第48話 眷属たちとタコパする


「クォオオン!」


 ログハウスの外から、母麒麟の声が聞こえてきたのだ。


 私たちは母麒麟の様子を見るために外へと向かう。


「ぴーーーー!」


 子麒麟ちゃんは母親のそばへいき、スリスリと頬ずりする。


「おかえり。早かったね」

「クォン」


 母麒麟が私の前までやってきて、跪く。


 頭を下げたまま動かない。

 朱羽あかはね黒姫くろひめがいれば、何が良いのかわかるんだけど……。


「ブルルル……」


 突如として、母麒麟が顔を上げて後ろをにらみつける。

 そこには黄昏の竜の面々がいた。


 なるほど、敵だと思ってるのか。


「大丈夫だよ。彼女たちは私の配下になったから」


 ふんっ、と鼻を鳴らそしそっぽを向く。


 まあ、気持ちはわからないでもない。

 殺されそうになった相手なんだ、警戒して当然である。


 しかし彼女たちと母麒麟たちには仲良くして欲しいものだ。

 黄昏の竜はこれから私の配下として働く。


 麒麟親子たちとも、今後は長く付き合っていくだろうから。


「宴会だ。タコパしよう」

「「「「タコパ……?」」」」


 はて、と黄昏の竜たち、そして麒麟親子が首をかしげる。


「ちょうど君たちにうちの子たちも紹介したかったし。皆でパーティしましょ」


 同じ釜の飯を食えば仲良くなれるはずだ。


 ということで、パーティを開催。

 なぜタコパだって?


 たこ焼き……食べたいから。

 最近贅沢料理ばっかりだったから、ああいうジャンクな料理も食べたくなったのである。


「キャロちゃん、トマト君」


 いつの間にか、足下にトマトとにんじん頭の眷属が出現する。


「タコパの準備よろしく」

「「…………」」びしっ!


 わっ! とそこら中から野菜の眷属達が現れて、ログハウスのなかへと消えていく。

 

「聖女様。今のはいったい……?」

「あれは……まあ君らの先輩、的な? 眷属だよ」


 リタが納得したようにうなずく。

 ほどなくして、キャロちゃんが準備完了をつげてきた。


 待ってる時間は、10分もかかってなかっただろう。

 さすが優秀お野菜眷属たち。


「さ、いきましょ」


 母麒麟はまだ黄昏の竜たちを警戒していたものの、私の言うことを素直に聞いてきた。


 ログハウスへ近づくと、リタが鼻をひくひくと動かす。


「この、食欲をそそる匂いはいったい……?」


 ソースの匂いがしてきた。

 ん? なんで家の外に? 窓締め切ってるのに。


「主よ」

「がるるるう……」


 ふぶきとフェルマァが、人間姿(メイドさん姿)でログハウスから出てきた。


「食事の準備はできておる。テラス席に案内するのじゃ」


 ログハウス一号館にはテラスが存在する。

 え、ということは、外で食べるってこと ……?


 てっきり部屋の中でたこ焼き器をかこって食べる、ホームパーティ的なものを想像してたんだけど……。


 ま、行ってみるか。

 私たちはフェルマァたちとともに裏庭へと移動。


「わたくしはフェルマァ。偉大なるミカさまの近衛にして、眷属たちをとりまとめるものっ!」


 フェルマァが後輩である黄昏の竜の人たちに先輩ムーブしてらした。


「ミカさまの一番はこのわたくしだということを、お忘れなきよう! あなたがたは序列で言えば野菜眷属以下ですからね!」


 序列にこだわるなぁ、犬だから?


「わかりました。我々は新参者。先輩たちの足手まといにならないよう務めます」

「良い心がけです」


 どうやら納得いったらしい。

 さて、と。


 裏庭にやってきた訳なんだけど……。


「「「なんだこれは!?」」」


 黄昏の竜の人たちは、多分二つのことに驚いてるのだと思われた。

 一つは、大量のもふもふたち。


「ばうばうー!」「わうー!」


 ふぇる太&ふぇる子の、恐れを知らない子フェンリルコンビが、さっそく黄昏の竜たちに突進する。


『ぴゅい! 【あんただれ、あんただーれ】だって!』

「「「「鳥がしゃべったぁ……!?」」」」


 大量のでっかいもふもふ、さらに見たことのない獣(神獣達)に、黄昏の竜の人たちは大いに驚いていた。

 それが、一つ目。


 もう一つは……私も驚いてる。

 お祭りとかで見る屋台が、そこにはあったのだ。

 

「いったい誰が作ったの、このご立派なたこ焼き屋台……」

「…………」びしっ!


 屋台の前に、ハンマーを背負ったサツマくん。

 ああ、頑張りすぎてしまったわけか……。


 眷属達が、自分何かやっちゃいましたか……? とばかりに、私を見つめてくる。


「ありがとう、いい仕事だよ」

「「「「…………!」」」」いえーい!


 野菜眷属達がお互いにハイタッチしてる。

 なんか想像していたタコパじゃなくなったけど……うん、いっか。


「さ、みんな席ついて。歓迎会を開くよー」


 テラスにはテーブルと椅子(どっちもサツマ君手作り)が置いてある。

 私が上座に座ると、隣にフェルマァが当然のように座る。

 

 リタたち黄昏の竜の面々も座る。


「くぉん……」


 母麒麟が所在なさげに、私の後ろに立っている。

 右隣にはフェルマァ、逆側には主賓のリーダーであるリタが座ってる。


 多分私の隣にいたいのだろう、母麒麟は。


「リタの隣が開いてるから、そこにいて」

「くぉん」


 なんだか嫌そうにしてるが、しぶしぶ、リタの隣へと移動。

 ちなみに子麒麟ちゃんはというと……。


「ばう?」「わふ?」


 ふぇる太&ふぇる子たちが、子麒麟ちゃんをかこっていた。


「ぴー……」


 ぷるぷるぷる、と子麒麟ちゃんがふるえている。


「ばう!」「わう!」

「ぴー!」


 ふぇる太たちは子麒麟ちゃんと仲良くしたいのか、ずいっと顔を近づける。

 だが子麒麟ちゃんは怯えて、ぴゃっ、と逃げてしまった。


 テラスの端っこでぷるぷると震えている。


「…………」


 ふぇる美がやってきて、ぺろ、と子麒麟ちゃんのほおを舐める。


 追っかけてきたふぇる太たち。

 ふぇる美がじっ、と冷たい視線を向ける。


 多分、子麒麟ちゃんを怯えさせるな、とでもいいたいのだろう。


 二人はうなずいて、去っていく。


「ぴ! ぴ~~~~~!」


 子麒麟ちゃんがふぇる美に尊敬のまなざしを向けていた。

 フェンリルを追っ払った凄いやつ、と思われてるのだろう。


 そんなこんなもふもふたちの戯れる姿を見ていると、たこ焼きが焼き上がったようだ。


 テーブルの上には、焼きたて熱々のたこ焼きが、お皿に載って現れる。


「聖女様。この食べ物はいったい……?」


 異世界人であるリタたちからすれば、たこ焼きなんて未知の食べ物だろう。


「たこ焼きって食べ物」

「いただいてもよろしいでしょうか、聖女様?」

「どうぞどうぞ」


 リタが皆を代表して、先陣を切る。

 フォークでぷす……とたこ焼きを刺す。


「これは卵だろうか? でも……この食欲をそそる、芳ばしい香りは……ええい」


 ぱくっ、とリタがたこ焼きを食べる。


「うまひっ!」


 はふはふ、しながら、リタがたこ焼きをかんで、そして飲み込む。


「聖女様! すごいおいしいですっ、このタコヤキなる料理!」

「そりゃよかった。どんどん食べてね。いっぱいあるし」



 リタが食べたのを皮切りに、皆がたこ焼きを食べていく。


「うっめえええええええええ!」

「……こんな美味しい料理、初めてでごじゃるよっ!」


「外はかりっと、中はとろっと。こんな食感の料理、食べたことない……!」


 異世界人たちからの評価は上々だ。

 さてもふもふたちは……?


「あおぉおおおおおおん!」

「わおぉおおおおおおん!」


 ふぇる太&ふぇる子が美味しさのあまり遠吠えしていた。

 そういや君たちも粉物は初めてだったか。


 犬用の皿に盛り付けられたたこ焼きが、ものすごい勢いで減ってく。


 神獣達も、たこ焼きをはふはふしながら次々食べていく。


「くおん! くぉおん!」


 母麒麟も言葉はしゃべれなくても、美味しそうに食べてる。


「麒麟様」


 リタがお皿にもったたこ焼きを、母麒麟の前に差し出す。

 ちょうど母麒麟のたこ焼きがカラになったタイミングだった。


「どうぞ、お食べください」

「……………………くぉん」


 ずい、母麒麟が鼻の頭で、お皿をリタに押し出す。


「私も食べていいのですか?」


 こくん、と母麒麟がうなずく。

 二人はたこ焼きを食べて、ほふほふして、笑っている。


 やっぱり同じ釜の飯をたべると、仲良くなれるよね。


「さて、私も……って、私の分は?」


 テーブルの上のたこ焼きが、全部ないんですが……?


「申し訳ございません! こら、あなたたち! 食べ過ぎですよ!」


 子供らに注意するフェルマァ。

 うん、君の口の周りにも、べったりソース付いてるよ……?


「ぷっ」「あははは!」「愉快な先輩でごじゃるなぁ」「てゆーか……フェンリルってこんなアホだったんだ……」


 黄昏の竜たちともふもふ達が笑ってる。

 うん、仲良くやってけそうでよかった。


 キャロちゃんがおくれて、たこ焼きを持ってくる。

 私は串でさして、たこ焼きを一口。


「んっ! っまいっ!」


 このカリカリトロトロ感がたまらないっ。

 たこもぷりっぷりだ。


 口の中が火傷しそうなくらい熱々。

 でも火傷しない。なぜって、龍脈地だから。


 美味しいたこ焼きを、思う存分味わうのだった。

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