第88話 神、ツッコまれる



 ■庭ハコニワの中にて。

 

「「「「火球ファイアー・ボール!!!!!」」」」


 ハーフエルフたちが並んで、火球ファイアー・ボールを放つ。


 何発も打ち込んだあと……彼らがその場に崩れ落ちる。

 魔力切れを起こしたようだ。


「メイちゃん、世界樹の力、使わせて貰うよ」

「うんっ!」


 世界樹メイちゃんからもらった、精霊核が輝く。

 虚空から水がちゃぽんと出てきた。


 これが世界樹の雫。

 この雫を、魔力切れ状態で飲むと、総魔力量が増えるとのこと。


 手前で伸びてるハーフエルフを見やる。


~~~~~~

モブエール

【魔力量】0/100

~~~~~~


 で、世界樹の雫をかけてあげる。


~~~~~~

モブエール

【魔力量】150/150

~~~~~~


 確かに50も増えてる。

 

 私はルシエルを含めた、ハーフエルフたちに、世界樹の雫をかけてあげる。


 で、また訓練再開。


 ドガガガガガガーーーーー!


「すげえ! さっきより多く火球ファイアー・ボールが打てるぜえい!」


 モブエールが飛び跳ねながら言う。

 どさり、とルシエルが倒れる。


「ぜえ……はあ……」


 ぱしゃっ、と世界樹の雫をかけて上げる。


「大丈夫?」

「あ、ああ……。しかし……これはキツい」


「そうなの?」

「魔力を使い切ると、凄まじい頭痛が走るんだ……」


 魔力と精神力は直結しているらしい。

 魔力が枯渇するということは、精神にもダメージが入るってこと。


「もう一本お願いします!」


 ルシエル以外のハーフエルフたちは、魔法を打ち終わると、私に雫を求めてくる。


「お、おまえら……少し休もう。これ……結構ツラいぞ……?」


 と、ルシエルが私の代わりに、ハーフエルフたちに休憩を提案する。


「休憩……ですって……」


 モリガンの眼鏡が、ギラリと輝く。


「まだ訓練を始めたばかりですよ!? しかも魔力量はたったの200……? はっ! ゴミです!」


「いや魔力量200は結構……」

「口ではなく手を動かしなさい!」

 

 ぺしんっ! とモリガンが鞭で地面を叩く。

 む、鞭……? どこから……?


「森の神のおっしゃるとおりだぜ……」


 モブエールを含めたハーフエルフたちが、立ち上がる。


「この程度じゃ駄目だ!」

「ああ、我らは最高神の信者だからな!」


 彼らの目に炎が浮かんでいる。


「「ええー……」」


 私、そしてルシエルも、かなり引いていた。

 この人達、ちょっと張り切りすぎてやしないだろうか……。


「さぁ! 訓練を再開なさい! 死ぬまで打ち続けるのです……!」

「「「はいっ! 火球ファイアー・ボール!」」」


 またドガドガ撃ちまくっていく。


「ミカ、後のことはこのモリガンめにお任せあれ」

「え、いいの?」


「はい。精霊核さえ貸してくだされば、あとはこのハーフエルフ達を、少しはマシにしてみせます」


 どうしよっかな。

 モリガン……ちょっとやり過ぎるところがあるしな。


 まあでも、いちいち世界樹の雫をかけることが、面倒なのは事実。

 

「じゃ、任せる」

「必ずや……この子達を、ミカ信者に相応しいレベルにまで引き上げておきますのでっ!」


「ほどほどにね」

「はいっ! わかっております!」


 ま、釘は刺しておいたし大丈夫でしょう。


「じゃ、メイちゃんとリシアちゃんと私は、外に居るね」


 シュンッ、と私たちは外に出る。

 マーテオの街の中だ。


「お母様、これからどうしましょう?」

「帰ってくるまで暇だし、ちょっと休んだら、街の改造でもしておこっかなー」


 しゅんっ、と。

 ボックスから、ルシエルが出てくる。


「お、どうしたの? ルシエル」

「あ、アタシ……もうあの人にはついてけない……」


 ? どういうことだろう。


「モリガンのしごきに、耐えきれない。それに、周りのハーフエルフたちにも、正直ついてけなくて……」


「あれ? そんなに長くしごかれてっけ……?」


 まだボックスから出てちょっとしか経ってないような……?


「訓練ツラかったの?」

「それは、もう……」


 疲れてる時は、甘いものだよね。

 ってことで、KAmizonで甘い物を購入。


「はいこれ。皆もどーぞ」


 私は板チョコを三人に配る。


「ままっ、なんですかこの茶色い板は~?」


 メイちゃんがチョコレートを手にもって言う。


「これはチョコレート」

「ちょこっと? ちょこっとしかないのー?」


 するとリシアちゃんが微笑みながら言う。


「チョコレートだよ。甘くて美味しいんですっ!」

「ほほーう! あまくておいしーのっ! たべるっ!」


 メイちゃんがチョコをはぐっ、と包み紙ごと食べる。


「しあちゃん、しあちゃん」

「なんですか、メイちゃん?」


 あ、リシアちゃんのことか。

 リ【シア】で、シアね。


「おいしくないです……」

「ふふ、この包み紙をね、剥がしてね、こうやってぱきって食べるのですよっ」


 リシアちゃんが板チョコを皆の前で食べてみせる。

 ぱきっ。


「ん~♡ あいかわらず、甘くておいひーれす~♡」


 リシアちゃんには前に、板チョコ食べさせたことがあったっけ。


「めーもたべますっ! ぱきっ! おいひーーーーー!」


 メイちゃんがぴょんぴょんとその場でジャンプする。


「ルシエルも食べな」

「では。!?!?!?!?」


 二人よりも激しく、ルシエルは驚愕していた。


「こんな……繊細な味の甘味、生まれて初めて食べたぞ!」


 確かにこっちは製菓技術も未熟だから、御菓子ってけっこー雑な味なものが多いんだよね。

 砂糖も、純度低いし。


「も~1まいほし~」

「はいはい。どーぞ」


 メイちゃんに板チョコをあげる。

 ぱくぱくっ、とメイちゃんは何の疑問も持たずに食べていく。


 一方でルシエルは「これは異常だ」とつぶやく。


「異常? 味が変ってこと?」

「違う! これは、この世界の技術で作れるようなものじゃあない!」


 お、鋭いね、この子。


「それに虚空から食料が送られてくるのもおかしい……!」

「そうですか?」「そー?」


 幼女二人が首をかしげる。


「普通に考えて、どっから食べ物が送られてくるんだろうって、思わないか!?」


「いえ、ミカお母様は神ですし」


 ルシエルが頭を抱えてる。


「アタシがおかしいの!?」

「いーや、ルシエル。君は正常だよ。ほら、チョコお食べ」


 もう一枚チョコをあげる。

 ぱきっ。


「どう?」

「おいしいけど、やっぱり変だ。ミカ神殿、いったいどこからこれを……?」


「日本から」

「………………はい?」


 まー、もー身内だしね。言って良いか。


「実は私、数年前に、異世界から召喚されてきた聖女なのよ」

「!? 召喚聖女……? え、え? え?」


 ルシエルがさらに困惑を深めていた。


「召喚聖女は、知ってる。でもあれは、異世界から聖女……人間を呼び出す儀式だったはず」


「そうだね」

「しかしミカ神殿は、神……」


「そうだね」

「人間が……たった数年で、神に? え、ええ……?」


 私は軽く召喚されてから、今に至るまでの経緯を語っておいた。


「り、理解できない……人間がどうやって数年で神になれるというのだっ!?」

「さあ……?」


「疑問に思わなかったのか!?」

「特に」


 なんか気づいたら神になってたし。


「でもほら、人間から神になった例もあるって聞いたよ? 駄女神がそうだったはず」


「だ、駄女神……? 誰ですか」


「トゥアハーデ」

「み、みみ、み、水の神トゥアハーデ様!?」


 水の神……?

 あいつ、そんな二つ名があったのか……?


 そーいや、モリガンには森の神ってついてたし。

 トゥアハーデも一応神だったから、そういうのあるんだ。


「水の神トゥアハーデといえば、神に認められた希有な才能の持ち主あわせたうえに、晩年まで一日たりとも修行を怠らず、ようやく神に昇格したという……あの伝説の聖女の!?」


 酒飲んでベロベロに酔ってるところしか、見たことないんだけど……。


「トゥアハーデ様は1000年に一人の天才聖女と言われていました。その彼女が長年努力して、やっと神格を得られるんです」

「はえー……そーなんだ……」


全知全能インターネットっていう凄い調べるスキルがあるのに、それを使って知識を得ようと思わなかったのですか!?」


「ないねー」

「なぜ!?」


「特に興味ないし」

「宝の持ち腐れが過ぎる……!」

「いやー、わかるー」


 私もこの力、完全に使いこなせてるとは思っていない。

 やっぱ元が人間だからかね。


「もうちょっと……ご自分が、奇跡のような存在だってことを自覚なされたほうがよいのでは……?」

「かもねー。まーでも、そういうの知らなくても、私の望む生活できるし」


「ミカ神殿の望む生活とは?」

「働かず、のんべんだらりんと、可愛いもふもふと娘達と過ごすこと」


 私の中にあるのは、スローライフへの願望だけなのだ。


「そ、そんな……俗っぽいおかたが、水の神や山の神を従える、最高神だなんて……」

「最高神も従えてるけどね」


「どういうことなの!?」


 元々居た最高神も今は娘として手元においてることを告げる。


「もう……わけがわからない……! あなたはいったい何者なのだ!?」

「ただの世捨て人」


「あなたみたいな【人】がいるわけないだろ……!」


 

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