第68話 英霊と通信して領民達を教育する
あくる日。
ログハウスにて。
「ばうばう!」「わうわう!「…………」
二号館のリビングにあるこたつに入ってると、左右、そして膝の上に、子フェンリルたちが乗っかってきたのだ。
最近構ってやれてないからかな。
「すまないね、皆。最近ちょっとお外でいろいろやっててさ」
左右に座るふぇる太&ふぇる子の背中をかいてやる。
「わふ……♡」
「ばう……♡」
幸せそうな顔で、私にぴったり寄り添ってきた。
と、そのときである。
PRRRRRRRRR♪
「お、電話だ」
こたつの上のスマホに着信が入る。
「ばう!」
はぐっ、とふぇる太がスマホを口で拾って、ぴゅーっ、とどこかへ行ってしまう。
「ふぇる太~。スマホ返して~」
「ばうっ!」
スマホを加えた状態で、ぶんぶんぶん! とふぇる太が首を横に振る。
うーん、強情。
「ふぇる太、スマホ取ってきてくれたら、首の下わしゃわしゃしてあげ……」
「ばうー!」
言い終わる前にふぇる太が駆けつけて、私の隣にスライディングしてきた。
私はふぇる太の首下をわしゃわしゃと撫でる。
「あふ……♡」
気持ちよさそうに、口を開く。
ぽろっ、とスマホが落ちた。
「じゃ」
「ばうー!」「わおぉおおおん!」「…………」
抗議の声を上げるふぇる太&ふぇる子。
一方、ふぇる美は一人だけ前足を上げて、ふりふりしていた。
で、だ。
私を呼び出したのは、デッドエンドにいるリシアちゃんだ。
「何このたくさんの人たち……?」
アベール外壁の外には、おじいちゃんおばあちゃん、そして……ちびっ子達、あと少数の大人がいた。
全部で50人くらい?
「あ、ミカお母様っ」
「みかーちゃんっ!」
幼女領主リシアちゃんと……あとだぐ子(元最高神ダグザ)がなんかいた。
「リシアちゃんはともかく、なんでだぐ子が?」
「暇じゃったので、リシアに遊んで貰ってたのじゃ!」
自由だなぁ、元最高神。
「お母様、お休みのところすみません。お願いしたいことがありまして」
「お願い? 別にいいよ。なんでもいってごらん」
リシアちゃん親がいないのに、頑張り屋さんだから、なんとかして上げたいって思っちゃうのだ。
「実は、ここにいる領民達を鍛えて上げて欲しいのです」
「鍛える? どうしてまた急に?」
「どうやら、ムジカさんから、皆話を聞いたみたいでして……」
私に鍛えて貰って、レベルが150になったって話が、領民の間で広まったわけだ。
で、自分も……と思ったと。
「お願いします、ミカりん様!」
「わしらも鍛えてくだせえ!」
老人たち、子ども達から、頼まれる私。
「でも、どうして強くなりたいの、君たち?」
まず……おじいちゃんおばあちゃんたちが答える。
「わしらはリシアちゃんのために強くなりたいんじゃあ……」
「リシアちゃんは領地を守ってくれてるのに、あたしらジジババは何もして上げられてないからねえ」
ほんっとに、リシアちゃんって、ご年配のおじいちゃんたちに好かれてるよね。
「子ども達はどうして強くなりたいの?」
「強くなって、ゆーめーになりてえから!」「手に職を付けておきたいからですね」「り、リシアちゃんが好き……あわわ、なんでもないっ」
同世代くらい(五歳くらい)の男の子3人が答える。
子ども達は、ご年配たちと違って、そこまで本気って感じではない。
まあでも、子供らは未来のために、強くなろうとしてるみたいだ。
「で、そこの大人の方達は?」
ご年配組、子供組を除いた人たちに、私は言う。
「オレ達は門番をしてます」
「門番達がどうしてここに?」
「ミカりん様のおかげで、この街に魔物が入ってこなくなったのです。そうなると、門番のオレ達はやることがなくなってしまって」
領地が龍脈地化したことで、アベールの街、そしてその他の村(小さいけどあるんだよ)に、魔物が入ってこなくなった。
で、彼らが言うとおり、門番の人たちの出番が減った……。
「って、ごめんね。仕事奪っちゃって」
「ミカりん様が気にすることじゃあないですよ。それより……オレらも強くなって、壁の外の魔物を倒せるようになりたいんです。いまは黄昏の竜の様たちに、魔物狩りは任せっきりでしょう?」
現状、領地周りの雑魚は、リタたち黄昏の竜に討伐を依頼してる。
彼女たち4人は強い。
けど、逆に言うと4人しかいないのだ。
昼夜問わず働いてもらうわけにはいかない。
まあ、龍脈地(アベールの街等)に魔物は入ってこないとはいえね。
魔物を狩らないと外に出れないし。
「オレたち暇人が強くなれば、あの人達の負担が減るって思ったのです。無論リシアちゃんも含まれてます!」
なるほど……皆それぞれ、強くなりたい動機がちゃんとあるのが、わかった。
「OK! じゃあこのミカりんお母さんに、任せなさい!」
ということで、私はまず、
合計で50人いるので、まあ中々大変だった。
でも……もっと大変なのは、これからだった。
「50人をそれぞれ、個別指導するの……大変……」
50人の領民達は、それぞれ異なる才能があった。
剣士、魔法使い、僧侶……等々。
多種多様な彼らを指導するのには、人手が足りない。
もっと言うと……戦い方を教えられる人の種類が足りないのだ。
「レベルを上げるだけでは、不十分なのですか?」
「レベルが高いだけじゃ、魔物とは戦えないでしょ?」
いくらパワーが凄くても、当たらなければ意味が無い。戦い方を学ばないと。
さてどうするかな。
「がははは! 英霊を呼べばよいではないかのぉ!」
と、だぐ子が言う。
「英霊?」
「英雄の幽霊じゃ。あやつらは武芸、魔法のエキスパートじゃからなぁ」
「なるほど……英雄にお越しいただいて、指導して貰えばいいわけか。でも……どこにいるの英霊って?」
「モリガンのやつが知っておるぞ」
私はモリガンにラインをする。
相談がありますっと。
てててんってててんってててんっ♪
『ミカ! お久しぶりですっ』
「うん、久しぶり」
とんでもない早さで通話掛かってきたんですけど……。
仕事してるの、君?
「モリガンに聞きたいんだけど、英霊ってどこにいるの?」
『英雄の魂は天界で管理しています』
天使など、神々の住む世界に、英雄達の魂が存在するらしい。
「英霊をこっちに呼び出すことって可能?」
私は英霊達に、領民に指導をお願いしたいむねを伝えた。
『ミカの考えはわかりました。ですが……不可能です』
「というと?」
『一度天に昇った死者の魂は、生まれ変わる時以外に、天界を出ることができない。そういうルールなのです』
「最高神でも、こっちに連れてくることはできないんだ」
『ええ』
天に昇った死者の魂を連れてくることはできない。それは理解した。
ならば、どうやってそのルールの穴を着くかだ。
困ったときは、
「モリガン、今あんたんところに、KAmizonでタブレット買って送ったから、受け取ってくんない」
KAmizonは買った物を自分ところに送るだけでなく、相手の元にも送ることができた。
Amaz●nもそういうもんだしね。
「次に、英霊のところにそのタブレット届けて」
『わかりましたが……何をするんですか?』
「リモート修行だよ」
『り、リモート修行ぅ……?』
モリガンに頼んで、英霊の元へ行って貰う。
そして、タブレットに入ってる、ズームのアプリを起動して貰う。
『これで地上の人と会話できるでござるか??』
スマホの向こうには、銀髪の美青年が映ってる。
少し、体が透けて見えるのは、この人が英霊だからだろうか。
「こんにちは。私は長野 美香。一応……地上で神様やってます」
『ご丁寧にどうも。拙者は弓聖王オタク・イーダ・ディ・マデューカスと申します』
マデューカス?
こないだ行った帝国の名前……?
でも弓聖王っていうし……。
「弓の英雄さんってこと?」
『さよう。して、領民を鍛えてほしいのでござる?』
「そうなの。報酬は今んとこないんだけど……できれば教えてほしんだ」
死者にこの世界の金を渡しても意味ないし。
だから相手にお願いするしかない。
『あいわかった! 拙者の弓の技術でよければ、喜んで』
「え、マジでいいんですか? 無報酬ですよ?」
『その技術を使って、地上の人々が少しでも幸せになれるのであれば。それで十分でござるよ』
うーん……いい人。
「じゃあ、弓聖王さん。お願いしますね。こっちのムジカちゃんって子が、弓の才能あるんですけど……」
といった感じで、英霊と通信し、技術を教わるムジカちゃん。
少し、英霊から指導を受けただけで……。
~~~~~~
ムジカ
【種族】人間
【レベル】500
~~~~~~
150から一気にレベルアップだ。
『英霊からの直接指導は、魔物を漫然と倒すよりも遙かに経験値がありますからね。ズームを使って英雄に指導させるなんて、さすがミカ、あなたにしかできない、素晴らしい発想です』
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