第27話 上位女神と友達となり、贈り物もらう


 マッサージの後もう一度風呂に入った私と女神モリガン。

 

 うっとりとした表情で、洗面台の前に座ってる。

 台の上には眷属達がいて、私達の髪の毛を丁寧に乾かしてくれる。


「化粧水などの肌ケアに、髪をとかすまでやってくれるなんて……あなたの部下は本当に優秀ですね」


 眷属達は本当に優秀で、私達がマッサージ&二度風呂してる間に、着ていた服を洗濯&乾燥、そしてアイロンがけまでやってくれていた。


 至れり尽くせりとはこのことだ。


「これが、あなたの愛する楽園……ですか」

 

 眷属に髪の毛を乾かして貰いながら、女神が真剣な表情でつぶやく。


「あなたがここを離れたくない気持ち、とてもよく理解できました」


 美食、お風呂、マッサージ等々のサービスを受けた。

 ここがまさに楽園だと、彼女は身をもって理解してくれたようである。


 そう、私は楽園から離れたくない。絶対にだ。


最高神うえにあなたのことそのままを報告し、あなたのことを危険だと判断したら、天界総出で、貴方と、そしてこの楽園を消し去ろうとするでしょう」


「どうして?」

「神は、人間より上で無ければならないからです」


 なんだその理屈。


「人が神を超える力を持っている、そんなこと、最高神が許すわけありません」

「だから……証拠隠滅に、私を消すと? アホくさ……」


 自分が一番偉いって言いたいだけでしょ?

 そのためだけに人一人消し飛ばすなんて……馬鹿げてる。


「そうですね」


 ……まさか、賛同されるとは。


「で、あなたのことを上に報告してる、そんなわたしを……どうしますか?」


 このまま天界へ帰らせたら、多分私は存在を消される。


 じゃあ、そうしないために……戦う?

 モリガンと?


 一緒にご飯食べて、風呂入って、マッサージを受けた……この神と?


「戦わない」

「じゃあ、どうするんです?」


 私は隣に座るモリガンに言う。


「お願い、黙ってて」


 ……お堅い彼女に、お願いなんてもの通用するはずがない。


 でも、私はいやなのだ。

 モリガンと戦うことが。同じ、社畜仲間として。


「社畜仲間……ですか。ふふ、あはは!」


 モリガンが実に楽しそうに笑う。


「FIREしておいて、社畜仲間とは、おかしな話ですね」

「まあそうだけど」


 ひとしきり笑った後、モリガンが立ち上がる。


「トゥアハーデのもとへ行きましょう」


 私は服に着替えて、外に出る。

 大転移でログハウスまで戻ってきた。


 これが本当の、審判の時……というやつか。


「トゥアハーデ! 起きなさい!」


 ログハウスのそとから、モリガンが声を張り上げる。

 ばたん!


「はひ! おきてます! ねてらいれふ……!」


 駄女神トゥアハーデがやってきた。

 寝癖、ずれおちたパジャマ、そして夜中までしこたま飲んでいたせいで寝不足顔。


 そんな彼女が私……というか、モリガンを見て、目をむく。


「ひょぇええ~~~~~~! どうしちゃったんですか、モリガンさまぁあ~~~~!?」


 何驚いてるんだろうか、この駄女神?


「も、モリガンさま……めちゃくちゃ美人になってるじゃあないですかっ!」


 そういえば、脱衣所からここまで、モリガンの顔をまじまじ見てなかった。

 でも……確かに、今の彼女の顔は……最初に見たときとまるで違った。


 荒れてた肌はゆで卵のようにつるつる。

 ストレスでかさついていた髪の毛にはつやが戻り、宝石のように輝いてる。


 ぴんと背を伸ばし、眉間にあったシワが消えたモリガンは、同性の私もドキドキするくらいの美人になっていた。


「美香神さまが何かしたんでしょっ!」

「なんですぐ私だって決めつけるのよ」


 まあ私がやったんだけども。


「わたし……そんなに綺麗になってるのですか?」


 モリガンは自分が綺麗になってる自覚内容だった。


「めっちゃ綺麗っすよぉ!」

「うん、きれい」


 モリガンは「そうですか……」とつぶやく。……ちょっと頬が赤かった。


「そんなこと、初めて言われました。うれしいです」


 ふっ……とモリガンが微笑む。


「モリガンさまが! あの、鬼のモリガンさまが! 笑ったぁあああ!? あいたっ」


 いちいちうるさい駄女神の頭をはたいておく。


「審判をお聞かせ願いますかね、上位女神モリガンさん?」


 多分、考えは変わらないだろう。

 人間だって、考え方を180度変えることなんてできないんだから。


 お堅い神様の心を動かすことなんて、私には無理……。


「長野 美香は、善良なる現人神だった。と、報告します」

「…………………………え?」


 今、なんて……?


「長野 美香は人の姿をしてこの世に現れた神だった……と報告するのです」

「「…………え? ええっ?」」


 それってつまり、虚偽の報告をするってことだ。


「虚偽? 何を言ってるのですか。長野 美香。あなたの種族は、【現人神】となってるじゃあないですか」


「いやまあ、そうだけど……」


 でも、この駄女神とその上司であるモリガンは、私が元々人間で、神に進化したことは知ってる……。


「神への進化の事実を知ってるのは、ここにいる三人だけ。なら、ここで黙っていれば、何も問題ないでしょう?」


 いや、まあ……。確かにそうだけど……。


「神が神のスキルを持ってることも、失われた力を戻すことも、なんらおかしくはありません」


 私が人間の分際で、神を凌駕したのが問題であった。


 逆に言うと最初から私が神側の存在だったなら、強い力を持っていても何ら問題は無い。


 なぜなら、神は、神が一番でないと気が済まないから。


「やりましたね! 美香神さま! モリガンさま籠絡作戦、ミッションコンプリート、っす!」


 別に籠絡なんてしようとしてないけど……。


「でも、なんで急に私の味方してくれるようになったの?」

「あなたのおかげです」

「私?」


 ええ、とモリガンが微笑む。


「神としてではなく、対等な存在として、私と接してくれたから。それが、うれしかったのです」


 確かに一緒の風呂も、マッサージも、接待でやった訳じゃあない。

 単にこの神が疲れてるだろうと思ったから、やっただけ。


「あなたはわたしに仲間って言ってくれた。わたしは、初めてできた仲間を、失いたくない」


 だから上に虚偽の報告をすることにした……ってわけか。


「ようするに美香神さまが、モリガンさまを落としたってことっすか?」

「なんでそうなる……」


 モリガンと目が合う。

 彼女はサッ、と目をそらした。……なぜ?


「と、とにかく、わたしはこれで戻ります。上に報告しなければいけないので」

「そっか。大変ね。また暇になったら遊びにきてよ」


「はい! ぜひ!」


 ずいっ、とモリガンが顔を近づける。

 やっぱ美人になったなぁ。


「ところで! あなたにはお礼をしたく存じます」

「お礼?」


「はい。美味しいご飯、お酒、お風呂にマッサージ。たくさんのことをしてくださりましたので、そのお礼を」


 ぱちんっ、とモリガンが指を鳴らす。

 空中に2つのアイテムが出現した。


「ハンマーと……卵?」


 黄金のハンマーと、ダチョウのような大きな卵が、空中に浮いてる。


「こちらのハンマーは神鎚ミョルニル」

「神鎚ミョルニル……」


「物体の錬成、壊れた物の修復、等々の複数の生産系スキルが付与された神器です」


 神器……?


 くわっ、と駄女神が目をむく。


「す、すごいっすよぉ美香神さま! これ、ちょーレア神器っす!」

「レアリティとかあるの、神器に?」


「はいっす! これは最高ランクの神器! 唯一無二にして、生産系最高の神器っす!」


 そんな希少な物を私に……?


「貰ってください。友情の証として」


 なんだか気恥ずかしいな。

 でも……友達からのもらい物、むげにするのは良くない。


「ありがたくもらっとくよ」


 さて、と。


「次は……この卵ね。これはなに?」

「わたしの眷属である、神獣の卵です」

「神獣の卵?」


 それを聞いた駄女神が、腰を抜かす。


「どしぇえええええ! 神獣の卵まであげちゃうんですかぁ!?」


 驚いてるけど、何か凄いのだろうか、これ。

「だってこの卵って、四神がこないだ産んだ卵っすよね!?」


 四神……?


「そうです。私の管理する四神が、先日産んだ子を眷属として奉納してきたのです」


 別の神が産んだ子供……ってこと?


「というか四神って……?」

「青龍、朱雀、玄武、そして白虎。この世界を作りし聖なる獣たちのことです」


 ……はぁあ?

 そんな凄い獣の、子供を、私にくれたってこと?


「ま、マジで良いんすか!? 美香神さまにそんなすげーもん渡して」

「ええ、もちろん。長野 美香とわたしは、友達ですので」


 モリガンは卵を持って、私に差し出してきた。


「こんな凄いのもらえないよ……」

「いえ、眷属を残しておかないと、ここへ来る口実がなくなってしまうので、貰って貰わないとこちらが困ります」


 ああ、駄女神がふぶきを置いてってるのと、同じ理屈か……。

 うーん……。

 ま、いっか。


「わかった。じゃあ、この神獣の卵、もらっとくね」


 モリガンは満足げにうなずく。


「では、これでわたしたちは失礼します」


 ふわり……とモリガンと駄女神が浮き上がる。


「また会いましょう! 我が友よ!」

「うん、またね、モリガン」


 こうして神々は置き土産を残して、天界へと帰って行ったのだった。

 

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