第47話 吸血鬼の呪いを解く
「なんでしもべ?」
リタがまず私に、キラキラした目を向けながら言う。
「か弱きものに手を差し伸べる、その慈悲深さと気高き精神に惚れました。ぜひ、貴女に仕えさせてください」
続いてデカタンク。
「おれはこんなすんげえ武器や防具を、ぽんってくれる姐さんの気前の良さに惚れたぜ。ぜひ舎弟にして欲しいぜ」
次にニンシア。
「我らの命を助けてくださっただけでなく、かような宝までも与えてくださった。その大恩に少しでも報いたいでごじゃる」
で、最後にエルメス。
「普通に、怖い」
「「「おいっ! 失礼だぞ!」」」
仲間から総ツッコミを食らってるエルメス。
「怖いって?」
「……いや、伝説の武器を大量に所持し、麒麟や九尾を従えるほどの化け物が相手なんだから、降伏せざるを得ない」
「麒麟はともかく、ふぶきが九尾だってなんでわかるの?」
「……隠しても無駄だろうから言うけど、あたしは魔眼持ちなの」
「へえ、魔眼。どんな魔眼なの?」
「魔鏡眼。真なる姿をカンパする鑑定能力と、相手の魔法をはじき返す力が付与されてる。あと、読み取った能力を仲間に共有できる」
だからデカタンクが私の出した武器屋アイテムが伝説の代物だって、一発で見抜いてたんだ。
「……魔鏡眼持ちのあたしでも、あんたの【底】を見抜くことができない。はっきり言ってヤバい相手。あんたの秘密を知ってしまった以上、消される危険性がある。だから配下になる」
どうやら相当、エルメスには私のこと警戒されてるみたい。
他三人と違って、ネガティブよりな理由でしもべになるようだ。
「別に消されても、てめえだけは死なねーじゃねーかよ、なぁ、エルメス?」
「どういうこと?」
エルメスはため息をつく。
「あたしは吸血鬼なの」
「吸血鬼……」
ファンタジーでおなじみのやつだ。
仮面を付けててわからないけど、美人なのかも。
吸血鬼ってフィクションじゃみんな美人で描写されてるし。
「……そんなじろじろ見ないでよ」
「どうして?」
「……あたし、この下、大やけどを負ってるの」
エルメス曰く……。
彼女は純粋な吸血鬼じゃあないそうだ。
高位の吸血鬼に家族を殺され、戯れに、血を分けられた。
結果、吸血鬼に【なってしまった】んだそうだ。
で、吸血鬼になるまえに大やけどを負ってしまい、その後、不老不死の存在となってしまった。
だから、仮面の下の顔は醜いまま……だそうだ。
可哀想に。
~~~~~~
エルメスの怪我を、青龍の水で治せるか
→不可能。
吸血鬼に治癒の力は効かないどころか、ダメージを与えてしまうから
~~~~~~
ゾンビとかに回復薬は、帰ってダメージが与えるみたいな描写、ファンタジーものだとよく見る。
薬や治癒の力で治せないのか。
まあもしそれが効くなら、龍脈地にきた時点で、治ってるはずだし。
「……さっきから何、じろじろと」
「いや、その顔治す方法ないかなって」
「……そんなもの、ないわよ。絶対に治らないんだもの。この顔も、吸血鬼という呪いも」
呪いか……。お日様のもとに出れない、肌を隠す必要がある、それに……死ぬことも老いることもできない。
確かに、呪いといって差し支えないかも。
なんだか、うん。可哀想だ。
なんとかしてあげたい。
「あのさ。君……私の眷属にならない?」
「別にいいわよ、眷属だろうとしもべだろうと。好きにすれば?」
了承をもらえたってことで、私は
よし。
「聖女様、いったい何をなさるおつもりなのだ?」
リタが私に問うてくる。
「今から、エルメスの、吸血鬼化の呪いを解いてあげる」
「「「「はぁ……!?」」」」
これにはエルメスほんにんも驚いていたようだ。
「な、何をバカなっ。吸血鬼化は不可逆の変化なのよ!?」
不可逆、つまり、戻れないってことだ。
ゆで卵が生卵に戻れないように、この子の体は人間にはもう戻れない……。
と、思ってるらしい。
「大丈夫。私に任せて」
私はまず《眷属になろう》を立ち上げる。
エルメスの写真を撮る。
エルメスには、【吸血鬼エルメス・ヴラド・ツェペシュ】と書いてあった。
これがエルメスの本名だろう。
彼女はすでに吸血鬼に眷属化させられてる。
だから、頭に吸血鬼って書いてある。
これが、彼女に不老不死を与えてる元凶だ。
私は【吸血鬼】の文字を消し、【吸血姫】と変える。
「ぐ、が、あぁあああああああああああああああああ!」
「「「エルメス!?」」」
エルメスが急に苦しみ出す。
しゅうぅう……と彼女の体から湯気が出ていた。
彼女が身もだえる。
からん……と、彼女の付けていた仮面が落ちた。
赤い目に、銀髪の、美少女だ。
つり目がちだけど、お人形のように整った顔つきをしてる。
「!? え、エルメス……君……その顔……」
リタがふるえながら、手鏡を取り出して、彼女に見せる。
「!? う、そ……火傷が、治ってる……」
ぺたぺた、とエルメスが自分の顔を、確認するように触る。
「それに、仮面がなくても……肌が焼けない。あたしの顔……月明かりでも、激しく痛むくらいなのに」
仮面は醜い姿を隠すためだけじゃあなかったのか。
「吸血鬼化……解けたの?」
「みたいだよ」
~~~~~~
・吸血姫
→吸血鬼を超越した存在。
不老不死性を失う代わりに、膨大な魔力量と、最上級吸血鬼のスキルを使用可能となる。
~~~~~~
ぺたん……とエルメスが尻餅をついて、泣き出した。
「ご、ごめん……私何か悪いことしちゃったかな?」
「ううん……違うの……うれしくて……泣いてるの……」
エルメスは笑いながら、泣いていた。とても綺麗な涙だった。
「あたし……ずっとこの体が嫌いだったの。仲間ができても、すぐに周りは死んでしまう……そんな、不老不死の自分が嫌だったの」
エルメスの苦悩を、私は理解できない。本人じゃあないからね。
でも……彼女が辛いことから、解放されて、喜んでくれてる。それは、うれしかった。
「エルメスぅ……! よかったなぁ……!」
リタ、デカタンク、ニンシアがぐすぐすと涙を流している。
仲間の喜びを、みんなで喜んでいる。良いチームだ。
「聖女様……ありがとうございます!」
「心から感謝するぜ、聖女の姐さん」
「……やはりあなた様は、素晴らしい御方」
そして、エルメスも。
冒頭みたいに、嫌な顔をせず、微笑みながら、私の前に跪く。
「ありがとう、聖女様。あなたから受けた恩を返すため、一生をかけて、あなたに仕えるわ」
ツンツンしてる態度から一転されて、ちょっと据わりの悪さを覚える。
「どういたしまして。様とかつけないで。さっきまで通りの態度でいいよ」
「……わかったわ」
ほっ、良かった。
「ありがとう、聖女様。大事な仲間の呪いを解いてくれたこと、感謝する」
「おれたち黄昏の竜、これより聖女の姐さんの配下として、キリキリ働くぜ!」
デカタンクの言葉に、三人も笑顔でうなずく。
いやいやじゃなくて、心から、従ってくれるようになったみたい。
「さすがじゃな、主よ」
一部始終を見ていたふぶきが、感心したように言う。
「ゲータ・ニィガNo.1冒険者パーティを、自ら進んで従がわせるように仕向けるとは。これで決して、こやつらは裏切らんじゃろう」
いや別にそういう意図はなかったけどね。
ん? No.1冒険者パーティ?
「え、この人達そんな凄いの?」
「うむ、ゲータ・ニィガが誇る最高のパーティとして有名じゃぞ。知らんでスカウトしたのか……?」
「うん、全然知らなかった……」
「
「いや、だって……興味なかったし……」
何でも調べられる。
でも、裏を返せば、調べようと思った事項しか、知ることができない。
ブラック宮廷時代は調べる余裕なかったし、追放後はそもそも俗世に興味なかったし……。
「だとしたら逆にすごいのじゃ。無自覚で、最高のパーティを選び出し、配下にしてしまったのじゃからな」
こうして、私は正式に、黄昏の竜を、配下に加えたのだった。
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