第61話 死刑が決定した最高神を助ける



 最高神ダグザを、泣かせてしまった、そのときだ。

 私たちは、一瞬で、真っ白い何もない空間にいた。


「どこ、ここ?」

「天の門ですよ、ミカ!」


 この場には、駄女神トゥアハーデ、上級神モリガン、眷属神リシアちゃんがいる。


「天の門って?」

「天界と人間界との境界の世界です。死後の魂、そして神しか入れない神聖なる場所です」


 あの世とこの世の境目ってことか……。


「で、なんで天の門に私らいるわけ?」

おれが呼んだからだ」


 すぅ……と上空から豪奢な椅子が、降りてくる。

 その椅子に腰掛けていたのは、金髪の美青年だ。


 歳は20くらいか。

 サラサラの金髪に、紅玉の瞳。


 その目は鋭く細められており、眼光は肉食獣のように鋭い。

 白い布で体を覆っている、半裸の金髪イケメン、というのが私のこいつへの印象だ。


「あんた、誰?」

「くくく! 面白い……! おれを知らぬ神がよもやいるとはな」


「新米神様だもんでね」

「ふっ……良かろう。おれの名は【ゼウス】! 最高神ゼウスだ!」


 ゼウス……え、また最高神?

 こう何人も(柱も?)最高神がポンポン出てこられたら、ありがたみが薄れるというか……。


「まるで最高神のバーゲンセールね」

「ふははは! なんとも愉快!ここまで無知な最高神は初めてだぞ」


「なにそれ? 他にも最高神っているの……?」

「無論。最高神は何もそこのダグザ一人だけではない。この世には、複数の世界があるのは知ってるな?」


「知らないよ」

「あるのだよ。ダグザは貴様らが住むこの世界の最高神に過ぎん」


 他にもマルチバース世界があって、そこにはそれぞれの世界事に最高神がいるとかな?


「まあダグザの場合は、元・神だがな」


 ゼウスが座ったまま手を上げる。

 瞬間、上空からジャラジャラ……と無数の鎖が降りてくる。


 そして、その鎖は、赤髪幼女ダグザを拘束していた。


「趣味が悪いんじゃあないの? あんたもロリコンなの、ゼウス?」

「莫迦が。あんなのおれの趣味じゃあない……。どちらかというと、今、おれの興味はおまえにあるぞ」


 え……きしょ……。


「ふははあ! 最高神議会リーダーに、きしょいか! 面白いな……!」

「そのちょいちょい出てくる最高神議会ってなに?」


「最高神たちの集まりだ」


 なるほど、マルチバース世界の神々の集まりね。

 そいつらのトップがこいつなんだ。へー。


「最高神議会で協議の結果、最高神ダグザの秘匿死刑が決まった」

「死刑ですって……!?」


 モリガンが驚愕の表情をしてるからか、ゼウスが説明する。


「この阿呆は、羽衣で反物質を作り、この宇宙を消滅させようとした。危険すぎる。よって処分が決定した」


 ちょっと妥当かもって思ってしまう自分がいた。

 だって反物質で自分の世界を壊すとかさ、普通にアリエナイでしょ?


 でもなぁ。


「いやじゃぁあああ! 死にたくないのじゃぁあああああ! うびゃぁああああああああ!」


 幼女がギャン泣きしてる。

 なんとも、可哀想に思えてくるのだ。

 たとえそれが、私を殺そうとした相手だったとしても。


「私は反対だな」


 すっ、と手を上げて、私はゼウスに言う。


「ほぅ。最高神議会の決定に、異を唱えると?」

「ええ。この子は確かにあぶないけど、でもだからってこの子を殺す必要まではないでしょ? 力を取り上げれば、それでいいじゃない?」


「無茶を言うな。神の力を、いったいどうやって取り上げるというのだ?」


~~~~~~

神の力

→神の力は、神の魂を根源とする。力を取り上げることは、死を意味する

~~~~~~


「なるほど確かに神の力を取り上げることができるのなら、おれも安全だと判断して、死刑を取りやめてやってもいい」


 どこまでも上から目線でやな感じ。

 私はスマホを取り出す。


 困ったときは、いつだって、全知全能インターネット

 よしっ。


 解決策が見つかったので、ダグザに近づいて言う。


「ねえ、ダグザ。あんた……私の眷属神こどもにならない?」

「な!? おぬしの……眷属神こどもとなる、じゃとぉ!?」


 眷属神は、主たる神に付属する小神。

 主たる神が親だとしたら、眷属神は子。

 つまりは、親たる私が、ダグザを制限することができる。


「神の力を取り上げるんじゃあなくて、神の力を、より強い神の力で制御する。これなら問題ないでしょ?」

「ふむ……なるほど……盲点だったな。おれは取り上げることしか考えつかなかった。やるではないか、褒めて使わそう」


 だる……うざ……。


「で? どうする」

「ダグザ様っ、ミカの提案にのるべきですっ! とても良いことですよっ! むしろうらやましいくらいっ!」


 モリガンが興奮気味に言う。うらやましいってなんだよ……。


「嫌じゃ!」

「「はぁ……!?」」


 モリガンとリシアちゃんが、ぶち切れていた。


「あなたバカなのですか!?」

「そうですっ、ミカお母様の子にしていただけるというなんて、栄誉なことなのに! それを拒むなんて!」


 別に栄よなことでもなんでもないよ、リシアちゃん……。


「何が嫌なの? 誰かの配下につくことが?」

「違うのじゃ! 眷属神となるのが、じゃ!」


 それイコールじゃないのかな……?


「妾は! 最高神というサイコーにかっちょいい肩書きを、失いたくないのじゃー!」


 こ、このガキ……。

 こほん、お子様は……もう……。


「おぬしの眷属神になると、最高神の肩書きが失われてしまう! それがいやじゃ!」

「あんた……状況を理解してるの? このままじゃ死ぬのよ?」


「わかっておる! そっちもいやじゃ! でも最高神じゃなくなるのもいやじゃー!」


 わ、我がままなクソガキ……こほん、お子様だな。

 ああもう、わかった。


「じゃあ、こうしよう」


 私は神アプリ《眷属になろう》を立ち上げる。

 そして、ポチポチと名前を打ち込む。


「【エグゼクティブマネージャー・だぐ子】」

「え、えぐぜくてぃぶ……まねーじゃー?」


 ぽかんとしてる、ダグザ一行。


 眷属神ダグザが嫌ならば、《眷属になろう》で肩書きをつければいい。


「そう。エグゼクティブマネージャー・だぐ子。どう? かっこいい肩書きじゃあない?」


 正直肩書きは適当だ、適当。


「ミカ……さすがにこれは……」

「そっすよ、こんなバカみたいな肩書きで喜ぶやつなんていねーっすよ……」


 モリガン&駄女神がそういうも……。


「いい! すっごくいいのじゃ!」


 とまあ、ダグザはめっちゃ笑顔でぴょんぴょんジャンプする。


「最高神なんかより、エグゼクティブマネージャーのほうがかっちょいーのじゃー!」


 うーん、さすがお子様。

 

「じゃ、最高神ダグザあらため、エグゼクティブマネージャー・だぐ子」

「うむ!」


「今日から私の子になると、誓う?」

「うむ! よかろう!」


 ぱぁあ……! とダグザ、改め、エグゼクティブマネージャー・だぐ子……長いからだぐ子でいいや。


 だぐ子の体が光り輝く。

 鎖が砕け散る。


 そしてそこにいたのは、幼女から、少し成長して、十代前半くらいの見た目に変わった元最高神だ。


「がはは! 妾、でっかくなったのじゃー!」


 さて……。眷属神エグゼクティブマネージャーになったわけだけど……。


「これでどう?」

「くくくくく! あーーーーーーーーはっはっは~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 一部始終を見ていたゼウスが、高笑いする。


「いい! 実に、良いぞ!」


 たんっ、とゼウスは椅子から立ち上がると、こちらにジャンプ。


「確かにそこの元最高神は、おまえの眷属神となった。こいつが反物質で世界を吹き飛ばすことはもうないだろう」


 その前に、私が止めるからね。


「じゃあ、死刑は無しね」

「ああ、良かろう」


 ……ゼウスが私に顔を近づける。鼻がくっつきそうなほど、近くに。


「あの、近い……下がって」

「おまえ……おれの嫁になれ!」


 ……はぁ?


「嫁?」

「ああ。おまえは、本当に良い女だ。気に入った。おれの嫁に」

「断りまーす」


 なんでこんなのと結婚しなきゃいないの?

 普通に嫌なんですけど。


「くはは! なんとも、面白い女だな」

「はいはい。じゃ、私ら帰るんで」


 きびすを返して、立ち去ろうとする。


「おい、おまえ。ナガノ神……だったか?」

「ナガノミカ、です」

「ナガノ神ならぬ、ナガノミカ……か。覚えたぞ」


 ふふふ、とゼウスが笑う。


おれに名を覚えて貰った、と、喧伝していいぞ、ナガノミカ」

「しません。じゃ」


 私は大転移グレーター・テレポーテーションを使って、その場を後にする。

 龍脈地へと戻ってきた。はーやれやれ、疲れたぁ。


「さすがです、ミカ!」


 だきっ、とモリガンが抱きつく。


「あの最高神ゼウスに認められるなんて、すごいことですよっ」

「ああ、そう……」


 神のそういう感覚、まったく理解できないんだよね……。


「み、か……ーちゃん」

「ん?」


 だぐ子が、もじもじしながら言う。


「みかーちゃん……ありがとう、なのじゃっ」


 ミカで母ちゃんで、みかーちゃん……か。 ま、いいっか。


「どういたしまして」

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