第43話 呪われし麒麟を救出する
二号館もできたので、新築パーティでもしようと思っていた、そのときだ。
「ひゃんひゃんひゃんひゃんひゃん!」
『娘はどうやら、何か悪しきものが迫っている、と言っております』
フェルマァがふぇる美の言葉を通訳する。
悪しき者……?
そんなのがこの平和な空間にやってこられてもこまる。
私はしゃがみ込んでふぇる美に尋ねる。
「それは、どこにいるの?」
ふぇる美が前足で南東を示す。
私は神アプリ、Gビューイングで周辺の上から見たリアルタイム映像を確認。
ふぇる美が示した南東に向かって画面をフリック。
「いたっ! なにこれ……魔物?」
指で広げて、画像を拡大。
鹿? のような魔物と、武器を持った人たちが戦闘を行っているのがわかった。
「! ミカちゃん……この子、
人間状態の
~~~~~~
・麒麟
→最上位神獣。体は鹿、尾は牛、ひづめは馬に似て、頭上に一角を持ち、その毛は五色に輝く。
~~~~~~
「神獣がどうして人間と戦ってるんだろう?」
「わからない……。けど、わたしたち神獣は、無駄な争いは好まないわ」
つまりこの
現状、どっちが悪いのかはわからない。
でも、
全員倒れてる。
立っているのは、鎧を着込んだ女性。
その子も肩で息をしてる。このままではヤバいのは目に見えてる。
「フェルマァと
「助けるのか?」
「うん。どっちも」
どっちが悪いやつなのかはわからない。
でも……私の
「いってくる、留守番よろしくねふぶき。
私は護衛にフェルマァ、
『クォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
だが体毛も、そして角も、真っ黒に染まっていた。
黒く鋭い槍のような角で、女性が今まさに、攻撃されそうになってる。
「
神のスキル、
五秒だけ時間を止めることができる。
制止した時間のなか、私は女性と
時が動き出す。
私は角を掴んで
私のレベルは∞。
力の数値も∞。よって、どんな攻撃もたやすく受け止められる。
「な、な、なんだ君は!? いったいどこから……!?」
……しまった。人に見られてしまった。
まあ、緊急事態だった。しょうがない。
「下がってて」
「いや、下がってって……君はどうする!?」
「この子を止める」
「止めるって……むちゃだ!」
引き下がろうとしない。
「フェルマァ」
『御意!』
フェルマァが女性の首根っこを掴んで、後ろに下がる。
「ば、バケモノがもう一体!?」
『失礼な。わたくしは偉大なるミカさまに仕えしフェンリルのフェルマァです!』
ふがふがとフェルマァが言う。
『クォオオオオオオオオオオン!』
けれど、私からは逃れられない。
「落ち着いて、
『クォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』
でも神獣だから、人語は理解できるはず。
……それでも、暴れてるってことはよっぽどな事情があるってことだろう。
『クォオオオオオオオオオオオオン!』
「危ない! 逃げろ! それで私たちの仲間は壊滅に追い込まれた!」
どうやら雷で攻撃するらしい。
「
ぱっ、と私は角を離して、バックステップ。
瞬間、
ズガァアアアン! という音とともに、
「結界!? しかも……あの雷を防ぐだと!?」
「ありがと、
「どういたしまして。それより……ミカちゃん。あの
「泣いてる……?」
「ええ、伝わってくる。深い悲しみが」
結界の中で
確かにその鳴き声は……いや、泣き声は、聞いていて痛ましく感じる。
~~~~~~
→母・
その悲しみと憎しみから、呪いをまき散らす荒ぶる神に墜ちてしまった
~~~~~~
…… 事情はわかった。
「
私は結界に近づいて、ドームに触れる。
つぷ……と中に腕が入る。
そのまま私は結界内へと侵入した。
『クォオオオオオオオオオオオオオオン!』
……やっぱり悲しんでるように聞こえる。
早く、なんとかしてあげたい。
「落ち着いて」
『クォオオオオオオオオオオオオン!』
黒い雷が私に襲いかかる。
ズガンッ! と直撃した。
「ああおわった……」
「大丈夫」
「なにぃいいいいい!?」
私は無傷である。
なぜって? レベル∞の神だから。
あの程度の攻撃じゃ、死なない。
「Sランク冒険者を即死させる雷を受けて無傷だと!? い、いったい何者……?」
……ん?
なんか今気になることを……いや、それはあとだ。
私は
『クォオオオオオオオオオン!』
彼女が地面を踏みならす。
瞬間、私の周囲から勢いよく黒い槍が突き出した。
鋭利な槍には同じく黒い雷がまとっている。
だが、私の体に触れた瞬間、粉々に砕け散った。
そして
『クォ、クォオオオオオオオン!』
でも、私ががっちりホールドしてるので、身動き取れないでいる。
「す、すごい……
私は抱きしめたまま、ぽんぽん、と
「子どもを盗まれて、悲しんでるんだよね」
『クォン……』
「大丈夫、私なら君の大事な子どもを、探し出すことができるよ」
ぴたり、と
「
黒い箱が出現する。
「おいで、
『ぴゅい! よばれてとびでてなのね!』「きゅー!」
二人が
眷属も所有物扱いなので、こうして召還可能なことは検証済みだ。
「
どうやら荒ぶる神となると、全身から呪いをまき散らすそうだ。
多分その呪いは自分にもかかってる。
『ふぁいあー!』
鱗の表面を見ると、あちこちに傷があるのがわかる。
「
「きゅー!」
~~~~~~
・青龍の水
→万物の素となる水。
無加工で
~~~~~~
結界の外にでて、傷ついた人たちにも水を浴びせる。
「うう……」「あれ? わたしはいったい……?」
「!? み、みな! 無事かっ!」
女性が倒れていた人たちのもとへ向かう。
ぱっと見大丈夫っぽい。
「
すりすり、と
『ねえちゃ、きりん、いたくしてごめんねーって』
ほらね、やっぱり神獣は良い子たちばかりなのだ。
「大丈夫だよ。それより……君の子どものことだけど、いったい誰に盗まれたの?」
すると
『ぬすっとは、【オロカニクソ】って人のめーれーで、うごいてるみたいって』
オロカニクソ……?
え、ゲータ・ニィガの王太子の?
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