第102話 天才錬金術師を、困惑させる



 帝国からのお客さんを、神の力で蘇生させた。

 改めて、お客さんたちを見やる。


 護衛らしき武装した人たち。

 で、ちょっと離れた場所に、幌付きの馬車。


「護衛さんたちは大丈夫そうだ……。馬車の中に見てみるか」


 護衛達は気絶状態だ。ふぇる太に見張りを任せて、私たちは馬車の方へと向かう。


 馬車は横転していた。

 多分魔物に襲われたときに横転したんだろう。


「お母様! 中に……人が!」


 リシアちゃんが中を指さしていう。

 横転してる馬車の中に入ると……。


「う……うう……」

「女の子……?」


 銀髪の女の子が気を失っていた。

 年齢は、リシアちゃんよりちょっと上くらい。たぶん10にも満たないだろう。


 白い服装に帽子と、かなり可愛らしい服装をしてる。

 でも……帽子の部分が血でにじんでいた。


「馬車が横転した際に、頭でも打ったのだろうか?」


 とルシエルが言う。


「いずれにしろ直さないとね。青嵐せいらん、お水頂戴」

「きゅっ!」


 ボックスから青嵐せいらんが出てきてくる。

 青龍の子である青嵐せいらんが出す水には、治癒の力があるのだ。


 青嵐せいらんがパシャッ、と水を吐き出す。

 

「う……うう……はっ! ここは……?」

「起きた? 大丈夫?」

「え、ええ……。あんたたちが、たすけてくれたの?」


 女の子が私に尋ねてくる。


「そう。私はミカ。あなたは?」

「あたしは……セイラ。セイラ・ファート」


 セイラと名乗った銀髪の少女。

 大きな青い目をしてる。


「! そうだ! シェルジュは!? 皆は!?」

「シェルジュ……?」


「護衛たちのこと! あたし魔物に襲われて、シェルジュたちがあたしを逃がしてくれたの!」


 なるほど、そういう状況だったのか。


「大丈夫です! 皆さん無事ですよっ!」

「………………よ……かったぁ……」


 リシアちゃんがそう言うと、その場にへたり込む、セイラちゃん。

 悪い子じゃあないね。護衛の人たちを気にかけていたようだし。


「でも……本当なの? あたしたち、すっごく強い魔物に襲われてたんだけど」

「ほんと?」


 なんだ、他にも強い魔物がいるらしい。

 フリスビー投げ×2と、ふぇる太たちが倒してしまった以外にも、強い魔物が。


「ミカ神どの。また何か勘違いしてないか……?」


 とルシエル。


「勘違い? いやいや、いるんでしょ? 他にも強い魔物が……警戒しないと」

「いや多分その子がいってるのは……」


「シェルジュ! みんな!」


 ばっ! とセイラちゃんが馬車から降りて、さっきの護衛の人たちの元へ向かう……。


「ぎゃああああ!」


 と、セイラちゃんの叫び声。


「ほら、魔物が現れたんだよ。ねー、ルシエル。私の言ったとおりでしょ?」


 ルシエルは釈然としない表情で、私のあとについてくる。

 私たちは馬車から出る。


 さぁ……どこだ、強い魔物!

 かかってこい!


『あんただーれ?』

『あなただーれ?』


 ……ふぇる太&ふぇる子が、べろべろ、とセイラちゃんを舐めていた。


「ひぃいいいい! ふぇ、フェンリル! しかも、二体もぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ……。

 …………。

 ………………。


「ほらな、ミカ神どの。あなたの勘違いだ。セイラちゃんが言っていた強い魔物は、貴女がすでに倒してたんだよ。フリスビーで」

「あ、うん……そうみたいだね……」


 私が遊びのついでに倒したのが、強い魔物って……あれぇ?


「もしかして強い魔物って……この世には存在しないの……?」

「いやするよ!? めちゃくちゃいるよ!? でもあんたが強すぎるんだよ!!!!!」


「そーなの?」

「そーなの!」


 うーんなるほど……。


「たた、たすけてシェルジュぅううううううううう!」


 セイラちゃんが声を張り上げると、後ろからバッ……! と誰かが飛び上がった。


「セイラさまを離しなさい」


 メイド服を着た、桃色髪の女性だ。

 年齢は私とそう変わらないように見えた。


 メイドの女性の手にはナイフが握られている。

 ふぇる太の背中に、ナイフを誘うとしていた。


「こらこら」


 私はスマホを取り出す。


「危ないから」


 完全削除アンインストールを発動させる。

 パシャリ。


 画角におさまってるナイフが、ぱっ、と消える。


「!?!?」


 メイド女性が驚愕の表情を浮かべる。

 

『うぉおおん! あそびか? あそぶか!』


 びょんっ、とふぇる太がジャンプして、メイドの女性の首根っこをつまむ。


「シェルジュ!? シェルジュをかしなさいよー!」


 ジタバタ暴れるセイラちゃんを、ふぇる子が首根っこを掴んで持ち上げる。


「お嬢様を離しなさい。さもなくば……撃つ」


 ちゃき、とメイド女性の両手に銃がにぎられていた。

 あれ? さっきまで何も持ってなかったような……?


 っと、それどころじゃあない。


「待って待って。落ち着いて二人とも。ふぇる太たちは、とりあえず下ろしてあげて」


 ぱっ、とふぇる太たちが、メイドさんとセイラちゃんを下ろす。

 

「シェルジュ!」

「お嬢様! ご無事でしたかっ!」

「うん! こわかったー!」


 どうやらこのメイドさんが、シェルジュって言うらしい。

 で、お嬢様……? って呼んでるところから、シェルジュはセイラちゃんの従者……ってところかな。


 セイラちゃん、高そうな服着てるしね。


 それにしても……。


「怖かった? さっきの魔物の群れに?」

「ミカ神どの……。多分ふぇる太たちに怯えていたんだろうと思うぞ、あの子ら」


「ふぇる太に? こんなにかわいいのに?」


 もふもふキュートなふぇる太の頭を、よしよしと撫でる。

 ふぇる太は心地よさそうに目を細める。


 ふぇる子は自分も撫でて欲しいと頭をこすりつけてきた。おー、かわいいやっちゃな。


「あのね……ミカ神どの。お忘れのようだが、この子らは可愛く見えてもフェンリル。高ランクモンスターなのだ。一般人からすると、恐るべき存在だ」


 うーん……そっか。


「ふぇる太たちも魔物だったね。可愛いから忘れてたけど」

「フェンリルを可愛いって言うの、かなり一般からズレた感覚だと思うぞ……?」


「え、まじ??」

「はい」

「でもリシアちゃんは怯えてないけど」

「そりゃ神の子だからね……! 神と一般人じゃあ、感性が違うの……!」


「そっかぁ……」

「あんた本当に元人間なの!?」


 いちおうそのはずなんだけどね。

 最近ちょっと感覚とかが、神に寄りすぎてる感は否めない。


「ところで、お嬢様。誰なのですか、この人……人? たちは」


 シェルジュが私に疑いのまなざしをむけてくる。


「あたしたちを助けてくれた人たち……人? よね?」


 なんで二人から人であることに疑問を向けられてるのだろう?

 ルシエルがツッコミ入れたがってたので言わなかったけど。


「でもなんで助けてくれたの?」

「初めまして! リシア・D・キャスターと申します!」


 と、リシアちゃんが前に出て、頭を下げる。


「と、その保護者のミカりんです。お客さんだからね、あんたたち。だから助けたの」


 なるほど、と二人はいちおう納得してくれたようだ。

 護衛の人たちも起き上がる。


「助けたって……なるほど。そのフェンリルたちは、あんたの使い魔なのね」


 と、セイラちゃんは納得したご様子。

 使い魔、では正確にはないんだけども、説明がめんどくさかったので、そういうことにしておいた。


 神ってことも別に明かす必要ないしね。この人らに。


「それにしても、フェンリルを従えるなんて、とんでもない魔法使いねあなた」


 と、セイラちゃんが私に言う。


「なるほど……そうか。あんたが辺境の大魔導士とやらね!」

「はい? 辺境の大魔導士……?」


 なんだそれは?


「デッドエンドにいるという、とてつもない魔法使いの冒険者のこと。すごく今有名なんだから」

「はえー……そうなんだ」


 いったいどうして有名なんだろう……?

 基本的に、私、辺境に篭ってるのに。


「挨拶が遅れたわね。あたしはセイラ・ファート。OTK商会おかかえの、天才! 錬金術師とはあたしのことよ!」


 ふふん、と胸を張るセイラちゃん。

 10歳なのに、商会お抱えとは。なるほど、天才を自称するだけの腕はあるってことか。


「んで、こっちのメイドはシェルジュ。先祖代々、ファート家に使えるメイドよ」

「シェルジュです。お嬢様がお世話になりました。それと……修復までありがとうございます」


 修復?

 治療ではなく?


「シェルジュ、どういうこと?」

「大魔導士さまが、死んだワタシや護衛の形を、魔法で蘇生なさったのです」


 きょとん、とセイラちゃんが目を点にする。


「え、う、うそ!? 蘇生!? ってことは、死者蘇生レイズ・デッド使えるの!?」

「え、うん」


 なにか変だったろうか?

 死者を蘇生する魔法は存在するはず……


「あなた、古代魔法が使えるの!?」

「うん。それがどうしたの?」

「どうしたのって……」


 セイラちゃんが絶句している。

 あー、そっか。失われた魔法、なんだっけ。現代では。


「フェンリルを従えてるし、古代魔法まで使えるし……あなた、何者?」

「ただの世捨て人よ」


 するとルシエルおよび、セイラちゃんが言う。


「「あんたみたいな【人】が! いるわけないでしょうが!」」

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