第72話 父魔族を、一撃粉砕する



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どら子

【種族】眷属神

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 私たちがいるのはリシアちゃんちの裏庭だ。

 どら子(命名私)の両手には、黒くてゴツい、篭手がはめられている。


「ミカお母様、どら子ちゃんの両手の黒いのは、なんですか?」

「あれは眷属器だね。リシアちゃんの持ってる全知全能の書ミネルヴァと同じもの」


「なるほど! つまり……家族おそろいアイテムですねっ!」


 まあそういうことである。

 

「リシアねーねとおそろっ♡」

「どら子ちゃんとおそろっ」


 と二人が飛び跳ねている。

 

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全知全能の爪ファフニール

→無限の回転エネルギーを生む爪(ドリル)。天も次元すら、あらゆる障害をぶち抜いて相手を絶対に追い詰める。

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 ……めちゃくちゃ物騒な代物だった。

 

 どら子。眷属神として私が力と名前をつけたことで、外見が変化してる。


 角の色が黒から、紅玉のような、宝石のようなものへと変わってる。

 そしてお尻から生えていた尻尾が消えていた。


「ドラゴンの尻尾なくなっちゃったの? あれ、可愛くて好きだったのに~……」

「リシアねーね、見て。ほらっ」

 

 どら子のお尻から、にょきっ、と尻尾が生えたのだ。

 それだけじゃあない、翼も生えてる。


「竜化を覚えたみたい」


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竜化(SSS)

→祖先の竜の力を解放する。部分的に竜となることも可能

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 外見の変化は、竜化スキルを覚えたことによるものらしい。


 と、そのときである。

 空中に黒い穴が出現したのだ。


「……来る。御父様が!」


 黒い転移門ゲートをくぐってやってきたのは、3メートルくらいの、竜人。


 赤い髪の毛に、筋骨隆々な体。

 そして側頭部からは角が生えてる。


「ドラコ……! 何をやっておるか貴様!」

「キエリュウ……御父様……」


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イチワ・デ・キエリュウ

【種族】魔族(子爵級)

【レベル】3000

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 がたがた、ぶるぶる、とどら子が体を震わせてる。


「どら子ちゃん……大丈夫。ミカお母様がついてるからっ」

「リシアねーね……」


 美しき姉妹愛だ。

 一方、それを見て、イチワ・デ・キエリュウはというと……。


「人間と何を仲良くしてるのだ! ドラコ! 貴様は何のためにここへいると思ってるのだ!」


 イチワ・デ・キエリュウが声を荒らげる。

 どら子は完全に怯えきっていた。


 この子のそんな顔、見たくない。


「あんたが、どら子の養父?」

「あ? なんだ貴様は……」

「冒険者ミカりん。デッドエンドの守り神だよ」


「ふんっ! 人間サルごときが、ご大層なあだ名をつけたもんだなぁ!」


 私は今、神としての力を制御してる(神プロテクト)。

 イチワ・デ・キエリュウの目から見ると、私はちょっと強い人間にしか見えないのだろう。


「あんた、どら子を虐める悪い父親なんだってね」

「ふん! 当然だ。そいつは魔族の中でも最弱だからな。魔族社会は弱肉強食! 弱者は見下されて当然!」


 こんなやつに、どら子を任せられないな。


「この子、私の養子になったから。事後承諾でわるいけど。よろしく」


 イチワ・デ・キエリュウは私を見て、そしてどら子を見て、眉間にしわを寄せる。


「人間界を滅ぼす作戦は失敗し……、人間の配下になったということだな。ゆるせん!」


 イチワ・デ・キエリュウが手を前に突き出す。


「貴様は用済みだ!【心臓掌握グラスプ・ハート】」


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心臓掌握グラスプ・ハート

→不可視の手で相手の心臓を鷲づかみにして、握りつぶす即死魔法

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 ぐしゃりっ!

 ドサッ……!


「どら子ちゃん……!!!」


 倒れ伏したどら子を、リシアちゃんがゆすり起こそうとする。


「し、死んでる……」

「当然だ。わが必殺の心臓掌握グラスプ・ハートから、逃れられる術は絶対ない!」


 自分の娘を、殺すとか。こいつに、この子を絶対に任せられない。


「次は貴様だ、ミカりんとやら」

「黙ってて」


 私がイチワ・デ・キエリュウをにらみつける。

 ごぉ! と突風が吹く。


「な、なんだ……!? この……殺気は!? 体がこわばり一歩も動けん!」


 別に私は何もしてない。ただにらんだだけ。

 でも、イチワ・デ・キエリュウでびびってしまったのだ。そんな小物はほっといて、私はどら子に近づく。


「いやだよぉ! 死んじゃやだぁ!」


 リシアちゃんが大泣きしてる。


「大丈夫だよ、リシアちゃん。私に任せて」

「ミカお母様……はいっ」


 リシアちゃんは私を信じてくれるようだ。


 ボックスから青嵐せいらんが出てくる。


青嵐せいらん、この子心臓潰れちゃってるの。治すの手伝って」

「きゅ!」


 ちゃぽ……と青嵐せいらんが大きな水の球を作る。

 それが小さく凝縮され、どら子の口に入る。


 ドクンッ!


「がはっ!」

「なにいぃいいいいいいいいい!?」


 イチワ・デ・キエリュウが驚愕している。

 一方、リシアちゃんは涙を流しながら、どら子に抱きつく。


「どら子ちゃんっ。良かった! 目覚ましたんだね!」

「リシアねーね……。われ、どうしたの……? 死んだはずじゃ……?」


「ミカお母様が生き返らせてくれたのっ!」

「ママが……?」


 私は笑って、どら子の頭を撫でる。


「もう大丈夫だよ」


 涙ぐむどら子の目元を拭ってあげる。


「し、信じられない……! 心臓を潰したのだぞ!? なぜ生きてる!?」

「心臓を作ったんだよ、青龍の水で」


「なっ!? し、心臓を作ったぁ……!? なんだそれは!?」


「青龍の水は万物の素。これを使って、どら子の心臓の細胞を作ったの」


 何にでもなれる水を使い、心臓を作ったという次第だ。


「ば、バカな……あ、ああ、アリエナイ……こんなことが……」


 ぶんぶん! とイチワ・デ・キエリュウが首を振る。

 私は彼に近づく。


「よくも、私の子供を虐めたね」

「ひっ……! ぐ、心臓掌握グラスプ・ハート!」


 ぐしゃあ!


「勝ったぁ!」

「誰に?」

「なにぃいいいいいいいいいいい!?」


 イチワ・デ・キエリュウがふるえながら腰を抜かす。


「ば、バカな!? 魔法が不発……ありえない!」

「そうだね。不発じゃあないよ」


心臓掌握グラスプ・ハート! 心臓掌握グラスプ・ハート! 心臓掌握グラスプ・ハートぉおおおおおお!」


 何度握りつぶされようが、私は死んでいない。


「心臓を潰されたくらいで、わたしが、死ぬとでも思ったか……?」


 私の肉体は人間ではなくなってる。

 つまり心臓が無くても生きていける体なのだ。


「ば、ば、ばば、バケモノだぁああああああああ!」


 ぐにゃりと空間がゆがむ。転移門ゲートを開くと、イチワ・デ・キエリュウが底へ飛び込む。


「あ、逃げた。しかしいったいどこへ……?」

「ミカママ! あいつは、魔界に逃げたよ!」


「魔界?」

「魔族達の隠れてる、別の次元に存在する世界のことだよ!」


 なるほど……別次元に逃げたのか。


「許さない……」


 どら子がたちあがり、両手に全知全能の爪ファフニールを構える。


「あいつは……絶対許さない!」


 かっ……! とどら子の体が光……。

 そこにいたのは、真っ黒な鱗の、巨大なドラゴンだ。


 体からはほのかに、アメジストの魔力が吹き出してる。


『ママを傷つけ、リシアねーねを悲しませた! おまえを許さない! 全知全能の爪ファフニール……発動!』


 どら子が両腕を頭上に掲げて、高速で回転し出す。


 そうだ、全知全能の爪ファフニールは次元すらも突破し、相手を追跡するって言っていた。


 この眷属器があれば、別次元に逃げたイチワ・デ・キエリュウも追尾できる。

 がおぉおん! と回転しながら、どら子が空間に穴を開ける。


 その向こうには灰色の世界が広がっていた。


「うげええええ! ドラコぉ! なぜおまえがここにぃ!」


 ドリルであけた穴をくぐって、私がイチワ・デ・キエリュウの前へとやってくる。


「こんにちは。そして……死ね」


 私は両手を前に突き出す。

 全知全能インターネットで、闘気オーラの使い方はマスターしてる。


 きぃいいん! と両腕に闘気オーラが集まっていく。


究極闘気砲アルティメット・オーラキャノン!」


 かっ……! という閃光とともに、光が周囲を包み込む。

 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン!


 光の後に遅れて爆音が聞こえてきた。

 ……そして、光の後には……何も、なかった。


 イチワ・デ・キエリュウが、大地ごと、かき消えたのである。


 地平線の彼方へ、このえぐり取られた通り道が続いていた。


『すごいよ、ママっ! こんな闘気オーラ攻撃、見たこと無い!』


 ぽんっ、とどら子が元の姿に戻る。

 私は彼女の頭を撫でる。


「お父さん倒して、ごめんね」

「ううん、いいのっ。あんなの……もうどうでも。だって」


 そこへ、次元の穴をくぐって、リシアちゃんがこっちにやってきた。

 だきっ、とどら子の腰にしがみつく。


「どら子ちゃんっ、怪我はないっ!?」

「うんっ、大丈夫だよ、ねーね!」

「よかったぁ~!」


 二人が笑顔で抱き合っている。

 そうだ、家族って言うのは、こういう温かい輪のことだ。


「ママっ、ありがとうっ!」

「うん、どういたしまして。さ、帰ろう。我が家に」

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