第96話 愚かな王太子4【★ざまぁ回】



 上空に出現したミカは魔族と相対してる。


「おまえか、我が一族を葬っていたという女は……!」

「そうだよ」


「ふん……! 嘘つけ。おまえからは強者の闘気オーラを感じない! おまえじゃあないんだな! 山の聖女とやらは!」

「山の聖女……? 誰……?」


「そらみたことか! やはりおまえはあの恐ろしい【山の聖女】ではないじゃあないか!」


 はて、とミカが首をかしげている。


「うーん、だって私、山の聖女じゃなくて、かm」

「御託は結構! ここで死ねぇ……!」


 バッ……! とサイソク・デ・キエリュウが手を上げる。


「最初から全力でいくぞ! 雷帝・ちぎり!」


 上空に広がっていた雨雲から、千の雷がミカめがけて放たれる。


 ズガッ!

 ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 凄まじい一撃に、思わずギャラリーは目を手で覆う。


「やったか……!?」

「それ言うと負けちゃうよ?」


 千の雷を受けても、ミカは無事だった。


「ば、ば、バカな!? 一撃で建物を粉砕する落雷を、1000発喰らわせたんだぞ!? なぜ無事なのだ!?」

「あんな雑な攻撃、当たるわけないでしょ」


「こうなれば……雷帝・纏雷!」


 ずがぁあん! とサイソク・デ・キエリュウに雷が落ちる。


「これぞ、雷帝を纏った姿! 今のぼくは、雷と同じ! それと同じパワー、スピードを出せるのだぁあああああああああ!」


 ぎゅんっ! とサイソク・デ・キエリュウがその場から消える。

 民衆達は魔族のスピードを目で追えない。


「獲ったぁ……!」


 バキィイ!


「ぐえぇええええええええええええええええええええええ!」


 地面に、凄まじい速度でだれかが落下してきた。

 ミカがやられたのか……と思ったのもつかの間。


「お、おい! 魔族が地面にたたきつけられてるぞ!?」

「どうなってんだ!?」


 何があったのか、わからない民衆達。

 そんな彼らに、眼鏡の女がどや顔で言う。


「ミカの最愛の人にして、ミカの伝道者……このモリガンが解説してあげましょう」


 伝道者モリガンが、民衆達に言う。


「ミカは相手の攻撃を見切って、回避すると、魔族の脳天めがけてチョップを喰らわせたのです」

「「「おおおおお! すげえええ!」」」


 雷と同じ速度の相手の、動きを完全に見切ったということらしい。


「ば、かな……雷を……目で、おえるわけが……ない……」

「普通に見えてたけど」


 おおおおお! と民衆達が歓声を上げる。


 民衆は魔族を圧倒する、ミカに驚き……そして羨望のまなざしを向ける。

 巨悪を前に一歩も引かず、戦うその姿は、まさに……。


「彼女こそが、人々の希望の光となるべき……英雄なのです……!」


 伝道者の言葉に、皆がうなずいてる。

 オロカニクソも、なぜだか、彼女の言葉には説得力が感じられた。



「ちょっと何よ! ミカミカミカ! ってぇ!」


 ゴミが何かを言ってるが、オロカニクソの、そして周りの耳には届かない。


「こうなったら……最後の手段だ……! うぉおおおおおお!」


 千の雷が、サイソク・デ・キエリュウに収束していく。

 彼の体が、雷の竜へと変貌していく……。


『雷帝・竜王! 雷の竜となって、相手をかみ砕く……ぼくの必殺技だぁああああああああああああああ!』


 巨大な雷の竜が空を舞う。

 凄まじいエネルギーが秘められてるのが、民衆たちですらわかった。


 スッ……とミカが懐から謎の板を取り出す。


 雷の竜が襲いかかってくる。

 ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 

 しかし、ミカは……無傷だった。


「ば、バカな!? あの量の雷を受けて、無事であるわけがない!」

「まあ、さすがにね。だから……助っ人呼んだのよ」


「助っ人ぉお!?」


 そこで、サイソク・デ・キエリュウは気づいたようだ。

 ミカが……何かに乗ってるのだ。


「!? そ、それは……麒麟きりん!?」


 伝説の神獣……麒麟きりんに、ミカがまたがってるのである。


麒麟きりんだと!? バカな!? 気性が荒く、人間では絶対に手なずけない相手なはず!?」


 と、オロカニクソが驚く。


「マーリン、ごめんね呼び出して。君のおかげで、助かったよ」


 麒麟きりんのツノはバチッ、バチッ、と帯電していた。


「ミカは麒麟きりんを召喚して、そのツノで雷を吸収したのでしょう。ツノが避雷針の役割をして、雷が拡散しなかったのです」


 なるほど……とモリガンの言葉に皆がうなずく。


「しかし、ナガノ神さまなら、雷を受けても平気だったのでは?」

「この場にいる皆を、守るためですよ」


「「「なっ!?」」」


「雷の攻撃を受けると、周囲にその余波が広がってしまう。そうすると、地上にいる人間たちが攻撃を受けてしまう。だから、あえて麒麟きりんを召喚して、雷が拡散するのを防いだのです……!」


 皆がその場で涙を流す。


「なんと……慈悲深いおかた……」

「われらのために、そのような配慮をなさってくださるなんて……!」


 一方で、ゴミは言う。


「あの女にそんな意識ないでしょ? どーせ服が汚れるとか、そんなくだらない理由でしょ?」


 ゴミにたいして、皆が侮蔑のまなざしを向ける。


「おまえと一緒にするなゴミ」

「ナガノ神さまがそんな俗っぽい理由で雷を防ぐわけないだろゴミ」

「黙れよゴミ」


 ごみごみ言われて、こごみは腹を立てる。

 その一方で、ミカは言う。


「服が黒焦げにならずにすんだよ。ありがとマーリン」


 と、マーリンの首を撫でてあげていた。

 普通にこごみの言ったとおりの理由だった。


『ぼくの……最大の一撃を受けても無傷なんて……』


「じゃあお疲れさん。完全削除アンインストールっと」


 魔族が一瞬にして消えたのだった。

 全員が「「「ええっ!?」」」と驚く。


「ど、どうなってるんだ……?」

「魔族が消えた……?」

「まさか逃亡をはかったのか……?」


 するとモリガンが言う。


「ミカの、勝利です……!」

「「「え……?」」」


「ミカが神の力で、魔族を瞬殺したのです……!」


 ……そんなバカなと、こごみがつぶやく。


「まだ相手が転移の魔法で逃げたって理由の方が納得できるし。だいいち、なにもしてないじゃん」

「「「うぉおおおお! さすがナガノ神ぃいいいいいいいいいい!」」」


 ゴミをよそに、民衆達はモリガンの言ったことを完全に信じていた。


「ちょっ!? あんたら……あんな変な女の言うこと信じるわけ!? ばっかじゃないの!?」


 民衆達はゴミを無視する。


「素晴らしい……!」「魔族を一撃で倒すなんて!」「やはり神……!」


「こ、こいつら……完全に目がいっちゃってる! 完全に信者のそれじゃあないのよっっ!」


 そのとおり。この場に居るほとんどの連中が、ミカの信者になっていたのだ。


「神……」

「ちょっと!? オロカニクソ!? あんたまで!? 目ぇ覚ましなさいよ!」


 ばちんっ、とゴミがクソを殴る。


「はっ!」


 と目覚めるオロカニクソ。

 それ以外の民達が、ミカに向かって手を振っている。


「おれたちを助けてくれありがとおぉおおおお!」

「ありがとおぉおお! ナガノ神ぃいいいいいいいいいいいい!」


 するとミカはマーリンの頭を撫でると、一瞬で消えた。


「神は山にお帰りになられました」

「「「山……?」」」


「ええ。ナガノ神は今、デッドエンドという辺境の山で暮らしております。彼女の庇護を受けたものたちは、皆……幸せに暮らせておるのです」


「うさんくさ……」とゴミがつぶやく。


「現に、あそこに住まう人たちは、ミカの神の力を受けて、魔物、魔族の脅威とは無縁の生活をしております。食べ物も豊富だし、何かトラブルがあっても、ミカがたちどころに解決してくれます……まさに、楽園!」


「「「おおおお!」」」


 締めの言葉を、モリガンが言う。


「さぁ……あなたたちも、楽園に行ってみたいとは、思いませんか?」


 するとフラ……フラ……と民衆たちが、モリガンの元へ向かう。


「お、おい貴様ら! どこへ行く!」



 オロカニクソが近くに居たたっみの.を引っ張る。


「ナガノ神さまのいる楽園に……」

「なっ!? お、おい貴様らは王都の、このゲータ・ニィガの民だろうがっ?」


 すると……彼は吐き捨てるように言う。


「こんなゴミとクソしかいない、未来のない国なんて、もう要らない……! おれは……神のおわす楽園に行く……!」


 どっちのもとへいたほうが、より安全か。彼らはこの戦いを見て、判断したのだろう。


「では、皆さん。参りましょう、楽園に……!」


 モリガンがそう言うと、王都の民たちを連れて、外へ出て行く。


「ま、待て……! おまえら……! 待てぇええええええええええ!」


 だが、オロカニクソが引き留めようとしても、無理だった。

 彼らはもうすっかり楽園に、そしてそこにいる神に、行くことで頭がいっぱいだったから。


 王都を守ることは、できた。しかしそこに住まう民を失った。

 ……他国に行ってる父が、そろそろ帰ってくる。この現状を見て、きっと叱責してくるに違いない。


「ああ……ミカ……ミカぁ……」


 ミカが、いれば。

 この国から、追い出していなければ。

 国民達が……出て行くこともなかったのに……。


 崩壊し、もぬけの殻となった王都で、オロカニクソはそう嘆くのだった。

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