゴリー的には同じだから! 老人にそんな過酷なことさせてるんだから!」


 ルシエルのツッコミを聞いて、私のひたいから汗が垂れる。

 あ、あれぇ?


「もしかして、私、モリガンと……同類?」

「同じだよ、似たもの同士だよ!」

「ま、まじか……」


 うわ、なんか……けっこー凹む……


「神は皆どこか心の形が歪なのだな……」


 私は否定できなかった。

 一方で、セイラちゃんがじーちゃんたちを指差す。


「なにあれ!? あんたんとこ、おかしくない!? あんたも含めて!」

「まあ、うん。アハハハ」

「笑って誤魔化そうとするんじゃあないわよぉおおおおおおお!」

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