第90話 上級魔族も楽勝で倒す

90.上級魔族も楽勝で倒す


 大灰狼グレート・ハウンドを、ハーフエルフ(世紀末バージョン)が倒してるんだけど……。


「おかしいね」

「むしろおかしくないとこ探す方が難しい思うが……?」

 

 疲れた様子のルシエル。

 いやまあそうだけどさ。


 ちなみにモリガンは正座させてる。

 後でお説教、と言ったら「はい喜んで!」と頬を赤らめてた。こわ……


「なんというか、相手が、全く数へら無くない?」


 ハーフエルフ達が全力で敵の殲滅に当たっている。

 だというのに、大灰狼グレート・ハウンドは次から次へと、湧き出てくるのだ。


「何かトリックがあるかも」

「トリック……? ズルをしてると?」


 ルシエルの問いかけに、私はうなずく。


「そもそも魔除けの匂い袋を使ってるのに、魔物が入ってきてる時点で変だしね」

「言われてみると……。では、どんなズルをしてるのだ?」


 わからないので、全知全能インターネットで調べる。


~~~~~~

大灰狼グレート・ハウンドたちが減らない理由

→魔族の能力によるもの


魔族の居場所

→隠蔽術で姿を隠し、上空から見張ってる

~~~~~~


「どうやら、敵に魔族がいるようだね。術式解析ハッキング!」


 スマホのカメラを空中に向けて、全知全能インターネットの派生技能のひとつ、術式解析ハッキングを発動。


 隠蔽の能力が、解除される。

 そこに居たのは……。


「和服?」


 陰陽師が着るような、白い和服を身につけている。

 頭には烏帽子をかぶっていた。


 でも……人間じゃあない。

 顔が犬なのだ。


「よくぞ余の術を見抜いたでおじゃる!」


 おじゃる……?


「余は七魔公爵ヘルツォークがひとり、【ミコト・糸色】!」


~~~~~~

七魔公爵ヘルツォーク

→七つある公爵級魔族の総称。

公爵は上級魔族とも呼ばれてる。

~~~~~~


「お、ついにキエリュウ一族じゃあない魔族が出てきたね」

「こ、こ、公爵級……魔族……だと……!?」


「知ってるの、ルシエル」

「ああ……公爵級は……とんでもない、脅威。最早……厄災に近いレベルだっ!」


~~~~~~

ミコト・糸色

【種族】魔族

【レベル】5000

~~~~~~


 素のレベルで5000。闘気オーラを使えば、もっとレベルが上がるから……五桁レベルいくかも。


「おほほ、余の強さを理解してるようでおじゃるなぁ~」


 とミコトが扇子をひろげて、口元を隠す。


「ねえ、あなた。糸色って名字といい、その格好といい、もしかして……地球の人?」


「よくぞ見抜いたでごじゃる。といっても、余の先祖が、地球からこちらにやってきた、転移者ってだけでおじゃるが」


 転移者を先祖に持つ、魔族ってことか。

 がたがた……とハーフエルフ達が震えてる。


「て、転移者の末裔……」「なんてことだ……」「相手は公爵級……」「勝てないかもしれない……」


 怯えるハーフエルフ達。

 モブエールは首を振る。


「おれたちは強くなったんだ! あんなやつに……負けるものか!」


 モブエールが杖(※ナイフ)を、思い切り、ミコトに向かって投擲する。


「いっけーーーーーーーーーーーー!」


 身体強化エンハンスで肉体を強化し、魔力で刃を強化して、ナイフを投擲した。

 その一撃はミコトの心臓を、見事に打ち抜いた。


「やったか!?」

「おほほ、そのような攻撃で、余を殺せるとでもおもっておったのでおじゃるかぁ?」


「!? い、いつの間に背後に!?」


 ミコトは、モブエールの背後に回っていた。

 そしてその手を前に突き出す。

 

 ドスッ……! とモブエールの心臓に、後ろから白い刃が突き刺さる。


「「「モブエール!?」」」


 どさり、とモブエールが倒れる。


「おほほほほ! もろい! もろすぎる!」


 倒れ伏すモブエール。


「そんな……」「一億年修業したっていうのに!」「公爵級魔族相手には……手も足もでねえってか!」


 私は……倒れてるモブエールのもとへ向かう。

 リシアちゃんの大事な領民を、死なせるわけにはいかないから。


 青嵐せいらんの水をかけてあげる。


「かはっ!」

「お疲れ、モブエール。下がってて」

「あ、姐さん……すみません! 不甲斐なくて……!」


 悔しそうにするモブエール。


「相手がわるかったよ。転移者の末裔っていうしね」


 私はミコトに向き合う。


「妙な技使うじゃん」

「ほぉ……余の能力を見切ったというのでおじゃるか?」


 まあ、見切ったって言うか、全知全能インターネットで調べたんだけどね。


「あんたの能力は……二つ。【倍化】と【式紙】、でしょ?」


「「「なっ!? の、能力が……二つ


~~~~~~

倍化

→元となる物体を、1秒ごとに2倍にする


式紙

→紙に命を吹き込み、操る。自分の意識を投影できる

~~~~~~


 大灰狼グレート・ハウンド、そしてえ一瞬で背後に回ったミコト。

 どっちも紙でできた、偽物(式神)だったのだ。


「余の能力を見抜くとは……やるでおじゃるな」

「悪いね。こっちはチート持ちなんだ。で? どうする? 続ける?」


 するとミコトが懐から一枚のお札を取り出す。


「続行、でおじゃるよ! 【倍化】! 【式紙】!」


 お札が空中でどんどんと倍になっていく。


「ミカ神どの! まずいぞ! 1秒ごと2倍に増えるということは……2秒で、4体。3秒で8体……と、凄まじい速度で増えていく!」


 ルシエルが叫ぶ。


 お札が倍になり、そのお札がミコトへと変化していく。

 マーテオの街の周りには、ミコトの分身がものすごい勢いで増えていってる。


「「「さぁ……! どうする!? どんどんと増えるこの余を……いったいどうやって倒す!?」」」


 困ったときは全知全能インターネット

 はいはい、なるほどね。


「了解。結界!」


 黒姫くろひめボックスから召喚する。

 球体状の結界で、ミコトを閉じ込める。


「結界に余を閉じ込めたところで、無駄無駄! この中でも増殖を繰り返していくでおじゃるよぉ!」


 どんどん、増えていく。

 結界が内側から押されて、ぴし……とヒビが入る。


「ミカ神どの! 結界に閉じ込めただけでは、勝てないぞ!? 結界のせいで、外部からの攻撃が防がれてしまう!」

「うん、わかってる。外部からは攻撃しないよ」


「いったいどういう……?」


 黒姫くろひめに頼んで、結界を小さくしてもらう。


「け、結界がちっちゃくなっていく……?」


 結界が圧縮されていく。

 やがてそれは、サッカーボールくらいのサイズになった。


「ミカちゃん、そんなに長くもたないわよ?」


 と、黒姫くろひめが言う。

 

「そんなボールにして、いったいどうするのだ?」


 私は全知全能インターネットで位置を特定する。


「神プロテクト、解除!」


 地面に結界(ボール)を置く。


「ボールを、相手のゴールにぃい!」


 私は思いきり足を振り上げて……。


「しゅぅ~~~~~~~~~~!」


 どがっ! と、神の力を込めて、思いっきり結界ボールを蹴り上げる。

 ミコトを詰めた結界ボールは、頭上へとすっ飛んでいく。


「み、ミカ神どの……いったい何を……?」

「ミコトをボールにつめて、あそこめがけて蹴っ飛ばしたの」


「あそこ?」

「太陽」


 頭上を指さし、私は言う。


「倍化がある限り、紙は増え続ける。紙がある限り、あいつは死なない。つまり、無限の命を持ってるってこと」


「まあ、そうだが……って、まさか!」

「そう。太陽の中にあいつを放り投げたの。紙がいくら増えようと、即座にもえる。増える、燃える……その繰り返し」


 永遠に、その死と再生のループを繰り返しつづけるのだ。


「絶対不敗のときみたいに、相手が諦めるまで不死身じゃないから、もう永遠に殺し続けるしかないかなって」


 とはいえ、魔殺呪文ビョウ・デ・キエリュウ×∞を繰り返すのも、めんどくさい。

 ので、太陽めがけて蹴飛ばして、あとは太陽さんに頑張って貰うことにしたのだ。


「凄い発想です! さすがです、ミカ!」

「「「「姐さんすげえええええ!」」」」


 ハーフエルフたちが歓声を上げる一方で……ルシエルは大きくため息をついた。


「はぁ……」

「わかるよ、あんなのがあと六体いるなんて、って思ってるんだよね。大丈夫、全部私が片付けてあげるから」


「いや、まあ……それは、まあどうでもよくて」


「じゃあなに?」

「太陽まで、蹴飛ばすとか……普通無理でしょ!? なにさらっとおかしなことやってのけてるの!?」


 そこかー。


「ふふ、ミカは神ですから。ボールを太陽まで蹴飛ばすことなんて、できて当然です」

「神ですから、で全部すませられると思ってるのかよ?!」


「ええ、神ですので」

「神ってつけておけば、全部納得するって思ってない!? そんなのそこのイカレタ信者しかいないからな!?」


 ルシエルは頭を抱えてしゃがみ込む。


「アタシ……ここにいたら、頭おかしくなる……! 確実に!」

「大丈夫? ストレスため込んでたら、体崩しちゃうよ?」


元凶あんたが言うな……!!!!!」

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