第89話 進化しすぎた、ハーフエルフたち



 マーテオの街で一泊した。

 ハーフエルフたちが帰ってくるまで、のんびりしてようとしていた、そのときである。


「ん? 魔物の声……」


 森の方から、狼のような遠吠えが聞こえてきたのだ。

 気になったので、全知全能インターネットで周囲のマップを調べた。


~~~~~~

周囲の状況

→Aランクモンスター、大灰狼グレート・ハウンドが、マーテオの街に近づいてる

~~~~~~


「魔物だ。しかもけっこーな数」


 上空から見た、周囲の様子がスマホに表示されている。

 大きめな狼たちがこちらにやってきてる。


「! これは……おかしいな、ミカ神どの」


 ルシエルが額に汗をかく。

 一方、リシアちゃんは首をかしげる。


「おかしいというのは?」

「ほら、魔除けしてあるでしょ、マーテオの周囲」


 私たちが作った魔除けのお香で、魔物はマーテオに近寄れないはずなのだ。

 でも、こいつらは、街を目指してまっすぐに襲ってきてる。


「こいつらを操ってる指揮官でもいるんだろうか……?」

「多分ね。まー、それより、この雑魚どもをどうにかしないとね」


「いやあAランクモンスターは雑魚じゃあないんだが……。それに、この数では……危険だ」


 と、そのときである。


「お待たせしました、ミカ!」


 しゅんっ、とボックスからモリガンが出てきたのだ。


「ああ、ミカ! とてもお久しぶりですね!」


 だきぃい! とモリガンが私に抱きついてくる。


「とても? おひさしぶり?」


 まだ一日しか経ってないんですが……?


「ミカに会えない日々が続いて、わたくしは寂しかったです!」


 大げさなひとだなぁ。


「ご注文通り、ハーフエルフ達を、そこそこ、鍛えておきました!」


 どれどれ……。


「なんっだこりゃああああああああああああああああああああ!?」


 ルシエルがその場で腰を抜かしていた。

 彼女の視線の先に居たのは……。


「ひゃっはー! 殺戮したいぜぇ!」

「ひゃっっはー!!! ミナゴロシしたいぜえええええ!!!」


 ハーフエルフは、ちょっと線が細くて、たよりない感じだった。


 でも今は、全員がみんなゴリゴリマッチョになっている。

 出てくる作品、間違ってません? ってレベルで、全員の画風が……濃い。


「ちょっと森の神!? 何をしたのですかこれはぁ!?」


 ルシエルが臆せずモリガンにツッコミを入れる。

 もはやルシエルに、神に対する畏敬の念はない様子だった。


「ミカのご注文通り、鍛えました。そこそこに」

「全員ビジュアルも含めて、なんか中身まで変わってますけど!?」


 世紀末ハーフエルフ達は……全員が武装してる。

 手には……ナイフ。


「ひゃっはー! 解体してええええ!」

「ひゃっはー! 心臓をぐさりとしたいぜえ!」


 ナイフを舐めたり、げへへへと笑いながらナイフを回してる。


「なぜナイフ!?」

「あれは……魔法の杖です」

「杖!? いやどうみても刃物ですよ!?」


「持ち手が杖です。先端に刃物をくっつけることで、接近戦でも対応できるようにしてあります」

「それただのナイフ!!!!!!!!!」


 なるほど、あれはナイフと杖、両方を兼ねているんだ……。


「お母様……こわい……」「ままぁ……」


 幼女達が、完全に怯えてしまってる。

 ハーフエルフ達が私の前で跪く。


「姐さん」

「姐さん……? え、私のこと?」


「そのとおりでさぁ! ミカ神の姐さん!」


 なんかしゃべり方もかわってしまってる……。


「お、おまえ……もしかして、も、モブエールか……?」


 と、ルシエル。

 あー、最初に全知全能インターネットでステータス確認した、あのモブでハーフエルフな子か。


「そうだぜ、ルシエル」

「お、おまえ……どうしちゃったんだよ、モブエール!?」


「おれは……目覚めちまったんだよぉ」

「め、目覚めた……なにに?」


 すると変わり果てたモブエールが、ナイフを舐めながら言う。


「我らが神に刃向かう愚か者はよぉ……全員ミナゴロシにするべきっていう、考えによぉ!」


 ルシエルがモリガンに詰め寄り、胸ぐらを掴む。


「心優しいモブエールが、あなたのイカレタ思想に染まってしまってるんですが!?」


「なにがイカレタ思想なものですか。ミカに刃向かう愚か者は、すべて神敵。滅すべしですよ」

「思想が極端すぎるんだよおお!」


 モリガンがハーフエルフ達に言う。


「皆! 傾注! 今、この街に大灰狼グレート・ハウンドが攻めてきてます! やつらは神敵です!」

「「「「神敵! 滅殺!」」」」


「そうです! 殺してきなさい!」

「「「神敵! 滅殺! うぉおおおお!」」」


 世紀末ハーフエルフたちがナイフかたてに……飛翔する。


「【飛翔フライ】を習得してる……だと!? 超高度な魔法なのに!」

「あの程度できてもらわねばなりません。さ、ミカ。彼らがどれだけ強くなったのか……とくとご覧あれ」


 と言って、モリガンが指を鳴らすと、目の前に大きな姿見が出現する。


「これは遠くを見ることのできる魔道具です。さ、ミカ、座って座って」


 ソファをどこからか取り出して、私を座らせる。

 私は……まあ、もう流れに身を任せることにした。


 突っ込むのはルシエルに任せよう。疲れるし。


「さぁ……始まりますよ」


 鏡のなかでは、大灰狼グレート・ハウンドの群れのど真ん中に、ハーフエルフ達が降り立つ。


「野郎どもぉおおおお! 殺せぇええええ! ミナゴロシじゃあああああああ!」

「モブエールが完全に野盗みたいになってる!?」


 ルシエルが驚く一方で、ハーフエルフ達はナイフを手に……大灰狼グレート・ハウンドに襲いかかる。


 凄まじく早く動き、急所を一突き。

 どさり!


「え、え!? は、早……!? なにあの動き!?」

「彼らには身体強化エンハンスをたたきこみました」


 身体強化魔法のことらしい。


「そして接近戦術も」


 ハーフエルフ達は素早く動き、的確に急所である心臓を、ナイフで串刺しにする。

 みるみるうちに大灰狼グレート・ハウンドたちの数が減っていく。


「魔法の訓練をしていたのだろう!? なぜ魔法を使わない!?」

「使ってるではありませんか、身体強化エンハンスを」


「いや我らハーフエルフは身体能力より魔法力の方が上なのですよ!?」

「ええ。わかってます。ただ……体を鍛える必要があったのです」


「そ、それは……どうして?」

「いざとなったとき、肉壁となってミカを守って貰うためです」


「死ねと!?」

「はい、全員神のために死ねと、思想を植え付けました」


 え、こわ……(ドン引き)


「というか、モリガン、一日しか経ってないのに……みんな強くなりすぎじゃない?」


 思想を植え付け、魔力量を増やし、ナイフ術を身につける……。


「とても一日じゃできないでしょ?」


 するとモリガンが得意げに胸を張る。


「ミカのおかげです」

「私? また何かやちゃったて?」

「ええ、実はあのボックス……外と中とでは、時間の流れが違うようです」


「時間の流れが……違う?」

「はい。ボックス外の一日が、中のなんと……一年なのです!」


 うーん……これは、精神●時の部屋……。


「これがデフォルトで、神なら、中の設定をいじると、時間をいじることができるんです」


 つまり、精神と時●部屋の、条件が変えられると。


「じゃあ、中でどれくらい時間が経っていたの?」

「一億年です!」


 き、聞き間違いだろうか……?



「一億年です……!」

「モリガンぅうううう! おまええええええええ!」


 耐えきれなくなったのか、ルシエルがモリガンにつかみかかる。


ボックスのなかで、一億年もの間、あつらを監禁していたというのか!?」

「監禁なんて失礼な。ただ、一億年間、泣き言を言おうが絶対に、外に出さなかっただけですよ」


「それを監禁と言わずになんだというのだっ!?」


 しかし……ボックス、そんな使い方ができるなんて……。

 しかも中を一億年にすることもできるなんて……え、こわ……。


「通常の人間には不可能です。ですが、ボックス所有者の神ならば、条件が変更可能。わたくしはミカから権利を貸与されていたので、上限いっぱい、MAXで設定したのですっ!」

「一億年も人を拉致監禁しておいて! 何得意げになってんるだよあんたぁああああ!?」


 その間にも、ハーフエルフ達が大灰狼グレート・ハウンドたちを殺しまくった。

 まあ、一億年鍛えたからか、楽勝で全滅させられていたね。


「一億年でこの程度しか強くなってないのは、はやりハーフエルフ、種族的に弱いからですね」

「彼らに対してあそこまで酷いことして、よくもまあそんな失礼なこといえるなっ!?」


「事実を述べたまでです」

森の神こんなのを信奉してたアタシらがバカみたいじゃないかぁああああああ!」


 そこは、否めないね……うん……。


「それにしても、さすがミカです」

「私何もしてないけど……?」

ボックスは、空間を維持するのに魔力を必要とするのです。一億年もの間、魔力を供給し続けることができるなんて、さすがです」


 ………………


「おいおいこんな弱いのしかいねえのかぁ!?」

「根性ねえなぁ、獣はよぉ!」

「一億年修行してから出直してこいってんだよぉ!」

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