第79話 ハーフエルフ達にポトフを作る
「リシア様! 離れてください! その女は……やはり怪しいです!」
ルシエルが私を睨みつける。
その気持ちはわかるよ。
ロードローラーなんて、見たことないもの持ち出してきてるし。
一日経たずに、森の木々も綺麗さっぱりなくなって、道が舗装されてるんだから。
「お母様は怪しい人じゃあないんです」
リシアちゃんは私の前に立って、両手を広げる。
「とても優しくて、いい人なんです」
リシアちゃん良い子……。
私がルシエルの立場だったら、普通に警察に通報してる。
ルシエルが攻撃してこないのは、彼女に対する信頼が厚いからだろう。
そのときだった。
ぐぅ~………………。
「あ……」
がくんっ、とルシエルがその場で膝をつく。
……よく見たらこの子、顔色が悪いじゃあないの。
~~~~~~
ルシエル
【種族】ハーフエルフ
【レベル】20
【状態】空腹(極度)
~~~~~~
「ハーフエルフ……?」
「!? き、貴様……! なぜわかった!」
ルシエルが立ち上がろうとするも、その場にしゃがみこんでしまう。
リシアちゃんが慌ててルシエルに駆け寄る。
「だ、駄目ですよルシエルさんっ。お腹すいてるんですよねっ?」
「は、はい……」
しかしルシエルが、エルフだとおもったら、ハーフエルフだった。
しかもこんな森の中に住んでいる。
確か……聞いた話だと、エルフって海を越えた先にある、エルフ国アネモスギーヴってところに住んでいるじゃあなかったけ?
~~~~~~
ルシエルの事情
→マーテオの街に住んでいるのは全員ハーフエルフ。
この街はハーフエルフの流民を受け入れてる
~~~~~~
~~~~~~
ハーフエルフ
→エルフと人間のハーフ。
純血主義であるエルフからは忌み嫌われ、人間たちからはまがい物として扱われてる。
~~~~~~
リシアちゃんも、その両親も優しい人たち(だったみたい)だから、ハーフエルフの流民を受け入れていた。
でも森の外ではくらせないから、
……ルシエル含めて、この街のハーフエルフたちが可哀想に思えてきた。
彼らの助けになりたいな。
だってここは
ようするに、身内なのだ。ルシエルも、他のハーフエルフ達も。
身内には笑顔で居て欲しい。
「ルシエル。これ食べれる?」
KAmizonで購入した、ゼリー飲料を取り出して差し出す。
「な、なんだこれは……?」
「ゼリー。美味しいよ」
「ぜりー……?」
こっちじゃゼリーないか。まあ文明レベルが中世だもんね。
ゼリー飲料の蓋を開けて、ルシエルの口にツッコむ。
「ちゅーって、吸って見て」
「もごごっ」
だめか。えいやっ。
私はぎゅっ、とパウチ袋を握りつぶす。
じゅるっ、とゼリーがひねり出されて、口の中に入っていく。
「!?」
「どう? あまくて美味しいでしょう?」
マスカット味のゼリー飲料だ。
最初は嫌がっていた彼女だけど、ちゅうちゅう……と吸い出した。
あっという間に、飲料が無くなる。
「ぷは……! はぁー……」
「ちょっと腹膨れた?」
「……ああ。不思議な食い物だった。こんなの、初めてだ」
そうだろうね。
私はルシエルに手を伸ばす。
「街に連れてって。他にも、お腹すかせてるエルフがいるんでしょう?」
~~~~~~
マーテオの街の食糧事情
→周りの森には魔物が多く、食料を取るのに元々苦労していた。
リシアが食料援助を行うことで、なんとか生き延びていた
しかし先日、マーテオの街の結界が壊れ、魔物が襲いかかってきた
食料庫をやられ、外に助けを求めることができずに、困っていた
~~~~~~
以上、
「な、なぜそこまで……正確にこちらの事情を!?」
神ですから、とは言わない。
言っても信じてもらえないだろうし。
「ごめんなさい……」
しょぼくれるリシアちゃん。
領主として、領民の危機を察知できなかったことを、悔いてるのだろう。
「リシア様のせいではございません! 我ら……ハーフエルフが、弱いのがいけないのです……」
「ま、その問題は後にして、今はお腹を空かせてる同胞たちに、ご飯を食べさせるのが先決じゃあない?」
「………………そうだな」
で。
私たちはマーテオの街に来たんだけど……。
「こりゃ……酷いね……」
あちこちで建物が崩壊していた。
床にけが人が寝かされてる。
「魔物の仕業だよね? 外壁があるのに?」
「ああ……空からの侵入は防げないからな」
大魔導士アベールとやらの結界も、今は消えてるようだ。(
「けが人多数、死者はゼロ……か。頑張ったね、君たち」
多分だけど、ルシエルたちが頑張って魔物を追い返したのだろう。
でも……けが人が多すぎる。
「どうしましょう、お母様。けが人の治療、お腹すいてる人たちへの炊き出し、問題が二つも……」
「同時平行でやればいいんだよ」
私は
「君たち、けが人たちを一箇所に集めてきて」
「「「…………!」」」びしぃっ!
野菜眷属達が散らばり、怪我して動けない出る、ハーフエルフたちの元へ散らばる。
彼らは自分たちの体が浮いてることに気づいて、ぎょっ、としてる。
(眷属は神とそれに類するものしか見えない)
その間に、私はいったん
「キャロちゃん、準備OK」
「…………」おー。
先にラインを送っておいたのだ。
下準備よろしくって。
「
「きゅっ!」
「よろしくね」
「きゅきゅーい!」
トントン。
ぼちゃぼちゃっ。
コトコトコト……。
「よし完成。あとは
私は
「お、おいおまえ……さっきから、消えたり出てきたりしてるが……ま、まさか……転移魔法の使い手なのじゃ……?」
ルシエルが唖然としてる。
「まあまあ、それは後で。それより、ルシエル。炊き出しのご飯配るの、手伝ってくれる?」
「炊き出しだと……?」
ぱかっ、と蓋を開ける。
「な、なんだこの匂い……」
「とっても美味しそう……」
中は、スープで満たされていた。
よーくにこんで、柔らかくなったお野菜と、ソーセージが入ったポトフだ。
ぐぅ……とあちこちから、腹の虫がなっている。
私は器にスープを注ぐ。
私はハーフエルフたちのもとへ行く。
救護テント(KAmizonで購入)のなかに、彼らは寝かされている。
近くにいたハーフエルフのもとへしゃがみこむ。
「さ、これ食べて。元気出るよ」
「あ、ありがとう……」
このハーフエルフも、怪我を負っていた。
左足が欠損してるのだ。
私はスプーンでポトフをすくって、それを食べさせる。
「うまっ!」
一口たべて、すぐに顔色が良くなる。
スプーンを渡すと、自分で、ガツガツと勢いよく食べ出したのだ。
「なんだこれっ! めっちゃうめえ! 塩がちゃんと効いてて……うめえ!」
ごくり……と周りのハーフエルフたちが生唾を飲む。
「さ、リシアちゃん、ルシエル。手分けしてポトフを食べさせよう」
「はいっ!」「ああ」
ポトフをついで、食べさせる。その繰り返し。
その場に居たハーフエルフたちの血色が、みるみるうちに良くなっていく。
「うぉっ! な、なんだこりゃあああ!」
私が最初にポトフを食べさせたハーフエルフが、驚愕の声を上げる。
「!? あ、足が……ちぎれた左足が、元に戻ってる!?」
ルシエルが見やる先には、負傷したはずのハーフエルフがいる。
彼は自分の足でちゃんと立っていた。
失っていた部位から、新しい足が生えてるのだ。
「ど、どうなってるのだ!?」
「このポトフ食べたからだよ」
「なに!? ポトフに何かいれたのか!?」
「というか、ポトフのこの汁、これに使われてるのが、青龍の水だから」
万物の素となる、青龍の水。
これは無加工で、
ポトフに青龍の水を使うことで、腹を満たしながら、けが人も直せるという寸法だ。
あちこちで驚愕、そして歓喜の声があがる。
あっという間に、治療と食糧供給が終わった。
「わぁ! おいしいー! こんなに旨味たっぷりのポトフ、初めてですっ!」
リシアちゃんが余ったポトフを食べている。
ほっくほくのジャガイモに、ぱりっぱりソーセージが実に会う。
塩気ちょっと多めにしたスープも我ながらナイスだ。
ルシエルが私に対して頭を下げる。
「助かった」
「礼なんて要らないよ。君らは領民。仲間だもの。困ったときは仲間同士で、助け合い、でしょう?」
ルシエルの私への警戒心は、薄れているように感じたのだった。
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