第24話 上位神、来る。駄女神のピンチを救え
庭先で、マツタケ料理をたらく食べているときのこと。
ばっ、とフェルマァとふぶきが頭上を見上げる。
「どうしたの?」
「神が、おいでになられたのじゃ」
「ああ、駄女神?」
またうちに遊びにきたのだろうか。
「違うのじゃ。極光神さまと、もう一柱」
見上げると、そこには死んだ表情の駄女神。
その隣には、スーツにメガネ、そして手袋をはめた、赤髪の美女が立っている。
「長野 美香様ですね?」
メガネ美女が私に尋ねてくる。
「そうだけど」
すとん、と赤髪美女が地上に降り立つ。
その隣に、ふらふらとしながら駄女神が立つ。
「わたしは上位女神【モリガン】と申します」
「上位女神……モリガン?」
駄女神は神にも序列があると言っていた。
そして、上の神に私の神のスキルについては黙っていてって……
……まさか。
「上司に、バレちゃいました……美香様に、全知全能スキルがあること……」
最近、駄女神からのラインがめっきりこなくなったのは、上司にバレててんやわんやしていたから、らしい。
モリガンはすっ、と前に出る。
「この度は、部下が大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
モリガンは私に普通に頭を下げてきた。
てっきり、神のスキルを返せと、一方的な物言いでくるものばかりかと。
「すみまっせんでした! あいたっ」
「すみませんでした、でしょう?」
「はひぃ……すみませんモリガン様ぁ」
モリガンはため息をつくと、また頭を下げる。
「このもののせいで、あなたは辛い目にあったと聞きました。重ねて謝罪します」
「あ、うん……もういいよ、別に。怒ってないし」
謝罪よりも、私がきになってるのは、上級女神がここに何をしにきたのかだ。
「お察しの通りでございます」
駄女神同様、心を読めるようだ。
「本日は長野美香様を、天界へスカウトにまいりました」
「…………スカウト?」
天界は神の住む世界、だっけ。
そこにスカウトって……?
「神にしてあげますので、天に昇りませんか、という提案です」
モリガン曰く……。
そして、天使としての働きが認められた一部の選ばれしエリートのみが、長い修行を経て、神となるそうだ。
……あれ?
駄女神って元々人間って言っていたような。
つまり、さっきの長い長い修行を経て神になったってわけ?
「私も修行しなきゃいけないの?」
「いいえ、必要ないです。転生の儀式を受けていただければ」
「転生の儀式?」
「はい。人としての記憶と欲を捨てることで、神となる儀式です」
記憶と欲を捨てる?
そんなの、私が私じゃなくなるってことと同義じゃあないか。
「嫌。神になんてなりたくない」
モリガン、すっごくびっくりしてた。
「か、神になることは、栄誉あることなのですよ?」
「いや、私が私じゃなくなるなんて、嫌でしょ、普通」
モリガンは困惑していた。
どうやら私と価値観がまるで違うようだ。
「本当に、全知全能の神にしてもらえるというのに、断るのですか?」
「うん、断る。私は、ここのみんなと別れたくないから」
神になったら、ここでの暮らしも、みんなとの楽しい思い出も、なくなってしまう。
それは、嫌だった。
「……うう、わたくしたちとの日々を楽しいと思ってくださってるだなんてぇ」
フェルマァ、そしていつの間にかいる野菜眷属たちが、うるうると涙を流していた。
なんだか気恥ずかしい。
「ということで、神にはなりません。申し訳ないけど」
「承知しました。では、提案は取り下げます」
意外とあっさり引き下がった。
「ではこれより、極光神トゥワハーデから、神の力を没収します」
「!? 神の力を没収って。どういうこと?」
モリガンがメガネを直しながらいう。
「天界のルールでは、【神は人に、
つまり、駄女神が頑張って神になった。その努力が無駄になるってこと……?
「待って。別に、私は駄女神から全知全能スキルをもらったわけじゃあない」
たしかに駄女神から神アプリ(神の魔力)をもらった。
けどインターネットを全知全能にしたのは私だ。
「間接的であっても、トゥワハーデは人に全知全能をわたしたことになります」
「事故みたいなものでしょ? 駄女神も意図してやったことじゃあないんだから。罰するのはおかしいでしょ?」
「事故だとしても、神が人に全知全能を与えたら、その神からは力を奪わねばなりません。ルールはルールですので」
頭硬いなこの人……。
「…………」
駄女神が珍しく落ち込んでいる。
この子とは同じ釜の飯を食べて、一緒に風呂に入った間柄。友達なのだ。
友達には悲しい思いをしてほしくない。
「ありがとう、美香様。そう思ってもらえるだけで、嬉しいです」
駄女神が無理やり笑っていた。
……でも、目に涙を溜めてる。
……ああ、もう。
「顔をあげなさい。あんたに、そんな顔似合わない」
現状を整理しよう。
まず、天界のルールでは、神は人に全知全能スキルを、与えてはいけない。
与えた場合、その神は神の力を失う。
「モリガン。聞きたいんだけど、力を失った神が、力を取り戻そうと、関係ないよね?」
「? ええ、関係ないですが……。ありえません、神の力を取り戻す? そんなの、不可能です」
「不可能? そんなの、やってみなくちゃわからないでしょう?」
私は駄女神にいう。
「駄女神。罰を一度受け入れて。神の力を剥奪されて。あとは、私がなんとかする」
「……わ、わかりました! 美香様を信じます」
よし。
「モリガン。さっさと刑を執行しなさいよ」
モリガンはすっ、と手を挙げる。
すると空から光の柱が降り注ぐ。
駄女神の背中に生えていた翼が蒸発する。
「これでトゥワハーデの肉体から、神の力は失われました。刑の執行は終了となります」
「じゃあ、こっからは何してもいいわけね」
私はスマホの電源を入れて、《眷属になろう》を立ち上げる。
「駄女神。今からあんたを私の眷属にする。それも、ただの眷属じゃあない」
【駄女神・トゥワハーデ】
このアプリを使うと、眷属となるものに名前と役割を与えられる。
料理長と名付けると、料理スキルが手に入った。
ならば、神と名付けると、どうなる?
ゴォオオオオオオオオオ!
「ありえないです! 失われたはずの、トゥワハーデの体に神の力が戻っていく!?」
やがて光が収まると……
駄女神の背中には、立派な翼が生えていた。
「ち、力が! 力が戻ってるっす! 美香様!」
駄女神は大泣きしながら私に抱きついてきた。
「ありがとうございますぅううううう!」
泣きながら、しかし笑ってる。
うん、あんたはやっぱり、その顔のほうが似合ってるよ。
「美香様に絶対の忠誠を誓いますっすぅう!」
「いいって別に。眷属は足りてるし」
さて、これで事件解決、かと思いきや。
モリガンの手には光の剣が握られていた。
そして、切先を私に向けてきていた。
「聖女様!」「あぶない!」
フェルマァとふぶきが助けに入ろうとする。
だが、ぐしゃり、と二人が地面に叩きつけられる。
「ちょっと、私の眷属たちに、何してるの?」
「長野美香、あなたを危険分子とみなし、処刑します」
「危険? なにが?」
「人が、神の力を他者に与えた。これは、ありえないこと。天地創造から今まで、そんな事実は確認されませんでした」
人が人を神にした事例なんて、歴史上ないってことか。
「あなたは危険です。よって即刻処刑せねばなりません。お覚悟を!」
たん! とモリガンは地面を蹴ると、私に一瞬で近づいて光の剣を振る。
が。
パリィイイイイイイイン!
「ば、バカな!? 天の剣が壊れた!?」
殺されたかと思った。
でも刃が私に届く前に、砕け散ったようだ。
「長野美香。あなたへの処刑は取り下げになりました」
は? さっきと言ってることが180度違うんですけど?
「どういうこと?」
「長野美香、あなたは人間ではありません」
「あ、うん。半神だっけ?」
ふるふる、とモリガンが首を横に振る。
「いえ、あなたは、神です」
…………はいぃ?
何言ってるなろう、この人?
「ご自分のステータスを、
〜〜〜〜〜〜
長野美香
【レベル】∞
【種族】現人神
〜〜〜〜〜〜
「え、えええっ? 私、神になってる!?」
「はい。信じられないことに、あなたはたった今、自力で神になりました」
「そ、そんなことあり得るの?」
「……わかりません。わたしも、正直、お手上げです」
モリガンがぐったりとした調子で言う。
えっと、つまり、神のスキルを人間が持ってるとアウトだけど、神だったからセーフ?
「で、でも私、記憶失ってないけど? それに、普通に欲もあるし」
「儀式を使わずに神になった影響でしょう」
「そ、そんなことありえるの?」
「わかりませんよ!!!!!!」
ものすっごい大きな声で、モリガンがそう言うのだった。
「なんなのですかぁ、もぉ勘弁してくださいよぉ……」
モリガンがキャパオーバーを起こしてしまったようだ。
な、なんかごめんね……。
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