第65話 ダンジョン(ボス)を眷属にする



 迷宮主ボスモンスターの部屋の扉を開ける。


迷宮主ボスモンスターは、この迷宮最強の魔物らしいぞ、気をつけるのじゃ」


 まあ大丈夫でしょう。

 扉が重々しい音を立てて開ききる。

 中は石畳の、けっこー広いホールとなっていた。


 ウシカじいちゃん……大丈夫かな。魔物と戦闘になるけど。

 まあでも、私が守れば良いか。


 ズズゥウン!


「!? わしらが入った途端、扉が閉じたのじゃ!?」


~~~~~~

迷宮主ボスモンスター部屋の仕組み

迷宮主ボスモンスターを討伐するか、挑戦者が死ぬまで、この部屋に入った物は出れない。

この部屋では転移も無効

~~~~~~


 じゃあ、迷宮主ボスモンスターを倒さないと私でも外に出れないわけか。

 まあ楽勝。


 ホールの奥に、人くらいの大きさのクリスタルが浮いていた。


~~~~~~

迷宮核ダンジョン・コア

→ダンジョンの心臓部。

破壊することでクリアとなり、迷宮は消滅する。

~~~~~~


 なるほど。じゃあアレを壊せばいいわけか。 

 近づこうとした、そのときだった。


 床に巨大な魔法陣が出現した。

 かっ……! と魔法陣が光り輝くと、下から大きな何かが這い出てきた。


「あ、あ、あ、アレは……ままま、まさか……!」


~~~~~~

・マンティコア(SSS)

→顔と胴体がライオン、翼は蝙蝠、尻尾はサソリの合成獣

~~~~~~


 10メートルくらいの、マンティコアが出現した。


『ギャオォオオオオオオオオオオ!』


 マンティコアが叫び声を上げると、空気がビリビリと鳴動する。

 ぺたん……とじいちゃんが尻餅をつく。


「お、おしまいじゃあ……あんなバケモノ、勝ってこないのじゃあ……」

「じいちゃん、下がってて」


 私がスタスタと、マンティコアに近づいていく。


 マンティコアの足下までやってくる。

 近くで見ると、10メートルの魔物ってけっこーでかいね。


『ギャオオオオオオオオオオオ!』

「…………」すん。


『ガオォオオオオオオオオオオ!』

「…………」すん。


『ぎゃ、ぎゃお……』

「…………」すん。


『あ、あのぉ……』


 あれ? しゃべり出した?


「どうしたの?」


 マンティコアが、額に汗をかきながら、言う。


『こ、怖くないのであるか……?』

「え、うん。だって、もっと強そうな魔物と、私あったことあるし」


『わ、我が輩よりも強い魔物? そんなのいるのかっ?』

「うん。フェンリルとか、九尾の狐とか、四神とか、麒麟とか、窮奇きゅうきとか」


 ぽかーん……とマンティコアが口を大きく開く。


『ば、バカな……そんなバケモノと戦ったことがあるというのかっ?』

「え、戦ってないよ。みんな友達」


『と、友達い!?』


 マンティコアが前渡した表情で私を見ている。


『う、ううう、嘘だ! 嘘である!』

ボックス。おいでフェルマァ」


 ボックスから出てきたのは、巨大もふもふこと、フェンリル。


『ふぇ、フェンリルぅううううう!?』


 マンティコアが驚愕する。

 フェルマァがじろり、とマンティコアをにらみつける。


『なんですか、あなた?』

『オロロロロロロロロロロロ!』


 フェルマァににらまれて、マンティコアがゲロ吐いていた。


「だ、大丈夫、きみ……?」

『ひぃー……! ひぃー……! ほんもののふぇんりるだぁ~……ふぇええ……こわいよぉおー……』


 なんか、見てて可哀想なくらい怯えてた。


『ふんっ。わたくし程度に恐れをなすとか。ミカ様の本当の実力を見たら、失神死してしまいますよっ』

『なにぃぃいい!? そ、そこの女性は、フェンリル様よりもお強いのですか!?』


 ま、もう襲ってこなさそうだし、ほっとこう。今はそれより人命優先。


「ウシカじいちゃん、お孫さん探そ」


 フェルマァがマンティコア相手にマウントとってる間、私たちは部屋の中を探索。


「ムジカ!」


 部屋の片隅にて、ムジカが倒れていた。

 ふわふわの髪、焼けた肌の男の子……だよね?


 でも、ずいぶんと可愛い顔してる。

 ウシカじいちゃんがムジカの胸に耳を当て、ほっ……と安堵の息をつく。


「生きておる……」

「そりゃよかった」

「ああ! ありがとう、ミカ嬢ちゃん!」

「どういたしまして。無事で良かったよ」


 しかし迷宮主ボスモンスターの部屋にいるっていうのに、よくムジカちゃん? くん? 無事だったな。


「あのー」

『なんでやんすか!?』


 やんすか……?

 マンティコアが伏せポーズのまま、ガタガタ震えてる。


「フェルマァ……あんたちょっと脅しすぎ」

『ミカ様の偉大さを伝えてただけですっ』


 この子誇張するからなぁ。


「部屋の隅にいた子、無傷なんだけど、どうして? 迷宮主ボスモンスターって、入ってきた人間を無条件で殺そうとするんでしょ?」


 そういうプログラム的なものが、迷宮主ボスモンスターには組み込まれてるって、全知全能インターネットに書いてあった。


『実は……自分、迷宮主ボスモンスターじゃあないでやんす』

「は……? どういうこと?」


『正確に言うと、自分、迷宮の意志そのものでやんす』


 迷宮の意志……そのもの……?


「ちょっと理解できないんだけど……」


 全知全能インターネットで検索検索。


~~~~~~

迷宮の意志

→ナガノミカが、神器(神鎚ミョルニル)を使い、ダンジョンに神の魔力を流し込んだ結果、迷宮に自我が芽生えた

~~~~~~


「え……? うそ……私がやっちゃったの?」


『自分、あなた様が魔力をながしたことで生まれた……いわば、あなた様の子供でやんす! だから殺さないでほしいでやんす!』


 ずしゃーっ、とマンティコアが平伏する。


「し、信じられん……! 迷宮主ボスモンスターが、人間に平伏するなんて事例、聞いたことがないのじゃっ!」

『当然ですっ。ミカ様にしかできぬことっ!』


 つまり、神の力を流し込んだ結果、予想外の事態が起きてしまったってこと?


『それで、ミカ様。これから、どうしましょう?』


 ダンジョンから出るためには、侵入者が死ぬか、迷宮核を潰すしかない。


「迷宮核を潰したら、マンティコアはどうなる?」

『死ぬでやんす!』


 まあそうなっちゃうよね。


『お願いでやんす! 死にたくないでやんす!』

「じゃあ出口開けてよ」


『それはできないでやんすぅ~……』

「なんで?」


『ダンジョンは核を潰さぬ限り、出口を作れないものでやんす~……』


 うーん……どうしよう。


『ミカ様、別に殺してしまってもよいのでは?』

「待ってよ。可哀想でしょ?」


 だって悪い子じゃなさそうだしね。


「君さ、ムジカちゃんを傷つけなかったよね?」

『は、はいでやんす……子供だったし……』


 ほら悪いやつじゃあない。

 だから殺せない。

 全知全能インターネットで上手いやり方を検索。よし。


「じゃあ、君。私の眷属になってよ」

『け、眷属……?』


 眷属について説明する。


『な、なるほど……で、ですが……自分、真物じゃあなくて、ダンジョンそのものでやんすよ? できるんです?』


「ほら、ダンジョンって生き物に例えられるじゃん? 行けるよ」



 眷属にすれば、このダンジョンも掌握できる。そうすれば出口ができるらしい。


 この子を殺さずにすむし。


『な、なるほど……お願いしますでやんす!』


 私はこのマンティコア、もとい、ダンジョンに名前を付けることにした。


 この子は迷宮核……。コア……。マンティコア……。あ。


「コア。君、今日から【コア】ちゃんね」


 その瞬間だ。

 迷宮核が強く輝きだしたのだ。


 核がみるみるうちに小さくなっていく。

 手のひらサイズになると、私の元へ飛んできた。


 ぱぁ……! と迷宮核が強く発光すると……。


 ちっこいマンティコアが、宙に浮いていた。

 首からは、ダンジョンコアをぶら下げている。


「コアちゃん。ちっちゃくなったね」

『え、まじでやんすか……?』


 スマホで写メして、それをコアちゃんに見せる。


『なんでやんすか! このプリティな生き物はっ!』

「君だよ」


『か、可愛い……自分、可愛いでやんす~♡』


 どうやら気に入ったようだ。

 

「コアちゃん。出口出せる?」

『できそうでやんす! ただ、命令してほしいでやんす。そうすればできるでやんす!』


「ふーん。じゃあ出口を出せ」


 ぱぁ……! と部屋の奥に、魔法陣が出現した。

 私はウシカじいちゃんを連れて、魔法陣を践む。


 一瞬で目の前の光景が切り替わる。

 洞窟の入り口に戻っていた。


「おおおお! でれましたのじゃあ!」


 ムジカちゃんをおんぶするウシカじいちゃん。

 ほ……無事外に出れた。


「で、ダンジョンは……無事ね」

『はいでやんす! ありがとうございます、ご主人様っ。死なずにすみましたでやんす!』


 続いて、ウシカじいちゃんが私にバッ、と頭を下げる。


「嬢ちゃん、ありがとう! 孫を救ってくれて!」

「いえいえ、どういたしまして」


 続いてフェルマァが出てきて、私にのしかかってきた。


「重い……」

『さすがですミカ様! ダンジョンを手中に収めてしまうなんて!』


 あ、そっか。コアちゃんの主となったということは、ダンジョンを手に入れたってことか……。


「ダンジョンをも配下にしてしまうなんて、すごいのぉ、ミカ嬢ちゃんはっ!」


 

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