第98話 ルシエル、神獣たちの遊び相手になる



 ルシエルが自動で召喚された。


『あんただーれ? あんただーれ?』


 ルシエルの匂いを、ふぇる太がフンフンフンフンとかぐ。


「えっと……あの……」

『あんただれよ? あんただーれ?』


 ふぇる子も匂いを嗅ぐ。

 巨大フェンリルに挟まれて、困惑のルシエル。


『ミカ……誰です、このハーフエルフ?』

「ルシエル。私の友達で、下級神。なんか神にしちゃったみたい、私が」


『なっ!?』


 ぴし……! とフェルマァが固まる。

 どうしたんだろう。まあ、いいか。静かになるし。


『あんただーれ?』

『あなただーれ?』

「あ、アタシは……ルシエル。よろしく」


『るしえる! よろしくな! おれはふぇる太だぜ!』

『ふぇる子よ……! そこのちっこいのはふぇる美!』


 ルシエルがじろじろ、と子フェンリルたちを見る。


「あ、あのぉ~……み、ミカ神どの?」


 びくびくしながら、ルシエルが手を上げる。

「どうしたの?」

「この大きな犬たちって……まさかと思うけど……フェンリル?」


「え、うん」

「うん!? え、フェンリル!? それも……四匹も!?」


 あれ、何に驚いてるんだろう……。


「信じられない……フェンリルは伝説の獣……それが四匹もそろってるなんて、奇跡だ……」

「この達親子だよ」


「親子!? ぜ、全員成獣なのに!?」

「いや、そこの三匹は生後そんなに日が経ってないよ」


 私が追放された日に生まれた子たちだから。


「赤ちゃんだね」

「あか、か、赤ちゃん!? こんな大きいのに!? いったい何が……?」


「私が名前付けたらおっきくなっちゃって」

「意味が……! わからない……! どういう理屈なんだっ!?」


 理屈って言っても……。


「ほら、上位魔物が名前を付けると、名前持ちネームドモンスターになって、パワーアップでしょう?」

「ま、まあ……聞いたことある……」


「それ」

「どれ!?」


「いや、だから名前を付けて名前持ちネームドになったからおとなになって……」

「それ! 魔物のルールでしょ!? 魔物が魔物に名前付けたときのやつでしょ!? なんでミカ神どのがやって同じことが起きるの!?」 


「私にもわからん」

「何で自分のことなのにわからないんだよぉおおおおおおおおおおおおお!」


 叫ぶ、ルシエル。

 ふぇる太が『おっ! プロレスかっ!』と尻尾をふりふりしながら、ルシエルにのしかかる。


「おもいぃいいいいいいいいいいいい!」

『プロレスかっ! やるぜやるぜー!』


 ルシエルは下級神、つまり、神。

 だからフェンリルの巨体を持ち上げることができてる。


『プロレスならあたしもまぜなさーい!』


 ふぇる太がじゃれてるところに、ふぇる子もツッコむ。

 

「ぐええええええええええええ!」


 ルシエルが体を【く】の字に曲げて、吹っ飛ぶ。


『うぉー! 待て待て-!』

『次はおいかけっこね! 負けないんだからっ!』


 ふぇる太とふぇる子が、飛んでいったルシエルを追いかけていく。

 ……元気だ……。


「いやぁ、主よ。助かったのじゃ」


 と、ニコニコしながらペットシッター・ふぶきが言う。


「なに?」

「あれじゃろ? 新しいシッター、雇ったんじゃろ?」


 ふぶきはそう解釈したんだ。


「いや」

「違うのかの? 神にしたのは、神獣たちの面倒を見せるためじゃあないのか?」


「うん。外でいろいろあって。成り行きで神にしちゃった」

「成り行きで神に!? どういうことなのじゃっ!?」


「私にもわからん」

「まーたいつものかっ!」


 お、そういえば……ふぶきも結構つっこみキャラだ。

 なら、つっこみ同士、仲良くできるかも。


「おーる、ふぇる太~。ルシエルつれておいでー」


 どどどどお! とふぇる太がこっちへとっかえよってきた。

 口にはルシエルがくわえられてる。


 もうすでにけっこーぐったりしていた。


「仲間を紹介しておこうと思って。ペットシッターのふぶき」


 ぺこっ、とふぶきが頭を下げる。


「ふぶきじゃ、よろしくじゃ」

「おおー!」


 ぱっ、とルシエルがふぇる太から降りると、ふぶきの手に握る。


「あんた【は】、まともそうだっ! よかったー! ミカ神どのの周り、バケモノしかいなくって!」


 はて、と首をかしげるふぇる太。


『バケモノってだれだぜ?』『誰のことかしらね?』『……兄さん姉さん、そこに入ってるから、私たち……』


 ふふふ、とふぶきが笑う。


「わしもまともなやつが仲間になって貰って助かるのじゃ。我が主のまわりにはイエスマンしかおらんでのぅ」

「わかるー! あの人に注意する人だれもいなくってさー! よかったー、普通の人がいて」


「うむ? わしは人ではないぞ」

「ほえ……? じゃあ、獣人?」


 するとふぶきが言う。


「いや、蒼銀竜ブリザード・ドラゴンじゃ」

「……………………………………」


 ぴしぃっ、とルシエルが固まる。

 あれ?


「どうしたの?」

「ぶ、ぶぶ、蒼銀竜ブリザード・ドラゴン……って、あの、蒼銀竜山に住む……あの、恐ろしい……こ、古竜……?」


 あー……そういや、そんな名前ついてたっけ、私たちのいる山って。


「あー、違う違う」

「良かった違うのか……」


「ふぶきは蒼銀竜ブリザード・ドラゴンに化けていた九尾の狐って魔物で……」


「九尾の狐ぇえええええええええええええええええええ!?」


 またも、驚くルシエル。


「ど、どうしたのじゃ……ルシエル……?」

「ひぃ……! バケモノ!」


「へ? ば、バケモノ……? どこに……?」

「あんただよ! 蒼銀竜ブリザード・ドラゴンって言えば、デッドエンド近隣の山のボス! 魔物を数え切れないほど凍死させたっていう恐ろしいドラゴンじゃあないかぁあ……!」


 ふぶき……。


「へー、そうだったんだー」

「何そのテンション!?」


「だってふぶきはふぶきだし」

蒼銀竜ブリザード・ドラゴンをも配下に置いてるなんて……」


 すると、そんな風にさわいでいたからか、他のもふもふたちもやってきた。


『なんや、えらいさわがしいなぁ~』

『……ごじゃる』

『きゅいっ!』

「あらあら、また新しいお友達?」


 四神の娘達がやってくる。


「こ、この子達は……?」

「四神の娘」

「!?!?!?!??!?!?!?!??!?!?!?!?」


 あれ……?

 ルシエル、目ん玉びょーん、と飛び出すくらいに、目をむいて、顎をがっくーん! と開けてる……。


「え、っと……さ。ルシエル。さっきから……どれに驚いてるの……?」


 するとルシエルが体を震わせながら……


「全部にだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 びしっ! と四神の娘達を指さす。


「四神て!? 天地創造の神でしょ!?」

「うん」


「そっちにいるのは伝説の神獣、麒麟きりんでしょ!?」

「うん」


「そんでもって……そっちで草を食んでいるのは、四凶が一匹、窮奇きゅうきでしょう!?」

「うん」


 その上で……私が言う。


「え、だから……?」


 この子達が四神で、神獣で、四凶なのは、事実だし。

 それの……どこが驚くところなんだろう……?


「どれも! 伝説の! 生き物なんだよっ!」

「そうだね」


「なんで伝説の生き物が集結してんの……!?」

「なんか集まってくるんだよねー」


 四神やフェンリルたちが、私にくっついて、頬ずりしてくる。

 おお、もふもふ、ふっかふか。みんなあったかーい。


「神獣を引き寄せるフェロモン的なモノが出てるのかあんた……」

「さぁ」


全知全能インターネットっていう、何でも調べられるスキルがあるのに、調べないのか?」

「まぁね」


「どうして?」

「きょーみなっしん」


 そりゃ、必要な情報なら、全知全能インターネット使って調べるよ。

 魔族と戦うときとか。


「別に気にならないことは、調べなくていーじゃん。調べなくても問題ないんだし」


 ルシエルがそれを聞いて、大きく、ため息をついた……。


「神って……みんな、こんななの……? モリガンもこんなだったし……」


 こんなて。まあ、そうかも。


「まあ、ルシエルとやらよ」

「近づかないでよ。あんたも化け物そっちがわなんだよ?」


 するとふぶきは言う。


「いや、ルシエルよ。下級ではあるが、おぬしも神。こっち側の存在じゃあないかの?」


 ルシエルは一瞬ぽかーんとした……。

 が、すぐに頭を抱えて叫ぶ。


「自分も化け物そっち側だったあぁああ!」

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