第67話 村娘をSランク冒険者にまで育成する



 村娘ムジカちゃんのレベル上げに付き合ってる……のだけど。


「てやぁい!」


 ムジカちゃんが剣を振る。

 スカッ。


 相手はハイ・ゴブリン。

 ゴブリンはムジカちゃんの攻撃を軽々避ける。


「ギギギッ!」

「ひっ……!」


 ムジカちゃんが目をつむる。

 がきぃいん!


 ゴブリンの攻撃を受けても、ムジカちゃんは無傷。

 このダンジョンでは【絶対防御】が一時的に付与されるため、ダメージはない。


『あんまり上手いってないでやんすね』


 コアの言うとおりだ。 

 原因ははっきりしてる。


「ちょやー!」


 へっぴり腰のまま、ムジカちゃんが剣を振る。

 ゴブリンは軽々避けた。


~~~~~~

ムジカ

【種族】人間

【レベル】40

~~~~~~


 最初こそ、レベル5から一気に35まで伸びた。

 でもその後ののびが悪い。


「ぜえ……はあ……やっと倒せたぁ~……」


 ムジカちゃんがその場に倒れる。

 うん……言っとかないとね。


「ムジカちゃん、接近戦……嫌い?」


 見てて、魔物を怖いと思ってるのがわかる。

 攻撃時はへっぴり腰になるし、敵の攻撃にいちいち怯えてしまうのだ。

 

「うん……魔物を近くで見ると、体がびくってなっちゃうんだ」

「そっか」


「……おれ、冒険者に向いてないのかなぁ」


 泣きそうなムジカちゃんの頭を、私がよしよしと撫でる。


「接近戦が向いてないだけでしょ? なら、遠くから攻撃すればいいじゃん」


『魔法でやんすか? でも魔法使いは才能が重要になってくるでやんす。才能がないのに頑張って、時間を無駄にするなんてよくある話でやんす』


 人には向き不向き、そして才能というものが存在する。


 自分にどんな才能ぶきがあるのか、理解せず無駄な努力をして、人生を棒に振る……なんてこともよくある。


「でも大丈夫。こっちには、全知全能インターネットがあるからね」


~~~~~~

ムジカの冒険者としての適正ランキング

1位 狩人(適正S+)

2位 魔法使い(適正B)

3位 剣士(適正D)

~~~~~~


 全知全能インターネットには、その人の適正(どんながポジションが向いてるのか)、書いてあった。


「どうやらムジカちゃん、狩人の適性が一番あるみたい。次に魔法使いって感じ」


 ボックスから、家にあった伝説の武器を取り出す。


「これ使って」


 取り出したるは、翡翠の弓。


「高価なものなんじゃ……?」

「気にしないで。家にあってホコリかぶってたやつだし。使っちゃって」


~~~~~~

エルヴンボウ(SS)

→エルフ族に伝わる希少な聖なる弓。

魔法で矢が自動生成される。

※使用するためには、長い鍛錬を必要とする

~~~~~~



 使うためには鍛錬が必要って書いてあった。 

 でも……私は、この子なら使えるって思った。


「ギギギッ!」

「お、新しい魔物が出てきたよ。さ、やっつけてみよう」


 ちなみに、魔物が私(レベル∞の神)を見ても、襲いかかってくるのは、ダンジョンに入ってきたものを無条件で襲う……という性質が迷宮の魔物にはあるからだそうだ。



「さ、ムジカちゃん。頑張れ」

「お、おうっ!」


 ムジカちゃんエルヴンボウを構える。

 弦を引く。


 その姿は様になっていた。

 熟練の狩人を思わすほどだ。


 魔法の矢が生成される。


「いけっ!」


 すこんっ! と。

 ムジカちゃんの放った魔法矢は、ハイ・ゴブリンの眉間を打ち抜いた。


「ヘッドショット! ナイス!」


 頭を打ち抜かれたゴブリンはその場に崩れ落ち、動かなくなった。


 ムジカちゃんが指を見ながら、体を震わせる。

 武者震いってやつだろう。


「剣は、どうやって振ればいいのかさっぱりわからなかった。でも……弓は、わかった。こうすれば当たるって!」


「それは君に弓の才能があるからだね」


「ありがとう、ミカ姉ちゃんっ! 弓の才能があるって、教えてくれてっ!」

「いえいえーどういたしまして」


 私はただ全知全能インターネットに乗ってる情報を、閲覧して、教えて上げただけだ。


『すごいでやんすよ、マスター。自分にどんなものが向いてるのか、普通の人はそれを探し当てるのに長い時間がかかるのに……。マスターがいれば、それがすぐわかるなんて』


 コアが私を褒めてくれる。


「んじゃ、この調子でどんどん魔物倒してこっか」

「うん!」


 ややあって。

 ムジカちゃんのレベルを上げた私たちは、【緊急脱出】スキルを使って、ダンジョンの外に出た。


「ぐぎゃあ!」「ぎゃぎゃ!」「ぎゃーっす!」


 ……ダンジョンの外がちょっと騒がしい。


「!? ミカ姉ちゃん! アレ見て!」


 ムジカちゃんが正面を指さす。

 コアのダンジョンはアベールから2キロ離れた山の崖の中。 

 

 ダンジョンの出口……私たちが立っているのは、森の中なわけで……。


「え、何も見えないけど?」

「村の近くに、魔物が! 多分ドラゴン!」


~~~~~~

村の近くの状況

→アベールの街の周囲を、飛竜ワイバーン(Bランク)の群れが取り囲んでいる

~~~~~~


~~~~~~

ムジカが飛竜ワイバーンを発見できた理由

→遠くを俯瞰できる、【鷹の目】スキルを発動させたから

~~~~~~


「急がないと! 街が……じいちゃんの牛たちが! 飛竜ワイバーンに襲われちゃうよ!」


 街と、じいちゃん。どちらも大事なんだね。


「大丈夫だよ、急がなくても」

「どういうこと!?」


 私はムジカちゃんを連れて、アベールの街近郊に大転移グレーター・テレポーテーションする。


飛竜ワイバーンが……こんなに!?」


 視界いっぱいを埋め尽くすほどの飛竜ワイバーンたちを前に、ムジカちゃんは驚いている。


 飛竜ワイバーンは街に近づこうとするも、ばちっ、と見えない何かに侵入を阻まれる。


「ど、どうなってるの……?」

「龍脈地の聖なる魔力の効果で、魔物が街に近づけなくなってるんだ」


「そ、そうなんだ。良かったぁ……」


 ムジカちゃんが心からの、安堵の息をつく。

 本当にこの街と、そしてウシカじいちゃんのことが好きなんだね。


「さ、ムジカちゃん。出番だよ。こういうときのために、君は強くなったんでしょう?」


 私が言うと、ムジカちゃんが力強くうなずく。


 ムジカちゃんがエルヴンボウを構える。

 きぃいいいん! と銀に光る矢が生成される。


星の矢アサルト・ショット!」


 ムジカちゃんが上空めがけて矢を放つ。

 銀の矢は放物線を描き……。


 頂点となった場所で……分裂した。

 ズドドドドドドドッ……!


 さながら流星群のごとく、分裂した魔法の矢が、地上へ降り注ぐ。


「ぎゃ!」「ぐぎゅ!」「ぎゃああす!」


 飛竜ワイバーンたちは、魔法の矢に打ち抜かれて絶命する。

 草原には数え切れないほどの飛竜ワイバーンの死体が転がっていた。


「や、やったっ! やったよ、ミカ姉ちゃん!」

「うん、上出来。お疲れ」


 私が手を上げると、ムジカちゃんはその手にパンッ! とハイタッチする。


 しっかしまさかここまでできるようになるとは。


「おおい! 嬢ちゃん! ムジカぁああああああああ!」

「ウシカじいちゃん」


 村の外壁からやってきたのは、ムジカちゃんの祖父、ウシカじいちゃんだ。

 汗だくになりながら、ウシカじいちゃんがやってきて、孫を抱きしめる。


「しかし……驚いたぞい、ムジカ。なんじゃあの攻撃は!?」


 どうやらウシカじいちゃんはどっかからか、ムジカちゃんの戦う姿を見ていたようだ。


星の矢アサルト・ショットだよ! ミカ姉ちゃんに鍛えてもらって、使えるようになった、狩人のスキルさ!」


「鍛えて貰ったって……本当かの?」


 じいちゃんが私に確認を取ってくる。


「うん、すこしーしね」


~~~~~~

ムジカ

【人間】

【レベル】150

~~~~~~


「ほら、少し」

「なんじゃとおぉおおおおおおおお!?」


 じいちゃんが私のスマホを見て、その場で尻餅をつく。


「れ、レベル150!? 信じられん!?」

「あ、少なすぎた? たった145しかレベル上がってないから?」


「多過ぎということじゃああ!?」


 他の子(もふもふ達)は、四桁とか一瞬であがるから、てっきりレベル上昇率が低いってことで驚いてるのかと思ってたけど……。


「Sランク冒険者レベルじゃあ……」


 そういえば舎弟にする前の、黄昏の竜たちって、レベル75とかそこらだっけ。


「ミカ姉ちゃんの指導のおかげで、数時間でこんだけ強くなったんだっ」

「すごい……ミカ嬢ちゃん……やっぱただ者じゃあないのじゃあ!」


 まあまあ。

 さて、私はムジカちゃんの背中を押す。


「ほら、ムジカちゃん。おじいちゃんに、言うことあるでしょ?」

「う、うん……」


 ムジカちゃんがおずおずとじいちゃんの前に立ち、頭を下げる。


「じいちゃん、ごめんね。勝手に外に出て、魔物と戦って……心配かけて……ごめんね。おれ、じいちゃんの牛を守るために、強くなりたかったんだ」


 じいちゃんは笑って、ムジカちゃんの頭をポンポン叩く。


「わしのために、牛を守ろうとしてくれて、ありがとなぁ」

「じいちゃんっ!」


 二人が笑顔で抱き合ってる。


「嬢ちゃんも、ありがとうっ!」

「ミカ姉ちゃんっ。仲直りできたよっ!」


 うん、良かった良かった。皆笑顔が一番だもんね。

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