第38話 仕事終わりに美味い肉を食べる
夜。私はアベールの街にある、空き家の中にいた。
この街の宿屋は、現在閉店休場中だった。
リシアちゃんが泊まる場所として、いっぱいある空き家の一つを提供してくれたのである。
「つっかれたぁ~……」
木造のボロい空き家の、カチカチのベッドの上に横たわる。
「ばうー!」「わうー!」
ふぇる太&ふぇる子が私の隣に滑り込んできて、すりすりと体をこすりつけてくる。
『ぴゅいー! ねえちゃっ!』
「にー!」
「おお、君たちいつの間に」
四神の赤ちゃん達が私のお腹の上でゴロゴロとしてる。
そして……いつの間にか顔を側にはふぇる美も居た。
「お疲れじゃの」
ペットシッター・ふぶきがため息交じりに言う。
ふぇる美&四神たちは、このふぶきに面倒を見て貰っていたのだ。
「そっちこそお疲れ。ありがとうね、赤ちゃんたちの面倒見てくれて」
「それが主から与えられた、仕事じゃからの」
赤ちゃんもふもふたちが私にべったりくっついてる。
「にー!」『ぴゅい~! いっぱいよしよししてー!!』
ああ、そうか。今日は私外で活動していたから、この子達のこと、あんまりかまってやれて無かった。
だから、さみしかったのだろう。
「ごめんよ皆。ほら、おいでー」
私がベッドに腰掛けると、膝の上に
左右にはふぇる太&ふぇる子。
「…………」
ふぇる美はちょっと距離を置いたところに座っている。
でも、甘えたいのか、前足だけを私の腰に当てていた。
そのときである。
「アオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
どこからか、犬の遠吠えらしきものが聞こえてきたのだ。
「フェルマァのやつじゃろ……」
「どうしたんだろ」
「寂しいんじゃろ……一人でずっと留守番してるから……」
子どもか……。
私とふぶきがあきれたようにため息をつく。
「しかし主よ、これからどうするのじゃ? まさかずっと冒険者続けるわけじゃああるまい?」
「そりゃね」
基本、私が望むのは穏やかな暮らしだ。
あくせくと働く気は毛頭無い。
今回、いろいろ動いたのは、リシアちゃんの境遇に同情したがゆえに、だ。
もちろん、リシアちゃんの手伝いは、可能な限りしてあげようと思ってるけど。
でも……だからといって今までのライフスタイルを変えるつもるはない。
「山での快適な暮らしを保ちつつ、リシアちゃんの手伝いもするつもり」
「そんな二つの別々のことを、同時に行うことなんてできるのかの? 体は一つしかないんじゃぞ?」
そのとおり。
「だから、こっちには眷属を残して置こうと思ってね。おいで、ニューカマー」
ぴょこっ、とベッドの上に新しい眷属が乗っかってくる。
頭がイチョウの葉っぱの、眷属だ。
道中に野菜がなかったので、道ばたに生えてる木から葉っぱをむしってみたのだ。
「葉っぱ眷属、その名も【忍者・木ノ葉丸】くんです」
木ノ葉丸くんは手の前でニンニン、と印を組んでいる。
「忍者? 確か、極東にいる諜報活動に秀でた、暗殺者集団じゃったかの?」
「そう。木ノ葉丸は忍者なので、忍者っぽいことができるの」
木ノ葉丸が印を組む。
どろんっ……と煙とともに、私の目の前に、魔法使いミカりんが現れた。
「!? こ、これは……スキル【千変万化】!?」
~~~~~~
千変万化(SSS)
→あらゆるものに、完璧に変化できる。妖狐固有のスキル。
~~~~~~
「木ノ葉丸くんにミカりんに変化して貰って、アベールの街に住んで貰うことにするの。影武者って言えば良いのかな……って、どうしたの?」
ふぶきがその場に手をついて落ち込んでる。
「わし固有のスキルなのに……」
「なんかごめんね。欲しいなぁって思うだけで、欲しいスキルが手に入るんだ」
「ずずるすぎるのじゃあ……それに……わしの存在意義がなくなるではないかっ」
「いやいや、何言ってるの。ふぶきには、立派なお仕事があるでしょう?」
「ペットのお世話係ではないかっ。わし……500年生きる、女神より名を貰った伝説の獣なのにぃ~……」
ふぶきもへこんでるし、フェルマァも寂しそうにしてる。
うん、これは一端帰って、家で休養を取るべきだ。
「ということで、木ノ葉丸君、影武者ミカりん役頼むよ」
KAmizonで購入したスマホを、木ノ葉丸君に渡して、私は魔物たちを連れてログハウスへと転移。
『ミカさまぁあああああああああ!』
滝のような涙を流しながら、フェンリル姿のフェルマァが突っ込んできた。
押し倒されそうになるが、私はレベル∞なので、普通に抱き留める。
『わたくし……あなた様の帰りを一日千秋の思いで待っておりましたっ!』
「大げさ……たった数時間外出してただけじゃあないの」
ベロベロベロベロ! とフェルマァが私の顔を舐めまくる。
まあ、何はともあれ。
「今日は焼き肉よっ」
子ども達が大喜びしてる。
皆お肉が好きなのだ。
一方、フェルマァ&ふぶきはしょんぼりしてる。
二人もお肉好きだけど、さっきまでちょっと嫌なことあったからね。
二人を元気づけたいからお肉にした次第だ。
「しかも今日は、お金がたっぷり入ったので、とっても良いお肉を買います」
「「「「!!!!!!!!!!!!」」」」
子ども達が目を星空のごとく輝かせている。
「
にんじん眷属のキャロちゃんが、他の眷属達と協力して、外焼き肉の準備をする。
ややあって。
テーブルの上には野菜などの付け合わせが置いてある。
炊飯器でご飯も炊いてある。
炭火焼き鉄板の準備も完了。
「そして……今日のメインディッシュは……これです!」
お肉が綺麗に盛り付けられたお皿を、キャロちゃんが持ってくる。
「これは……なんじゃ……?」
ふぶきがお皿をのぞき込みながら尋ねる。
と、そのときだった。
「シャトーブリアンだあああ!」
空を見上げると、翼の生やしたロリが降りてきた。
「駄女神」
「イエス! おひさっす!」
久しぶりにやってきた駄女神が、お皿の上のシャトーブリアンを見て、目をキラキラさせる。
「シャトーブリアンがこんなにたくさん!」
「駄女神あんた何しにきたのよ?」
「モリガン様からの荷物をお届けにっ」
なるほど、ぱしりか。
「そしてついでにシャトーブリアンをごちそうになろうかなって!」
……こいつ。
「はいはい、たくさんあるからあんたも食べて良いよ」
「さっすが美香神さま太っ腹ぁ……! 自分、一生付いてくっすぅ~~~~~~~!」
調子の良い駄女神だこと。
まあ、今日はごちそうだ。
皆で食べることにしよう。
私はシャトーブリアンを鉄板の上に載せる。
『な、なんだか……とても美味しそうな匂いがします!』
フェルマァが鼻をヒクヒクさせながら、近づいてくる。
『今まで食べたお肉も相当良い匂いしておりましたが……これは、別格にいい匂いがします』
「そうでしょうとも。これはシャトーブリアンって言って……めちゃくちゃお高いお肉なんだからね」
厚めにカットしたシャトーブリアンを、眷属達が焼いてくれる。
そして、全員の紙皿に、眷属達がお肉を置いた。
「うひょぉ~~~~! いただきまーーす!」
駄女神が手を合わせて、シャトーブリアンを箸でつまむと、一口で肉を食べる。
「ん゛ぅ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
ぱたぱたぱた! と駄女神が翼を激しく動かす。
「「わおぉーーーーーーーーーーーーん!」」
「うみゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡」
子供達、四神たちも大絶賛してる。
「う、うま……う……うま……うま……」
ふぶきは9つの尻尾をぶおんぶおんと振りながら、肉をかき込んでいく。
『おいししゅぎて……ほっぺたがおちてしまいまひゅぅ~……♡』
フェルマァが恍惚の表情を浮かべる。
私もどれ、一口。
まず匂いがね、違うんだわ。嗅いでるだけでお腹が空く匂い。
口の中に入れる。
じゅわ……と甘い油が口の中にいっぱい広がる。
しかも、溶けるのだ。肉が。まじで。
タレを一切付けていない。
なのに、上品な甘さとうま味を感じるのだ。
「んまいっ!」
私も思わず煉獄さんになってしまう。
「シャトーブリアンが食べ放題! しかもいくら食べても体重が増えないなんて! やっぱここは極楽っす~~!」
眷属達が次々とシャトーブリアンを焼いていく。
駄女神は一切の遠慮無く肉を食らっていた。
ふぇる太たちも凄い勢いで肉を食べてる。
子ども達もこの肉を気に入ってくれたようで、良かった。
「それで駄女神、モリガンからの荷物って……?」
「あ、そーでした。はいこれ」
アイテムボックスから、駄女神が取り出したのは……二つの卵だった。
~~~~~~
神獣の卵×2
→青龍、玄武の卵
~~~~~~
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