第32話 私の魔力で魔物の赤ちゃん超進化させてた



 朱雀すざくの子がしゃべるようになった。


『まみー! まみー!』


 庭先のキャンプチェアに座りながら、朱羽あかはねの頭を撫でる。


 まさか生まれて間もない赤ん坊が、すぐにしゃべれるようになるとは。

 神獣だからだろうか?


『まみー、おなかちゅいたっ』

「ご飯食べる?」

『うん!』

 

 トマト君が近づいてきて、お皿を持ち上げる。

 お皿には真っ赤なイチゴがなっている。


 聖灰を用いて、私は好きな植物を作れるようになった。

 このイチゴ……現実で1粒うん万円もする最高級イチゴである。


「ほら、あーん」

『あーん!』


 つんつん、と朱羽が最高級イチゴを食べる。


『ぴゅい~! さいこー!』

「そりゃ良かった。どんどん食べておっきくなるんだよ」


 しかし聖灰……というか、朱雀すざくパワーは凄いな。

 この灰で好きな植物を作れる。

 好きな、というのは地球産の植物も作れるということ。


 土が変われば果物の味も変わる、はず。


 けど聖灰で清められた土地で育ったフルーツは、地球のそれと全く同じ味のフルーツを作ることができるのだ。


「高級フルーツ食べ放題だなんて……最高すぎる……」


 と、そのときである。


「ミカ」

「ん? あれ、モリガンじゃん」


 眼鏡美女神、モリガンが龍脈地に降り立ってきたのだ。

 その手にはバスケットが握られてる。


 フルーツでもお土産に持ってきたのかな?


「どうしたの?」

「あなたからのラインを見て、急いで様子を見に来たのです」


 そういや、朱羽が生まれたことを、神獣の卵をくれたモリガンに報告したっけ。


『まみー、だぁれこのひと?』

「モリガン。私の友達」


『まみーのともだち! あたちのともだちっ!』


 ぴーぴー、とうれしそうに鳴く。


「…………」


 それを見て、モリガンが絶句してる。


「どうしたの?」

「いえ……その……あり得ない事態に直面して、戸惑ってます……」


「あり得ない事態?」

「はい。神獣の卵をあげたのは、ついこないだじゃあないですか」


「そうね」

「孵化まで1000年くらいかかるはずだったのですが……」


全知全能インターネットに書いてあったね」

「……それを、1日に縮めた。これは、異常事態です」


 やっぱりそうなんだ……。


「人間が孵化するのに1000年じゃあないんです。親である神獣が寄り添って、1000年なんです」

「……ん? あれ……じゃあ、私って……」


「天地創造の神獣、四神を凌駕する神気しんきを持ってるということです」


 神気しんき……。

 全知全能インターネットによると、神の魔力のことを言うらしい。


 この世界を創った神獣よりも、多くの魔力量を持ってるってこと……?


「はっきり言って、ミカの魔力量は最高神レベルです。凄すぎます」


 朱羽がつんつんと私の指を突く。


『まみー、ごはーん』

「ご、ごめんね……ほら」


 私はイチゴを朱羽に食べさせる。


「しかももう人語をしゃべってるじゃあないですか。成長速度が速すぎます」


 確かに、ちょっと早すぎるような……。

 だって同じ魔物の赤ちゃんである、ふぇる太たちはまだしゃべれていないし。


「ミカの魔力には、獣の成長速度を速める特別な力があるのかもしれません」

 

 確かにフェルマァもふぶきも、凄い早さでレベルアップしたけどさ。


「いやでも、まさか……だってふぇる太達はまだちびっ子だよ? ね、子フェンリルちゃんず」


「ばうっ!」「わうー!」「…………」


 ログハウス近くでじゃれ合っていた、子フェンリルたちが、こちらにやってくる。

 あ、あれぇ?


「ふぇ、ふぇる太? ふぇる子? な、なんかでっかくなってない!?」


 子フェンリルたちは全員、子犬サイズだった。

 しかし今、ふぇる太&ふぇる子は、大型犬になっていた。


 シベリアンハスキーとか、ゴールデンレトリバーくらいにの大きさだ。

 しかも毛皮の色が若干変化してる。


 ふぇる太は、基本は白銀色。だが、毛先が少し赤くなってる。

 ふぇる子は、ふぇる太同様にベースは白銀。毛先が少し青くなってる。


~~~~~~

ふぇる太

【種族】フェンリル(成長期)

【レベル】500

~~~~~~


 幼体だったふぇる太とふぇる子が、成長期を迎えていた。


 しかも、レベル500って……。

 君たちのお母さん、私に出会った当初450だったよ? 


「ミカのおかげで、子フェンリルたちの成長も早まってるようですね」

「ばうばう!」「わうー!」


 子犬から大型犬へと進化したふぇる太たちに、ベロベロされる。

 もふもふ具合もレベルアップしていた。


 おお、もふもふに溺れそうだ……ってあれ?


「ふぇる美?」

「…………」


 ふぇる美は、ふぇる太たちより小さい……。

 まだ子犬サイズだ。


 ……これはコンプレックス感じちゃってるかも。


「気にしないでふぇる美。人の成長速度は人それぞれだから」


 ふぇる美がすりすり、と私の脚にすりよってくる。

 チクッ。


 私はふぇる美を抱っこする。

 ……あれぇ?


「君……角なんて生えてたっけ?」


 ふぇる美はふぇる太たちにはない、角が生えていた。

 紫紺の色をした、とても美しい角。


「ミカ……貴女って人は、どこまで常識を破れば気が済むのですか……」


 モリガンがあきれている。

 何かあったんだろうか……?

 おしえて、全知全能インターネット先生。


~~~~~~

ふぇる美

【種族】狼神ガルム

【レベル】1000

~~~~~~


 狼神ガルム……?

 狼の、神……?


「あんた……まさか神獣になったの? いったいどうして……」


「ミカの持つ膨大な神気しんきが、単なる魔物を狼神ガルムへと、超進化させたのでしょう」


 ふぇる太、ふぇる子は進化して、大人フェンリルに近づいた。

 ふぇる美は派生進化して、狼神ガルムになったということか……。


「この子達があり得ない成長を見せたのは、あなたという膨大かつ特異な神気しんきを放つ神がいてこそです」


 大型犬となったふぇる太ふぇる子がくっついてくる。

 朱羽もくっついてくる。


 もふもふが、いっぱいだぁ。幸せ……。


「ミカ、そんなあなたの力を見込んで、頼みがあります」

「頼み?」


「はい。実は、見て欲しい子がいまして」


 モリガンは持っていたバスケットを開く。

 中には、毛布にくるまれた、真っ白な毛皮の綺麗な子猫がいた。


「わ……きれいな赤ちゃん猫」


「生まれてからそこそこ日にちが経つのですが、他の兄弟猫たちと比べると体も小さく、元気がないのです」


 比較的こぶりなふぇる美と比べても、この子猫はかなり小さい。

 しかもこの子だけ小さくて元気がない……?


「もしかして病気かも」

「その可能性を考えて、治癒魔法をかけてみたのですが……結果は変わらなかったのです」


 なるほど、だから龍脈地に連れてきたと。

 ここなら病気が一瞬で治る。


 でも……白い赤ちゃん猫はぐったりと横たわったままだ。


「ここでも治らないとなると、お手上げです……もう死を待つほかないでしょう」


 私は子猫に指を近づける。

 ちゅう……ちゅう……と子猫が私の指を吸っていた。


 お母さんのおっぱいだと思ってるのだろう。

 そう、この子は生きようとしてるのだ。


 必死に生きようとする命を、見捨てることなんてできない。


「出番よ、全知全能インターネット!」


 私はこの子猫の病気を全知全能インターネットで検索した。


「わかった。この子は、動脈管開存症みたい」

「どうみゃくかん……かいぞんしょう……」


「すっごくざっくりいうと、心臓の生まれ持っての病気」

「! なるほど! 先天性の心疾患ならば、治癒の魔法も龍脈地の魔力でも、治せない!」


 治癒魔法はあくまで、細胞を活性化させることによる、病気の治癒というメカニズムをとっている(全知全能インターネット調べ)。


 いくら細胞を活性化させようと、生まれ持っての体の形の異常である先天性疾患は、なおせない。


「盲点でした……。それに気づくとはさすがミカですね」


「いや凄いのは全知全能インターネットなんで……てゆーか、あんたも全知全能インターネットもってるんじゃあないの? 調べれば良かったじゃあないの」


「神はいちいち調べ物なんてしません」


 た、怠惰……。


「ですが、先天性疾患を、どうやって治すのですか?」

「簡単よ。おいで、新しい眷属くん!」


 ぴょんっ、と子猫の隣に新しい眷属が乗っかる。


「これは……マツタケですか?」

「そう、マツタケから作られた眷属、【スーパードクター・マツタK】さんよ」


「そうか! 医療スキルを眷属に付与したのですね!」

「そゆこと」


 スーパードクター・マツタKさんは、スーパーな医者だ。

 魔法で治癒するのではなく、現代医療技術を使って、病気を治すことができる。


「ここには現代のような手術室がありません……」

「聖灰で結界を創れば問題なし」


 最高の清めの力を使えば、無菌室と同等の環境が創れる。

 あとはドクターマツタKさんがなんとかしてくれる。


「さ、緊急手術よ」


 その後、スーパードクター・マツタKさんの手によって、見事手術は大成功。

 白い子猫はすっかり元気になったのだった。


「ありがとうございます、ミカ」

「なんのなんの」


「これで白虎びゃっこも喜びます」


 ……はい? 

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