第25話 上位神を美食で骨抜きにする



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長野美香

【レベル】∞

【種族】神

【HP】∞

【MP】∞

【攻撃】∞

【防御】∞

【知性】∞

【素早さ】∞

~~~~~~


 なんか私のステータスが、とんでもないことになっていた。

 全ての数値が∞って……。


 しかも、新しいスキルをいくつも覚えた。


・不老不死(SSS)

→現在の姿を維持したまま老いることはなく、外部の干渉による死を全てなかったことにする。


・集団大転移(SSS)

→行ったことのある場所へ一瞬で転移できる。また、指定した集団ごと転移も可能


・時間停止(SSS)

→任意で時間を9秒停止させる。止まった時の中で動ける。


 ……どれも人間が持ってていいスキルじゃあない。


 私……神になってしまったのかぁ。

 まあもうしょうがないって受け入れよう。


 悪いことばかりじゃないさ。


「どうなってるのです……意味不明です」


 庭先にて。

 上級女神のモリガンが、頭を抱えてぐんわんぐわんと体をゆらしていた。


「アレは何をしてるのでしょう?」


 フェルマァがモリガンを見てつぶやく。


「美香神さまがあまりに規格外の存在過ぎて、理解不能でもだえているんすよ」

「ふ……無駄なことを。至高の女神様のことを、たかが上位神ごときが理解できるわけないのに……」


 なんでフェルマァは腕組んでどや顔してるんだろう?


「まあ実際に意味不明な存在じゃしな、我が主は」

「ほんと。そもそも、どうやって神になったのかすらわからないし」


 全知全能インターネットで調べてみたところ、【条件を満たしたから進化した】としか書いてなかった。


 その条件を検索したら、閲覧できなかった。

 全知全能インターネットは隠蔽されてる情報までは検索できない。


 うん、見なかったことにしよう。

 めんどくさい。

 

 そのときだった。

 ぐぅ~~~~~~~~。


 モリガンのお腹から、大きな音が聞こえてきたのだ。


「もしかして、お腹すいてるの?」

「ち、違います……!」

「でも今おっきな音が……」

「気のせいです!」


 ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~!


 やっぱりモリガン、お腹すいてるようだ。


「か、神も空腹を感じるのですよ! 地上に来ると!」


 そこの駄女神の食べっぷりを見ているから、よーく知ってる。

 しかし、モリガンも不憫な人(神)だ。


 部下が馬鹿やった後始末の処理をしにきたら、今度はもっと厄介な案件が襲いかかってきたんだもの。


 私もブラック企業に勤めていたからわかる。


 一個片付いたと思ったら、次また新しい仕事が急に舞い込んできて……って。

 あ、思い出したらなんか辛くなってきた。

 

 ……うん、あんまりこのことについて考えるのは辞めよう。


「とりあえず、ご飯食べない? お腹すいてる状態じゃ、頭も回らないでしょ?」

「し、しかしわたしは今仕事中で……」


「体調管理も仕事の一環では?」

「う……一理ありますね……」


「でしょう? 良かったら、どうぞ。マツタケ料理まだたんまり残ってるからさ」


 私達が話してる間に、お野菜眷属達が、マツタケ料理を温め直してくれてたようだ。


 テーブルに並ぶマツタケ料理の数々を見て……。


 ごくん、とモリガンが生唾を飲む。

 私はマツタケご飯を茶碗によそってあげ、それをモリガンに渡す。


「な、何が狙いですか……?」

「いや普通にご飯食べようってだけだけど……あれ、要らないの?」


「い、要らないなんて一言も言ってませんよっ!」


 ぱっ、とモリガンが私からお茶碗を奪い取る。

 

「いただきますっ」


 ちゃんといただきますを言うなんて、律儀な人だ。いや、神か。

 モリガンがマツタケご飯を……一口。


「ん~~~~~~~~~~~~っ!」


 ぱたぱたぱた、とモリガンが脚をぱたつかせる。

 目には少し涙を浮かべ、頬を紅潮させている。


「どう? うちの料理」

「……ま、まあまあですね」


 強がっちゃってて、可愛いな。


「マツタケのホイル焼きなんてものもあるよ」


 モリガンがぱっ、と受け取る。

 アルミホイルを開けると、ふわり……とトンデモなく良い匂いがする。


 よく蒸したマツタケは、普通にかぐよりも何倍も良い匂いをさせていた。

 バターがしっかりとマツタケにしみていて、見てるだけでよだれが出てくる。


 モリガンはホイル焼きにかぶりつく。


「はふっ! ほふっ! う、うまっ……」

「うま?」

「う、馬です、馬……ひひんのやつ……です……」


 可愛い人だなぁ。


「他にもいっぱいマツタケあるから、遠慮無くどうぞ」

「料理を無駄にするのは良くないですし……別に、おいしすぎるから、いっぱい食べる訳ではありませんからねっ!」


 と言いつつ、次から次へと、モリガンがマツタケ料理に手を出していく。


「ほほぅ、美香神さま、そういうことですかぁ~……」


 駄女神がニチャ……と笑みを浮かべて、エア眼鏡をくいっ、と持ち上げる仕草をする。


「策士ですねぇ、美香神さまっ」

「は? なに策士って」


「皆まで言なくていいですっ! この駄女神、堕落することにかけては、誰にも負けない自信があるっ!」


 駄女神が何を言ってるかさっぱりだ……。


「モリガンさまぁ~。そろそろ喉が渇いてきませんかぁ~?」


 すすすう、と駄女神がモリガンの隣にすり寄る。

 その手には、茶色の瓶が握られていた。


「こ、これはまさか日本酒!?」


 モリガンが今までに無いくらい、大きな声を張り上げる。

 目を輝かせて、日本酒の瓶をじっと見つめていた。


「そう! しかも……大吟醸!」

「な、なんでそんな高価なお酒が!?」

「美香神さまからの贈り物です。モリガンさまにと!」


 一言も言ってない。

 しかもなに勝手にKAmizonで、日本酒を購入してるんだろう。

 

 多分トマト君のスマホから買ったんだなぁ、こいつ。


「いや、さすがに仕事中に酒はちょっとだめじゃ……」


 と私がまっとうな意見を述べようとしたつもりだが。


「こ、後輩神からの贈り物をっ。むげにするわけにはいきませんねっ!」


 モリガンさん……?

 あれ、もしかしてあなた……お酒大好き……?


「決して! めったに飲めない高級日本酒が来たから、つい手が出てしまうんじゃあないですからね!」


「あ、はい」


「後輩のお酒を無駄にできないから、飲むんですからね! 仕事中ですけども! 無駄にできないので!」


 モリガンさん……キャラ崩壊してないですか……?

 あなた真面目キャラじゃなかったの……?

 

「さぁ、さぁ、どうぞモリガンさまぁ~」


 駄女神がモリガンの持つおちょこに酒を注ぐ。

 モリガンはおちょこを……一気にぐいっと飲み干す。


「ぷっはぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 モリガンが幸せそうな笑みを浮かべる。


「おいっしぃ~~~~~~~~~!」


 モリガンがとろんと、目をとろかせる。


「すっごいです! これおいしすぎ! なんこれどこのお酒!?」

「え、さ、さぁ……?」


「あにゃた、いい人れふねぇ~……」


 これ完全に酔っ払ってる……?


「さぁ、もっとのんでのんで、食べてください! ごちそうもお酒もたんまりありますよっ!」

「いいねー!」


「しかもいくら食べても太らない! いくらのんでも二日酔いしない!」

「ひゃー! ここは天国ですじゃー!」


 きゃ、キャラが崩壊してるよ、モリガンさん?


「美香神さまが納めるこの土地は、それはもう極楽と言っても過言でもないです!」

「そーれすね~~~~~~~」


 ごくごく、もぐもぐ!

 とモリガンが食べてのんでする。


「こんな極楽を管理してる神が、悪い神様の訳がない!」

「しょの、とーーーーりれすね!」


 駄女神はニヤリと笑って、「計画通り!」と言ってた。


「おっとぉ、追加で料理来ましたよ!」


 野菜眷属たちがお皿を運んでくる。

 衣につつまれたあげたてカツは実においしそうだ。


 モリガンはカツを一口。


「うひゃあ! マグロカツだ~~~~~~~~~~~~!」


 マグロカツを食べながら、日本酒をごくごくと飲む。


 さっきまでの真面目な、お役人ぶった神と同一人物とは思えなかった。


 がつがつ、ごきゅごきゅ……!


「駄女神ちょっと、大丈夫なの? こんなに酒飲ませて」


 するとニチャア……と駄女神が笑う。


「もー、美香神さまぁ~。おぬしも悪よのぅ。これもあなた様の作戦でしょう?」

「え、作戦……?」


「このお堅い先輩女神を、美味しいご飯とお酒で、籠絡しようって作戦じゃあないんですか?」


 初耳なんですが?


「あれ? だから、マツタケを進めたんじゃあないんですか? モリガンさま、日本食、日本酒だいすきな神ですし……」


 こいつもしかして……。


「私がモリガンを籠絡するために、マツタケ料理食わせようとした、と思ってるの……?」

「? 違うんすか?」


「違うよ……! 普通にお腹すいてそうだったから、進めただけ」

「ありゃま、そうだったんですね……自分の早とちりでした。でも……」


 私も駄女神も、モリガンを見やる。


「ごはんおいちぃ~~~~~~~~~! なーんか重要なことで頭を悩ませてたきがしたけど、忘れちゃったにゃぁ~!」

 

 この女神……完全に、落ちていた。


「さすがっすね、美香神さま! あのお堅い女神を、こうもあっさり抱き込んでしまうなんてっ!」

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