第95話 愚かな王太子3【★ざまぁ回】



 サイソク・デ・キエリュウが、王都を襲っている。

 相手の能力、雷帝によって、王都の建物は次々破壊されていく。


 崩壊する建物。

 落雷によって死んでしまった人たちは数えきれず。


 今は王都の中でとどまっているが、そのうち王都の外にまで被害が及ぶ。


 そうなると、この国はお仕舞いだ……。

 なんとかしないと……! とオロカニクソが考え、行動に移すことにした。


「魔族サイソク・デ・キエリュウさま!」


 オロカニクソは……その場で膝をついて、頭を下げた。


「うっわ、土下座とか……だっさ……」


 とゴミが何かつぶやいていたが、無視して、オロカニクソは必死の形相で頭を下げる。


「どうか! この国で暴れるのを、やめていただけないでしょうかっ!!!!!!」


 彼は頭を下げ、必死になって……魔族との説得を試みる。


「もしもこの国で暴れるのをやめていただけるのであれば! 望むモノを! ご用意いたしますゆえ!」


 するとサイソク・デ・キエリュウは、そんなオロカニクソの態度を見て、自尊心を満たされたのだろう。


「いいぞ」

「本当ですかっ!」


 やった……! と、オロカニクソは内心で喜ぶ。

 オロカニクソは、この国から魔族に出て行ってもらえればそれでよかった。


 とにかく、彼はこの国が無事ならそれでいい。

 自分が納めるべき国がなくなること、これこそが、最悪の事態。


「何を用意すればよいでしょうっ!」


 するとサイソク・デ・キエリュウは言う。


「人間だ。女子供がいいな」


 ……人間、だと。


(やった……! 女や子供の奴隷ならたくさんいるぞ! そいつらを魔族にやるだけで、暴れるの辞めてもらえるならラッキーだ!)


「わかりました! すぐに女と子供を用意いたします!」


 するとオロカニクソの、そんなやりとりを見ていた国民達は……。


「おい! ふざけんなよ……!」


 と、怒りの表情を浮かべ、オロカニクソを避難しだしたのだ。


「あんた! 自分が助かりたいからって、国民を犠牲にしよーってのかよ!」


 どうやら、このやりとりを聞いていた国民達は、オロカニクソを見て、そう解釈したようだ。


「ふざけるな!」「そんなに国が大事かよ!」「国のために国民をうるとかサイテー!」


 ギリッ……と歯がみするオロカニクソ。


「黙ってろ、バカども! こっちは重要な交渉の最中なのだぞ!」


 オロカニクソの作戦は、しかし国民には正しく伝わっていなかった。


「ほんと屑!」「国民をうるなんて!」「国民を売って魔族に尻尾振るとか!」「ふざけるな! この売国奴!」


 一方、サイソク・デ・キエリュウはちら……と、オロカニクソの隣にいる女に目をやる。


「おい、そこの女」

「アタシ?」


 こごみが自分を指さす。


「そうだ。おまえ、こっちに来い。美味そうな女だぁ」


 どうやら魔族は、こごみを欲してるようだった。


(しめた! このゴミ女ならいなくなっても全然、痛くもかゆくもない! 魔族にこいつを上げれば、奴隷を売らずに済む……)


「いやよ! なんでアタシがあんたみたいなトカゲの言うことなんて聞かないといけないのよ!」


「ばかぁあああああああああああああああああああああ!」



 オロカニクソがこごみの頭を叩く。


「ばかってなによ!」

「魔族さまがおまえをご所望なんだぞ! 行ってこい!」


「だからいやだって言ってるじゃあないの!?」

「この国のために喜んで犠牲になれ! 無能聖女の貴様にできることなんて! 生贄になることくらいしかない!」


「ひっどーい!」


 ……とまあ、こんな風にやりとりをしていると……。


「もういい。嘘つきめが」


 サイソク・デ・キエリュウの不興を買ったらしい。

 魔族めはぶち切れると、空高く舞い上がっていく。


「ま、魔族さま!? どこへ行かれるというのです!?」

「女子供を用意できぬのならば、この国に用はない! 最大出力の【雷帝】で、【この国丸ごと】消し飛ばしてやろう!」


 さぁ……と、サイソク・デ・キエリュウの顔から血の気が引く。


「お、お待ちください! この国丸ごとというのは……」

「文字通り! ここ王都から、【辺境の街】を含めて、全部だ!」


 魔族を引き留めるまもなく、見えなくなってしまった。

 このやりとりを見ていた国民達は……。


「もうおしまいだ……」「逃げろぉ! 逃げるんだよぉお!」「逃げるってどこへよ!? この国丸ごと消し飛ばされるのよ!?」


 国民たちは、パニックになるか、絶望するかのどちらかだった。

 こごみは「あ、アタシはいやよぉ! 死ぬのはいやぁあああああああああ!」


 と小便を垂らしながら、その場で尻餅をつき、わんわんと泣き出したのだ。

 ……聖女は役に立たない。


 美香は……居ない。


「はは……もう、おわりだぁ~……」


 オロカニクソは涙を流しながら、呆然と……上空を見やる。

 巨大な暗雲が、空を覆っていくではないか。


「雷帝よ! 我が魔力をくらい! この国を滅ぼす千の雷と化せ!」


 ゴロゴロゴロ……と雷鳴が雲の向こうから聞こえてくる。


 千の雷……。一発の落雷で、とんでもない威力なのだ。

 それが……千。


 もう、お仕舞いだ。


「神様……」


 近くに居た子供が、膝をついて……お祈りをする。


「そんなことしても、無駄なんだよぉ」


 オロカニクソは泣いていた。

 自分のせいで、この国は終了。


 国を滅ぼした、愚かなクソ王太子として、他国の教科書に名前が残ってしまうことだろう。


「神様……」「どうか……」「偉大なる神……おたすけください……」


 最後に、国民達が頼ったのは神だ。

 王族がこんなのだから、しょうがなかった。


「神なんて……いない……祈っても意味ないんだよぉお……!」


 オロカニクソが泣きながら言う。

 そして、雨雲に雷のエネルギーが充填される。


「はっはっは! 見よ! わが進化したチカラ!」


 この国全土を覆うほどの、巨大な雷雲。

 そう……全土だ。


 この王都、そして……果ての大地にある、デッドエンドさえも……覆い尽くすほどの暗雲。


「喰らえ! 【雷帝・ちぎり】!」


 千の雷が……今、ゲータ・ニィガ王国全土に降り注がれた。


 ズガガガガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 ……。

 …………。

 ……………………あれ?


「い、痛くない……?」


 いつまで経っても、体に痛みが襲ってこないのだ。

 即死したのかと思ったが……意識はきちんとある。


「あ、あれ……?」「おれ、生きてる……?」「どうして……?」


 不思議に思う国民達。

 そんななか……。


「愚かなる国民ども! 見なさい……!」


 一人の女が、声を張り上げる。

 眼鏡をかけた、見慣れぬ美女だ。


「あんな美女うちにいたか……?」


 眼鏡の美女は上空を指さす。


「な、なんだ……あの人?」「人か?」「空に人が浮いてるぞ……!」


 上空を見上げる……。

 そこには……。


「あ、あぁ、ああああああああ!」


 オロカニクソは、泣きながら、歓喜の笑みを浮かべる。


「ミカ様ぁああああああああああああああああああああああ!」


 オロカニクソは泣いて喜んだ。


「そう! あなたたちの窮地を救ったのは……最高の神! ナガノミカさまなのです!」


 と、眼鏡の美女がどや顔でそういう。


「神……?」「ながの……なんだって?」「ナガノカミさまだよ」「ナガノ神?」「変な名前……?」


 きっ、と女がにらみつける。


「最高神! ナガノミカさまです! おまえたちを救ってくださった恩人……いや、御神に対して、失礼ですよ!」


「「「す、すみません……」」」


 うぉっほん、と眼鏡の女が咳払いをする。


「本来なら、この国なんて放っても良かったのです! で・す・が! 博愛主義者であるミカ神は、愚かなる王太子の居るこの国さえも、助けてあげることにしたのです!」


「「「うぉおおおおおおおお!」」」


「お礼を言うのです!」

「「「「ありがとうございますぅ! ナガノカミさまぁああああああああ!」」」」


 大勢の国民達が、涙を流しながら、上空に浮かぶミカに向かって祈りを捧げている。

 

 ……誰も、オロカニクソやこごみのことなんて見てない。


「ちょっとぉお! なんであんなブス女に祈ってるのよぉ!」


 こごみは、自分よりミカが目立ってることが、気に入らないようだ。


「ブスだと……!?」「ブスはてめえだろゴミ!」「帰れ! ゴミ屑!」「役に多々ねえんだよ、おまえも、そこのクソ王子も!」


 コゴミとオロカニクソに、非難が集中する。


「はぁ!? 何!? 馬鹿にして!」

「おまえなんかよりナガノカミさまのほうが、何万倍もすごい!」


「うきぃ~~~~~~~~! なによなによなによぉおおおおお! アタシの方がすごいんだぞぉおおおおおおおおお!」

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