第64話 迷宮に迷い込んだ子供を助けに行く
ある日のこと。
デッドエンド領、アベールの街のはずれにある、ウシカじいちゃんの牧場を訪れていた。
きゅうベ
「どうしよう……困ったのじゃあ……」
上半身マッチョのおじいさん、ウシカじいちゃんが、何やら深刻そうな顔をしていた。
「おはよ。どうしたの?」
「おお! ミカ嬢ちゃん! 良いところにっ! 大変なんじゃあ!!」
ウシカじいちゃんが青ざめた顔をしてる。
本当に何か大変な事態が起きてるのだろう。
領主の母として、見過ごせないね。
「何があったか教えて?」
「実は孫が行方不明なんじゃあ……」
「孫?」
「ああ。【ムジカ】といってなぁ。冒険者やっておる息子夫婦が、育てられないからといって、わしに預けてきてな」
なんて無責任な人たち……。
「しかしムジカは、親を過大評価しておってな。王都で冒険者をやってる凄いやつじゃと。いずれ、自分も凄い冒険者になるんだと息巻いておってのぅ」
実態が見えないと、過大評価しがちだよね。
「じゃが、ムジカはまだ8歳での」
「確か15歳、成人にならないと、冒険者登録できないんだっけ?」
「うむ成人するまで待てと言っても聞かなくての。昨日口論になってしもうてな。で……今朝見たら孫がいなくなっておったのじゃあ……」
……可哀想に。うん。領主ママとして、なんとかしてあげないと。
「わかった。私が探してあげる」
「おお! いいのかい!?」
「もちろん」
「ありがとう、ミカ嬢ちゃん! じゃあ、さっそく村のものに声をかけて、捜索部隊を組んで……」
「必要ないよ」
「な、なんでじゃ?」
「だってわかるから、どこにいるのか」
困ったときは
~~~~~~
・ムジカの居場所
→アベール北西2キロ、山肌に出現したばかりの新規ダンジョンの中にいる
~~~~~~
ダンジョン。
この世界に存在する、魔物を内包する危険な地下迷宮、あるいは、洞窟等のことだ。
ダンジョンは、生き物に例えられる。ある日突然生まれて、人を食らって、成長していくから。
「ウシカじいちゃん、ムジカは新しくできたダンジョンに入っちゃったみたい」
「な、な、なんじゃとぉ~~~!?」
じいちゃんの顔からさらに血の気が引く。
非力な子どもじゃ、ダンジョンの魔物を倒せない……。
がくんっ、とウシカじいちゃんが膝をつく。
「もうダンジョンの魔物に食われて、死んでしまったんじゃ……」
「大丈夫、生きてる。私が、保証する」
だから、生きてる。
「私が助ける。私を信じて」
「………わかった。信じよう」
けっこーあっさりと私を信じてくれたな。
「リシア様がおっしゃっておったよ。お母様は凄い人だって。どんな困難も解決してくれるとな」
リシアちゃんって本当に、領民たちから愛されてるんだな。
「ちょっとダンジョン行ってくるね」
「わしも行くぞ! ふぅんぬ!」
牧草用の鋤を片手に、気合いを入れるじいちゃん。
きゅうベ
じゃあ、大丈夫か。
孫が心配で、早く無事を確認したいだろうし。私が居ればまあ大丈夫だろうから。
「
『呼びましたかミカ様~~~~~~~~~~~~~~~~!』
馬鹿でかいフェンリルの、ご登場だった。
母麒麟、マーリンを呼ぼうと思ったのに……。
「な、ななな、なんじゃあこりゃあ!?」
巨大フェンリルが現れて、完全に、ウシカじいちゃん腰抜かしちゃってるし……。
「この子は私の相棒。はい挨拶」
『こんにちは。わたくしはフェルマァ。ミカ様のNo.1配下ですっ』
ほんと一番を主張するよね君……。
「まさか、このデカい魔物は……」
「これは……」
『誇り高きフェンリルです!』
ああもう……また勝手に……。
「ふぇふぇふぇ、フェンリルぅううううううう!?」
またも驚くじいちゃん。
腰痛めちゃうよ……。
「す、すごいな嬢ちゃん! まさか、あの伝説の魔獣、フェンリルを従えてるなんて!」
仕方ない……もうバレちゃったし。
今更、実は
「フェルマァ。今からダンジョンに向かうから、乗っけてってくれない」
『お安いご用です! さぁ、お乗りくださいませ!』
フェルマァが私たちの前で跪く。
私、そしてウシカじいちゃんが乗っかる。
「きゅうベ
すれ違わないようにね。
こくんっ、ときゅうベ
「出発!」
『らじゃ!』
バビュンッ!
ぎゅぅううううううううううううううううううううううううううん!
『つきましたっ!』
「は、はやいぃい~……」
ウシカじいちゃん、凄いふらふらだった。……もう。
「フェルマァくん? ウシカじいちゃんは一般人なんだよ? 少しは手加減をだね……」
いや、待てよ。
ダンジョンにとらわれた子どもを、早く助けないと、って思って全速力で駆けたのかも知れない。
そうだった場合、否定するのはよくないか。
『どうですミカ様っ。2キロの距離を10秒で駆け抜けましたよっ! ほめてほめてっ!』
……前言撤回。
ただ私に足の速さを褒めて欲しいだけだった。
こんの……駄犬め。
てゆーか、2キロを10秒って。
つまり、時速720キロでしょ……?
マッハ1が約時速1200キロらしいから……。
「どんな速度出してるのっ。落ちたら怪我じゃすまないでしょうがっ」
『きゃいーん……ごめんなさい……』
最悪、じいちゃんが転げ落ちたとしても、
「フェルマァ、お座り。入り口で待機」
『しかしダンジョンは危ない……』
「おすわり!」
『きゃわんっ!』
また暴れられても困るので、待機させて億ことにした。まったくもう……。
「ミカりん嬢ちゃん、早く……いこう」
「大丈夫、じいちゃん。ここで待っててもいいんだよ?」
凄いふらふらだし。
「孫が、待っておる。いくぞ」
「……わかった。でも無理は厳禁だからね」
ということで、じいちゃんと一緒にダンジョンに入ることに。
私たちのいるダンジョンは、山肌の洞窟にできたダンジョンだ。
中はむき出しの地面で作られた通路が、どこまでも延びている。
「しかし、ムジカはどこにおるんじゃろうか……?」
「ちょっちまってね」
~~~~~~
・ムジカの居場所
→
~~~~~~
~~~~~~
→ダンジョン最下層に存在する、ダンジョン内最強の魔物。迷宮の核を守る守護者。
~~~~~~
「
「なんじゃとぉおおお!? どうして!?」
~~~~~~
・なぜムジカが
→転移トラップにひかかって、
~~~~~~
ダンジョン内には様々なトラップが存在する。
践むと、別の場所に強制移動させられるタイプの罠を、ムジカは践んじゃったみたい。
「おしまいじゃ……ダンジョンの最下層だなんて、熟練冒険者でも到着に日数を要する……その間に……
「大丈夫。間に合うよ」
「神鎚かりるよ」
どーぞっ、とサツマ君がモリガンからもらった神鎚ミョルニルを渡してくる。
「な、なんじゃあ、そのハンマー」
「なんでも作れるし、直せるハンマー」
「それでなにを……?」
神鎚ミョルニルには、超錬成という、どんなもののも、自在に形を変えることのできる、特殊スキルが付与されてる。
そう、どんな物でも……だ。
「【超錬成】!」
私はダンジョンの床を、かつーん! とたたく。
瞬間……。
ごごごごごごごご……!
「な、なんじゃ!? ダンジョンが鳴動しておるぅう!?」
ぐにゃああ……とダンジョンの通路が曲がったり折れたり、回ったりする……。
そして……。
「
「えええええええええ!?
立派な扉の前で、じいちゃんが腰を抜かす。
「ば、バカな……どうなってるんじゃあ……?」
「ダンジョンの形を作り替えたの。神鎚ミョルニルでね」
このハンマーはどんなものの形も変えられる。
だからダンジョンそのものの形を変えて、入ってすぐが
「ダンジョンの形を変えるなんて、聞いたことがない……まさに……神業じゃあ……」
素性を明かしてないのに、なんかもう神ってバレていた。
まあこんだけのことしたらね。
でもしょうがない、今は緊急時だから。
「いくよ」
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