第71話 魔族を駄菓子で餌付けする
私はリシアちゃんの屋敷に、ドラコちゃんを運んだのだった……。
「はっ! ここはどこ!?」
リシアちゃんのお部屋にて。
ベッドの上で、ドラコちゃんが目を覚ます。
……改めてみると、綺麗な子だな。
アメジストのふわふわとした長い髪。
グラビアアイドルも裸足で逃げ出すナイスバディ&高身長。
頭から黒い角、そしてお尻から竜の尻尾が生えてなかったら、とても魔族とは思えなかっただろう。
「おはよ、ドラコちゃん」
「…………」
ドラコちゃんは私を見て、疑いの眼差しを向けてくる。
「なにが目的だっ。我を助けるだなんてっ」
ドラコちゃんは今、KAmizonで買ったパジャマを着てる。
さすが全裸で放置するわけにはいかなかった。
「別にないよ」
「わ、我を殺さない……?」
「うん、幼い子供を殺すわけないでしょ」
すると、さぁ……とドラコちゃんの顔から血の気が引く。
「ああ、もうおわりだ……ママ……われはもう……邪神に殺されるんだ……」
「何言ってるの? 殺さないから」
「だってわれ300歳だし……」
けっこー年取ってた!?
きみ300歳なのに、そんな幼い言動してるの……?
~~~~~~
魔族の歳
→魔族は人間より長命。エルフに近い。
魔族の100歳は、人間でいうところの1歳に相当する
~~~~~~
つまりドラコちゃん三歳なのか……。
ドラコちゃんは、目を閉じて、跪き、そして……頭上を見上げてる。
「え、なに……?」
「魔族が戦に負けたら、首を差し出すように、と代々言い伝えられてるの……」
こわっ!? 戦国時代!?
「首なんていらないから……」
「え!? ま、魔族の首……要らないのですか!? 戦いに勝ったのに!?」
普通は戦いに負けたら首差し出すものなの……?
「え、え、じゃ、じゃあ……何が目的で、われと戦ったの……?」
「そりゃ、そっちが先に乗り込んできたんでしょうが……」
先に仕掛けてきたのは、飛竜王、そしてこの子だったはず。
「あ、飛竜王たおしちゃったけど、ごめんね」
「ううん、いいの。この世は弱肉強食。弱いやつは食われて当然」
この子の生きてる世界、ちょっと殺伐としすぎじゃあない……?
「ひりゅまるくんは御父様のペットだったし……いじめられてたし……別に倒されても……悲しくない」
な、なんか複雑な家庭環境みたいだ……。
「邪神様は、われの首を要らないという。おめおめと帰ったら、御父様に殺されるし……わ、われは……どうすればいいんだぁ~……ふぇええん……」
……これからどうしよう。
この子の口ぶりからすると、魔族は人間と敵対してる。
さらに、魔族は人間界にまた戦をふっかけようとしてる、らしい。
魔族は悪、そう断じて、この子を滅することは至極簡単。
でも……私はそうしたくない。
なぜなら、この子が悪い子には見えないからだ。
しかし帰ったらきっとこの子の父親は、ドラコちゃんに酷いことをするだろう。
と、そのときだ。
ぐぅううううううううううう。
ドラコちゃんのお腹から、大きな音がしたのだ。
「お腹減ってるんだね」
「……ひぐ……ぐす……うん」
でも、今は昼過ぎ。
みんなもうご飯を食べた後だ。
キャロちゃんは今、食後のお皿洗いをしてる最中だろう。
KAmizonで適当なご飯を買う? それか……そうだ。
この子、さっきチョコレートを美味しそうに食べていたじゃあないか。
甘いものを食べたら、少し幸せな気分になれるだろう。よし。
「お菓子食べる?」
「! たべりゅぅ……」
私はKAmizonでお菓子を購入する。
この子は三歳。なら……上等なお菓子よりも、こういうののほうが喜ばれるかもしれない。
「まずは、はいこれ」
「………………なにこれ? ペラペラ? 紙……?」
手のひらサイズのシート菓子だ。
蒲焼●さん太郎だ。
「美味しいよ」
「……こんなのじゃあなくて、チョコ欲しい……」
と言いつつ、包み紙をちゃんとむいて、ぱくっと食べるドラコちゃん。
「!?!?!?!?」
「どう?」
「甘塩っぱくって、おしいーーーーーーーー!」
びったんびったんっ! とドラコちゃんがそのドラゴン尻尾を床にたたきつける。
「お菓子なのに、甘塩っぱい!? こんなお菓子初めてっ!」
「そうかい。では……次はこんなのはどうだい?」
ベビ●スターラーメンだ。
ぺりっ、とドラコちゃんが袋を開ける。
手のひらに出す。
「なにこれ? 乾いてる……? おかし……?」
「うん。美味しいよ。食べてごらん」
「うんっ!」
素直だなぁ。
ドラコちゃんがぺろっ、と手のひらにだしたベビー●ターを食べる。
ボリボリ……。
「おいひー! しょっぱくって、おいひー!」
「しょっぱいの次はこんなの物あるよ?」
透明なプラ容器の中に、朱色の液体と、そして梅干しが入ってる。
付属のストローをぷすっ、と刺さして、ドラコに渡す。
「これなぁに?」
「飲み物。ちゅーって吸うの」
ちゅー、っとドラコちゃんがスモモを吸う……。
「~~~~~~~!」
顔が中心にきゅっ、と集まる。可愛い。
「すっぱ! すっぱくって、でもあまくって、不思議な味! こんな味はじめてっ!」
「美味しい?」
「うんっ! 他にはどんなのあるの~?」
外見は大人だけど、やっぱり中身は子供(三歳児)。
初めて食べる駄菓子に、いちいち「おいしー!」「しあわせ~♡」と喜んでいる。
と、そのときである。
コンコン……。
「ミカお母様」
「リシアちゃん」
幼女領主リシアちゃんが、こちらにやってきたのだ。
「ごめんね、ベッド使わせて貰って」
「む? こいつのベッドなのか……ボリボリ……」
「そうだよ」
「そうだったか。ありがとな、おまえ」
ぺこっ、とドラコちゃんがリシアちゃんにお辞儀する。
あらまあ、素直な良い子。
リシアちゃんは目を丸くしていた。
けど……ふふっ、と笑う。
「どういたしまして。それより……あなた、何を食べてるのですか?」
「これは……だがし! おいしいぞっ!」
「だがし! へえ……美味しそう……」
じっ、とリシアちゃんがベッドの上の駄菓子を見る。
するとドラコちゃんが私を見てきた。
「な、なあ……邪神様」
「邪神じゃないけど、なに?」
「このだがし……このお姉ちゃんにも、わけてもいーい?」
お姉ちゃん……?
リシアちゃんのことか。まあ、リシアちゃん五歳だから、三歳児からみればお姉ちゃんかな。
でも……おやおや。ちゃんと分け与えるって概念があるらしい。
良い子だ。
「もちろん」
「ありがとうっ。おい、おまえ、これやる! ベッドのお礼だっ!」
ドラコちゃんが持っていた袋を、ひとつ、リシアちゃんに渡す。
「わぁ! ありがとうっ。これ、なぁに?」
「われも食ったことないだがしだ」
「ミカお母様っ。これ、なんですかっ?」
リシアちゃんさとい子だ。
今のやりとりを見て、この駄菓子を、私が出した物と即座に理解したようである。
「これは、うんめぇ棒だ」
「「うんめぇ棒……?」」
「そう。文字通り、うんめぇんだわ」
ぺりり、とドラコちゃんが袋を破く。
リシアちゃんは駄菓子はじめてだからか、袋を破くのに苦労していた。
「かせ。こうするのだっ」
「わぁ! ありがとうっ」
……端から見ると大人と子供。
しかし中身は三歳児と五歳児。なんというミスマッチ。
でも……仲良くやれてる。
袋からだしたうんめぇ棒を、二人が食べる。
「! これは……さっくさくっですっ!」
「うまいっ! しょっぱくって、さっくさくしてて、うまいっ!」
二人が美味しそうに、サクサクと、うんめぇ棒を食べている。
「しょっぱい? わたくしのはちょっと甘いよ!」
「なんと! そ、そっちも食べたいっ。ちょっとちょうだいっ」
「いいよっ。はいどうぞっ」
「ありがとー!」
魔族と人間の確執については、知らない。興味も無い。
でも……
少なくとも、この子は。
二人が仲良くしてる光景を見て、私は、この子の処遇を決めた。
「ドラコちゃん。私の養子にならない?」
「養子……?」
「私の子供にならないかってこと」
「! 子供……ママになってくれるの?」
「そういうこと」
ドラコちゃんをこのまま放っておけない。
けれど、周り……特に、デッドエンド領民たちからしたら、
そこで、私がこの子の母親になり、この子を眷属神にする。
そうすれば、仮にこの子が暴れたとしても制御できるし、逆に魔族側から報復されたときに、守ってあげられる大義名分ができる。
「ママに、なってくれる……?」
「うん」
ぱぁ……! とドラコちゃんの顔が明るくなる。
リシアちゃんも頬を赤く染めて、ドラコちゃんにくっつく。
「わぁ! お姉ちゃんだっ!」
「ううん、その子三歳だから、リシアちゃんのほうがお姉さんだよ」
「! ね、念願の……妹がっ! わー! うれしいっ! ミカお母様、ありがとうございますっ!」
ドラコちゃんにくっつくリシアちゃんは、本当にうれしそうだ。
一方でドラコちゃんも……ふにゃっと笑う。
「ありがとぉ……ミカママっ!」
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