第46話 S級冒険者パーティを配下にする


「お母さん帰ってくるまで、家の中で待ってようね」


 子麒麟ちゃんを連れて、私はログハウスの正面玄関の扉を開ける。


「うぉおおお! うめぇええええ!」「……美味すぎるでごじゃるよ」「…………」


 リビングに、見知らぬ人影いたのだ。

 こたつテーブル(料理が並んでる)を囲んでいるのは、4人の女達。


「おまえ達少しは遠慮しろ!」


 と、他三人の女をたしなめている女性に、見覚えがあった。


「あ、母麒麟と戦っていた、冒険者……」

「聖女さま、お帰りなさい!」


 美女さんが笑顔で私に言う。

 お仲間らしき女性達3人が私に言う。


「よぉ! ご飯いただいてるぜえ!」

「……とても美味しい夕餉、誠に感謝でごじゃる」

「…………」


 それぞれ、デカい女、ござる口調の女。

 そして……室内だというのに頭からフード、そして仮面を付けた女。


「えっと……君たちはいったい?」

「申し遅れた。私はSランク冒険者パーティ【黄昏の竜】のリーダー、【リタ】と申します」


 美女さん……リタはそう言って自己紹介する。


「仲間を紹介します。忍者の【ニンシア】。壁役の【デカタンク】。そして、魔法使いの【エルメス】です」


 ごじゃる口調がニンシア、デカい女がデカタンク、そして……仮面の怪しい魔法使いが、エルメスね。


「で、なんでここに?」

「そこのメイドさんが私たちを招待してくれたのだ」


 リタがふぶきを指さす。

 ちょいちょい、と私はふぶきを手招きする。


「……なんでこの人達をうちに呼んでるの?」

「……すまん、どうしてもおぬしに命を助けて貰った礼がしたいと、リタが言ってな」


 確かに、私は瀕死のこの人達を助けた。


「ただ待ってて貰うだけのはずじゃったのだが、キャロちゃんごちそうを振る舞ってしまったのじゃ」


 眷属達は、黄昏の竜が私のお客さんだと勘違いしたのだろう。


「この料理、めっちゃうめーなぁ! こんなやわらけーステーキ初めてだぜぇ!」


 デカタンクが和牛ステーキ(KAmizonで購入)を豪快にかっくらいながら言う。


「……こんな繊細な味付けのシチュー、生まれて初めてたべたでごじゃる。うまぁ~でごじゃるぅ~……♡」


 忍者ニンシアが、うっとりとつぶやく。


「二人とも、ちょっとは遠慮しろ!」

「リタよぉ。あんたもさっきまでこんな美味しいの初めてえ~♡ とかいって、いろいろ食ってたじゃあねえかよお?」


 あ、なんだ……リタもちゃっかりご飯食べてるのか。

 リタは顔を赤くしている。


「……ちょっと、皆。無警戒すぎるよ。毒が入ってるかもしれないじゃない」


 と、一人だけ、ご飯食べてない人が居た。 仮面の魔法使いエルメスだ。


「毒なんて入ってねーよ。ほらエルメスも食えよぉ~」

「……絶対食べない」


 じっ、とエルメスが仮面越しに私をにらんでくる。


「……麒麟を制御し、瀕死の重傷を一瞬で治癒したあげく、山の中にこんな快適な空間を作り上げている。どう見ても、ただの人間じゃあない。そもそも人間かどうかも怪しい」


 正解。

 ま、言うつもりはないけど。バレたらめんどうだし。


「エルメス、命の恩人に対してその態度はあまりに失礼だ。謝りなさい」


 リタがエルメスを注意する。

 だがエルメスは無視してた。


「聖女様。本当に申し訳ない。仲間が失礼して」

「いえいえ。あのさ、気になってるんだけど、なんで私が聖女だって?」


「聖女は聖なる獣に好かれると聞いたことがある。麒麟が君になついてるのが良い証拠だ」


 なるほど、だから聖女と……。


「聖女様。改めて、我らの命を救ってくださり、本当にありがとうございます」


 リタたちが深々と頭を下げる。

 エルメスはそっぽ向きながらも、でもちゃんと「どうも」と言ってきた。


 うん、やっぱり悪い人たちじゃあない。

 

「あなたたち冒険者としての依頼を受けて、麒麟を倒しに来たんだよね。それは……今も継続中?」


 子麒麟ちゃんが私の後ろに隠れる。

 不安げに私を見上げてくる。その頭を撫でる。


「そうだな。クエストはまだ完遂されていない」


 ということは、この人たちはまだ麒麟を倒す気でいるということか。


 しかしリタは微笑む。


「安心して欲しい。我々はクエストを破棄する」


 するとエルメスが立ち上がる。


「な、何を言ってる、リーダー! そんなことしたら、莫大な違約金を支払わされるぞ!」


 エルメスがこちらに来ようとする。


「まーまー、エルメス。落ち着けよ。ちょいと座れって」


 デカタンクがエルメスの肩を掴んで、無理矢理座らせる。


「……リーダーどのの意見を、ちゃんときこうでごじゃる」


 デカタンクとニンシアは、特に反対してる様子はない。


「いいの? 違約金支払わされるんでしょう?」


 リタは微笑んで、しゃがみ込み、子麒麟ちゃんを見て言う。


「子どもがいる前で、母親の命は、奪えないさ」

「お仲間さんたちも、それで本当にいいの?」


 ちら、と私はリタの仲間達を見やる。


「おれはリーダーの意見に従うぜ? 美味い飯食わせて貰った恩もあるしな」

「……賛成でごじゃる。恩には報いよ、でごじゃる。あとご飯美味しかったし」


 美味いご飯のおかげで、相手の警戒心を解いてくれていたようだ。


「……あたしは反対。王太子からのクエストなんだよ? 破棄すればSランカーとしての信用ががた落ちになる」


 ん?


「エルメス。今、王太子からのクエストって言った?」

「…………ええ、そうよ」


 オロカニクソは麒麟を欲していた。

 その麒麟を、討伐するクエストを、黄昏の竜達に出していた……?


 気になることがあったら、全知全能インターネットの出番。


~~~~~~

・オロカニクソの狙い

→オロカニクソは麒麟の子どもが欲しかった。親麒麟は凶暴で、奴隷の首輪を付けるのがまず困難だと思ったからだ。


黄昏の竜には子ども誘拐の時間を稼いでもらう。

討伐できれば御の字、黄昏の竜が死んだとしても、金を払わずにすむからラッキー

~~~~~~


 なんというか……もう救いようのないくらい、愚かな人だな。


 リタに、私は全知全能インターネットで仕入れた情報を共有する。


「そういうことかよっ、畜生!!!!」


 だんっ! デカタンクがテーブルをたたく。


「……やけに、前金を出すのを渋ったのは、こういうことでごじゃったか!」


 ニンシアもキレていた。まあそうなる。


「ずいぶんとあっさり信じるんだね、私の言うこと」

「聖なる獣に好かれるくらい、心の清い御方が、嘘をつくとは思えません」


 なるほど……。


 エルメスは黙っている。

 こういうとき、真っ先に、私の発言が怪しいって言ってくると思っていたのに。


「エルメスの言うとおりだったな。すまない」


 とリタが謝る。

 エルメスも、今回のクエストには、きな臭さを覚えていたのか。


「皆、聞いてくれ。私はゲータ・ニィガを出る。私たちはこの国に貢献してきたつもりだ。それなのに、こんな酷い扱いするやつが次期トップの国になんて居られない」


 他の人たちも賛成なのか、うんうんとうなずいてる。

 エルメスも「同意……」と言っていた。


「しかしよぉ、リーダー。これからどうする?」

「こっちから出ていくとしても、クエスト破棄したら、違約金は発生するでごじゃるよ?」

「……蓄えが吹っ飛ぶ。長旅はできない」


 それは、可哀想だ。彼女たちにクエスト破棄させる原因を作ったのは、私でもあるわけだし。


「ねえ、私に雇われるつもりはない?」

「「「聖女様に、雇われる……?」」」


 そう、考えていたことがあるのだ。


「山の麓に、デッドエンドって領地があるんだ。そこが凄い人手不足でさ。君たちにそこで働いてもらいたいの。もちろん報酬は出す」


「……報酬って?」


 私はボックスを開き、神が用意してくれた倉庫の中身を、適当に出す。

 

 ドサドサドサっ!


「「「な、なんだこれぇ!?」」」


 私が出した物、それは、倉庫に入って腐っていた、武器やら魔導書やらだ。


「す、すげええ! 見ろよこれ! 聖槍グングニルじゃあねえか! こっちはアイアスの盾もあるぜ!」

「……信じられない。失われたとされる伝説の書【大魔導士アベルの魔術教本】! 他にも、レアな魔導書がたくさんっ!?」


 エルメスまでも、私の出したものに目を輝かせていた(仮面で素顔見えないけど)。


「全部君たちにあげるよ」

「はぁ!? いやいや、聖女様、さすがにそれは……」


「あ、少なすぎる? やっぱりお金の方が良い? ごめんね、うちお金ないんだ」

「少なすぎるってことじゃあないっ! 多すぎると言うことだっ」


 リタに同意するように、デカタンクたちもうなずく。

 エルメスが私に疑いの眼差しを向ける。


「何が狙いだ、こんな、超が百個ついてもまだ足りないくらいの、超レアアイテムを、こんなにたくさん用意して」


「狙いとかないよ。私は君たちに働いて貰いたいから、その報酬。まだ足りないなら言って。まだまだ倉庫にあるし」


「これで全部じゃないだと!?!?」

「うん、残りも譲っても良いよ。どうせそれ、使ってないし」


 ただ置物にしてくるくらいなら、なら有効活用した方が良い。

 

 リタが他のメンバー達を見やる。

 デカタンク、ニンシア、そして……エルメスがうなずいた。


 彼女ら4人が私の前に跪く。


「我ら黄昏の竜、これよりあなた様のしもべとなることを誓います」


 ……あれ? なんか思ってたのと違う。

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