第70話 魔族、神の力の前に敗北する



「こわいよぉおおおお! 死にたくないよぉおおおお!」


 ……改めて、魔族を見やる。

 全身を、黒いドラゴンの鎧で包んでいた。


 最初は外皮かなって思ったけど、この感じ、鎧っぽい。

 身長は180くらいある。両側頭部からは竜の角。そしてお尻からは尻尾が生えている。


 全身を黒い竜鎧で包んでいるため、表情、および年齢はうかがえない……が。


「こわいよぉ! ママぁ!」


 どう見ても子供だった。

 子供をボコボコにするのは良心が痛む。


 泣いてる子供を何もせず見てるのは、できない。ちょっと可哀想だしね。


 泣いてる子をあやすためには、美味しいものを食べさせるのが一番。

 KAmizonでチョコレートを買って、魔族に差し出す。


「これ、美味しいよ」

「人間からのほどこしなんてうけないもん!」


「美味しいお菓子だよ」

「おかしー! たべるー!」


 チョロい……。

 魔族は両手でチョコレートを掴む。

 どうやって食べるんだろう? フルフェイスのヘルメットかぶってるんだけど……。


 がばっ! と口の部分が開く。

 そして中にチョコレートを突っ込む。


「あ、銀紙は食べれないよ……って、おそかったか」


 魔族ちゃんはボリボリばりばり……とチョコレートを食べる。


「う゛っ!」

「まずかった?」

「うまぁ~~~~~~~い♡」


 びったんびったん、と魔族ちゃんが尻尾で地面を叩く。


「なにこれぇ~!? ちょーおいしいんですけど~!?」

「そりゃ良かった。チョコレートっていうお菓子だよ」


「ちょこれーと! おいしい! もっとちょーだいっ!」


 子供にするように、私はチョコレートを上げる。


「ミカりん様は何をなさってるんだ……?」「わからん、が、我らが近づいては邪魔になる……」

「ああ、行く末を黙って見守ろう……」


 領民達はみんな良い子なので、魔族ちゃんに近づこうとしない。


『そこをどいてください、ミカ様!!!』


 駄忠犬フェルマァさんが、魔族ちゃんに突っ込んできたのだ。


「ふんっ!」


 突っ込んできたフェルマァを、魔族ちゃんが……片腕で止めたのだ。


『なっ!? レベル2000のこの、フェンリルの本気の一撃を、片手で防ぐだと!?』


 本気で驚いてるフェルマァ。

 ふむ……確かに妙だ。


~~~~~~

ドラコ・ナイト

【種族】魔族(男爵級)

【レベル】1500

~~~~~~


 魔族ちゃんのステータスを閲覧する。

 おかしい。

 この子のレベルは、フェルマァより500も下だ。


 フェンリルの本気の攻撃を止められるわけがない。


「ふんっ。バカめ。我の闘気オーラで強化した腕力に、手も足も出ないとはなぁ!」


 魔族ちゃんが調子を取り戻していた。


 闘気オーラ


~~~~~~

闘気オーラ

→自然エネルギーを取りこみ、体内で燃焼させることで、爆発的運動・生命エネルギーを生み出す技術

~~~~~~


 この技術を使えば、瞬間的に強くなれるってことなのか。


 もう一度、全知全能インターネットで魔族ちゃんのステータスを閲覧する。


~~~~~~

ドラコ・ナイトの現在のレベル

→3000

(2倍・闘気オーラ状態)

~~~~~~

 

 やっぱり、闘気オーラを使えば、瞬間的に強くなれるみたい。

 それでフェルマァ(レベル2000)を圧倒してたのか……。


「くくくく……! どうだ! 見たか! 我の強さを! ふんっ!」


 魔族ちゃんが片腕で、フェルマァを持ち上げている。


「貴様には見えまい、この我を覆う闘気オーラが……!」

「いやぁ? 見えるけど」


 闘気オーラを検索した結果……。 魔族ちゃんを覆う、黄金の光が見えるようになっていた。


 多分あれが闘気オーラってやつなのだろう。


「ば、バカを言うな! 闘気オーラ修行を受けてないものでは、まず闘気オーラを見ることすらできんのだぞっ!」


「見えるもんは見えるの。ボックス、おいで、フェルマァ」

 

 所有物を取り出せるボックスを使い、フェルマァを手元に召喚。


『申し訳ありません……ミカ様……わたくしが弱いばかりに……!』

「相手が悪かったよ。レベルを瞬間的に倍にできるらしいし」


「なっ!? なぜそれを知ってる!?」


 魔族ちゃんがけっこーびっくりしていた。


闘気オーラの詳細ってトップシークレットなの?」

「魔族の秘中の秘だ!」


「え、でも君普通にさっきから闘気オーラとか言ってなかった?」

「……あっ!」


 やっぱりこの子……ちょっと残念な子供だわ……。

 もう完全に戦う気なくした。


 子供をなぶる趣味はないんだよ。


「もうやめない? 大人しく帰りなよ。ママが待ってるんでしょう?」


 おおお! と領民達から歓声があがる。


「聞いたかっ?」

「ああ、ミカりん様が、煽ってらしたぞ!」

「あの恐ろしい魔族を相手に、煽るなんて! すごい……!」


 いや……煽ってないけど……?

 魔族ちゃんのほうを見る。

 

 ごぉおおお! と魔族ちゃんの体から、さっきよりも大量の闘気オーラが噴出していた。


~~~~~~

ドラコ・ナイトの現在のレベル

→4500

(3倍・闘気オーラ状態)

~~~~~~


 三倍にもできるんだ。

 界●拳みたい。


「よくも我をぐろーしたな! もう許せん! 我の必殺奥義を持って、貴様をほーむりさってくれようぞ!」


 どうしよう、子供が頑張って難しい言葉使おうとしてるようにしか見えない……。


 というか必殺奥義?


~~~~~~

ドラコ・ナイトの必殺奥義

→気弾を使用する

~~~~~~


~~~~~~

気弾

闘気オーラを手中させ手のひらから弾状の気を出し、相手を攻撃する

~~~~~~


「食らえ! 我が必殺の……【|憤怒竜の一撃(ドラゴン・ブラスター)!】」


~~~~~~

|憤怒竜の一撃(ドラゴン・ブラスター)

→気弾をドラコが言い換えているだけ

~~~~~~


「あいたたたたた……」


「ミカりん様がダメージを負った……だと!?」「あの無敵のミカりん様が!?」「|憤怒竜の一撃(ドラゴン・ブラスター)いったいどんな攻撃なんだ!?」


 まあ、その、厨二病的痛さだ。

 魔族ちゃんは右手から「波ぁー……!」を出してきた。


 黄金の闘気オーラによる球体がこちらにやってくる。

 ドガァアアアアアアアン!


「そんな!」「魔族の本気の一撃をもろに受けて、無事で済むはずがない!」「おしまいだぁ……!」


「魔族をなめるからこうなるのだぁ~~~~~~~~~!」

「なめてないよ?」


「「「なにぃいいいいいいい!?」」」


 領民達と魔族ちゃんが同時に驚いていた。

 

「そんな! 魔族の本気の一撃をもろに受けて、無事で済むはずがない! おしまいだぁ……!」


 魔族ちゃん、セリフが領民達とかぶってますよ……?


『ミカ様、ご無事ですか!?』


 フェルマァが近づいてきて、ベロベロとなめてきた。


「大丈夫。絶対防壁ファイアーウォールで防いだから」

「なんだよぉお……絶対防壁ファイアーウォールってよぉお~……ひいぃーん……」


 泣いてる魔族ちゃんが不憫だ……。


「やだやだやだぁ! このままじゃ殺されちゃう! 天国のママと誓ったんだ! 長生きするって!」


 ……あれ、ママは死んじゃってるのかな?

 だとしたら……余計に可哀想。


「うぉおおおお! 4倍だぁ……!」


 レベルが6000になってる。

 凄いインフレ具合。


 でも、まって。

 魔族ちゃんの鎧の隙間から、ぶしゅっ……と血が出ているのだ。


闘気オーラによる強化は……段階を上げるほど、体に負担が……がはっ!」

「やめときなよ! 体壊すよ?」


「だまれっ!」


 また魔族ちゃんが、「波ぁ……!」の準備してる。 

 こうなったら、相手の戦意をそぐしかないな。


 こっちも同じ技で、威嚇してみよう。

 全知全能インターネットでやり方を調べて……。


「手のひらを前につきだし、闘気オーラを集中させて……」


 そう、全知全能インターネット闘気オーラを調べてから、私の体にも、闘気オーラがあることがわかったのである。


 キィイイイイイイン!


「あれ、ちょっと……?」


 私の手に平に、なんか体の倍くらいの大きさの黄金の気弾が生成される。


 私は魔族ちゃんに当たらないように、少し方向をずらして、気弾を放った。 


 チュドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!



 ……私の放った気弾は……山(ログハウスの無い山)を、吹っ飛ばした。


 パキィイイイイイイイイイイイン!


「え? 魔族ちゃんの鎧が衝撃波で砕け散った……?」


 そこにいたのは全裸の、女性だった。

 体つきが豊かだ。


 お尻とか胸とか、ばるんばるんだ。

 って……ええ? 女の子だったの……?


 魔族ちゃん(全裸)が、呆然とつぶやく。


「今のは、まさか気弾の究極奥義……【究極闘気砲アルティメット・オーラキャノン】?」


「え、ただの気弾だけど……」


「ただの気弾で、山を吹き飛ばす威力……きゅぅう……」


 どさっ! と魔族ちゃんが全裸で、仰向けになって倒れた。


 わっ……! と領民達が沸き立つ。


「魔族を一発KOしちまった!」『山を吹き飛ばすなんて、さすがミカ様!』

「我らが守護神は本当にお強い!」


 皆が両手を挙げて喜んでいたのだった。

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