第35話 辺境領主を助ける



 魔物の子供達を連れてお散歩してた、そのときだった。


「ひゃん!」

「ん? どうしたの、ふぇる美?」


 狼神ガルムであるふぇる美が、急にあさっての方向を見ながら、吠えだしたのである。


『【大変、子供が倒れてる】だって!』


 朱羽あかはねがすぐにふぇる美の言葉を翻訳してくれる。


 子供がこんな魔物うろつく山の中で倒れてるだなんて、危険極まりない。

 知ってしまった以上、無視はできない。


「ふぇる美、その子供のところまで案内できる?」


 ふぇる美が走るその後ろを、私達はぞろぞろとついて行く。


 ほどなくさて倒れてる子供発見。


 年齢は……5歳くらい?

 少し天然パーマの入った、栗色の髪の毛をしてる。


 来ている服は結構高そうだ。

 ひたいに脂汗をかいてる。背中には血がにじんでた。


 全知全能インターネットでこの子の状態を確かめる。


~~~~~~

リシア・D・キャスター

【レベル】3

【種族】人間

【状態】

毒魔竜ヒドラの毒

~~~~~~


毒魔竜ヒドラの毒

→古竜種が1匹、毒魔竜ヒドラの毒。

即効性があり、1時間で体組織が溶けて死亡する


 どうやらあと一時間で、このリシアって子は死んでしまうらしい。


「どうするのじゃ? まさか助けるのかの?」

「当たり前でしょ」


「この子供を助ける義理はないぞ? それに助けたことで面倒事に巻き込まれる可能性は高くなる」

「わかってるよ」


 でも、無理だ。

 子供が死にかけてる。これを助けず放置なんてできない。


 昔と違って今の私には助ける力がある。

 それなのに、助けられる命を捨て置いたらきっと、この先ずっと後悔する。


「善人じゃの」

「違うよ。ただ私は、平和に穏やかに暮らしたいだけ」


 頭に載ってる朱羽あかはねを持ち上げる。


朱羽あかはね、悪いけど、毒魔竜ヒドラの毒を君の炎で焼いてくれる?」


 朱雀すざくの炎は万物を焼く。

 万物には毒素も含まれる。


『ふぁいあー!』


 朱羽あかはねに口から太陽のように美しい炎が吐き出される。

 炎はリシアの体を包む混む。


 じゅお……! と一瞬でリシアの体から黒い煙が出る。

 炎は何事も無かったかのように消えた。


 全知全能インターネットでリシアの状態を調べる。


「うん、OK。毒は消えたみたい。傷口も塞がった。ありがとう、朱羽あかはね

『ぴゅいぴゅい~! ねえちゃにほめられた~! うれちー!』


 朱羽あかはねがうれしそうに鳴く。


「う……」


 リシアが、目覚めようとしていた。


「まずいの。その姿見られたら、詮索されるやもしれんな」

「! 確かに」


「変装した方がよいな」

「それだっ」


 私はアイテムボックスから、白いローブと眼鏡を取り出す。

 ローブは、ただのローブ。


 今私は現代の動きやすい服装をしてる。が、さすがに異世界人から見れば目立ちすぎてしまう。


 だからローブで服を隠す(着替えてる時間が無い)。

 次に眼鏡。


 装着すると、私の髪の毛が伸び出す。

 そして髪の毛の色も黒からオレンジに変わる。


「それは……もしや【認識阻害の眼鏡】かの!?」

「そ、家にあったアイテムを、ボックス入れておいたの」


・認識阻害の眼鏡(extra)

→装着すると顔の形、体型等、外見を自由に変えられる。


 これで変装はバッチリ。


「ふぶき、子供達を連れて隠れてて!」


 フェンリル×3、朱雀すざく、白虎を連れてたらさすがに目立ちすぎる。


「わかったのじゃ。それと……」


 ふぶきは髪の毛を一本抜いて、私に渡す。

 ぼんっ、と青い色の子ギツネが出現した。


「わしの分体を置いておく。大丈夫だとは思うが、何かあったときのためじゃ。ではの!」


 ペットシッターふぶきの力で、魔物たちは全員がしぶしぶ、この場を離れていった。

 あとでいっぱいもふもふしてあげるからね。


 リシアがゆっくりと目を覚ます。


「大丈夫?」

「あれ……ワタシは……そうだ! ワタシは毒魔竜ヒドラの毒を受けて、それで死んだはず」


 リシアは私を見て目をむく。


「あ、あなた……いったい……?」

「えっと……」


「体が軽い! まさか……あなた様が?」

「え、ま、まあ……」


「なるほど……高名な魔法使いさまでしたか。しかも旅装……旅の魔法使いさまでしょうか?」


 なんか勝手に話が進んでいく。

 ま、それに乗っかろう。


「その通り。私は旅の魔法使い……ええと、名前……名前は、ミカりん。そう私は、ミカりん、よ」


 とっさとはいえダサい名前をつけてしまった!


「ありがとうございます、ミカりんさま。毒魔竜ヒドラの毒を浄化してくだって」

「いいっていいって」


 リシアは胸に手を置く。


「申し遅れました。ワタシはリシア・D・キャスターと申します」


 この子、ちっこい割にしっかりしてるなぁ。


「ところで、リシア。あなたこんなとこで何してるの?」

「……! そうでした。ワタシは現在、この山に現れた、毒魔竜ヒドラを倒しに、兵を率いてやってきたところです」


 子供が毒魔竜ヒドラを倒しに……?

 ……なんか、変じゃない。


 全知全能インターネットで調べたくても、今スマホを出すわけにはいかないし……。


「兵っていうけど、他の人たちは?」

「……ワタシを逃がすために、犠牲になりました」


 他の兵士たちは、同行した子供リシアを、毒魔竜ヒドラから逃がした……と。


「精鋭の部隊50名とともに、毒魔竜ヒドラを討伐に向かったのですが……返り討ちにされました」


「それくらい強力な魔物なのね」

「はい……」


 なるほどね。さて、どうしよう。

 私がどこまでしてあげるべきだろうか。


 とりあえず……だ。


「君の家まで送ってくよ」

「ありがとうございます……ですが、無用です。ワタシはこれから毒魔竜ヒドラを倒しにいきます」


「え、何言ってるの。危ないって」

「はい、危険は承知です。ですが……ワタシは倒さねばならないのです」


 なにか毒魔竜ヒドラに恨みでもある?


 ……この子を仮に家に送り届けたとしても、またここへ戻ってきてしまう可能性はある。

 そしたら、また毒魔竜ヒドラに毒を受けてしまうかもしれない。


「OK。じゃあ、私が毒魔竜ヒドラを退治してあげるよ」

「ほ、本当ですかっ?」


「うん。まあ、ほっとけないし」

「あ、ありがとうございます!」


 本当の子というと、あんまり目立つことはしたくない。

 でも、ほっとけないしなぁ。


 ということで、私はこの子を手伝うことにした。

 まあ、姿も隠してるし、目立たないようにすれば問題ないか。


 ということで、毒魔竜ヒドラ退治だ。


 しかしどうやって見つけよう……って、そうだ。


『主よ』


 私の肩のあたりに座っていた、子ギツネふぶきがこっそり耳打ちしてきた。


『ふぇる美が毒魔竜ヒドラを見つけたぞ』

「え、ほんと……?」


 ふぇる美ちゃんほんと有能ね。


『ああ』

「OK。じゃあ位置だけ教えて」


 私はふぶきに位置情報を聞く。


「リシア。毒魔竜ヒドラの場所みつけたよ」

「!? も、もうですかっ? ど、どうやって……」

「えと……私のその、友達が……」


「友達? ああ、従魔ですか、なるほど」


 従魔……?

 なんだそれ。あとで全知全能インターネットで検索しておこう。


「とにかく、こっちにいるから、いきましょ」

「はいっ!」


 私はふぶきに道順を教えて貰い、山の中を進んでいく。


「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 開けた場所にやってきた。

 そこには、全身を毒で覆った巨大な蛇がいた。


 うん……居た、ね。


「ばうばう!」「わうわうー!」

「…………」


 状況を説明しよう。

 毒魔竜ヒドラがらしき巨大蛇が倒れている。


 その上には、ふぇる太&ふぇる子。


 うん……多分二人が、私が来る前にやっつけちゃったのだろう。


~~~~~~

名前未設定

【種族】毒魔竜ヒドラ

【レベル】65

~~~~~~


 毒魔竜ヒドラのレベルは65。

 対して、ふぇる太たちのレベルは500。


 余裕で倒せちゃうね。


「ばうばう~♪」

「わうわう~♪」


 ばっ! とふぇる太たちは毒魔竜ヒドラから降りて、こっちにやってくる。


「ひぎゅ……!」


 ぺたん、とリシアが尻餅をつく。


「あ、あわ……わ……なんて……恐ろしい……魔物……」


 恐ろしい魔物……?

 レベル500のフェンリルが、2匹だもんね。

 そりゃ、怯えるよね。


「ばうばう!」「わうー!」


 どーん! と二人が私に突進してくる。

 目を輝かせて、尻尾ぶんぶんしてらっしゃる……。


 多分だけど、魔物を倒したから、褒めて褒めてーって言ってるんだろう……。


「ミカりんさま……その魔物は……?」

「さっき言ってた……その、友達二人です。ね?」


「ばう!」「わう!」


 怒る気はない。

 この子達は私のために行動してくれたんだし。

 それに毒魔竜ヒドラを倒すのは決定事項だったわけだし。


 その手間を省いてくれたんだから、感謝しないと。

 ……目立っちゃったけども。


「す、すごいです! Aランク魔物、大灰狼グレート・ハウンドを従魔にしてらっしゃるのですね! しかも、2匹も!」


 ……大灰狼グレート・ハウンド

 Aランク魔物?


 いや、フェンリルだけど……いやまてよ。

 もしかして、フェンリルだって気づいていない……?


「そう、大灰狼グレート・ハウンドのふぇる太&ふぇる子。私の従魔です」

「ばう!」「わう!」


 二人が抗議の声を上げてる。

 フェンリルってことにすると、皿に目立っちゃうからね。ごめん、我慢して。


「ミカりんさま……本当にありがとうございます! デッドエンド領の領主、リシアが、領民を代表して感謝します!」


 ……はい?

 領主……?

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