第36話 死者を復活させる



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リシア・D・キャスター

→デッドエンド領の現当主。5歳。女。

去年両親が死亡して、当主を引き継ぐことになった。

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デッドエンド領

→ゲータ・ニィガ北方の領地。急峻な山々と、奈落の森アビス・ウッドと呼ばれる魔物のうろつく森に挟まれている。

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 以上、全知全能インターネットでこっそり調べた情報。


 どうやら、リシアは私たちの暮らす山の、お隣の領主さんだったようだ。


「本当になんとお礼を申し上げれば良いことやら……」


 リシアちゃんは何度も頭を下げてくる。

 彼女の目から涙がこぼれ落ちたのに、私は気づいた。

 

「どうしたの?」

「この戦いで、50名の兵士が死んでしまって……彼らを助けることができない自分が、悔しくって……」


 ああ、そういえばリシアちゃんは、挙兵して、毒魔竜ヒドラ討伐に乗り込んだんだっけ。


「ワタシは……本当に、だめだめな領主です……ご先祖さまに顔向けできない……わぷっ」


 泣いてるリシアちゃんの頭を、くしゃくしゃと撫でる。


「君はまだ5歳じゃあない? 領主の仕事ができなくて当然だよ」


 私にも、リシアちゃんの気持ちがわかる。

 転移前……ブラック企業にいたときのことを思い出す。

 

「右も左もわからないのに、仕事を押しつけられて、失敗して、そのせいで叱られて……。ああ、自分は駄目だって、自分を責めてしまう……そんな気持ち、わかるよ」


「!? わ、わかってくださるのですか……?」


 社畜だった頃、上司から何度理不尽に怒られたことか。


「できること精一杯やって、望んだ結果が出なかったとしても、それは失敗じゃない。君は高い壁に挑戦した、そのことを誇ろう」


 だから自分を責めなくて良いのだ。


「うわぁああん!」


 リシアちゃんが涙を流す。

 しばらく私はリシアちゃんの頭を撫でてあげた。


 ややあって。

 私たちは毒魔竜ヒドラと領民兵達の戦闘跡地へとやってきた。


「こりゃまた酷い……」


 周りは焦土、と表現するほかなかった。

 毒魔竜ヒドラの毒で木々は枯れて、大地は毒に犯されていた。


 空気は濁っている。

 これじゃ、森は死んだも同然だ。


 そしてヒドラの毒を食らった、領民兵たちの遺骨が、そこかしこに散らばっている。


「帰って埋葬してあげよう」

「はい……」


 それにしても、これは酷い。

 この森、毒のせいで完全に死んでしまっている。


 これでは、森の恵みは取れなくなってしまい、リシアちゃんが困ってしまう。


「リシアちゃん。ちょっと目閉じててくれない?」

「? はい」


 素直に目をつむるリシアちゃん。

 私はアイテムボックスから、聖灰を取り出す。


 朱雀すざくが作る聖なる灰には、清めの効果が付与されている。

 そこに、神の魔力を加えることで、土地に命の恵みをもたらすことができる。


「枯れ木に花を咲かせましょう、ってね」


 ばさー! と私は聖灰をばらまく。

 死んじゃった人を元に戻すことは無理だ。


 せめて、この死んでしまった森を元に戻してあげよう。


 灰が降り注いだところから、緑が溢れかえっていく。


「ばうばう!?」「わぅうう!?」


 ふぇる太達が驚いてる。

 え、なんだろう……って、ええ!?


 遺骨が輝くと、そこには……。


「ぶはっ!」「な、なんだぁ……?」「お、おれたちはいったい……?」


 50名ほどの年老いたおじさんやおじいさんが居た。

 え、え、えええっ?


「もう目を開けていいですか?」

「はっ! いやちょっとリシアちゃん、待って……」


 待って待って理解が追いつかない。

 どうなってるの?


「リシアさまぁあああ!」


 おじさんおじいさんたちが、わっ、とリシアに集まっていく。


「み、皆さん!? どうして!? 死んじゃったはず……!?」


 や、やっぱりこの人達、毒魔竜ヒドラに戦いを挑んでしんだ、領民兵の皆さんだ。

 え、嘘……生き返ったってこと?


 お、教えて全知全能インターネットっ。

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神による死者蘇生

→死後間もないタイミング、魂がまだこの世に残存しており、遺骨などの遺品がある場合に限り、神は聖灰の力を借りて死者蘇生を行える。

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 いやいや、そんなこと……できるの?


『まあ、できるんじゃあないかの』 


 ふぶきの声が聞こえてくる。


「いや、できないでしょ……そんな神の奇跡みたいなこと……」


『……それは冗句で言ってるのか?』

「……そうでしたね……神でしたね、私……」


 しかし……困ったぞ。

 さすがに、これはやり過ぎた。


 旅の魔法使いが、やって良い奇跡じゃあない。

 リシアちゃんが私に近づいてくる。


 ああ、これは……神だってバレてしまう……。


「ミカりんさまっ。素晴らしい魔法の腕、感服いたしました!」 


 ……ん?

 魔法の腕って言ったぞこの子……?

 神の奇跡ではなく。


「き、君は私のこと、どう思う?」

「? 死者蘇生レイズデッドの魔法を使える、とても高位の魔法使いさまかと」


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死者蘇生レイズデッド

→死者を蘇生させる古代魔法。使い手には最高クラスの魔法の才能、膨大な魔力量が必要とされる

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 なるほど。一応死者を復活させる魔法はあるっちゃあるのか。


 神ではなく凄腕魔法使いだと、都合良く解釈してもらえたようだ。


「本当に、なんとお礼を申し上げたらよいことやら……」

「お礼なんて良いって」


 なんかこの子ほっとけなくってさ。


「魔法使いさま……どうか、領主の館にきていただけないでしょうか? お礼をさせてほしいです」

「だから良いっていうのに」


「恩には報いよ、我が領地を繁栄に導いたデッドエンド開祖さまのお言葉です」


 真面目。

 しかし、まあこの子の気持ちも理解できる。


 ここまでいろいろとやってもらって、何も報酬を求めないのは、逆に不安になるよね。


「お金、別にいいよ」

 

 この世界のお金を貰っても、全く意味が無い。

 なぜなら、私が欲しい、現代の食事やら、娯楽やらを買うためには神ポイントが必要なのだ。


 そして、現地のお金を神ポイントには、変えられないのである。


「……なるほど。さすがは、高位な魔法使いさま。何でもお見通しなのですね」


 いや、何もわかってませんけど……?


「あなた様のおっしゃるとおり、我が領地は、とても貧乏なのです」

「あ、そうなんだ」


「はい。大昔、開祖さまが生きていた頃は、この領地は繁栄していました。ですが、開祖さまが天に昇ってから、この領地は衰退の一途をたどっていって……」


 凄い人がいて、頼りきりになったせいで、周りの力がどんどんと落ちていって、結果落ちぶれてしまった……と。


「苦労してるのね、君」


 うーん……困った。

 毒魔竜ヒドラ討伐なんかより、よっぽど面倒な事態に直面してる。


 と、そのときだった。


「ばう?」

「ん? どうしたの?」


 ひくひく、とふぇる太が鼻をひくつかせる。

 たっ、とふぇる太が駆け出す。

 ヒドラの死骸がある場所だった。

 

 しまった、毒魔竜ヒドラをそのまま置いてきてしまったんだった。

 そこから、何かが吹き出していた。

 

「黒い……水?」


 毒魔竜ヒドラから分泌した毒だろうか?

 いや……待てよ。この匂い……。


「ま、まさか……!」


 私は黒い泉の近くによる。


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原油

→デッドエンド領のあちこちで出土する、原油。地球で使用可能。

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 で、デッドエンド領の、あちこちで出土……!?


「り、リシアちゃん……あの黒い水って?」

「え? ああ……うちの領地のあちこちから取れる、くさい水です。何の価値もないゴミです」


 何の価値もない?

 とんでもないっ。宝の山じゃあないかっ。


「リシアちゃん。あの黒い水って、使ってない?」

「はい。むしろ扱いに困ってます。飲むこともできないし」


 よし。


「リシアちゃん。報酬はあの黒い水で支払ってくれれば良いよ」

「なっ!? あんな無価値な水でいいんですかっ?」


「ええ、もちろん。私にとっては、宝なのよアレが」

「は、はあ……で、では……どうぞ」


 私はアプリ、める神を開く。

 そして、原油を1リットル分、める神で出品。


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原油1リットル

→800万KP

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 800万!?

 しかもこの領地には原油が腐るほどあまり余っている。


 なら……よし。


「リシアちゃん、この領地に、冒険者ギルドってある?」

「あ、あります……デッドエンド冒険者ギルド」


「うん、じゃあ、私そこに所属するから。何かあったら、ギルドを通して依頼して」

「なっ!?」


「あと報酬は現金じゃあなくていいよ。全部黒い水で払って」


 冒険者として依頼を受ける。

 たとえば討伐クエストだ。


 討伐クエストっていうのは、倒した魔物の一部を回収すればOK。

 死骸は家に運んでKPに帰る。


 そしてギルドの報酬は、黒い水で払って貰えば、KPに変換可能。

 この領地で冒険者として働けば、そんな一石二鳥でもうけることができるという寸法だっ。


「ふぐ……うぅうううう」


 どさっ、とリシアちゃんが涙を流しながら、手を組む。


「神よ……ありがとうございます。ワタシの元に、救世主を送り込んでくださって……」


 こうして、私はデッドエンド領主とコネクションを作り、新たなる財源を手に入れたのだった。

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