第63話 領主の屋敷を現代グッズで改善する



 歓迎会をした後……。 

 私はリシアちゃんと一緒に、デッドエンド領、首都アベールへと戻ってきた。


「リシア様~~~~~~~~~~!」


 リシアちゃんの執事、セバスチャンさんが、彼女に抱きつく。


「大変心配しましたぞっ! 屋敷が木っ端みじんになったとおもったら、リシア様のお姿が見えなくなったので!」


 だぐ子襲撃後、私はリシアちゃんを連れてデッドエンドを離れていたのだ。


 デッドエンドの人たちからすれば、あの事故(だぐ子の攻撃)によって、リシアちゃんが行方不明になったと思われても仕方ない。


「ごめんなさい、皆さん……」


 しゅん、とリシアちゃんが申し訳なさそうに肩をすぼめる。


 私はミカりん姿でセバスチャン他、屋敷の人たちに謝る。


「彼女を連れ回しちゃってごめん」

「ミカりん殿、出かけるならひとこと言って欲しかったでございますよ」


 するとリシアちゃんが私の前に立ち、手を広げていう。


「セバスチャン、お母様を叱らないでっ」

「お、お、お母様ぁ~~~~~~~~!?」


 セバスチャンさんが素っ頓狂な声を上げる。


「どどどど、どういうことですかっ!?」


 セバスチャンさんがリシアちゃんの肩に手をかける。

 一方で、リシアちゃんは目をきらっきらさせながら言う。


「ミカりん様の養子になったの、わたしっ」

「養子ぃ~!?」

「うんっ! ねー、お母様っ!」


 セバスチャンさんはじめ、使用人さんたちが、私に向けるのは疑惑のまなざし。


 私の立場は素性の怪しい冒険者だ。

 しかも急にふらっと領地に現れてきて、急に領主となかよくなり、そして急に母親になった。


 ……うん。どう考えても、怪しい。

 リシアちゃん騙されてるんじゃあないの? と、誰もが思ってることだろう。


 さて……。

 現状私はリシアちゃんの使用人たち全員から、疑惑の目を向けられてるわけだ。


 なら、どうする?

 彼女のために行動して、彼らの信用を勝ち取るのみだ。

 私リシアちゃんの母親になるって決めたし。

 決めた以上は、リシアちゃんのこと、そしてこの家のことも守らないと。


「まずはぶっ壊れた屋敷を直しましょう。ボックス、オープン!」

 

 ボックスから出てきたのは、頭がサツマイモの眷属、サツマ君。


 その背中には黄金のハンマー、神鎚ミョルニルが装備されてる。


「とりあえず、軽く元通りにしてあげて」

「…………」ぐっ!


 サツマ君は親指を立てると、神鎚ミョルニルを手に持って、てこてこと地面を歩く。


「ミカりん殿、いったい何をなさるおつもりですか……?」


 セバスチャンさんが険しい表情で聞いてくる。

 詐欺師とか思ってそう。


「壊れたお屋敷を直すの」

「どうやって? 大工でも呼ぶのですか?」

「必要ないよ」


 サツマ君が神鎚ミョルニルで、屋敷の破片をかつーん! とたたく。


 カタカカタカタ! っと、破片がうごめき出す。

 ぎゅんっ! と破片が一箇所に集まり……やがて見事に屋敷が元通りになった。


「な、な、なんじゃこれはぁあ……!?」


 セバスチャンさんが驚き、腰を抜かす。


「あの粉々になったお屋敷が、一瞬で元の姿に戻った、ですとぉお!? いったいどうやって……!?」


 この人たちは眷属が見えないんだっけ。


「私の魔法で直したの」

「魔法で!? こんな……一瞬で壊れた建物を直す魔法なんて、聞いたことがありませぬぞっ!」


 あってもいいのにね、そういう魔法。便利だし。


「とりあえず住む場所は元通りになったわ。さ、中に入りましょう、皆?」

「はーい!」


 リシアちゃんは素直に、他の使用人達は、困惑しながらも、しかし付いてくる。


 がちゃり、と中に入る。うん、中の調度品とかも元通りになってる。

 でも……


「掃除が行き届いてないね」

「……使用人の数が少ないのです」


 確かに、領主の館ってめっちゃ広いんだけど、中で働いてる人の数って、敷地面積の割に少ない。

 

「先代がお亡くなりになられて、使用人がやめていったのです……。ここには未来がないと……」


 ……なるほど。

 薄情な人たちだ。


「じゃあ、お掃除が楽になるように、私が力をかしてあげましょう」


 私はKAmizonで、それを購入する。

 ぼんっ、と段ボールが転送されてくる。


 円盤形の、自動掃除機だ。

 床に置いて、電源ボタンを押す。


 ここは龍脈地化してるので、家電も問題なく動くのだ。


 ウィイイイイイイイン!


「う、動いたぞ!?」「なんだこの珍妙な魔導人形ゴーレムは!?」


 こないだの薬草拾いのときに、リシアちゃんが芝刈り機を魔導人形ゴーレムといったのを覚えていた。


 だから、私は便利グッズの一つである、このルンバを躊躇無く購入したのだ。


「すごいぞこの魔導人形ゴーレム! 床のホコリやゴミを吸っている!?」

「そんな! 中に人でも入ってるんじゃあないの!?」


 現地人達がルンバに驚いてる。 

 掃除機すらないもんね、こっちの世界って。


「後はほっとけば、勝手に掃除をやってくれるよ。休まずにずっとね」

「そ、そんな……無休で働くだなんて……すごい……」


 感心するセバスチャンさん。

 掃除はこれでOK。


「じゃ次は洗濯ね」


 これもKAmizonで洗濯機を購入した。


 最近のAmaz●n、もといKAmizonってマジで何でも売ってる。

 ドラム式洗濯機を購入。


「これは……なんですかな?」

「洗濯機っていう……あー、魔道具。自動で選択をしてくれるんだ」


「んなっ!? なんですとっ!? 自動で洗濯!? ば、バカな……ありえないです!」


 私は電源を入れて、ドアを開ける。

 使用人のたまっていた洗濯物を、ばんっ! と中に入れて、ボタンを押す。ぽちっとな。


「これで洗濯はOK。乾燥までしてくれるんだこれ」

「そんなバカなことがあってたまりますかっ!?」


「ほんとだよ。しばし待たれよ」


 ややあって。

 洗濯機から、完璧に乾燥された洗濯物がでてきた。


「ふわっふわだ!? しかも……すごい良い匂いまでするでございます!?」


 セバスチャンさんと洗濯担当の使用人さんたちが、驚愕してる。


「これは……いったい……?」

「魔道具」


「ま、魔道具……洗濯を自動でやって、しかも乾かしてくれる……そんな便利な魔道具が、あるなんて……」


 ざわついている使用人達。


「これ、皆勝手に使って良いよ。これがあれば面倒な洗濯の時間を、短縮できるでしょう?」


 私が使用人達に言う。


「リシア様の新しいお母様すごいな……」

「ああ、不思議な魔法の道具をたくさんもっていらっしゃる」


「それらを惜しみなく我らに提供してくださる……」

「リシア様を利用しようとする悪い魔女ではないみたいだな……」


 これだけ便利グッズを持っているんだ。

 巨万の富を築けるだろう。

 でもそれをせず、リシアちゃんのために無償で提供してる。


 使用人さんたちの目の色が、少しずつ変わってるのがわかった。

 一方セバスチャンさんはまだ懐疑的な目を向けている。


 そのときだった。


「あ……」


 ふらり……とリシアちゃんが倒れそうになったのだ。


「どうしたの?」


 私は彼女を抱き留める。


「すみません、ちょっと……寝不足で……」

「それはいけないね。よし、寝よっか」


 私はリシアちゃんを抱っこして、寝室へと移動。

 ……これがまあ、酷いベッドだった。


 かっちかちだし、布団なんてペラペラ。

 私は古いベッドをボックスに入れて、新しいベッド、および羽毛布団を購入する。


「ふわわわあぁ……やわらかい……あったかぁい……」


 リシアちゃんがとろんとした顔で言う。

 私はリシアちゃんを寝かせる。


「おかぁさまぁ~……一緒に、寝てぇ~……」

「!? あの、リシア様が……わがままを!?」


 セバスチャンさんが驚愕してる。


「いいよ」

「やぁったぁ~……♡」


 私はリシアちゃんの隣で横になる。

 ぽんぽん……とリシアちゃんのお腹を優しくたたく。


「すぅ……すぅ~……」


 良いベッドと布団のおかげか、リシアちゃんはすぐに眠りに落ちた。


 私は立ち上がって、部屋を出る。

 そこには、セバスチャンさんをはじめとした、使用人さんたちが立っていた。


「申し訳、ありませんでした!」


 セバスチャンさんがそういうと、皆が頭を下げる。


「あなた様はリシア様を利用する悪い御方だと、疑っておりました」

「そうだろうね」


「ですが……我々が間違いだったと、気づかされました。あなた様の行動は、すべて、リシア様のためを思ってのものでした」


 リシアちゃんの暮らしが、少しでもよくなるようにと、考えてやったことだ。


「あんな安心しきった寝顔を見たのは、最近では初めてです。先代様がおなくなりになられてから様は、毎晩、一人ベッドでこっそり泣いてばかりでしたので……」


 まだリシアちゃん子どもだし。親の死を簡単に乗り越えられるわけが無い。


「リシア様はあなた様を心から、信頼し、愛してるのがわかりました。我ら一同、あなた様を信用することにしました」


 私のことは信じられなくても、一緒に過ごしてきた、リシアちゃんのことは信じられる……って理屈だろう。


「どうか、これからもリシア様をお守りください」


「うん。それと、君たちのことも守っていくよ」

「ありがとうございます。我らは幸運でした。あなた様という素晴らしい人に仕えられるのですからっ!」

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