第94話 愚かな王太子2【★ざまぁ回】
長野 美香がスローライフ(?)を楽しむ一方……。
彼女が元いた国、ゲータ・ニィガ王国は、大変な事態に見舞われていた。
「ああくそ! 雨が……止まない……!」
王都ニィガ、レーシック城にて。
美香を追放した王太子、オロカニクソは、窓の外をにらみつけながら言う。
「麒麟に酷いことしたバチがあたったんでしょ? やーい、ざまぁ~!」
隣で書類仕事をしてるのは、小柄で胸だけがデカい女、木曽川 こごみ。
美香とともに召喚されてきた女だ。
「黙れ! おまえはさっさと書類に目をとおせっ! くそっ!」
「おまえってなによぉ! 聖女さまでしょうがぁ!」
「うるさい! 手を動かせ! はぁ……もう、どうしてこんなことに……」
オロカニクソはこれまでの経緯を思い出す……。
前回、オロカニクソは美香を失った。その代わりに、神獣の麒麟を捕まえようとした。
が、失敗してしまった。
親麒麟の怒りを買って、電撃を浴びせられてしまったオロカニクソ。
その後、ゲータ・ニィガはあれからずっと、大雨が続くようになったのだ。
あらゆる魔物のことにかかれたこの書によると、麒麟に酷いことをすると、大雨や洪水といった、水に関する厄が起きると記載してあった。
「元を正せばこごみ! 貴様がちゃんと聖なる結界を張れていれば! こんなことにはならなかったんだぞ!?」
「はぁ!? 責任転嫁やめてよねえ!」
「クズが! 口答えするな! 一日かけて結界一つまともに作れないくせに! ミカは数分でできたことがおまえにはできないんだぞ!?」
「ふぐぅう……! また出た……ミカミカミカミカ! うっさいのよぉお!」
こごみの目に涙が浮かぶ。馬鹿にされて悔しいのだろう。
だが、悔しがってるだけで、彼女は一切、スキル磨き(努力)をしない。
口で文句ばかり言うだけで、それ以上を何もしないのだ。
美香との差が埋まるわけが無い。
「ああ……ミカ……帰ってきてくれ……でないと……もうこの国はお仕舞いだぁ……」
オロカニクソたちの目の前には、大量の書類が積まれている。
それは……王家に対する苦情が書き記されていた。
水害のせいで、作物が取れなくて、国民が腹を空かせている。
土砂災害のせいで、山の果物がとれず、魔物が街に降りてきて困ってる……。
等々、この大雨のせいで、各地でトラブルが続出してるのだ。
と、そのときである。
「た、た、大変です……! クソ殿下!」
ばんっ! と部下が部屋に入ってくる。
「おい貴様、今クソ殿下って……」
「魔族です! 魔族が……現れました!」
なっ!? とオロカニクソが驚愕の表情を浮かべる。
「そんなバカな!? 魔族はカバンの悪魔が、全滅させたはずでは……!?」
あの大悪魔が暴れてくれたおかげで、魔族という種は滅びた……と聞いていた。
「ほ、本当に魔族なのか……? 何かの見間違いではないのか……?」
「文献通り、黒いツノを持つ人型のバケモノで、空を飛ぶ高度な魔法を使います。これが魔族以外にありますか?」
くそっ! と悪態つきながら、オロカニク蒼たちは、城の外へとやってきた。
上空には……人くらいの大きさの、竜人タイプの魔族が居た。
ミカがこの場にいたらそう……『あ、キエリュウの一族だ』と言っていただろう。
「はぁああ……」
空に浮かぶ魔族は、大きくため息をついた……。
「ぼくはキエリュウ一族が一人……魔族、【サイソク・デ・キエリュウ】だ……はぁああ……」
サイソク・デ・キエリュウと名乗った魔族が、大きくため息をつく。
「また殺されちゃうよ……。にいちゃんやたち、人間に殺されまくってるっていうし……やだなぁ……」
なにやらモチベーションが低そうだ。
それに弱そうだ。
「な、なーんだ……あんな弱そうなら、我らでも簡単に倒せそうじゃあないかっ」
いにしえの文献によると、魔族は恐ろしい存在と書かれていた。
でも……きっとそれらは誇張表現だ。
得てして、昔話、英雄譚は、内容が盛られるものである。
「衛兵ども! 魔族を討伐せよ!」
庭に集まっていた衛兵達に、オロカニクソが命令する。
「ひぃ! 人間怖い! キエリュウにげりゅうぅう!」
逃げようとするサイソク・デ・キエリュウめがけて、衛兵達が弓を放つ。
かつーん……。
「………………あれぇ? 全然いたくないじゃん」
「くっ! お、大筒をもってこい! 砲撃だぁ……!」
衛兵達が大砲を持ってくる。
そして、サイソク・デ・キエリュウめがけて、砲弾をぶっ放す。
どごぉん!
「あれぇ? 全然いたくないやー」
「なんだとぉお……!?」
ご自慢の大砲も効かずに、焦りまくるオロカニクソ。
「こ、こうなったら……おいこごみ! 聖女スキルを使え!」
「結局あたし頼りなのね。しゃーないわねぇ~。だるくてしょうがないけどぉ、やっちゃうわよぉん!」
こごみが前に出る。
「ひぃ……! せ、聖女!? や、山の聖女は恐ろしいって、皆言っていた! こ、今度こそ! キエリュウきえりゅうぅう!」
怯えて逃げようとするサイソク・デ・キエリュウ。
その背中めがけて、コゴミが聖女スキルを発動させる。
「喰らえ! 【聖撃】!」
聖女に備わった、最大攻撃スキルだ。
聖なるチカラの塊を、相手にぶつけるというシンプルな攻撃。
邪悪なる存在に対しては、与えるダメージが増えるという効果を持つ。
聖撃の直撃を受けたサイソク・デ・キエリュウ……。
「え、全然痛くないけど……」
「なんですってぇええええええ!?」
サイソク・デ・キエリュウの肌に、傷一つついていなかった。
その場に居る全員がざわつく。
「お、おれらの攻撃が全く効いてない……」
「聖女さまのスキルですら、ダメージを与えられないなんて……」
「や、やっぱり魔族って強いんじゃ……」
一方、空に浮いてるサイソク・デ・キエリュウは……。
「あ、あれ……? もしかして……人間って、やっぱり弱い……? 山のあのバケモノだけが、おかしいだけ……?」
何やらブツブツと、サイソク・デ・キエリュウがつぶやいている。
一方、オロカニクソは内心で冷や汗をかいていた。
「ど、どうする……どうすれば、やつを倒せる!?」
「ふ、ふふ! ふははははは!」
サイソク・デ・キエリュウが高笑いする。
「聞けぇい! 愚かな人間ども! ぼくは魔族! サイソク・デ・キエリュウ! イチワ・デ・キエリュウ兄さんの弟!」
だれだ、イチワ・デ・キエリュウって……? と思う余裕すら、オロカニクソにはない。
「我らは誇り高い魔族! 貴様ら矮小なる人間を支配するべく! 魔界より参上した! 見よ! ぼくのチカラを……!」
バッ……! とサイソク・デ・キエリュウが手を上げる。
瞬間……。
「【雷帝】!」
幾筋もの雷が、空から降り注いだのだ。
ズガガガガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「ぎゃああ!」「ひぎぃいい!」「なんて……強力な雷……!」
サイソク・デ・キエリュウの放った雷、その能力名は【雷帝】。
自在に雷を操る能力だ。
「キエリュウ一族最弱のぼくでも! 人間を軽く蹴散らすことができる! 人間なんて、恐るるに足らずぅう!」
理由はわからないが、どうやら魔族も、最初は人間を警戒していたようだ。
しかし……こちらが弱いと気づいてから、調子にのって能力でバンバンと人を殺していく。
「オロカニクソさま! 指示を!」
「あの魔族をどうにかしてください!」
部下達がオロカニクソに詰め寄る。
その間にも雷はふりそそぎ、街や、街の人たちに襲いかかってる。
「ど、どうにかっていわれてもぉ……」
オロカニクソは泣きそうだった。
何も……できないからだ。
「こ、こごみぃい! おまえなんとかしろよぉ!」
「…………」
「ああ! こいつ! 一足先に雷くらって、気絶してやがる……!」
描写もされないまま、こごみもやられていた。
もう……万事休すだった。
「おねがいします! ミカさま! どうか……お助けください! ミカさまぁあああああああああああああ!」
頼る先は、長野 美香。
あの凄い聖女以外に、こいつをどうにかできないと、オロカニクソは悟ったのだ。
……善良なる一般人が、魔族にやられそうになって、ピンチだったら……きっとミカは都合良くかけつけてきただろう。
が。
残念ながら、オロカニクソはそのミカを追放した張本人。
自分に酷いことをした人間を助ける義理など……ミカにはないのだ。
「いえーい! 消えていった一族の皆! 見てるぅ! ぼく、今人間たちを蹂躙してるよぉおん!」
サイソク・デ・キエリュウが両手を動かし、王都に雷を降らせまくる。
壊れてく建物、死んでいく人々。
オロカニクソは何もできずにいる。
「ミカ様ぁあああああああ! たぁああすけてぇええええええええええ!」
「ぎゃーーはっはぁ! たすけなんてきませーん! 王都は……終了でーす!」
祈っても、ミカは来ない。
当たり前だ。今更お願いしても、もう遅いのだ。
ミカは……この国を追い出されたのだ。
この国を助ける義理は……ないのだから。
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