第73話 プールを作る



 娘たちを連れて、実家(ログハウス)へとやってきた。

 家にいるもふもふ達に、娘達を紹介するためだ。


 身内に隠し事はしたくないのである。


「わー! おっきなわんちゃーん!」


 リシアちゃんがふぇる太&ふぇる子に抱きつく。


「ばう!」「わう!」


 べろべろ、とふぇる太たちがリシアちゃんのほっぺたを舐めている。


「お名前はなんていうのっ?」

「ばううぅん!」「わぅううん!」


 答えているのだろうけど、犬語なので、リシアちゃんには通じてない様子。


「ふぇる太とふぇる子だよ。よろしくね」「「ばうわう!」」 


 二匹とも、リシアちゃんにすりすりしたり、ベロベロしたりしてる。


 あんたらすごいよ。どんな人でもすぐ仲良くなれるんだから。


「…………」

「くぉん……」


 一方で、麒麟のりん太郎はぷるぷる震えてる。

 その視線の先には、魔族であるどら子がいる。


 怯えるりん太郎の足を、ぽんぽん、とふぇる美が撫でていた。優しい子だ。


「大丈夫だよ、りん太郎。この子は怖い子じゃないから。強いけども」

「きゅー!」


 青嵐せいらんが近づいてきて、どら子を威嚇してる。


「なに……おまえ?」

「きゅー!」


 ドラゴン同士にらみ合ってる。

 同族だと思ってるんだろうか……?


「一気に賑やかになったのぅ~……」


 ぐったり表情の、キツネメイドさんふぶき。

 日中の赤ちゃん&子供らの面倒は、ふぶきに一任してるのだ。


「ごめんね、また子供ふやしちゃって……」

「いや、むしろ助かるのじゃ」


「え、どういうこと?」

「あのパワフルな赤ん坊どもの、遊び相手を連れてきてくれたからの……」


 ふぇる太&ふぇる子が、リシアちゃんと追いかけっこしていた。


「あははは! 待って待って~!」

「ばうばう!」「わうー!」


 リシアちゃん眷属神だから、フェンリルのスピードについて行けていた。

 

「きゅー!」

「しゃー!」

 

 青嵐せいらんがどら子とバトっている。空中で、ドラゴンボ●ルみたいな感じ。


 なるほど……ふぶきにはあのパワーについて行けないか。

 単なる眷属だし。


 ここの眷属統括的存在である、ふぶきが、新顔のどら子(魔族のとき)よりレベル低いの……ちょっと問題だよなぁ。


「どうしたのじゃ?」

「いや、ちょっと今ふと思ったんだけど……」


「うむ」

「うちのもふもふたち、レベル低くない?」


 ふぶきが、唖然とした表情で言う。


「おぬしは何を言ってるのじゃ……?」

「いやだってさ、みんな三桁じゃん、レベル。黒姫くろひめとかは違うけど」


 でもりん太郎とか、子フェンリルたちとか、レベルは三桁だ。


「あのな、主よ。レベル三桁って相当強いんじゃぞ……?」

「そう? デッドエンド領民たちも500とか普通にいってたけど」


「どういうことなのじゃ!?」


 私は領地で、領民達を訓練してレベルアップさせた件を伝えた。


「外でそんな、人外兵士を育てておったのか……!」

「いやただの領民だけど」


「ただの人間がレベル三桁とかいかないからっ! おかしいからっ! 黄昏の竜……70後半ですら英雄クラスなのじゃぞ!?」


 そうなんだ……。


「外ってそんなレベル低いんだね。よく魔族に滅ぼされなかったね」

「魔族……? 今、主は魔族と言ったかの?」


「え、うん。実は……」


 私は最近の出来事を、ふぶきに話す。


「あのドラゴン娘……魔族じゃったのか……」


 どら子の首に青嵐せいらんが巻き付いてる。

 二人がフッ、と笑ってる。


「おまえ……やるな」

「きゅー!」


 なんか仲良くなってるし。

 まあそれはさておき。


「どら子のレベルは1500だった。四桁だったよ?」

「そりゃ当然じゃ。魔族は人間より遙かに強いからの。それに加えて、魔族社会は弱肉強食じゃ。過酷な環境は人を強くするからの」


 うちのもふもふたちにとって、この環境は楽園だ。狩りも戦いもしなくていい。


「なるほどだから……レベルが低いのか」

「じゃからレベルが決して低いわけじゃあないのじゃっ! 周りのレベルがインフレして、おぬしの価値基準がバグってるのじゃ!」


 そっかぁ~……。


「しかし魔族……生きておったのじゃな」

「うん。なんか魔界ってところにいるんだって」


 まあ、こないだ威嚇しておいたので、おいそれと攻めてはこないだろう。

 でも、魔族最弱のどら子がレベル1500だった。

 

 イチワ・デ・キエリュウは、レベル3000。

 魔族はみんなレベル四桁台だと考えると、うちの三桁台の子達が、もし襲われたとすると……負けてしまう。


「てゆーかさ、人間ってよく、魔族に滅ぼされなかったね」

「ああ、そりゃ、カバンの悪魔がおったからの、昔は」


「なにそれ?」

「大昔にこの世界に存在しておった、ヤバいバケモノじゃ。そやつが魔族の首をもぎとって、片端から食らい、絶滅寸前まで追い込んだと聞く」


「え、ヤバいじゃん。襲われたらどうするの?」

「心配ないのじゃ。カバンの悪魔はある日忽然と姿を消したのじゃ」


「姿を消した? 死んだの?」

「そう言われておる」


 でも、確実な話ではないわけだ。

 魔族やその鞄の悪魔とやらから、うちの子たちを守らないと。


「でも、もうふぇる太たちはこれ以上強くできないよね」

「そうじゃな。眷属化しておるし」


「眷属神にも……できないよね」


 眷属神にするためには、私の養子にする必要がある。

 人間ならともかく、動物(魔物だけど)を養子にはできない。


 だから、眷属神にはできない……はず。


「おぬしが神なら、【洗礼】をするのはどうじゃろうか?」


~~~~~~

洗礼

→信者になるための儀式。全身を水にひたすことで、「神の子」となる。

~~~~~~


 神の子……眷属神ってこと?


 水に浸すだけで、眷属神にできるんだったら、ラッキーくらいのノリでやってみるか。


「水って……龍脈地の外、めちゃくちゃ寒いのに……?」


 ログハウスの近くには、前に釣りをした湖が存在する。

 けどあそこは普通に寒いし。


 温泉にも水風呂はあるけど……でもやっぱり、冬に子供を冷たい水に浸すのは、ためらわれる。


 良い方法が見つからない。そんなときは、全知全能インターネット


「……よし、これならいけるか。おいで、サツマ君」


 頭がサツマイモのお野菜眷属、サツマ君が近づいてきた。

 その背中には、モリガンから貰ったハンマー、神鎚ミョルニルがある。


「サツマ君、トマト君と協力して、こんな感じのものを作ってほしいんだけど……」


 統括リーダーのトマト君、そしてサツマ君の二人に、私はスマホを見せる。

 二人はふんふんとうなずいてる。


「いけそう?」

「「…………」」こくん!


「よし、じゃあお願いね」


 わっ……! とお野菜眷属たちが散らばっていく。

 視界を埋め尽くすほど、たくさんになっていた。


「前より数多くない……?」

「おぬしがほったらかしにしてる家庭菜園の野菜達、枯らすのはもったいないと、眷属どもが毎日収獲しておるからな」


「なるほど。いつもありがとね、ふぶき。ここのリーダーやってくれて」

 

 ちらっ。


「まあ、元々のリーダーが頼りない駄犬じゃしな……」


 ちらっ。


 私とふぶきは、私の隣に伏せて、体をこすりつけているデカフェンリルを見やる。


『? 何でしょう?』

「「いや、別に」」


 それからしばらくの後、家の中で娘達、もふもふたちと戯れていると。


「…………」ぴょこっ。


 サツマ君とトマト君が、窓の向こうから顔をのぞかせていた。


「お、工事終わった?」

「「…………」」こくんっ。


 まだ1日も経っていないのに、もう作っちゃったようである。

 優秀な眷属たちだ。


「じゃ、ちょっと様子を見てくるかな。リシアちゃん、どら子、ちょっとここにいて、もふもふ達と遊んでてね。すぐ帰ってくるから」

「「はーい!」」


 私とふぶき、フェルマァの三人はログハウスを出る。


 ほどなくして、私たちがやってきたのは、前に気弾で消し飛ばした山の跡地だ。


「な、なんじゃあこの建物はっ!?」


 削り取った山の上には、1つの、現代的建物が建っていた。

 しっかりコンクリでできてる。遠目に見ると、体育館のようだ。


「室内プールだよ」

「!?!?!?!?!?!?」


「運動不足解消のための施設さ」

「い、一ミリも理解できんのじゃが……」


 まあしょうがない。

 異世界人にとって、室内プールなんて見たことも、聞いたこともないだろうし。


「こんな巨大、そして立派な建物をあっという間に作ってみせるなんてっ。さすがミカ様です!」

「木造でも石造りでもない……なんじゃこの材質……」


 コンクリートである。

 作り方は全知全能インターネットで調べて、材料をKAmizonで買って、あとは神鎚ミョルニルでコンクリを作った。


 材料さえあれば、神鎚のスキル【超錬成】で何でも作れるからね。


「この世界で、このような巨大建造物を作るためには、年単位の時間がかかるというのに……何も無いところから作り出すなんて……規格外じゃあ……」


 ふぶきが建物を見て、驚愕してる。


「しかしこの建造物、なぜ建てたのじゃ?」

「温水プールが中にあるんだよ」


「お、おんすい、ぷーる?」

「そ。冷たい水に浸かると風邪引いちゃうからねー」


 ということで、洗礼のためにプール付きのスポーツジムを作ったのだった。

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