第78話 他の街とつなぐ道を作る


「ミカお母様。ご相談があります」


 魔族をボロぞうきんにしたあと、領主にして娘リシアちゃんが、私に相談を持ちかけてきたのだ。


「実は……他の街にも、女神像を立ててほしいのです」

「他の街……あー、そっか。デッドエンド領には、このアベール以外にも街があったね」


 デッドエンドにはアベールの街の他に、

 東の森にはマーテオの街。

 西の山にはティアピュアの街がそれぞれある。


 無論、首都であるアベールよりは規模がだいぶ小さいけども。


「アベールばかり気にかけてたけど、マーテオとティアピュアの街も、魔族とかから守らないとね」


 どっちもデッドエンドの街だもの、ちゃんと領主母として、守って上げないとね。


「てか、今までよく無事だったね、その二つの街」

「いにしえの大魔導士アベール様が、街に結界を張ってくださっていたので、とても安全に暮らせていたのですよ」


 なるほど……結界ね。

 

「でも近年魔力が切れてきたのか、結界の強度が落ちてきて、いつ結界が壊れるかといつも町の人は不安を抱えてるそうです」


 状況は理解した。

 早めに、その二つの街にも、手を打たないと。


「さっそくその二つの街へ行ってみよっか」

「はいっ」


 女神像は引き続きダヴィンチに作成を依頼し、私たちは先に街へ行って様子を見にいくことにした。


 東の街マーテオから、行ってみることにした……のだけど。


「これは思った以上に……厄介ね」


 マーテオの街はこの深い森の中に存在する。

 森の木々が邪魔して、私たちの歩みを邪魔する。


「道はないの?」

「はい……この森は奈落の森アビス・ウッドと言いまして、魔物がうろつく危険な森。道路の工事なんて、できないのです」


 なるほどねえ。


「魔物ねー」


 そういえば最近、魔物ってとんとみないな。えーっと、魔物魔物……。


「いなくない?」


 森の中が小鳥とか動物の声しかしない。

 魔物が襲ってくる気配がない。


 全知全能インターネットで検索。


~~~~~~

・魔物が襲ってこない理由

→魔物は神々に恐れをなしてる

~~~~~~


 神々?


~~~~~~

・神々

→最高神ナガノミカと眷属神リシア

~~~~~


「ミカお母様はお強いですもねー!」


 リシアちゃん、君も強いんですよ……? 

 何せ最高神の娘だもの。


「合点がいきました。領民のお年寄りの方々が言っていたんです。昔より、魔物が大人しくなってきてるーって」


 じいちゃんばあちゃんたちは、昔の奈落の森アビス・ウッドや山の様子を知ってる。


 彼らが大人しくなってるって言うってことは、やっぱりわたしの影響が出てるってことか。


「ミカお母様のおかげで、領民達は皆幸せに暮らせてますっ。ありがとうございますっ!」


 ちゃんと領民たちを代表して、私にお礼を言ってくるリシアちゃん。


「さ、邪魔者がいない間に、サクッと作業しちゃいますか」

「はいっ!」


 これからするのは、アベールの街と、東の街マーテオとをつなぐ道を、ならすことだ。


「木が邪魔ですね。武器でずばーん! と切っちゃいます?」

「そんな疲れることしないよ」


 私はスマホを手にもって、パシャリ。

 完全削除アンインストール


 対象物を、完全に消し去る神スキルだ。

 ぱっ……! と目の前に広がる森が、一瞬にして消える。


「あんなにあった森の木々が消えてしまいました!」


 私はパシャパシャと、森の木々を完全削除アンインストールしていく。


「リシアちゃん、足下が汚れてるね」

「あ、ほんとです……」


 ぐっちゃりと、土で濡れちゃっていた。

 森の地面は腐葉土だからか。


 普通に歩くぶんにはいいけど、馬車とかが通りにくいか。

 それに足下がぬかるんでると、こうして汚れてしまう。


「それに、木々が完全削除アンインストールされた後、穴だらけですね」


 木を完全削除アンインストールすると、木が根っこごときえる。

 結果、木のあった場所に穴ができてしまうのだ。


「どうしましょう、お母様」

「大丈夫。おいで、サツマ君」


 ぴょこんっ、とサツマ君がボックスから出てくる。


「地面が歩きにくくて困ってるんだ。なんとかしてくれる?」

「…………」びしぃ!


 サツマ君、やる気満々だ。


「…………」ちょいちょい。


 いつの間にか、トマト君がボックスから出てきた。

 リシアちゃんの頭にのって、私の肩をつついてる。


「どうしたの?」

「…………」くいっ。


 トマト君が自分を、指で指す。


「自分も手伝っていいかって?」

「…………」こくん。

「うん、じゃ、よろしく。良い感じにして」


 私のちょーざっくりとした指示を聞いて、トマト君がうなずく。

 トマト君がボックスを取り出す。


 彼にはボックスを分割して、貸し与えてるのだ。

 わ……! とお野菜眷属達が出てくる。


「じゃ、こっちはお野菜たちに任せて、私たちはマーテオめざしましょ」

「はいっ!」


「あ、そうだ。歩くのめんどくさいし……おいでー」


 ボックスから、二匹のフェンリルがで来る。


『うおー! おれが来たぜ!』

『わおーん! あたしも!!』

『…………』


 ふぇる太たち、子フェンリルちゃんズが、ボックスから出てくる。

 最近洗練をあびた結果、大きなクマくらいのサイズ感になってる。


「ちょっと乗っけてくれる?」

『うおー! 散歩かっ?』『散歩ねっ!』


「そう、散歩。いい?」

『『もっちろーん!』』


 子フェンリルに乗っけてもらいながら、マーテオの街を目指す。


 森を抜けていくと、少し開けた場所に到着した。


「お、あった。ほんとに森の中に街があるんだねぇ……」


 木でできた比較的分厚い外壁。

 物見櫓もちゃんと設置してある。


 なるほど、森の中で暮らすには、これくらいのことしないといけないのか……。


「止まれ……!」


 櫓のほうから、誰かが、私たちに声をかけてきた。


「エルフ?」


 耳の長い女の人が、弓を構えて、こちらをにらんでいた。

 鏃をこちらに向けてきて、警戒してるのがわかる。


「リシアちゃん。よろしく」

「はいっ。ルシエルさーんっ! わたしです、リシアです!」


 マーテオの街はデッドエンド領。

 領主であるリシアちゃんと、この街の人間は既知だ。


 案の定、あの櫓の上にいるエルフのことを、リシアちゃんは知っていた。


「り、リシア様!?」


 ルシエルとよばれた女の子が、ぴょんっ、と櫓から降りて、こっちにやってくる。

 そして、急いでかけてきて、頭を下げる。


「失礼いたしました」

「いえ、こっちも突然来てすみませんでしたっ」


 ルシエルと呼ばれたエルフの女の子がじっとこっちを見つめる。


「リシア様。この方々は……?」

「わたしの養母となってくださった、冒険者のミカりん様。それと、お供のワンチャンたちですっ」


「養母……本当に……?」


 まあしょうがないよね。 

 こないだまで、リシアちゃん独り身だったところに、得たいの知らない女が母を名乗ってきたら。


「どうも、リシアちゃんの養母、ミカりんです」

「…………ルシエルだ。よろしく」


 この子もバカじゃあないみたい。

 いきなり斬りかかるみたいなことしてこないし。ただ、警戒はしてるらしい。


 いい護衛さんだこと。


 しかし……なるほど。なんで森の中に街があるのかと思ったけど、エルフが住んでるからか。

 うっすい現代知識によると、エルフって森に住むっていうし。納得。


「アベールから来たのですか?」

「はいっ。歩いて」

「歩いて……って、ええええええ!?」


 ん?

 ルシエルが驚いてる……?

 どうしたんだろう。


「なっ、なんだあれはっ!?」


 振り返ると……。

 え、ええー……?


「ろ、ロードローラーだぁ……?」


 なんか、ロードローラーがこちらに来てるんですが……?

 ルシエルがリシアの前に立ち、矢を構える。


「り、リシア様! お下がりください! 謎の獣です!」

「いや、あれは獣じゃないよ……」

「なに? じゃあなんだというのだっ!」


 ロードローラーだぁ……って言っても伝わらないしー……うーん。

 というか、なんであんなものが?


「…………」ぴょこっ。

「あ、トマト君」


 どうやらトマト君が、これを運転してきたらしい。


「てかなんで?」

「…………」びしっ。


 ロードローラーの後ろをみると、立派な道ができていた。

 そう、土じゃなくて、コンクリがきちんと敷き詰められてる。真っ平らな地面が広がっていた。


「なるほど……これは君がやったんだね」

「…………」こくんっ。


 うーむ、しかしここまで立派な道路をつくってくれるとは……。


「あ、ありえない!!!!!」


 ルシエルが完全にびびっていた。


「こ、この森に……こんな立派な道ができるなんて! しかも、ついさっきまでこんなものは無かったのに……!」

「お母様が、やったんですっ」


 リシアちゃんが補足説明してくれる。


「こ、このものが……ですか?」

「はいっ! これも……魔導人形ゴーレムですよ! たぶん!」

「な、なるほど魔導人形ゴーレム……」


 現代マシーン全部、魔導人形ゴーレムでゴリ押せるもん……?


 まあ、領主がそう言ってるから、信じてもらえてるのかな。


「お母様すごいですっ! こんな立派な道を作ってくださり、ありがとうございますっ!」

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