第66話 村娘のレベル上げを手伝う
私たちはアベールの街へと戻ってきた。
ウシカじいちゃんの家にて。
「う……ここは……?」
「ムジカ! 目が覚めたのじゃな!」
ウシカじいちゃんが、涙を流しながら、ベッド上のムジカちゃんに抱きつく。
「おまえが無事で本当に良かった……!」
「じいちゃん……心配かけて、ごめん」
ムジカちゃんが、申し訳なさそうな顔をしてる。
一人でダンジョンへ行ってしまう子だから、もっとやんちゃな子かなって思ったけど、違うみたい。
「ねえ、ムジカちゃん。どうしてダンジョンなんかに行っていったの?」
ムジカちゃんが黙ってしまう。
「どうして?」
「う、うるさい! あんたには、か、かんけーねーだろ!」
ムジカちゃんがそういうと、ウシカじいちゃんは、怒りで顔を真っ赤にする。
「なんじゃその言い草! ミカ嬢ちゃんは、おまえを助けてくださったのじゃぞ!?」
「助けてなんていってねーし!」
ばっ、とムジカちゃんはベッドから降りると、走り去ってしまう。
「……ミカ嬢ちゃん、すまない。孫が大変、失礼なことをして……」
「いいって、気にしてないよ」
子供って生意気なものだし。
それよりも、私はどうしてムジカちゃんが、ダンジョンに行ったのか。
その動機が気になった。
「ムジカちゃん探してくるね」
私はウシカじいちゃんの家を出る。
牧場の端っこにいた。
「あ、いたいた。おーい」
「……なに、おばさん」
八歳の子供から見たら私はおばさんだろう。仕方ない。
「ちょっと君とおしゃべりしたくて」
「おれは、しゃべりたくないっ」
喋りたくないか。
まあ、よそもだもんね私。警戒する気持ちはわかる。
でも私はこの子とおしゃべりしたい。確認したいことがあるから。
警戒を解くためには、美味しいものが一番だろう。
KAmizonでおでんセットを購入し、お野菜眷属ちゃんに、あっためてもらう。
■から、肉まんを二つ取り出す。
「はい、どうぞ」
「は? なにこれ……?」
「肉まん。美味しいよ」
私はほかほか肉まんを一口食べる。
柔らかくて甘いパンに、餡のかかったお肉がとてもよくあう。
「ほふほふ……うまぁ」
言い忘れてたけど、今龍脈地の外って冬。
だから、あったかいものがいつもより美味しく感じるのだ。
「…………」じゅるり。
「どうする? いらないならもう一個、自分で食べちゃうけど?」
「……いる」
肉まんを、ムジカちゃんに渡す。
ムジカちゃんは一口食べて、目をむく。
がつがつがつ、と一気に食べてしまった。
「うっま! なにこれ!? めっちゃおいしい!」
結局、ムジカちゃんは肉まんを三個食べた。
美味しいものを食べたことで、私への警戒心が薄まったらしい。
「え、君女の子だったの?」
「見りゃわかるでしょ?」
わからないよ……。一人称おれ、だし。
「だったらさ、なおのことあんまり危ないことしないほうがいいんじゃあないの?」
「やだ。おれは強い冒険者になるんだ」
「お父さんやお母さんに憧れて?」
「…………ちげーし」
ウシカじいちゃんは、両親に影響を受けて、冒険者になりたいと思ってるのだろうと言っていたのだけども。
「じゃあ、なんで? 教えてよ」
「……じいちゃんの大事な牛たちを、守りたいんだよ」
肉まんのお礼か、ムジカちゃんが、自分の胸に秘めた想いを明らかにしてくれた。
「じいちゃんの牧場には、昔はもっと牛がいたんだ。でも魔物に食われちまった」
牛を食われて、悲しむウシカじいちゃんを見て、ムジカちゃんは魔物を倒す冒険者になりたいと強く思うようになったそうだ。
「両親の影響じゃあなかったんだ」
「おれを捨てた連中だぜ? 憧れるわけねーだろ」
私はムジカちゃんの頭を撫でる。
ようやく、この子の気持ちを、悩みを、理解できた。
「おじいちゃんが、大好きなんだね」
大事にしてる牛を失って、悲しむじいちゃんの顔が見たくない。だから、冒険者やりたいって。
「……じいちゃんには、ナイショにしてよな」
「もちろん」
しかし、いい子だな、ムジカちゃん。
「でも君は子供だ。7年後、成人するまで待てない?」
「無理。もう、じいちゃん歳だし。牛だって、2頭、しかもどっちもよぼよぼだしよ」
「なるほど」
「とにかく、おれは早く、冒険者になりたい。それが無理でも、魔物を倒せるくらいに、強くなりてえんだ」
「大好きなおじいちゃんのために?」
「……うん」
彼女の本音を聞いて、私は、領主の母として、領民の悩みをなんとかしてあげたいと思った。
「強くなりたいんだったね。じゃあ、レベルを上げて強くなるしかないね」
ってことで。
「【
一瞬で、私たちは、つい最近眷属にした、コアのダンジョン前まで移動していた。
「な!? は!? い、い、今の何!?」
「転移スキル」
「転移!? なにそれ!?」
「一瞬で離れた場所に移動する力のことだよ」
「す、すげえ……そんなことできるなんて……」
「少しは私の力、信じてくれた?」
こくこく、とムジカちゃんがうなずく。
さて、じゃ……
「コア、いるでしょ? 出てきて」
『お呼びでやんすか!? 主様!』
ふよふよ……とデフォルメされたマンティコアが、私の前に現れる。
このダンジョンの意志、コアだ。
「な、なにこれ……?」
宙に浮いてるコアを、ムジカちゃんが指で突く。
「私の友達」
ムジカちゃんは一度来たことがあるので、ここがダンジョンだって知ってる。
「ここでなにするの?」
「実践訓練。今から君には、ダンジョンの魔物を倒して貰います」
ムジカちゃんの表情が暗くなる。
気持ちはわかる。ついさっき、無謀にもダンジョンに挑戦して、大失敗したところだから。
「大丈夫。君は安全にダンジョン攻略できるよ」
「ど、どういうこったよ……?」
私は神アプリ《眷属になろう》を起動し、
~~~~~~
コア
【種族】ダンジョン
【称号】安全安心なダンジョン・コア
~~~~~~
《眷属になろう》で、称号をつけることで、コアに新たな能力を付与する。
『安新安全なダンジョン……? なんでやんすか、これ……?』
百聞は一見にしかずだ。
「ギシャシャ!」
ダンジョンの奥から、一匹のゴブリンが現れる。
~~~~~~
ハイ・ゴブリン
【レベル】50
~~~~~~
うん、弱い(比較対象レベル∞)。
「さ、ムジカちゃん。あれをまずは倒しましょう」
「いやいや! 無理だよっ! あんな強そうなのっ!」
緑の肌、とがった耳。異世界物でよくみる雑魚敵、ゴブリン。
「攻撃受けたら死んじゃうよ!」
「大丈夫。今の君なら、死なないから」
「わけわっかんないよ!」
「ほらいってきなさい」
とんっ、と私はムジカちゃんの背中を押す。
ゴブリンの前に躍り出る。
「ギシャァアアアアアアアアア!」
「ぎゃああああああああ!」
ゴブリンが持っている棍棒で、ムジカちゃんに殴りかかる。
ガキンッ……!
「……いっつぅ。って、あれ? 痛くない……? なんで……?」
~~~~~~
超安心安全ダンジョン
→ダンジョン挑戦者には、ダンジョン内でのみ、【絶対防御】、【緊急脱出】、【ミニマップ】、【危機感知】が付与される
・絶対防御→敵からのダメージをゼロにする
・緊急脱出→出口に一瞬で戻ることができる
・ミニマップ→周囲の地形を常に視界に表示できる
・危機感地→魔物の接近のあらかじめ知らせる
~~~~~~
「『なんだそりゃぁあああああ!?』」
ムジカちゃん、そしてコアすらも驚いていた。
「これで安心安全にダンジョン探索できるでしょ?」
『こんなのダンジョンじゃあないでやんすぅ!』
まあ危険が一切ないからね。
「私はここを、訓練場にしたいのよ。強くなりたい人用にね」
『ふぇええ……自分、ダンジョンなのにぃ~……』
ごめんよ。別に命の危険があるようなダンジョン、欲しくないんだ。
「さ、ムジカちゃん。ゴー」
「て、てやああ!」
ムジカちゃんがゴブリンに殴りかかる。
だが……相手がひるんでる様子はまるでない。
「駄目だ……かてえよ……」
「そっか。じゃ、これ使ってみて?」
「な、なんだよこれ……?」
「エクスカリバー」
「え、エクスカリバーぁ!? って、あの伝説の!?」
「そう。伝説の。それ使っていいよ。スペアがいっぱいあるし」
「スペア!? いっぱい!? ええええ!?」
神鎚ミョルニルで、うちにあったエクスカリバーを複製したから。
「え、えっと……せええい!」
ムジカちゃんがエクスカリバーで斬りかかる。
軽く、振った。
ズバァアアアアアアン!
放たれた強烈な斬撃が、ゴブリンを一瞬で消し飛ばしたのである。
「な……にこの威力……!?」
~~~~~~
ムジカ
【種族】人間
【レベル】35
~~~~~~
お、レベルが5から一気に35になった。
「さ、ガンガンレベルあげてこっか」
「お、おう! 望むところだぜ!」
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