第87話 神がハーフエルフを訓練する



 大転移グレーター・テレポーテーションで、東の街マーテオへと戻ってきた。


「最高神様がお帰りになられたぞおおおお!」


 わ……! とハーフエルフたちが駆け寄ってくる。


「みんな、ただいまー」

「うう、おかえりなさいませ……!」


 え、なんか……泣いてる?

 どうしたんだろう……みんな……。


「我らのために、危険な死の森にいってくださり……感謝いたします!」

「危険? 死の森……?」


 なんのこっちゃ……?


「ミカ神殿。忘れてるようだけど、奈落の森アビス・ウッドは別名死の森。行ったら最後、戻って来れない場所だぞ」


 あ、そうだった。忘れてたー。

 

「ま! ミカにとっては、奈落の森アビス・ウッドにピクニックに行ったようなものでしたがね!」

「「「おおおおおおおおお!」」」


 森の神モリガンがそう言うと、ハーフエルフたちが歓声を上げる。


「まあ実際ほぼピクニックだったが……デオチ・デ・キエリュウでの戦いでもそうだったし……」


 とルシエル。ねー。


「やはり最高神さま……すごい!」

「おれら……そんな最高神さまを、尊敬します!」


 そのときだ。

 パァアアア! と、街の中心部で、光の柱が立つ。


「あれ? 女神像……起動してない?」


 これを起動させるためには、女神……つまり私への信仰心が必要だった。


 森の神を信奉するハーフエルフたちでは、女神像は発動できなかった……はず。


「お、おまえら!? モリガン様から、ミカ神殿に、信奉先を鞍替えしたのかっ!?」


 ルシエルがそう言うと、ハーフエルフたちがうなずく。


「ああ、モリガン様には申し訳ないが……おれらの神はやはり、ミカ神さまだなって」

「ミカ神さまは危険を顧みずおれらのために森に入ってくれたからな」


 まじかー。


「よ、よろしいのですかモリガン様……?」

「良い!」


「いいんかいっ……!」

「ええ、かくいうわたくしもミカ信者ですしね」

「いやあんたもかいっ!?」


 女神像が正常に発動してる……ってことはだよ。

 ハーフエルフって、今急いで鍛える必要……ない?


「よかったな、皆! これで街は守られたぞ!」


 とルシエルがハーフエルフたちに言う。

 だが、彼らは……バッ! と頭を下げる。


「「「「おれらを強くしていただけないでしょうかっ! 今、すぐに!」」」」

「はぁあああああああ!?!?」


 ルシエルが驚く。私も……うん、びっくりした。


「女神像が動くんだぞ? それに、魔除けまでほどこされてるんだ。今すぐ強くなる必要ないだろっ!?」


 すると……ハーフエルフの一人が、ルシエの頬を殴りつけた。


「あべしっ!」

「バカヤロウ! ルシエル! おれらは……ミカ神の配下だぞ!?」


「だ、だから……なに……? なんで殴られた……?」

「言いたいことはわかるなっ!?」

「いやわからないからっ!」


 正直私もわからないんですが……。


「不甲斐ない我らを世にさらすことはつまり! 偉大なるミカ神の神としての格を下げることになる! そんなの絶対駄目だろう!?」


 そうだそうだー! とハーフエルフたちが同意する。


「おまえらいつの間に、ミカ神殿にここまで心酔するようになったのだ!?」

「バカヤロウ!」


 ばきぃ!


「あべしっ! な、なんで殴られたの……?」

「ミカ神殿への忠誠心……足りなすぎるだろ!? 我ら虐げられしハーフエルフに、命がけで、ここまでのことをしてくださった偉大なる神に対して!」


 ハーフエルフって人間からもエルフからも、嫌われてるんだっけ。

 そんな中で、わたしが手を差し伸べたから……。


 ハーフエルフの私への好感度が、カンストしたってことか。


「り、理屈はわかった……が、どうしてアタシ、殴られたの……?」

「注入したのだ! 忠誠心をな!」

「意味が……わからない……!」


 ごめんそれは私も意味がわからない……。


 ハーフエルフたちが私たちの前で(ルシエル含む)、頭を下げる。


「ミカ神さま、どうか……ご指導を!」


 今すぐそんな強くなる必要ないっておもってるんだけど私……。


「良いでしょう」

「「「「モリガン様!」」」」


 モリガンが腕を組み、そしてハーフエルフたちに言う。


「わたくしが、訓練をつけてあげます」

「「「森の神御自らが!?」」」


 モリガン、どうして急に訓練つけるなんて言い出したんだろう……?


「ミカのために決まってます」


 モリガンが私の手を掴み、すりすりと頬ずりしながら言う。


「ミカのお手を煩わせないために、この者達には強くなって貰わねばならないのです」


 まあ、いつまで面倒見て上げられるかわからないから、自力を付けて貰わないとって理論は理解できる。


「それに今回わたくしは何もしてないです。ミカとデートしてただけ」

「デートって……」


「そこで、今回はわたくしが面倒を見てあげます。どうか、ミカはごゆるりとお休みください」


 ……まあ、正直ちょっとピクニックで疲れたし、休みたいなーとは思っていた。

 訓練やってくれるっていうなら、任せても良いかもしれない。


「じゃ、任せるね」

「はいっ! ミカ……その、上手くいったらですね、その……ご、ご褒美が欲しいです……」


 モリガンが自分の唇に指を置き、もじもじしながら言う。


「ご褒美?」

「はい! あの……お金じゃあないので! ただその……ちょっと……ミカにして欲しいことがあるというか……」


「まあ、私ができうることならいいけど」

「本当ですか!? 約束ですからねっ!」


 あ、圧……。

 モリガンは咳払いをする。


「ハーフエルフども! 整列!」


 バッ……! とハーフエルフ達がモリガンの前にならぶ。


「も、森の神よ……ハーフエルフどもって……」

 

 ルシエルが困惑気味に言う。


「おい貴様!」

「貴様!?」


「そうだ貴様だ! 貴様もハーフエルフだろうが! 並べ!」

「え、ええー……アタシは別に訓練を受ける気がないんで……」


「黙れ! 森の神の言うことが聞けぬのですか!?」

「ひぃい……! なんかキャラ変わってないですか!?」


 ルシエルもしぶしぶ、ハーフエルフたちの列に加わる。

 モリガンは彼らの前に立つ。


「これからあなた方には魔力量を増やす訓練を受けてもらいます」

「「「「はい……!」」」」


「やり方はシンプルです。気絶するまで、魔法を撃ちまくれ!」

「「「「はいっ!」」」」


 ルシエルが恐る恐る手を上げる。


「あ、あのー……こんな大勢で、魔法撃ちまくったら、普通にヤバいのでは? ここ森の中ですし……」


 確かにもっともな意見だ。

 モリガン、ちゃんとその辺の対策をとってるよね?


「気にしなくていいです」


 あ、やっぱり。


「どうせ数千年もしたら森の木々なんて一本も残ってないので」


 考え無しなのかーい。

 まったくもう……。


「森の神よ。恐れながら……あんたちょっと考え無しすぎないですか!?」


 おお、恐れを知らんねルシエル……。

 しかし、やれやれ。これは私がなんとかして上げないといけないか。


 言い出しっぺは私だしね。

 この人数が、魔法を一斉に撃っても大丈夫な場所を用意する必要がある。


 森の中でやるなんて論外だ。

 何か良い手段がないか。


 私は全知全能インターネットを使って、検索をする。


「お、これなんていいかな」

「ミカ神殿、なにか良い案でもあるのか? 頼りはあなた様しかいないのです。この眼鏡……もとい、森の神はちょっとバ……抜けてるようだから」


 うん、ごめんねうちのモリガンがポンで。


ボックス展開オープン


 普段、四神たちを召喚するのに使っている、ボックス

 強化アイテムボックスとも言えるそれには、まだ使われていない機能がある。


 ボックスがグングン、と大きくなる。

 人が入れるくらいの大きさになった。


「さ、皆こんなか入って」


 私はルシエルたちを連れて、ボックス内へと入る。

 何もない、白い空間がそこには広がっていた。


「こ、ここはどこだっ、ミカ神殿!?」

ボックス……アイテムボックスのなか」


「アイテムボックスの中!? ひ、人が入れるものなのかっ!?」

「うん。普通のアイテムボックスは素材とかしか入れられいけど、私のボックスはできるみたい」


 全知全能インターネットに書いてあったからね。


「ここは現実と切り離された異空間だから、いくら暴れても大丈夫だよ」

「すごいです、さすがはミカ。このボックスの異空間に、さっそく名前をつけないとですね」


「名前……じゃあ【■庭ハコニワ】で」


 瞬間、何も無かった白い空間が、一気に変化する。

 草原に、青い空。そして、レンガ造りの建物が出現した。


「なぁにこれ……?」

「ミカがこの空間に名前を付け、定義づけを行ったことで、空間が強化されたのでしょう!」


「ええー……また名前付けただけで進化したってこと?」

「そのとおり!」


 唖然とする私、とルシエル。


「うぉおお! 最高神すげー!」「異空間を一つ作っちゃうなんて! さすがだぜ!」


 ルシエルは大きくため息をつく。


「……もう、何でもありすぎるだろぉおお……逆に何かできないことでもあるのかよぉお……」


 するとモリガンが、どや顔で言う。


「ありません。なぜって? ミカは神なので!」

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